63.そうそう上手くはいかないだろう
ウェイド辺境伯は苦笑する。
「と言ってもね。君だって、嫌いなやつに情なんて抱いていたら大変だろう」
「ふふ。確かにそうですね」
その通りである。嫌いな人間に情なんて抱いていたら、生きるのが苦しくなる。とはいえ、自分たちはルヴィン王子の身柄を奪還するところまでが作戦なのだから、当の本人からしたら気にかけてくれているとも取られかねないが。まあ自分たちの行動がルヴィン王子にとって、情を感じるなら、それこそみんなハッピーでいいと思う。
「俺たち側が動くにしても、情報とか居場所とか、なんも分からないしね。その様子だと、結界の方も異常はなかったんだろう?」
私はこくりと頷く。
「異常なしです。起こっている事態を考えたら、平和すぎて怖くなりますがね」
「平和なのはいいことだ。嵐の前の静けさとはいえ、休めるうちは休んでおくべきだからね」
そう言って、ウェイド辺境伯は腰を上げる。ぐっと伸びをした後、苦笑いをした。
「ま、休めないんだけどね。視察というか、あそこに様子を見に行かないとね。ノーブル伯爵領……じゃなかった。ノーブル……なんて言えば良いんだ? ウェイド辺境伯領ノーブル……長いな」
呼び方に迷うのは分かってしまう。確か発表された新聞にも、ノーブル伯爵領がウェイド辺境伯領に併合されることしか書いていなかったように思うし。
「ノーブルという地名は根付いているようですし、混乱を避けるためにもそのままの名前でいいかと思いますよ。もちろん事情が事情ですし、変えるのもまたいいかと思いますが」
私の言葉を聞いて、ウェイド辺境伯はふむと頷く。
「そうだな。反発はないようだし、ここはノーブルと呼ぶことにしよう」
「ええ。それでいいかと」
なんてことを言いながら、私たちはノーブルへと向かうことにした。
◆
ノーブルへと向かう馬車の中で。
ウェイド辺境伯は思い出したかのように、私のことをちらりと見る。
「そういえば、ノーブル付近の結界も張っていたんだよね?」
「もちろんです。こちら側も、特別変わった反応はありませんでしたよ」
「そうか……ないのか」
ウェイド辺境伯は少し怪訝な表情をする。
「いやね。俺たちのことを魔族は多少なりとも警戒していそうではあるけど、距離があるノーブルでは何かしら反応があってもおかしくはないと思ってな」
それはそうである。辺境伯付近は警戒されて当たり前ではあるが、ノーブルでは何かしら向こうが攻撃を仕掛けてきていても、おかしくはないものではある。
「とはいえ、私の結界が張ってありますし、私が転移魔法を使えることを向こうが把握していてもおかしくありません。寝ていてもすぐに対応には動けるので、なかなか手が出せないのでしょう」
「そうか」
ウェイド辺境伯はどこか残念そうにしている。
「反応があれば調査できるかもなと考えていてね。向こうの魔族の情報も、こちらはあまり持っていないわけだし」
ルヴィン王子を襲撃した魔族……その人物の能力や情報を先回りして手に入れることができれば、確かに対処の速度や確度は変わってくるだろう。
ただまあ、そうそう上手くはいかないだろう。それが出来るなら……という希望にしか過ぎない。
なんて考えていると、馬車がガタンと揺れて止まる。
どうやらノーブルに着いたようだった。
「よし。行くとするか」
辺境泊は馬車から降りていく。私も遅れて降りる




