62.魔族とやらも
私は一瞬ぽかんとしてしまうが、すぐに向こうの意図が分かった。つまり言わせないということである。言わせなければ、別になかったことになるのだから的なあれだろう。なるほどな、なかなか面白いことをするじゃないか。
まあ別にいいけれども……。
ひとまず私の方は今日も結界の様子は窺っていた。
しかし今のところは特別変わった動きはなかった。魔族の反応も、魔物の反応も。何か変わった様子はない。ここまでの事件が起きているのだから、何もないというのは逆に不気味なものである。
まあ向こうは一国の王子の身柄を手に入れているのだ。慎重になっているところもあるのだろう。
私はベッドから腰を上げる。ひとまずは悩んでも仕方がないところではある。ウェイド辺境伯に朝のご挨拶を伺いに行くついでに、何かしらギルドマスターから進捗報告があるかもしれないし、話を聞いてみるのが先決だろう。
一通り鏡を見ながら身なりを整えた後、私は部屋を出た。
◆
いつものように、ウェイド辺境伯が待つ扉をノックする。少しした後、優しげな声が聞こえてきたので、私は部屋へと入った。
ウェイド辺境伯は椅子に座って、新聞を眺めている様子である。
私はウェイド辺境伯の隣に並ぶ。
ウェイド辺境伯はちらりとこちらを見て、くすりと笑った。
「セラスから聞いたよ。また忍び込まれたんだって?」
どうやら事情は知っているようだ。まあウェイド辺境伯にこんな情報が流れている点を考えると、彼の人の良さが垣間見られるが。
「ほんと好かれているようで」
「人に好かれるのはいいことだよ。しかし、なかなか大変だと思うけどね。察するよ」
ウェイド辺境伯ははははと笑う。
「俺から言っておこうか?」
ウェイド辺境伯から言って貰えるのは、確かに魅力的な提案ではある。いつも寝顔を眺められるのはほどほどにしてもらいたい気持ちだ。
「あ〜……まあいいです」
「そうなのか? まあセラスも君に悪いことはしないだろうし。ほら、無害な妖怪の類いだと思えば可愛いものだろうしね」
無害な妖怪の類いって言い方も、なかなかすごいことではあるな。ちょっと面白いけど。それじゃあ私もセラスを見かける度に、無害の妖怪がいるなとでも思っておこうか。
「それでなんですけど。ギルドマスターからは何かありました?」
その言葉に、彼は首を横に振る。
「いや、特にない。新聞にもこれと言って載ってないし、宮廷側は帰りが遅くなっている程度にしか思っていないんだろう。これを見ると、少しばかりルヴィン王子が可哀想ではあるがね」
なるほどね。でも、新聞にすら何も書いてないってのは多少は可哀想ではある。王族の帰りが遅くなるなんてことは、普通ならばかなりの大事になる。私の経験上、宮廷が隠蔽しようとしても、何かしら漏れているイメージがあるから、本当に何も進展はないのだろう。
「魔族とやらも、色々と案を練っているところなのだろう。彼らは情はないが、知性はあるからね」
「確かにそうですね。まあ、私たちもなかなかに情のないことをしようとしていますが」




