37.毒ガス
私たちは左手側の廊下を進んでいく。ダンジョンという都合上、トラップというものが存在する可能性がある。洞窟系のダンジョンだと、スイッチのようなものを踏んでしまうと、天井から落石が来たりだとか。
この屋敷系のダンジョンではありえないとは思うが、しかしながら私は屋敷系のダンジョンに関する知識があまりない。ともなれば、どんなトラップが来る可能性があるのかが未知数というわけで、少しばかり緊張はしてしまっている。
一応は探知魔法を張ってはいるが、探知できたとしてもかなり接近してギリギリのところで分かるといったところだろう。
「魔物……出てこないな」
ウェイド辺境伯がぼそりと呟く。それもそうである。前回の洞窟だと、入った直前に魔物に襲われていた。
ということは……この道は外れだったのだろうか。
外れの場所にわざわざ魔物を配置するのも理解できる。
しかし……だからこそ侵入者を排除するトラップが仕掛けられていてもおかしくはない。
「皆さん、警戒を怠らないで……!?」
突然、廊下の隅から空気が漏れる音が聞こえてくる。
「なっ……!? なんだ……!?」
「これ……なんかヤバくないですか!?」
私は咄嗟に息を止めて、鼻と口の周りにマスク状の結界を発動する。ウェイド辺境伯とエリックにも同様の魔法を発動した。
「これ……毒ガスです。無臭ですが、嗅いでいると意識を失い……そのまま死にます」
私は咄嗟に解析魔法を発動し、ガスの成分を分析した。匂いのあるガスなら分かりやすかったのだが、このまま放置していたら間違いなく全滅していた。
特にこの屋敷形のダンジョンは締め切られている。空気が外にでる窓もないから、間違いなく油断していたら死んでいただろう。
「とりあえず……引き返しましょう」
私の言葉に二人は頷く。踵を返し、元の場所に戻ろうたした時のことだった。
突然図体のデカい、幽霊のようにも見える魔物が出現した。
ぷしゅーと、魔物からガスが漏れる音がする。
なるほど……このダンジョン、かなり殺意が高いようだ。
「ウェイド辺境伯、エリック。戦闘準備を。マスク状の結界は攻撃されても壊れない強度にはしてありますが、念のため狙われないように注意してください」
「分かった!」
「オッケー!」
ウェイド辺境伯とエリックは頷き、私と並んで巨大な魔物と相対する。




