61.そんなぁ〜!
アラーム音を頼りに、私は手を動かす。布団の中に潜りながら、もごもごとうごめき、どうにか時計を掴んだ。
ガチャリとボタンを押して、うるさい音を消す。
私はぐっと伸びをした後、ハッとなる。というのも、恐ろしいことに『仕事に行かなければ』と体が動いていたからだ。今自分は転生して異世界に来ているわけで、別に出社する必要は微塵もない。だが、体が覚えていた。
私は目覚まし時計を手に取って、大きく息を吐く。確かに便利なものではあるが、過去に身についた経験のせいで嫌な記憶までも蘇ってきた。これは……あまりよろしくないかもしれない。
しかしまあ……すぐにここが異世界だと気がつけた理由がある。
私はちらりと隣を見る。
「おはようございます! シセ様!」
「……いつからいたんですか」
「えーとっ……分かりません!」
「はあ」
寝ているところを永遠と眺められていた可能性があることに、私は絶望してしまう。悪い人ではないんだけれど、しかし私へのファン度が高すぎるというか。ここまで来るとファンどころの騒ぎではないとは思うが。
「あの、寝ているところを見るのは……」
「ん! ああ! 目覚まし時計を見てました!」
あまりにも苦しい言い訳がすぎる。私でもこんな苦しい言い訳はしたことがないような気がする。まあ悪い子ではないんだけれど、しかしここは一喝の一つくらいしておいた方がいいだろう。
「セラス。私が寝ている時は、部屋の出入り禁止」
「そんなっ!?」
セラスはわざとらしく、膝から崩れ落ちる。なんなら、しくしくと涙を流しながら震えてしまっている。そんなにショックなのか……? いや、そこまで落ち込まれると何故か罪悪勘すらも湧いてくる。
セラスが上目遣いでじっと見てくる。
「本当に……?」
明らかに文句がある様子だ。あわよくば訂正すらも求めている顔だ。
「ダメです」
「そんなぁ〜!」
泣き出すセラスのことを見ながら、私は苦笑を漏らしてしまう。しかしまあ仕方がない。好かれていることは嫌な気持ちにはならないから、そこまで落ち込まれると考え物ではある。
ともあれ、いったんここはちゃんと諦めて貰うのが先決だ。
私は何度か言葉を考えた後、口に出そうとする。
「はっ! 私ご飯作ってきますね! それじゃお待ちしております!」
さっと手を挙げた後、セラスは急ぎ足で部屋から出て行った。




