ローズクイーンの復讐
月夜は、一条に電話をかける。
「えっ、打ち上げするの?」
「はい。仕事が、ようやく片付いたもので、今夜は皆で飲み明かそうって!友人の怪我も、回復してきているそうなんで、その祝いもかねて!」
「分かったよ。でも、あまり飲みすぎないようにねぇ!」
「はぁ〜い!」
月夜からの電話をきり、一条は微笑む。
「良いことでもあったのかなぁ?」
電話の声を聞いて、一目瞭然だった。
「月夜さんからの連絡ですか?」
神谷が、一条に聞く。
「ああ。数日前に出張に行った仲間内で、飲み明かすそうだよ。あんまり、お酒強くないのにねぇ。」
一条は、苦笑いする。
「そうですか!なら、昼休みになったら、近くのコンビニで、酔い止めでも買っておきますねぇ!」
「気が利くねぇ、神谷君!」
「まあ、かれこれ二年もこの事務所の秘書やってますから!あ、先生、コーヒーでもお出ししましょうか?」
「ああ、頼むよ。」
神谷は、キッチンのほうへ足を運ぶ。それを見送り、一条は事務所の窓から外を見上げた。
「…そうか。もう、そんな年月が…。」
考えていると、キッチンの方から、パリンッと食器の割れる音がして、その後神谷が吐き出す声が聞こえてくる。
「ウッ…!オェ〜!!」
「ど、どうしたんだい、神谷君…!?」
一条は、急いでキッチンへ走って行く。そこには、青い顔をした神谷が、口に手を当てていた。
「…わ、分かりません。コーヒーの匂いをかいだら、急に気持ちが悪くなってしまって…!」
「!?」
ま、まさか…!と、あることに気が付き、一条は神谷に質問する。
「…ねぇ、神谷君。彼氏と付き合い始めて、どのくらいになる…?」
「?」
神谷は、不思議がって一条の顔を見る。
「…あの。その、もうすぐ半年ぐらいに…。えっ…!?」
神谷も、あることに気が付き、一条に申し出る。
「せ、先生。…やっぱり、昼休みコンビニではなく、薬局に行っても…?」
「…うん。その方が、よさそうだ!」
一条も、賛成する。
薬局から、尿検査のあるものを買ってきた神谷は、トイレに入っていて、恐る恐るその棒を手にしながら出てくる。
「…先生。これ…!」
神谷は、棒の表を一条に見せる。赤い線。
「陽性…!?今すぐに、彼氏と親御さんに電話して、産婦人科行ってきなさい!!」
一条は、椅子から立ち上がり、神谷に告げる。
「はは、はい…!」
神谷は、荷物を腕にかけ、片手にスマホを持ちながら、急いで事務所を退室する。
月夜は、一条に電話をかける。
「えっ、打ち上げするの?」
「はい。仕事が、ようやく片付いたもので、今夜は皆で飲み明かそうって!友人の怪我も、回復してきているそうなんで、その祝いもかねて!」
「分かったよ。でも、あまり飲みすぎないようにねぇ!」
「はぁ〜い!」
月夜からの電話をきり、一条は微笑む。
「良いことでもあったのかなぁ?」
電話の声を聞いて、一目瞭然だった。
「月夜さんからの連絡ですか?」
神谷が、一条に聞く。
「ああ。数日前に出張に行った仲間内で、飲み明かすそうだよ。あんまり、お酒強くないのにねぇ。」
一条は、苦笑いする。
「そうですか!なら、昼休みになったら、近くのコンビニで、酔い止めでも買っておきますねぇ!」
「気が利くねぇ、神谷君!」
「まあ、かれこれ二年もこの事務所の秘書やってますから!あ、先生、コーヒーでもお出ししましょうか?」
「ああ、頼むよ。」
神谷は、キッチンのほうへ足を運ぶ。それを見送り、一条は事務所の窓から外を見上げた。
「…そうか。もう、そんな年月が…。」
考えていると、キッチンの方から、パリンッと食器の割れる音がして、その後神谷が吐き出す声が聞こえてくる。
「ウッ…!オェ〜!!」
「ど、どうしたんだい、神谷君…!?」
一条は、急いでキッチンへ走って行く。そこには、青い顔をした神谷が、口に手を当てていた。
