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クラスのアイドルは俺にだけ嘘をつく  作者: 砂糖流


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10話 嘘照れ

「それで、最近どうして来てなかったの?」


 静かな空き教室で二人。いつもの構図――俺は不意にそんなことを訊いた。


 普段なら絶対こんなこと訊かない。


 それでも訊いたのは、無言に耐えられなかったから。


 いつもなら愚痴を吐いている流川さんが今日はなぜか無言だった。


 理由は分からない。さっきスマホの操作を誤ってしまったことで不機嫌になっているのか。俺が今までファンだということを隠していたから怒っているのか。


「なにその質問。束縛彼氏?」


 そう思ったのだが、流川さんはいつもの口調で答えた。


「別にそんなんじゃない。単純な疑問」


「ふ~ん。まぁいいけど……もう知ってると思うけど昨日ルミナスのライブがあったでしょ?」


「う、うん……」


 まさかの話題に少し言い淀む。と、そこで理解する。


 つまりは、


「ライブ前の練習で忙しかったから来られなかった」


「うん。そゆこと……」


 それに加え、流川さんは努力を隠すタイプ。


 だから放課後この教室には寄らず練習に励んでいた――って、別に放課後に会う約束をしていたわけでもないし、いちいち伝える必要もない。


 なんかさっきも同じようなことがあったような。


「だからこれからはLINEで伝えるから……」


 背後で流川さんが呟く。


 俺もさっきのことを思い出し、瞬間に顔に熱が集まる。


 LINEのピン留め……あれは一体どういうことだったのか。


「って、そんなことより――小林、紫乃から変なこと言われなかった?」


 話をすり替えるように尋ねてくる流川さん。


 って、『紫乃から』って……。


「べ、別に……そもそも話したことないし――」


「嘘」


 見透かすような流川さんの声は、まるで全て知っていると言わんばかりだった。


「全部知ってるから」


 否。『まるで』ではなかった。


「ごめん。カマかけた。紫乃から全部聞いた――ライブチケット貰ったことも。紫乃から私を応援してあげてって言われたことも全部」


 まさか全てバレていたとは……だけど如月さんから『応援してあげて』なんて言われた覚えはない。


 もしかして……庇ってくれたのだろうか。


 俺がルミナスファンだとバレないために。あすみん推しだとバレないために。


「ライブの日、紫乃の様子おかしかったから問い質したら白状したんだよね」


 あぁ、違うわ。


「ライブの時ビックリしたよ。あれも紫乃の入れ知恵?」


 でも、それのおかげで俺がルミナスファンだとバレずに済みそうだった。


 それでも俺は、


「いや、違う。あれは――俺がやりたくてやった」


 彼女の前では嘘をつけなかった。


「だけど如月さんからチケットを貰ったのは本当」


 それでもせめてもの抵抗をしたのは、多分まだこの関係を終わらせたくなかったからだろう。


 俺はズルい人間だ。


「…………」


 背後にいる流川さんからの返答はなかった。


 呆れられているのだろうか。こんな俺に愛想を尽かしたのだろうか。


 俺は答え合わせをするべく、本を閉じて、初めて自分から流川さんの顔を確認しようとした。が、左右から頭を掴まれて、強制的に動作を拒まれる。


「今は振り向かないで」


 ヤケにはにかんだ流川さんの声は、俺の体を脱力させた。


 それにより、流川さんはもう俺が振り向かないと安堵したのか頭から手を離す。


 俺はその隙をついておもむろに後ろを振り向いた。


 そこには、顔を真っ赤に染め、手で口を隠す流川さんがいた。


「振り向くなって言ったのに……」


 いつものクールさがまるで感じられなかった。


 初めて流川さんの照れ顔を目にした俺は、身体の内から込み上げる興奮と共にある疑問が生じる。


 果たしてこれは嘘なのか、本当なのか……どっちなんだろう……。

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