無差別闘技場
「おお〜っと!これは、大判狂わせ!!初登場の、ファントムチーフシルバー!自分よりも図体のでかい、キルユージェイソンを、一発でのしたぁ〜!!」
会場は、大いに盛り上がっていた。
闇コロシアムの会場。その、観客席で、宇佐美は仮面を被って笑っていた。
そして、仮面を被ったシルバーも、右手をかざしている。
強靭的に回復を見せた月夜は、宇佐美の館で過ごしていた。
一度は、命を失ったものだと思っていたが、バスクが急いで連れ出してくれて、例の闇医者に、治療をしてもらい、危うい綱橋を渡っていたが、命をとりとめた。
そんな中、宇佐美貞治が持ちかけてきたのが、ある国で行われる、無差別闘技場の話しだった。
そこで、とある丸く赤い宝石が、景品としてかけられているという。
「…赤い宝石?…もしかして、賢者の石!?」
月夜が、貞治に詰め寄る。
「確率は高いと思う。ある国で繰り広げられる闘技場なんだが、闇世界に通じる人間しか参加できない。もしかしたら、と思ってね。ジェームズ・リナリーも、そこを拠点にしているって話しだよ。どう?参加してみるかい?」
「当たり前だろ!命を失いそうになったんだ。奪い返さないで、怪盗してられない!」
月夜の言葉を聞いて、貞治は、ニッと笑う。
「オッケー!なら、君を私のペットとして参加させるけど、構わないかい?」
「当たり前だ!…って、ペット!?」
貞治が、ため息交じりに椅子にもたれかかる。
「主催者が、そう言う思考の持ち主でね、飼い主。つまり、ペットの主の私物しか参加不可能なんだ。そして、無差別だから、殺しもズルも、なんでもオッケー!どう?それでも、参加する?」
「今更何を言うんだよ!死なら、とっくに見てきた。ローズクイーンから、得物を取り返さないと、怪盗の名がすたるぜ!!」
と、言うことで、月夜はとある国の、無差別闘技場に参加することになった。
闘技場で、名前が読み上げられ、客席の大きなソファーで足を広げ、笑っている闘技場のオーナーである男の横に、リナリーは寄り添っていた。
「今回、勝ち上がってきたのは、たったの六組!一人目は、ホワイトタイガー!!二人目は、お馴染みナイトサーガ!!三人目は、パワーソルジャー!!四人目は、デスカウボーイ!!五人目は、キルユージェイソン!!そして、六人目は、初登場!ファントムチーフシルバー!!」
シルバーの名を聞き、リナリーは、え!と、会場に目をやる。
「し、シルバー!?確かに、殺したはずなのに…!!」
「あいつが、例のお前に苦汁を飲ませてきた、怪盗か?」
オーナーが、リナリーに笑って見せる。
「い、イエッサー…!」
「打ち損じたかぁ!」
オーナーは、大声で笑って見せる。
「それにしても、あんな細い線で、ここまでクリアーしてきたとはな!なかなか、見どころがある!」
オーナーは、マジマジとシルバーの姿を見て、舌舐めずりする。
それを見て、リナリーは、ムッとする。
無差別闘技場に出るには、握力、瞬足、その他の項目をクリアしなくてはいけない。それに加え、五人抜きする格闘。もちろん、殺しもオッケーなので、命を落とす者たちも、何人もいる。そんな中、シルバーは、次々と敵をなぎ倒していった。そして、決勝に残ったのだった。
驚異的に、力を示すシルバーを見て、他のペットに金を注ぎ込んで賭けをしていた連中が、ブーイングしてり、歓喜の声をあげたりしている。
「なんと、シルバー!デスカウボーイを、目に見えぬ速さで倒し、場外へ吹き飛ばしたぁ〜!!」
「な、なんて野郎だ!」
「デスカウボーイを倒しちまうなんて…!」