「…わ、分かりません。コーヒーの匂いをかいだら、急に気持ちが悪くなってしまって…!」
「!?」
ま、まさか…!と、あることに気が付き、一条は神谷に質問する。
「…ねぇ、神谷君。彼氏と付き合い始めて、どのくらいになる…?」
「?」
神谷は、不思議がって一条の顔を見る。
「…あの。その、もうすぐ半年ぐらいに…。えっ…!?」
神谷も、あることに気が付き、一条に申し出る。
「せ、先生。…やっぱり、昼休みコンビニではなく、薬局に行っても…?」
「…うん。その方が、よさそうだ!」
一条も、賛成する。
薬局から、尿検査のあるものを買ってきた神谷は、トイレに入っていて、恐る恐るその棒を手にしながら出てくる。
「…先生。これ…!」
神谷は、棒の表を一条に見せる。赤い線。
「陽性…!?今すぐに、彼氏と親御さんに電話して、産婦人科行ってきなさい!!」
一条は、椅子から立ち上がり、神谷に告げる。
「はは、はい…!」
神谷は、荷物を腕にかけ、片手にスマホを持ちながら、急いで事務所を退室する。その後、数分後に一条のもとに、一本の電話がかかってきた。
買い出しの途中、月夜は一条から電話をうけた。
「か、神谷さんが。ご懐妊!?マジですか!」
傍で聞いていた仲間たちも、月夜を見る。
「な、何と言うスピード妊娠…!それは、大事件ですね!」
「私も、驚いたよ!若いって、すごいねぇ。」
月夜は、ハハッと笑う。
「分かりました。大変な報告、ありがとうございます!」
「とりあえず、要件はそれだけだから。今夜は、楽しんで。」
「はい!いっそう、お酒がおいしくなりそうです!それじゃあ。」
月夜は、電話を切る。
「お前たちの影響が大きくねぇ?」
フューが、買い物しながら言う。
「えっ…?」
月夜が驚く。
「そうだよねぇ〜。毎晩、あっつぁ〜い夜を目の当たりにしてたら、発情しちゃうよねぇ〜!」
「そ、そういうものかぁ…?」
月夜は、照れながら言う。
日が陰ってきて、買い出しが終わり、バスクが合流した時間、宴会はアジトで行われた。
「それじゃあ、今回の大報酬に…。」
「カンパーイ!!」
全員が、ビールの缶を当てる。全員、一気に飲み干す。
「っかぁあ〜!うめぇ!」
「なんか、こう幸せなことが続くと、怖いくらいだなぁ〜!」
フューが言う。
「そうだなぁ。俺たちの仕事にせよ。俺の隠れ家にせよ、めでたいこと続きだ!」
月夜が、マジマジと言う。
「なんにせよ、今回は変態君の活躍あってこそだよねぇ〜!」
ジェリーが、かっかっか、と笑いながら言う。
「キースは、計り知れない。本来あの重症な状態で、生きている人間はいない。本当に、近くで見ていても奴の頑丈さに驚いたぜ!」
バスクが、飲みながら言う。
「それにしても、ローズクイーンも毎回迂闊だよなぁ。偽物掴まされたとも知らずにいて〜!」
飲みながら、月夜が言う。
「油断は禁物だ!李が、言っているように、女の嫉妬は怖い。身構えていたほうがいい。」
バスクが言う。
「にしても、そのローズクイーンは、正体バラされて、お宝まで奪われたんじゃ、歯がゆい思いをしているだろうなぁ!周りを見ていたが、あの女一人で行動しているようだ。仲間の姿は、見当たらなかった。」
フューが、答える。
「とりあえず、今夜は楽しもうよぉ〜!気持ちの良い日なんだからさぁ!」
ジェリーは、すでに酔い始めて言う。
「だな!とりあえず、これまでの、そしてこれからの俺たちの繁栄に、カンパーイ!!」
「乾杯〜!!」
全員が、月夜の号令に続く。
一晩経ち、事務所に戻ってきた月夜は、青い顔をしていた。
「ハハッ、随分楽しんだみたいだねぇ〜!だから、気をつけなさいって言ったのに。」
ソファーで、神谷の買っておいてくれた酔い止めを飲みながら、苦しんでいる月夜を見て、一条が笑っている。
