14.メイドさん
エリックとは一度解散し、私たちはウェイド辺境伯邸にまで戻ってきていた。時間はまだ余裕はあるが、念には念をというウェイド辺境伯の気遣いによるものだ。
私は自室に戻って、軽く本を読んでいた。というのも趣味の読書というよりは、ここ近辺に存在する魔物について色々と探ってみようと思ったからだ。
まあ……読んでみた限りだと、特別何か変わったようなものはない。本を読むだけで解決するならば、もう既に解決しているだろうと言えばその通りなのだが。
コンコン。
そんな音が部屋に響いた。誰かが部屋をノックしたのだ。私は小首を傾げる。ウェイド辺境伯だろうか。
「どうぞ」
とりあえず言ってみると、「お邪魔します」という声とともに一人のメイドが入ってきた。黒髪のメイドはぺこりと頭を下げた後、私に迫ってきた。
「あ、あの! わたし、シセ様とお話してみたくて!」
「え、ええ!?」
あまりにも唐突で、私は思わず引いてしまう。
一体何用だろうか。
私がそんな目で見ていると、メイドは慌てて説明する。
「あ、わたしセラスと言います! ここのメイドをやっていて、シセ様のファンです!」
「ふぁ、ファン?」
私は困惑してしまう。別にファンができるようなことはしていないし、こんな同性に好かれるようなこともしていない。
悩んでいると、セラスがむふふと笑う。
「まさかシセリア様がここにやってくるなんて……あ!! すみません秘密でしたよね! 大丈夫です、ここ付近に人間はいません!」
そこまで言われて、やっと理解する。なるほど、この子は私が聖女をやっていた時代のファンなのだ。
というか……尚更その時代の私にファンなんていたんだな。正直全く知らなかった。
まあ悪い気はしないのは確かだ。人に嫌われるより好かれる方がよっぼど難しいからな。よくもまあ自分はファンなんて抱えることができたものだ。
「ですが……色々とあったんですねシセ様! わたし、あのアンナってやつが許せません! 妹とはいえ、死罪ものですよ! もちろん、シセ様の元婚約者、ルヴィン王子も!!」
え……なんかやけに詳しいな。私、そんなこと誰かに話した記憶なんてないんだけど。
「あの……どこまで知っているんですか?」
私は恐る恐る聞く。セラスはにこりと笑い、
「ほとんどです!」
と言った。