35.お屋敷ダンジョン
「ウェイド辺境伯も大変ですね。なんというか、ドロドロで」
私はウェイド辺境伯にそんなことを言う。
実際問題、さっきの会話は大変恐ろしいものだった。ウェイド辺境伯は絶対しないとは思うが、向こうはもう敵対心丸出し。
いつ殴り合いの喧嘩になってもおかしくはなかった。
まあ……向こうもウェイド辺境伯が手を出してこないのは分かりきっているから、あのような挑発的な言動を取っていたのだろうが。
私も私で王族とは関わりが深い人種だったから、ウェイド辺境伯の気持ちは痛いほど分かるけれど。
「仕方ないね。俺の立場は現状強いわけじゃないから、あんな感じで言われても文句は言えない。というか、文句なんか言っちゃったら次はどうなるか分からないし」
「にしては、わりと強気でしたよ?」
「あれぐらい言っても、別に相手はなんも思わないだろうからね。俺は格下だし」
ウェイド辺境伯は大きく息を吐く。
エリックはあわあわとした様子で、やっとしゃべり出した。
「僕、超怖かったっすよ! 貴族ってあんなにも怖いものなんですね……」
どうやらビビりまくっている様子のエリック。まあ、普通は一般人があんな間近で貴族同士のぶつかり合いを見る機会なんてないからな。
「ごめんねエリック。まあ、じきに慣れるよ」
「慣れるんすかねぇ……」
悲しいことに慣れはするだろう。案外人間は慣れる生き物だから、もう次の次くらいには平気な顔をしていると思う。
とはいえ、あのエリックが平気な顔をしていたら、それはそれで面白いのだが。
ともあれ。
「さて、地図も貰ったことだし行きましょうか。ウェイド辺境伯、少し地図を貸してください」
「もちろんだ」
私は地図を渡して貰い、内容を読み取っていく。
やはり位置としては、領地から遠い場所にはないようだ。こんな近い場所にあるって考えるとなかなか恐ろしいものである。
今回も転移魔法で行くとしますか。
私は目の前に手を突き出し、軽く詠唱する。すると、目の前に大きな転移魔法陣が出てきた。
「気を引き締めて行きましょう」
私はそう言って、転移魔法陣をくぐる。ブウン! という音と共に、私は件の場所までやってきた。
ここは……屋敷の形をしたダンジョンだろうか。ダンジョンというものは、正直初めて実物を見た。
基本は冒険者が破壊を担当することが多いから、当たり前ではあるのだけれど。
しかし、少なくとも私たちの領地にあった場所よりかは規模が大きいとみていいだろう。




