1.浮気されて捨てられました
「シセリア! お前との婚約は破棄させていただく!」
二人きりの空間にて、私はルヴィン王子に婚約破棄を宣言された。あまりにも突然だったから、少しばかり動揺してしまっている。
顔を上げて、ルヴィン王子をもう一度見る。
彼の可愛らしい誰からも好かれるような顔が、私に向かって侮蔑の表情を浮かべていた。
「理由を聞いても?」
深呼吸を置いてから、そう聞く。ただ深呼吸をしたからか落ち着いてきて、かなり冷静になってきた。
ルヴィン王子はにやりと笑い、嘲笑してくる。
「それはな、お前が国の聖女であるのに何もしていないからだよ!」
私はルヴィン王子の言葉を聞いて、少し考える。聖女であるのに何もしていない、か。
確かに、私はルイセント王国で聖女をしている。しかし、聖女である以上は全て仕事をこなしているわけで、実際問題魔物の襲撃だとかそういうのは発生していなかった。
「仕事は……していますが」
「してないね! だってお前、ずっと寝ているじゃないか!」
そこまで言われて、やっと理解する。
私が国家に結界を維持する方法について、王子は文句を言っていたのだ。
私、シセリアが結界を維持する方法はただ一つ。
それは「眠ること」だった。
そもそも結界を維持するということは、つまり常に集中して監視を続けるということである。
他の聖女とかは、定期的に結界を見て回って壊れそうなところがあれば張り直すということをしている。
けれど、それではいつ壊れてもおかしくはない状況だ。
なので私は、常に結界に魔力を送り続けて、そういうのが絶対に発生しないようにしている。
その手段が「眠り続ける」ということなのである。
私は何度もルヴィン王子に伝えていたはずなのに、何も理解されていなくてため息が漏れた。
そもそも、私たちの関係に無理があったのかもしれない。
実のところ、私は日本からの転生者である。
前世は社畜アラサーで、死にそうになりながら毎日仕事をしていた。
気がついたら死んでしまっていて、この異世界の少女として生まれた。
若くして才能があった私は、十二歳になる頃には聖女に任命され、若い王子と婚約することになった。
だが、王子も私と同い年である十四歳。
精神年齢だとか諸々はかなりの乖離があった。
しかも、王子というだけあって権限はかなりある。
だから……こうなるのは最初から分かっていたのかもしれない。
「ですが、婚約破棄といってもそんな勝手なことはルヴィン王子でも」
私が言いかけると、待っていましたといわんばかりに王子がにやりと笑う。
その瞬間、部屋の扉がガチャリと開き、見覚えのある美しい少女が入ってきた。
少女はルヴィン王子の隣に立ち、にこりと笑顔を浮かべる。
「新しい婚約者ならいるんだ! アンナ、お前の妹だよ!」
私はアンナを見て、嘆息してしまう。確かにルヴィン王子とアンナと仲が良いなと思う瞬間が多々あったが、まさかここまで進展していたとは。
「父上も母上も納得しているんだ。後任の聖女もアンナになる。つまり、お前は本当に用無しってことなんだ」
「そう、ですか」
ここまで進んでいたのなら、私から言うことはもう何もない。
ただ……アンナが私の後任になる……というのがあまり想像できないけれど。
あの子は正直、聖女としての適性はかなり低いと思うが。
「それでは、今までありがとうございました」
私はくるりと踵を返し、扉に手をかける。
一瞬後ろを見ていれば、二人は楽しそうにキスをしていた。
私がいるのに……よくできるものだ。
まあ、別にいっか。
私は転生してから、ずっと聖女がなんだとか、婚約がなんだとかで自由じゃなかった。
逆に言えば、今私の第二の人生が始まったとも言える。
よし、今日から私は自由に生きるぞ。
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