宇佐美は、仮面の下で笑みを浮かべていた。
そして、シルバーに金を注ぎ込む連中が徐々に増えていた。
次の対戦は、ナイトサーガ。彼は、無差別闘技場の常連で、人を殺すことをなんとも思っていない。武器は、無数の刀や剣だ。
背中に背負っている武器は、今までころしてきた敵の戦利品だ。
「新顔。お前の武器は?」
シルバーは、ニッと笑って、ナイトサーガに指を立てて挑発する。
「愚かな…!」
ナイトサーガは、無数の武器を投げつける。
シルバーは、アクロバティックにその攻撃を避けていく。
その華麗さを目の当たりにして、リナリーのオーナーは、身を乗り出す。
「素晴らしい!奴の攻撃を全て、軽々と避けるとは…!」
その興奮したオーナーの顔を見て、リナリーは怒りをあらわにする。
ナイトサーガは、シルバーに向かって刀を振りかざす。だが、シルバーは瞬時に避けて、ナイトサーガの足を払って転がす。
「ぐあぁ〜!」
今まで、一度も負けた事のないナイトサーガは、何が起きたのか、理解に苦しむ。そして、武器の重さで、なかなか起き上がれない。
「お、おのれ…!」
ナイトサーガは、鎖鎌をシルバーに投げつけた。
シルバーは、鎖を持って、ナイトサーガの巨体の首に巻きつけて、思い切り場外の客席の壁へ投げつける。
「な、なんとぉ〜!今まで無敗のナイトサーガが、その巨体を、いとも簡単に投げつけられ、場外へ〜!!勝者、ファントムチーフシルバー!!」
会場が、大きくどよめく。
「やりやがった!なんて野郎だ!!奴が欲しい!誰か、連れて来い!!」
リナリーのオーナーが、興奮してテーブルのグラスを叩き飛ばす。
「サー?!一体…!!」
リナリーが、困惑する。
最後まで、勝ち残ったシルバーは、盗まれた"賢者の石"を、再び取り戻すことができた。
「やり遂げたね。君なら、やってくれると思っていたよ。」
宇佐美が、闘技場裏に居て拍手する。
「まあね。ジェリーが、武器を強化してくれたからだよ。」
言いながら、仮面を外そうとすると、見知らぬ執事が姿を現す。
「ファントムチーフシルバー。我がオーナーが、お待ちです。」
その言葉に、月夜と宇佐美は、顔を見合わせる。
月夜と宇佐美は、上階の客席に連れて来られた。
「来たか!」
筋肉質の体をした、スキンヘッドの男の横には、ローズクイーンこと、ジェームズ・リナリーが居た。
リナリーは、ジッと睨んでいる。
「単刀直入に言う。俺のモノになれ、シルバー!」
「さ、サー!?」
男は、ソファーを立ち上がり、シルバーの元へ歩いて行った。
「悪いことは言わん。そこの主人より、五倍の報酬をくれてやる!」
そう言うと、シルバーの仮面を外す。
「…ほう。神秘的な、シルバーの眼をしている。美しいな。」
男は、シルバーの腰に手を添えて、顔を近づけてくる。
だが、シルバーは、シーッと言い、男の口に指を当てる。
「残念ながら、二股はかけない。あなたのペットは、すでに存在しているでしょう?」
しばらく、男とシルバーは見つめ合う。シルバーは、ニッと笑う。すると、男も笑って見せる。
「想い人が居るのか。なら、仕方ない。惜しいが、今回は諦めよう。」
男は、シルバーから手を放す。
それを見て、リナリーはホッとする。
※
宇佐美と月夜は、取り返した賢者の石を手に、プライベートジェットに乗った。
「あのまま、君はあの男のペットになるのかと、内心焦ったよ!」
宇佐美が、背もたれに寄りかかる。
「冗談!言っただろ。二股は、かけないって!」
言いながら、手にしている賢者の石をクルクル掌で回す。そして、また会えるであろう、月夜の想い人へと想いを馳せた。