「た、楽しくて、お酒がすすんじゃったから、仕方ないじゃないですかぁ〜…。」
「まあ、徐々に経験して、お酒を飲む量を調節していきなさいねぇ。」
話しをしているところ、神谷が出勤する。
「お、おはようございます!」
「ああ、おはよう。神谷君、ご懐妊おめでとう!三カ月だったっけ?」
「はい…。そ、それで、もう一つお二人に報告が…。」
神谷は、左手の薬指を見せる。そこには、光る指輪が光っていた。
「す、スピード婚!?」
二人が、同時に叫ぶ。神谷は、照れながら頬に手を当てる。
「彼が、妊娠が分かってからすぐに、宝石へ行こうって言ったんです。それで、婚約指輪を買ってくれて…。安定期になったら、結婚式を挙げようって言ってくれたんです!」
二人は、衝撃で口をあんぐりと開ける。
「な、なんというか、とりあえずおめでとう、神谷君!幸せ続きだねぇ!?」
一条が、苦笑いしながら言う。
「ありがとうございます、先生!月夜さんも、ありがとうございます!お二人のように、幸せになってみせます!!」
神谷は、幸せで輝いていた。
「お、おめでとう、神谷さん…!」
月夜も、苦笑いして答える。
『女の決意ってすげぇ〜!』
思いながら、急に気持ちが悪くなり、トイレに駆け込む。
「あ〜あ。これは、今日は仕事どころじゃないなぁ。」
一条が、呆れる。と、そこへ事務所の電話が鳴る。それを、神谷が出る。
「はい、こちら一条探偵事務所…。はい、お待ちください。先生、お電話です!」
「ああ。」
一条は、デスクを立って電話に出る。
「はい、一条です。あ、お久しぶりです、マットさん!えっ、ローズクイーンが!?分かりました、そちらに向かいます!」
電話をきり、神妙な顔をする。
「お仕事ですか、先生?」
「ああ。この日本に、彼女が再び上陸しているらしい。FBIのマットが、力を貸してほしいと言ってきた。」
トイレから出てきた月夜が、ローズクイーンの名前を聞いてハッとする。
「一条さん!ローズクイーンって!?俺も…!!」
「君は、仕事どころじゃないだろ?今日は、ここにいなさい!」
一条の言葉に、逆らうことはできなかった。こんな、酔っぱらった状態では、確かに仕事の邪魔になってしまう。
「…わ、分かりました。でも、相手は人殺しをするような人間です。一条さん、くれぐれも気を付けて!」
「ああ。心得ている!それじゃあ、二人とも留守番を頼むよ!」
「はい。行ってらっしゃいませ!」
二人は、一条を見送る。
『まさか、こんなに早くに姿を見せるとはな…。皆に連絡を入れておくか!』
月夜は、嫌な予感がした。
※
「なんだって!ローズクイーンのやつが…?!こんなに、早く姿を見せるとはな…!」
連絡を受けたフューも驚き、酔いも冷めてしまった。
「ああ。俺も、驚いた…!きっと、何かこちらに仕掛けてくるだろう!李にも、連絡してみる。この前のように、挑戦状を届けてきているかもしれない!」
「そうだな!こちらも、警戒しておく!何かあったら、連絡してくれ!」
「分かった!」
月夜は、電話を切る。そして、すぐに李に連絡する。
「李、俺だ…!」
月夜の話しを聞いて、李も驚く。
「なんですって!?いえ、こちらには、挑戦状は届いていないわ!でも、こちらに何かを仕掛けてくることは確かね…!何か届いたら、すぐに連絡するわ!」
「ああ。頼む…!」
月夜は、電話を切り、スマホを握りしめる。
『嫌な予感が止まらない…!胸騒ぎがする!!』
その予感は、すぐに的中する。
『一条さん…。今、仕事中で忙しいかな?でも、少し連絡してみるか?』
月夜は、一条に連絡してみる。
「月夜君、とうしたの?」
「お仕事中すみません!今日は、特に足を引っ張ってしまって…。それで、少しでも力になれたらと思って!そちらの状況は?」
