21.君にしか出来ない
ギルドマスターは机の上に、何枚かの資料を置く。
ウェイド辺境伯は手に取って、内容の確認を始めた。
「辺境伯領付近に……複数の魔族が出入りする場所を確認。その付近では強大な魔物の目撃情報も多数……か」
「そうだ。まあほぼ確定と言ったところではあるが、しかしこんな場所を調査できる人間はうちにはいない。だから、外部からの支援を期待したいわけだが……」
そう言いながら、ギルドマスターはウェイド辺境伯を見て嘆息する。
「君は国家から嫌われているからな。少なくとも優秀な人材が多い王都には期待できん」
ウェイド辺境伯は「あはは……」と頭を掻きながら苦笑する。もう笑うしかないといった様子であった。
「しかし、シセと言ったか。君なら調査をできるんじゃないのか?」
ギルドマスターが鋭い視線を私に向けてくる。確かにできないことはないと思う。魔族にも強さに上下はあるが、少なくとも聖女と魔族は聖女の方が遙かに相性がいい。
それに、魔物に関しても以前戦ったもの程度であれば対応はできる範囲だ。
「それなら、私がやります」
「シセ……いいのか?」
ウェイド辺境伯が申し訳なさそうにしながら聞いている。
全く、今更だと言うのに。もう私はこの領地のために頑張ると決めているのだから。
「気にしないでください。私、ウェイド辺境伯のためならなんだってします」
私がそう言うと、ウェイド辺境伯はくすりと笑う。そして、恥ずかしそうにしながら頭をかいた。
「そっか。俺も、ほんと恵まれているな」
その様子を眺めていたギルドマスターが深く頷く。
「それでは、シセ。君に件の場所の探索を任せたい。大変だろうが、君にしかできないことだ」
ギルドマスターの激励に私は頷く。
私にしかできないかとなんて言われると、大げさだなと思ってしまうが、しかし他者からここまで期待されているのは本当に嬉しいことだ。
ここまで言ってくれているのだ。私としても全力で応えたい。
「ただ……今日は少し結界の維持もあるため厳しいです。なので、明日以降の探索になります」
「構わん。結界の維持がなによりも最優先だ。ほんと、我々も感謝しているよ」
私は頷く。こうして私たちはギルドを後にして、ウェイド辺境伯邸に戻ることにした。