18.魔族
私たち二人は急いで公園を飛び出し、すごい勢いで遠ざかっていく何者かを追いかける。しかしどうしてこんなことに……予感というか予兆というか、そういうものは一切なかったのに。
ウェイド辺境伯もそうだったようで、険しい表情をしながら唸っている。
「どうして……こんなことをする領民がいるとは思わなかった……」
ウェイド辺境伯は領民を信じているからこその言葉である。しかしながら、領民全員がいい人ばかりというのは現実的に考えて難しいところであって、実際問題起こっているのだから何かしら問題のある人間は存在したのだろう。
「ウェイド辺境伯! 見えてきました!」
「ああ!」
私の目の前に、少年を抱えて全力で逃げる男性がいた。ウェイド辺境伯は全力で走り、男の肩をどうにか掴んで止めさせる。
男が振り返る……だが、その瞬間に私たちは言葉を失った。
角が生えていたのだ。額に二本の角が生えているのだ。
間違いない。あれは人間なんかじゃない。
あれは魔族だ。
「な、なんでこんなところに——うぐっ!?」
ウェイド辺境伯が魔族からの攻撃に吹き飛ばされる。私はどうにかウェイド辺境伯を受け止めて、怪我をしていないか確認を取った。
「大丈夫ですか!?」
「ああ……それよりも、魔族を……」
私は魔族を見据える。抱きかかえられている少年は気を失ってしまっているようで反応はない。しかし……魔族なんて相手するのは初めてだ。
というか……どうやってこの中に入ってきたんだ?
私の結界は魔族も入れないようなものになっていると思うんだけれど。
まあいいか。今のことを考えよう。
「少年をこちらへ渡してください。さもないと、あなたの身の安全を保証できません」
そういうと、魔族はケラケラと笑う。
「身の安全だぁ!? お前よぉ! そもそも保証するつもりもねえのに言うのは違うと思うぜぇ俺はよぉ!」
はあ……この様子だとまともに話にならなさそうだ。魔法を使って戦うのは少年に当たる可能性も考慮に入れて、慎重に発動しないと危険だというのに。
まあ、できなくはない。私は生憎と精密な動作で魔法を発動するのは得意なんだ。