57.あらあら
「相変わらず頭の切れる人だ。ギルドマスターにもお世話になってばかりだな」
どちらにせよ、私たちは待機するしかないということで自宅へと戻ろうとしていた。けれども王子を利用して恩を売るだなんて、なかなか悪魔的な発想である。
私では到底思いつかない作戦だ。まあこれもギルドを運営しているギルドマスターのすごいところってことなのだろう。
私は街を歩いている中、ふと思い出す。
「話は変わりますけど、寝袋を買った店ってこの辺りにあるんですか?」
そう言うと、ウェイド辺境伯は嬉しそうにしながら語る。
「ああ、この近くだよ!」
しばらく歩いていると、ウェイド辺境伯が立ち止まって指さす。そこには、明らかにこの世界とは変わった雰囲気のある店があった。
なんだか本当に現代世界にあるような感じの形をしている。
まあ確かにこの外装だと目は引くかもしれない。商売をする上ではある意味いいのか。
私たちは扉を開けて中に入ることにする。内装はというと、なんだかどこかのペンギンのようなポップなどが書かれている賑やかなものだ。
少しばかり懐かしい気持ちも抱いていると、パッと店主らしき人と目が合う。
「あらあら。ウェイド辺境伯じゃないですか。ええと、その方は?」
糸目のお姉さんと言うのだろうか。そんな形の女性がじっと窺うようなな目でこちらを見てきている。しかし彼女の見た目、明らかに現代日本の人間だ。やはり転生者ではなく、日本を行き来できるタイプの転移者とみていいだろう。
「彼女はシセ。俺の家族なんだ。ほら、この前買った寝袋も彼女のためのものなんだよ」
そう言うと、女性が優しげな視線を向けて私に話しかけてきた。
「あなたがシセさんですか。初めまして、私はユウナです。ええと……あなたはこの店を見て、驚かないんですね」
どうやら私が全く驚きを見せていないことに違和感を抱いているようだった。けれど説明をするにしても現時点だと少し面倒事になりそうだ。
ここは適当に誤魔化しておくべきか。
「いえ。寝袋の件から、珍しいものを置いているのは知っていたので。ですが、本当に何でも置いてあってとても良い店ですね」
ユウナさんは嬉しそうにしながら何度も呟く。
「本当ですか〜! 嬉しいです。ふふふ」
なんというか、どこか掴めない人だな。まあこの異世界でやっていくにはこれくらいの気概がないとやっていけないのだろう。