「こちらは、マットを中心に厳戒態勢を引き始めている。マットの話しによると、ローズクイーンことジェームズ・リナリーは、都内に侵入しているそうだ。金髪の青目の外国人に的を絞って、聞き取りなんかやってる。私も、辺りを探しながらマットたちと連絡をしているところだ!今のところ、予告状らしき紙は届いていない。それに、目的がなんなのかと考えている!まさか、彼女も大胆な行動には…。」
「ヘイ、エクスキューズミー!」
「ん?」
一条は、横から話しをかけられて、横を向く。そして、帽子を深く被った外国人が話しかけてきたことに驚く。
「アキラ・イチジョウ?」
「…は、はい。そうですけど…。」
すると、外国人はポケットからスタンガンを取り出す。
「んおっ…!!」
その衝撃に、一条はその場に倒れてスマホを道に落とし、女の腕の中に倒れ込む。
「一条さん…!?」
突然の一条の唸り声に、月夜は返事が返ってくるのを待つ。だが、少しも答えは返ってこない。
「一条さん!彰さん!?一体、どうしたんで…。」
すると、一条が落としたスマホを女が拾い上げる。
「こんにちは、月夜君。いいえ、怪盗シルバー!」
「!!」
その声に、月夜はハッとする。
「まさか、ローズクイーン…!?こんな真昼間から、どうやって…!!」
「女は、化粧をすれば、いくらでも化けれるものなのよ?それより、今私の所には、あなたの大切な探偵さんが居る。この意味、分かるわよね?」
月夜は、くっ!と歯を食いしばり、ローズクイーンの言葉を聞く。
「…目的は、賢者の石か!?」
「御名答〜!あなたが盗んだ賢者の石を、私の所に持って来なさい!三度も屈辱を合わされたのだから、その代償は、高くつくわよ!探偵さんは、その為の人質。彼の命と引き換えに、指定する場所に一人で来なさい!言うことを聞かないと、彼がどうなっても知らないわよ!」
「…日時は?」
「今夜の二十三時までに、賢者の石を持って来なさい。もちろん、また偽物だったら、彼の命はないわ!あなたに、とっておきの復讐をしてあげる!」
電話は、プツンと切れる。
『女の狙いは、やはり賢者の石か!早くしないと、彰さんの命が危ない!!すぐに、行動に移さなねぇと…!!』
月夜は、フューに連絡しながら、ヒナコの屋敷に向かった。
ヒナコは、月夜の言葉に目を丸くする。
「賢者の石を、返却してほしいですって!?そんな無茶なこと、買い主にどう説明すればいいのよ!!」
「お願いだ!無茶なことは、承知している。でも、彰さんの命がかかっている!手段は選んでいられない!!赤い宝石だけでいい!!頼む、交渉してくれ!!金額は、いくらでも払うから…!!」
月夜は、冷静さをかいてお願いする。
「彼女の目的は、やはり賢者の石だったってわけね!」
李が、真剣な顔をする。
「すぐに、買い主とラ連絡を取るわ!だから、少し待ってて!!うちの信用は、ガタ落ちになるけど、埋め合わせはしっかりしなさいよ!!」
「ああ!!」
ヒナコは、屋敷の裏に急いで向かった。
「…大変な事になったわね。まさか、すぐに行動に移してくるなんて…!」
「やつの狙いは、それだけじゃない気がする!俺に、物凄い恨みがあるからな!」
日が沈む頃、ヒナコが赤い賢者の石を持っていた。
「返却してもらうのに、少し時間がかかってしまったわ!買い主は、今回の報酬の半分を渡せと言っている。それでも、良い?」
「ああ。構わない!金より、人の命の方が大切だ…!」
月夜は、賢者の石を手に取った。
「…もしかしたら、これでもう俺はここに足を運ぶことが出来ないかもしれない…。」
「えっ!?」
ヒナコと李が声を出す。
「あの女は、復讐すると言っていた。きっと、俺の身にも…。だから、いままでありがとう!なんとか、お前たちの居場所がバレないように、取り計らうから、それで勘弁してくれ!」
「月夜…。」
「そんな、言い方…!」
月夜は、ニッと笑ってその場から立ち去る。屋敷の外には、フューが車を止めて待っていた。
