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一般的TS恋愛譚─性転換したら好きな子とお近づきになれました─  作者: 大崎 狂花


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第5話 こっそりと

 今日は休日。学校もお休み。だから、文芸部部長緑鏡花は午前中からぶらぶらと街中を歩いていた。今日は、着物にうさぎのお面という奇妙な格好はしておらず、スキニージーンズにTシャツという普通の格好である。髪はポニーテールに結んであって、そんな格好をしているとちゃんとした正統派クールビューティみたいに見える。


 休日にまで目立つ格好をしていると疲れるため、こういう普通の格好をしているわけなのだが、なかなかに美人でスタイルのいい鏡花は普通の格好をしていてもある意味目立っていた。


 さて、今日の鏡花はネタ探しに街へ出てきた。街で見た小さな出来事が意外と小説のネタになるものだし、ただ歩いているだけでも、血流が良くなって脳が活性化し、アイデアが出やすくなる。


 だからとりあえずあてもなく街を徒然なるままに歩いていると、ふと鏡花と同じくらい目立っている人物を見つけた。しかも、鏡花とは違って悪目立ちしている。


 鏡花は、電信柱の陰に隠れるようにして何かを見ているその人物に向かって話しかけた。


「・・・・・・何をやってるんだ?ユキ君」


 その人物、山本ユキは振り向いた。


「・・・・・・部長?ひょっとして部長ですか!?」


「何だね、その反応は。ひょっとしても何も、どこからどう見ても部長だろうが」


「いやいや、そんなまともな格好してる部長初めて見ましたよ!?いつもの珍妙な格好はどうしたんですか?あの奇怪な格好は」


「珍妙に奇怪ときたか。失礼な奴だな君は。今日は休日だから普通の格好をしてるんだよ。いつもあんな格好では疲れるだろう?」


「なるほど・・・・・・いいですね。そういう格好をしていると正統派な美人みたいに見えます」


「ふむ。まあ褒め言葉として受け取っておこう。・・・・・・君も、なかなか普通の女子っぽい格好をしているではないか」


 今日のユキはスカートに、肩出しのニットのようなものを着ていた。かなり女子っぽい格好だ。ユキは、顔を赤くしながら答えた。


「仕方ないんですよ・・・・・・せっかく女の子になったんだから、ちゃんとおしゃれしなさいって姉がうるさいんですもん・・・・・・」


「そうなのか。まあでもよく似合ってていいと思うぞ。ちゃんとかわいい」


「そうですかね・・・・・・?でも、いまだに慣れないんですよ。肩出しって。なんかそわそわしちゃうんですよね」


「へー、そういうものなのか。なるほど。それはけっこう興味深いな・・・・・・」


 と、一通りそんな会話を交わしてから、鏡花はユキに聞いた。


「・・・・・・ところで、君は何をやっているんだ。そんな珍妙な格好をして」


「見てわかるでしょう?尾行ですよ尾行!」


「電信柱の陰に隠れて尾行か・・・・・・そんな漫画のようなことを現実でする人間がいたとはな・・・・・・誰を尾行しているんだ?」


 そう言って鏡花も電信柱の後ろに隠れて、ユキが尾行している人物を見た。


 ユキが尾行していたのは・・・・・・


「・・・・・・佳織君?」


 白河佳織であった。


「なんだ。佳織君を尾行していたのか。ついに愛が溢れてストーカーになったのか?」


「違いますよ!あれです!あれ!」


 ユキが指差した方を見ると、見知らぬ長身の男が佳織に駆け寄ってくるのが見えた。2人は何事か話したあと、2人連れ立ってどこかへと歩いて行った。


「見てくださいよあれ!すっごく怪しくないですか!?」


「ああ、なるほど。そういうことか・・・・・・」


「ええ、あの人、白河さんとどういう関係なんだろう・・・・・・も、もしかしたら、彼氏とか・・・・・・?」


 ユキは不安と焦燥の入り混じった表情をしながら2人が歩いていくのを眺めていた。


「いやー、恋する乙女だねえ」


「乙女じゃないですよ!」


「でも、私が見るにあれは恋人とか、そういう感じではないと思うけどな。距離感的に・・・・・・なんというか、デートというより、街の案内でもしているみたいに見える。多分、この街に遊びに来た親戚か何かではないか?」


