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●プロローグ 現代の風

 南極観測基地の気象観測棟で、野村雪絵は凍てつく大気の変化を見つめていた。マイナス60度を下回る外気温。ブリザードの予兆を示す気圧の緩やかな低下。そして、いつもより早く訪れた極夜の闇。


「やはり、この数値の組み合わせは……」


 彼女は古びた革表紙の観測日誌に目を落とした。1911年、かのロバート・ファルコン・スコット隊の記録である。気象学者ジョージ・シンプソンが残した詳細な観測データは、110年以上の時を超えて、今なお貴重な研究資料となっている。


 指先で日誌の黄ばんだページをめくると、インクの染みとともに、かすかに塩の結晶が浮かび上がった。海からの風に含まれる塩分が、紙に染み込んだものだろう。


「シンプソンさん、あなたはこの時、何を考えていたのでしょう……」


 独り言を呟きながら、雪絵は観測機器のディスプレイに向き直った。現代のデジタル計測器が示す数値と、100年以上前の手書きデータ。不思議なほど、その変動パターンは一致している。


 アマチュア無線機からは、基地内の通信が途切れ途切れに聞こえてきた。


「……気象班、応答願います。気圧の急降下を確認。繰り返します……」


 雪絵は無線機のダイヤルを調整しながら、急いで防寒具を身につけ始めた。


「気象班、野村です。至急、観測データを……」


 その時だった。


 轟音とともに観測棟全体が大きく揺れ、電源が落ちた。非常灯が点滅する中、雪絵は壁面に設置された古い気圧計を見た。針が激しく振れている。


 数秒後、彼女の視界は真っ白になった。


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