「乗れ、月夜!」
月夜は、皆の乗る車に乗り込んだ。
「場所は、分かっているのか?なら、すぐにそこに…!」
「いや。あの女は、一人で来いと言っていた。近くで降ろしてくれ。それと、お前たちにも話しておきたいことがある。きっと、あいつの狙いは…。」
月夜は、自分の考えを言う。それを聞き、全員無言になる。
「…残りの資金で、お前たちは身を潜め、逃亡してくれ!念の為、俺のスマホは預けておくよ。」
月夜は、スマホをフューに渡す。
「事が起きたら、迷う事なくそれを処分してくれ!」
「お前、そんなこと…!」
「仲間の安全は、雇い主の俺が守る!だから、言う通りにしてくれ!…もうすぐ、時間になる。頼むよ!」
「…分かった。」
フューたちは、月夜の言葉に従うことにした。
「お前たちとも、お別れだ。」
言って、車を降りる。
月夜は、指定された工場跡地に足を運んだ。その中には、ゆっくりと歩いて入って行く。工場の中央についた時に、一人の声がかかる。
「待ってたわ、シルバー!」
金髪の女が、陰から姿を現す。
「…一条さんは?」
「この上で、おねんねしているわ。でも、もう少しで目を覚ます頃よ。」
女が言う通り、一条が唸り声を上げながら、少しずつ目を覚ます。
「うっ…。ううん…!」
「一条さん!!」
月夜は、足を前に出す。
「まずは、賢者の石を渡してもらうわ。彼を、解放するのは、それからよシルバー!」
「ん…、つ、月夜君…?シルバーって、一体…?」
「…。」
月夜は、女に賢者の石を投げ渡す。
「…赤い…宝石…!?」
上から、一条は下の状況を見守っている。
女は、宝石の中を見て確かめる。そして、ペンライトを当てて、物凄い光が放たれるのを確認する。
「な、なんだ。この光は…!?」
一条は、片目を閉じる。女は、確かめると、ペンライトの光を消す。
「確かに、本物だわ。交渉は成立ね。それと、ここからが、私からのプレゼントよ。あなたから、彼に、自分の正体を教えてあげなさい!」
「っ…!」
月夜は、顔を歪める。
一条は、月夜の方を見ている。
「…正体…?月夜、一体どういう…!?」
月夜は、コンタクトレンズを外し、顔を上げる。月の光が、月夜の銀色に輝いている瞳を浮かび上がらせる。
「俺の名は、クリス・ウィリアム・宇佐美月夜。あなたが、追いかけていた、怪盗シルバーです。」
「…!君は、日本人じゃなかったのか…?!」
一条は、驚く。
「人身売買で、兄の一夜と一緒に売られてきました。そして、知らない土地で孤児院に入れられ、宇佐美貞夫に買われました。表上は、戸籍が宇佐美の義理の息子として登録されていますが。」
「…。」
本当の事を話したということは、答えは一つだった。
「もう、あなたの傍に居ることはできない…。お別れです、彰さん…!」
月夜が、一条に笑顔を向けると、リナリーが持っていた拳銃を月夜に向ける。
「そう。永遠の、お別れよ…!」
「まっ…!!」
一条が、声をあげようとすると、同時に銃の音が響き渡り、月夜はその場に倒れる。
「フッ、じゃあね。怪盗シルバー!」
一条は、うまく動かない体を動かしながら、倒れている月夜の元へ走って行く。
「…きや…!月夜!!」
血だらけで、倒れている月夜の体を、一条は抱きかかえる。
「…あ…きら、さん。ゴメン…。ずっと……。」
「言うな…!言うな!!分かっていた…。分かっていたんだ、君の正体のことは…!」
「…えっ…?じゃあ、…分かったでしょ。あなたを、利用していたこと…?」
一条は、月夜の体を抱きしめる。
「利用してくれて良かったんだ!私も、君の事を利用していたんだから…!お互い様なんだよ!?」
血の気が引いていく、月夜の顔を笑顔で泣きながら見て、しゃべる。
「知っていたかい?君は、私のもっとも手に入れたかった人物なんだよ!?」
