29.過去
冒険者ギルドを出て、自宅へと戻る途中のことだった。ウェイド辺境伯が申し訳なさそうにしながら、私のことを見る。
「俺の領地だけじゃなくて、他の領地の頼み……もっと言えば俺の名誉を挽回するために動いて貰うだなんて、なんていうか……本当に不甲斐ないな」
ウェイド辺境伯は言い辛そうにしていた。
とはいえ、彼の気持ちはすごく分かる。私はウェイド辺境伯にはよくやってもらっているし、家も自由に使わせて貰っている。
けれど、付き合いはそこまで長くはないしなんなら短いといった方が理解ができる。
「気にしないでください。これは私がしたいことです。ですが……」
だからこそ、私はウェイド辺境伯のことを何も知らない。彼が過去に何をしてきたのか、何をして王家から嫌われたのか。
今回の事案を引き受ける上で、聞いておくべきだと思った。
「ウェイド辺境伯。過去に、何があったんですか?」
私が聞くと、ウェイド辺境伯は口をつぐむ。しばらく黙った後、意を決したように口を開いた。
「言うべきだよな。俺の……過去を」
そう言って、ウェイド辺境伯は立ち止まる。私の方を見て、真剣な表情を浮かべていた。
「実は……過去に、同じ貴族を殴ったんだ。分かってる、こんなことをしたら普通は極刑だって。だけど……俺は許せなかったんだ」
ウェイド辺境伯はぎゅっと拳を握りしめる。
「その貴族は領民から多額の税を巻き上げ、餓死する人間を多く生み出した。会った時に、そのことを追求したが、取り合ってくれなくて。それで殴って……俺は宮廷勤めだったが、辺境へと左遷された。貴族を殴った罪は、あらゆるところに広まった。だから……俺は疎まれているんだ」
貴族を殴った……か。言い方的に、国王に近しい地位の高い人間を殴ってしまったのだろう。結果的に追い出され、この地で領主をしているというのも納得ができる。
けれど……私はウェイド辺境伯が悪いとは思えなかった。
確かにやってしまったことはどうしようもないが、私にとっては罪のようには思えなかった。
正義ではあるが、世の中は正義が全て正しいというわけでもない。
「ウェイド辺境伯。私はその話を聞いても、ウェイド辺境伯と一緒に頑張りたいと思いました。罪は消えませんが、挽回することはできます。私で良ければ、一緒に頑張りましょう」
私は手を差し出す。すると、ウェイド辺境伯は一瞬驚いたような表情を見せながらも、すぐに嬉しそうに笑った。
「ほんと……君はすごいよ」
ウェイド辺境伯はぎゅっと私の手を握った。




