51.呆れるよ
ギルドマスターが窓の方を見る。その瞬間に、領民たちがざわざわと騒ぎ初め、次第に大事になっていく声がした。
はあ……本当にルヴィン王子が来たのか。なんていうか、わざわざこんなところに来るまで追い詰められてしまったのだと呆れてしまう。
まあ私にはあまり関係ないことだけれど、今は最後の後始末をするとしよう。
ウェイド辺境伯をちらりと見ると、彼はこくりと頷く。
私たちは執務室を出て、急いでギルドの外へと向かった。そこには……馬車の近くでぎゃーぎゃーと騒いでいるルヴィン王子の姿があった。
「なんでこんなところで止めるんだ!! 早くウェイド辺境伯邸まで迎え!!」
どうやら、かなり癇癪を起こしているようだ。こればかりは御者さんが可哀想だから、私の方からルヴィン王子へ挨拶をするとしよう。
「ルヴィン王子。そんなに騒いでどうされたのですか? 人様に迷惑をかけるのはいかがなものかと思いますよ」
私の声を聞いて、勢いよくルヴィン王子がこちらを見る。そして、すぐに血相を変えて私の方へと走ってきた。
「シセリア! 会いたかったよ!」
会いたかったよ……さぞかし運命の相手と再会したかのような言い回しをするな。浮気をして追い出したのはそちらの方ですのに。
「もう宮廷は大変なことになっていてさ! 今までのことは悪かった、だから戻ってきてくれないか!」
はあ、心底呆れてしまう。あんなことをしておいて、まだ私が戻ってくると思っているのだろうか。さぞかし私のことを舐めているのだろう。
こいつなら上手いこと言えば戻ってくる。きっとそう思っているのだろう。
人間として落ちぶれすぎて、怒りすらも出てこない。
「申し訳ありませんが、あなたがしてしまったことでしょう。それに、私はあなたにされたことを忘れていません。それを踏まえた上で来ているのでしょうが、随分と度胸がありますね」
ルヴィン王子は眉をひそめる。明らかにムカついたのか、突然私の胸ぐらを掴もうとしてきた。なるほど、暴力を振るってくるのか。
なんて思った刹那、ルヴィン王子の腕をウェイド辺境伯が掴んだ。
「シセに何をしているんだ。一国の王子が女の子に暴力を振るうなんて、この国は随分と落ちぶれたものだね」
「お、お前……! お前のような人間が僕の腕に触れて良いと思っているのか!?」
「それはこっちのセリフだよ」
ウェイド辺境伯はルヴィン王子を突き飛ばし、私の前に立つ。
「ほんと、呆れるよ。ルヴィン王子」




