34.舐められちゃってるな
ウェイド辺境伯とノーブル伯爵は、静かに様子を窺っている様子だ。エリックはかなり緊張してしまっている様子で、キョロキョロと私とウェイド辺境伯を交互に見ている。
「しかし、ノーブルさんも大変なようで。俺としては、ノーブルさんの手助けができるのなら心底光栄ですね」
ウェイド辺境伯の言葉を聞いて、ノーブル伯爵はにやりと笑う。
「光栄とは微塵も思っていないだろうに。なんせ、私は王家寄りの人間。お前が殴った貴族の肩を持つ人間だからねぇ」
どうやら……ノーブル伯爵はウェイド辺境伯の敵である、という認識で間違いないようだ。ウェイド辺境伯は険しい表情をしながら、大きく息を吐く。
「関係ないでしょう。確かにノーブルさんのことは気に食わないが、しかしノーブルさんの領地にいる人間たちは無関係だ。ならば、俺も助ける理由がある」
「たっく……ウェイドくんは人情深いね。到底貴族とは思えないな。ああ、まあ君は平民上がりだっけ? そういう人間も一人くらいいた方が暇しなくていいね」
平民上がり……初めて聞いた情報だ。この世界において、極まれに平民から貴族に成り上がる人間はいる。
かなり珍しい部類だから、滅多に聞かないんだけれど。
しかしそれなら、荒事も多少はこなすことができるウェイド辺境伯のことも理解できる。
「というわけなんで、ひとまず俺たちに任せてください。期待に添えるよう頑張ります」
「期待しているよ、ウェイドくん。それと……お前たちも」
ノーブル伯爵が私のことをじっと見てくる。まあ……恐らくはバレているだろうな。ウェイド辺境伯が顔覚えが悪かっただけで、大抵の貴族は仕事柄そういうのが得意だ。
私自身直接話したことはないが、パーティーなどで見かけた記憶もある。
気まずいと言えば気まずいが、追求してこないならそれでいい。
こちらも大人しく仕事をこなすことにしよう。
「あーそうそう。これ、地図渡しとくよ。うちのギルドが魔族の住処は調査済みだから、存分に頑張ってくれたまえ」
「こりゃどうも。助かります」
ウェイド辺境伯はノーブル伯爵から地図を受け取り、踵を返す。
私とエリックは軽くノーブル伯爵に頭を下げた後、ウェイド辺境伯の背中を追いかけた。
「たっく……すごいくらい舐められちゃってるなぁ」
扉を開けた後、ウェイド辺境伯ははあと息を吐いた。