「っ…?!」
月夜は、淋しくなって涙が溢れ出る。
「彰さん…!ゴメン。」
月夜は、急に目の前が暗くなり、目を閉じる。
「…月夜!?月夜〜!!嫌だっ!!私を、一人にしないでくれ!!」
月夜の胸元から、プレゼントにあげた三日月形のペンダントが、原型を無くして下へ落ちた。
絶望的になり、一条はただ力強く月夜を抱きしめて泣き崩れる。
そこへ、一人の男が一条の肩に手を置く。
一条は、事務所のデスクでタバコを吹かしていた。
あの状態で、自分の背後から声をかけてきた、ガタイの良い男が声をかけた。
「まだ、月夜は助かるかもしれない!首にかけていたペンダントに、銃の弾の跡が残っている。もしかしたら、弾の力を緩めてくれているかもしれない!今すぐに、俺に月夜のことを任せてくれたら、少しでも生きる確率を上げるかもしれない!」
相手は、誰か分からなかったが、一条に出来ることは、他になかった。
「…お願いします…!」
影に隠れていて、姿が見えなかった男に月夜を託し、その場には、壊れたペンダントが落ちていた。
一条は、デスクでタバコを吹かしていた。デスクの上には、壊れたペンダントが置いてあった。そこへ、一本の電話が鳴る。
「はい。こちら、一条探偵事務所。はい、お待ちください。」
神谷が、一条に電話を渡す。
「はい、一条です。…シルバーが…!?」
轟から、一条のところに、半年振りに怪盗シルバーの予告状が届いたと連絡があった。しかも、ローズクイーン宛に、挑戦状まで送りつけていると言う。
と、言うことは、月夜は、助かったと言う事だ。
一条は、直ぐに事務所を出て行く。
夜中にある豪邸の一室に、ローズクイーンが赤い宝石を求めて侵入してきた。
豪邸の庭先に行くと、怪盗シルバーの仲間二人が、ローズクイーンを翻弄する。
キツネの仮面をつけたチャイナ服を着た一人が、ローズクイーンに攻撃をしかけ、その隙に、黒い覆面をした男が、ローズクイーンの武器を奪っていく。
「くっ…!複数で、卑怯なっ!!」
「言ってる場合か!?」
そこへ、シルバーがローズクイーンに拳を繰り広げる。
「生きていたとは、驚きね!」
「お陰様で、ピンピンだよ!」
ローズクイーンと、怪盗シルバーのアクロバティックな戦闘が繰り広げられ、影で見ていたFBIのマットや轟たち警察は、気を待つしかなかった。その結果、ローズクイーンが、足を滑らせ、体勢を失う。そこへ、シルバーの仲間の二人が、鎖でローズクイーンをぐる巻きにして、体勢を立て直すことが出来なくする。
「ぐあっ…!」
そこへ、FBIと警察が動き出す。
「今だ!」
マットたちと轟たちは、上からローズクイーンを押さえつける。
「捕まえたぞ!ジェームズ・リナリー!!」
覆面が剥がされ、金髪の顔が現れる。
「おのれ、シルバー!!」
シルバーたちは、そそくさと退散していた。
「じゃあ、私は先に失礼するわね!」
李が、離れる。
「じゃあ、俺も先にアジトで待ってるわぁ!」
覆面のキースが、立ち去る。
残されたシルバーは、指定のドローンが置いてある建物へ足を運ぶ。そして、いつものように、得物をつける。
そこへ、人の気配を感じる。
「どうして、いつも分かってしまうのかなぁ。」
シルバーの問いかけに、物陰から一条が姿を現す。
「君のいる所は、どこでも分かってしまうんだよ。」
一条は、フッと笑う。
シルバーは、一条の元へ歩いて行く。
「ずっと前に、言いましたよね。私を捕まえることが出来たら、ご褒美をあげると。」
シルバーは、一条の首に両手を巻き付けると、深い口づけをする。
「おめでとう。あなたは、私を虜にして、心まで捕まえたんだね。」
「それは、君もそうだろ?」
一条も、シルバーの背中に腕を巻き付け、口づけを交わす。
「お帰り、月夜。」
「ただいま、彰さん…!」
二人の心は、いつまでも一つだった。