表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/19

切っ掛けは婚約破棄

さて、最近は少し落ち着いた感があるが、とある世界の素人小説投稿サイトでは相変わらず『婚約破棄紛争』が花盛りである。

そしてご多分に漏れず、この異世界においても最近、この地域で最大勢力を誇るウロナ王国の皇太子が国王が決めた侯爵令嬢との婚約に対してテンプレな婚約破棄をぶちかまして廃嫡の憂き目にあっていた。


まぁ、ここでは元皇太子の事はおいておこう。今回の主人公は婚約破棄を突きつけられたヒロイン、ミドサマー・メンデルスゾーン侯爵令嬢の方なのだから。

で、令嬢のその後だが、これまたテンプレ的になんの捻りも無く、父親である侯爵から優秀で且つ優しい婚約者を再指名され、その男性と半年後に結婚式を挙げる事となった。


とは言え、実は令嬢はまだ新しい婚約者に一度も会った事がない。何故ならば令嬢の新しい婚約者はウロナ王国に何かと茶々を入れてくる、隣国のムヨクカ帝国との国境を守る辺境伯のご子息だったからである。

なので王都に住む令嬢にとっては距離的にまず会う事がない相手だったのだ。


仮に何かしらかの理由で相手が王都を訪れていたとしても、宮殿の夜会などで紹介されない限り話をする事すらなかっただろう。

もっともこのような一度も会った事が無い相手との政略結婚は貴族の間ではままある。そう、貴族の家系に生まれた者たちにとって自由恋愛などで結ばれる事などはまずないのである。


だが令嬢も相手の容姿を全く知らない訳ではなかった。何故ならば侯爵は娘に婚約を薦めるにあたりお相手の肖像画を令嬢の下に贈らせていたからである。

そう、異世界の貴族の間ではお見合い写真ならぬ、お見合い肖像画で事前に相手の容貌を知るのだ。


だから当然令嬢の肖像画も相手に贈られていた。勿論色々加工修正してだ。

この辺はまぁ、親心というか駆け引きというか、現代でもよく行なわれている行為だろう。中には全くの別人じゃんっ!ってくらい加工してしまったお見合い写真もあるとかないとか・・。


では、時を少し巻き戻し辺境伯のご子息から肖像画が届いた辺りから令嬢のご様子を覗いてみよう。

因みに令嬢の釣書は、ウロナ王国で代々対外折衝という要職を担っているメンデルスゾーン侯爵家のご長女様です。

そしてお歳は花も恥らう18歳。この異世界の女性としてはジャストな結婚適齢期です。


そんな令嬢がいる部屋に彼女専属の侍女が訪れドアをノックした。因みに侍女は令嬢よりもちょっとだけお姉さんだ。その歳で貴族の令嬢の侍女を任されているという事は、彼女はきっと優秀なのだろう。多分。

そして入室するや侍女は挨拶もそこそこに令嬢へ用件を伝えた。


「ミドお譲様、只今ワーグナー様よりそのお姿を描き写した肖像画とお手紙が届いたそうです。ご覧になられますか?」

「ティタ・・、あたり前でしょっ!もったいぶらないで早く見せて頂戴っ!」

自室で日々の日課である内職のレース編みをやるげなさげに編んでいた令嬢の元に、令嬢お付の侍女であるティタニア・フェアリーが、令嬢の婚約者であるローエングリン・ワーグナーからお見合い写真ならぬ自己アピールの肖像画が届いたとの報告を持ってきた。

その報告を聞いて令嬢は手にしていた編み掛けのレースを放り投げて催促する。


成る程、やはり元皇太子とあんな経験をしても年頃の女の子にとって婚約とは胸躍るものなのだろう。仮にその相手が親が決めた今まで一度も会った事がない人物だとしてもだ。

因みに令嬢が編んでいたレースの事を『内職』と呼んだのは別にボケた訳ではない。レース編みは実際、昔から貴族令嬢の嗜みとして普通に行われている事なのである。まっ、花嫁修行のようなものだ。


さて、侍女のティタニアも一応建前上令嬢にお伺いをたてただけで令嬢が婚約者の肖像画を待ちわびていたのは知っているので、贈られてきた肖像画は既にふたりの使用人に持たせて部屋の外に用意してあった。

なのでティアナは廊下で待っている使用人たちに声をかけ部屋へ肖像画を運び入れさせた。そししてその肖像画はかなり大きなもので男の使用人ふたり掛りで漸く抱える事ができるかというサイズだった。


ところが運び込まれた肖像画にはご丁寧な事に白い布が掛けられており肝心の絵が隠されていた。もっともこれは別に汚れを気にしての事ではなく単なる侍女の演出だ。つまり彼女は令嬢に対してちょっと焦らしたのである。

そんな侍女の思惑に内心では毒つきながらも令嬢は平静を装いつつ、目の前で使用人たちが掲げる絵を静かに注視しつつ、侍女が発するであろう次の言葉を待った。


「それではミドお譲様、こちらの絵は何処に飾りましょうか?」

「そうね、本来ならばホールだけど今はまだ婚約者でしかないのだからあまり人目につくところに飾るのは憚れるわ。なのでこの私の部屋に置きましよう。」


「そうですか?ですがこの絵はまだ旦那様もご覧になっていらっしゃいません。なので仮に見たいとおっしゃられた場合は旦那様がこのお部屋に来る事になります。それは些か都合が悪いかと。」

そう、この世界の上流階級の間では家族と言えども年頃の娘の部屋に男性が入るのはあまりよろしくないという作法があるのだ。


因みに肖像画を搬入してきた使用人たちは男性だがそれはいいのか?と問われれば、この場合は問題ないと答えよう。

そう、男子禁制の作法はあくまで貴族間の階級が近い者たち同士に対する制約であり、雇い人はその中に入っていないのだ。


これはつまり、元々は年頃の男女が人目の届かないところでふたりっきりになるのを良しとさせない為のルールのようなものなのである。

ただ、それが拡大解釈された結果、家族の男性陣にまでルールが及ぶようになったというのが本当の所らしい。なのでその対象とならない使用人たちはスルーされるのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