「そ、そうですかね・・・・・・?ま、まあ確かにそんな感じに見えなくもないですけど・・・・・・で、でも不安じゃないですか!!」


「ふむ。まあ確かにユキ君からしてみれば不安だろうな」


「・・・・・・ほんとは良くないことだけど・・・・・・やっぱり俺は、こっそりついていこうと思います」


「おやおや。まあ仕方ないね。それなら私もついていこう。面白そうだしね」


 と、いうことでユキと鏡花は佳織と謎の男の尾行をすることになったのだった。


 ◇


 そう、ユキと鏡花は佳織を尾行することになったのだが・・・・・・


「あれ?部長に山本くん?こんなところで何してるの?」


 即バレた。


「ば、バレた!」


「よく考えてみれば当たり前か・・・・・・漫画じゃないんだから、電信柱の陰に隠れた怪しい人物に注目しないわけがなかったな」


 動揺するユキに代わって、鏡花がとりあえず尾行のことは隠して説明した。


「いや、実はつい先ほどそこで偶然ユキ君に会ってな。それで文芸部のことなど色々と話しながら歩いてたら、これまた偶然に佳織君を見かけたのだよ。ただ、見知らぬ人物と一緒に歩いていたものだから、話しかけていいものか迷ってしまってな・・・・・・それで、しばらく様子を見ていたというわけなんだ」


「なるほど、そういうこと!」


 と、佳織と鏡花の会話に割り込んで、佳織と一緒にいた背の高い男が尋ねた。


「佳織ちゃん、この人たちは?」


「あっ、この人たちは部長と山本くん!私が入ってる文芸部の部長と部員なんだ!」


「そっか、なるほど」


 そして、佳織は鏡花とユキに対してその男を紹介した。


「部長!山本くん!この人はヨシテルお兄ちゃん!私のいとこなんだ!」


「「いとこ?」」


 どうやら、謎の男は佳織のいとこであったらしい。


 彼は大学生らしいが、突発的になんだか旅行をしてみたくなってしまったということで、色々なところを回るついでに久々にこの街に来てみたらしい。それで、いとこの佳織が案内していた、とこういうわけなんだそうだ。


 経緯を聞いて、鏡花はユキにこっそりと言った。


(良かったじゃないか。やはり君が心配していたような感じではないようだぞ)


『そんなの、まだわかんないじゃないですか!男女のいとこ同士なんて、普通に恋愛フラグでしょ!?』


『それはユキ君、恋愛漫画の読みすぎだよ』


 と、そんなふうに囁き合っていると、ふとユキはその佳織のいとことかいう大学生のヨシテルからじっと見られていることに気がついた。


(あっ、ヤバい!ひょっとして変な奴だと思われてる!?)


 ユキはそう思って、咄嗟にメイド喫茶のバイトで鍛えあげられた必殺素敵営業スマイルをヨシテルに浴びせかけた。


「!?」


 ヨシテルはちょっと顔を赤くすると、隣にいた佳織にこそっと聞いた。


「・・・・・・なあ、あの子ってどんな子なの?」


「お兄ちゃん、先に言っとくけど山本くんを好きになったりしたらだめだからね?」


「ば、バカ!べ、別にそういうんじゃ─────」


「山本くんは、ああ見えても男の子なんだからね」


「は?」


 この瞬間、ヨシテルの性癖は粉々に砕かれ、生涯治ることはないのであった・・・・・・。


 ・・・・・・


 さて、ユキと佳織と、鏡花とヨシテルの4人はファミレスに来ていた。ヨシテルが夕飯を奢ってくれることになったので、近くのファミレスに4人で来たのである。


 そこで、ユキと佳織は隣同士で座って会話をしていた。ヨシテルはメニューと睨めっこをしており、鏡花は店の内装を色々と見るために探検に出かけたので、実質2人きりみたいな感じで話をしていたのである。


「なるほど・・・・・・それで、白河さんは今恋愛ものを書いてるんだ」


「うん。私はどちらかというとファンタジー系が得意なんだけど・・・・・・やっぱり、色んなジャンルを書けるようにならないといけないからね」


「なるほど、確かに・・・・・・その今書いてる恋愛ものって、前言ってたやつ?女子高生と鶏つくねの・・・・・・」


「いや、実はそれとは違うものを書こうと思ってるんだ。やっぱり、初めて書くジャンルだからクセのない王道系を書いた方がいいかと思って、そういうのを今執筆中なんだ」


「そうなんだ」


 ユキはそこでちょっと言葉を切って、逡巡していたが、やがて顔を上げると言った。


「あの、もし完成したらその小説、俺にも読ませてもらえないかな?」


 佳織は笑顔で快諾した。


「もちろんだよ!むしろこっちからお願いしたくらい!」


 ユキは、ほっとした顔をして、まだ見ぬその佳織の小説を、脳内のこれから楽しみなことリストのトップに書き込んだ。


 そうこうしてるうちに料理が来て、席に戻ってきた鏡花も含めて4人は食事を楽しむのだった。

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