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クラスのアイドルは俺にだけ嘘をつく  作者: 砂糖流


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17話 隠し事

 私は小林にずっとある嘘をついている。


 放課後のあの空き教室で出会ってからずーっと、私は平然を装い続けている。


 何せ、私は全てを知っているから。


 小林がルミナスファンということも、私を推しているということも。


 そして……中学の時イジメられていたということも。


 だって私は、過去に小林と同じ中学で同じクラスで、告白されたことがあるからだ。



 中学二年生の時、私は仲良くしていた男の子から告白された。それが小林だった。


 だけど私はその告白を断った。


 理由は無論、アイドル活動に本気で専念したかったから。


 その時のルミナスはまだ下積み時代で、界隈でもルミナスを知っているのは極わずか。


 その時の私は本気で人気アイドルになろうと意気込んでいた。


 だから気づくことができなかった。イジメを受けている小林に。


 集団での無視や、過度な暴力。


 それを知ったのは、小林が転校した後だった。


 数人の男子グループが先生から厳重注意を受けている姿を目にした私は気がついた。

 

 公立中学だから、退学といった処分はなく、注意だけで済まされてしまう。


 小林はメンタルを病んで転校までしたというのに、加害者たちはただ注意をされただけでその後ものうのうと学校に居座り続けていた。


 そこで私は、人間の残酷さを知った。


 でも手遅れだった。気づくのが遅すぎた。


 もうその時には小林がどこにいるのかも分からなかったし、連絡先も知らなかったから、接触のしようがなかった。


 私は酷い後悔と深い罪悪感でどうにかなってしまいそうだった。


 それに、もしまた小林と会えたとしても、トラウマを蘇らせてしまうかもしれない。嫌な記憶を呼び覚ますかもしれない。


 だから私は、またいつどこで小林と再会してもいいように、名前を改名した。


 私は本物の【流川青澄】になるために、芸名を本名にした。


 そしてそこからは今までの真面目な私ではなく、流川青澄というクールキャラを演じるようになった。


 きっと小林が私の正体に気づいていないのはそのせいだろう。


 もう小林は過去の私を知る由もない。まぁ、私は過去の小林を知っているけど。


 君は本当に私にバレてないとでも思っているのかな?


 ずっとファンがいなかった私に、小林だけは応援してくれていた。私がアイドルを続けられたのは一人のファンのおかげ。


 私は小林に救われた。


 そんな彼を覚えていないわけがないだろう。


 次は私が小林を救う番だ。


 だから、この嘘だけは絶対に墓まで持っていこう。


 私は彼を絶対に――


 ◇◇◇


 体育祭後、約束通りいつもの空き教室でハチマキの交換を終えた俺たちは席についていた。


 改めて思う。


 これは一体なんの意味があるんだ? なにかの儀式のようにも思える。


「小林。体育祭は楽しめた?」


 そんな俺の気も知らないで隣に座る流川さんは訊いてくる。


 でも確かに、


「楽しかった。意外と」


「そっか。それは良かった」


 『君がいたから』なんてギザなセリフは言わなかった。いや、言えなかった。


 それは、当然の如く彼女がアイドルだから。


 ファンとアイドルは繋がれない。繋がってはいけない。


 その一線を超える勇気も根性もない俺は、隣の彼女から視線を逸らすことしかできなかった。


「これからもっと私と思い出作ろうね。私が小林を幸せにしてあげるから」


 またしても俺の気を知らない流川さんは恥ずかしいセリフをいとも簡単に言う。


「まぁ、嘘だけど」


 だが、その理由はいつもの言葉ですぐさま解決する。


 本当に彼女はどこまでも俺を困惑させてくる。


 そう思った矢先、追い打ちをかけるかのように肩に何かがのしかかる。


 見てみると、隣の流川さんが目をつぶりながら俺の肩に頭を預けていた。


 これもまた何かの冗談か。


 そつ油断した途端、アイドルの可愛らしい寝息が耳を掠める。


 もしかして本当に寝てしまったのか? 確かに俺も体育祭の疲労が溜まっている。


 だから本当に寝ているのかもしれない。


 だが、俺は知っている。


「起きてるだろ」


「なんでそう思うの?」


 一切体勢を変えずに返事が来る。


「まず、本当に寝ていたら俺の言葉に反応できない」


「あー、そこだったか」


 いや、どこだよ。


 それよりも、どうして分かっているのに離れてくれないのだろう。


 そろそろ平然を装うのもキツくなってくる。仮面が剥がれる前にどうにか退かせないと。


 だが、それは杞憂に終わる。


 何せ、流川さん自ら立ち上がったからだ。


「ねぇ、小林」


 流川さんは背を向けながら名前を呼ぶ。


 流川さんはそのまま俺の返答を待たずして、その後の言葉を口にした。


「私がアイドル卒業したら結婚しよ」


 俺は聞いた瞬間、どうせこれもいつもの冗談だと思った。でも、後に続いた言葉は、


「じゃあ私帰るから。また明日」


「えっ?」


 意味が分からなかった。


 いつもの言葉を言い忘れているだけなのか、それとも本当に――


「ま、た、あ、し、た」


 戸惑っていると、催促するように言われる。


「うん。また明日」


 言うと満足した様子の流川さんは扉を開け、一言だけ吐き捨てる。


「嘘――」


 閉められた扉の向こう側で影が揺れた。


 俺は向こう側の彼女が最後なんと言ったのかハッキリ聞き取れなかった。


 俺には知る由もなかった。後に続く言葉を――


 ◇◇◇


「――じゃないよ」

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