54.都合いい存在(ルヴィン王子視点)
「僕は……僕はどうすればいいんだ……」
ルヴィン王子は涙を滲ませながら、馬車に揺られている。あまりのストレスで嗚咽を漏らしそうになっているが、御者は何も言わない。
それに苛立ちを覚えたが、しかし言ったところで何も変わらないのは分かっている。ここで何かすればするほど、自分自身がかなり不利になるのは理解しているからだ。
ルヴィン王子は唇を噛みしめる。
「ウェイド……あそこまで王家に恥を晒して置いて……ここまでのことを僕にさせるとは……!」
ルヴィン王子は何度も何度も、拳を壁に打ち付ける。
「ちょっとやめてくだせえ! あんたみたいなのに壊されると、こっちも良い迷惑なんだ!」
「っ……」
ぐっと拳を握りしめるルヴィン王子。もう貧乏揺すりが止まらず、苛立ちも最高潮だった。
ルヴィン王子は思う。あの辺境伯には絶対に赤っ恥を掻かせてやる。なんなら……殺してやりたい。今の自分でも、なんとかすればあの辺境伯くらいであれば殺すなんて難しいことではないはずだ。
軍を動かすか……? しかし、国家軍は到底自分の言うことを聞くとは思えない。
ならば……外部の者に頼むのがベストか……?
なんて思っている時のことだった。
ガシャン!! という衝撃音とともに馬車が揺れた。ルヴィン王子は思い切り転けて、壁に体を打ち付けてしまう。
「お、おい……何やっているんだ!」
ルヴィン王子が御者側の方に顔を出すが、そこには御者の姿はいなかった。
「なっ……何が起きた!?」
何もできずに固まっていると、突然ルヴィン王子に声をかける人物がいた。
「おや。なんて幸運なんだろう、この馬車には第一王子が乗り合わせていたか」
ルヴィン王子はハッとして、咄嗟に自身の剣に手を当てる。しかし、それよりも先に自分自身が超常的な力で、馬車の外に放り出された。
超常的な力……恐らくは魔法だ。しかし、かなりの練度の高さが窺える。それはルヴィン王子にも分かったようで、恐怖しながら件の人物を見る。
「なんでこんなところにいるんだい? もしかして家出かな?」
ルヴィン王子は目を見開く。何故なら、その件の人物が魔族であったからだ。王家と魔族は明確な敵対者である。ここでバレているともなれば、自分は捕らえられるか、もしくは殺されるかの二択しか残されていなかったからだ。
咄嗟にルヴィン王子は土下座をして、泣きながら命ごいをする。
「ごめんなさい!! 殺さないで!! お願いします……!!」
あまりにも惨めな光景に魔族は驚いた。しかし同時に、とても都合の良さそうな笑顔を浮かべた。
「そうかいそうかい。ええと、君の名前はルヴィンで間違いナイよね?」




