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【書籍化】神獣連れの契約妃~加護を疑われ婚約破棄されたので、帝国皇子の右腕に再就職しました【角川ビーンズ文庫】  作者: 潮海璃月/神楽圭
第二章

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書籍発売記念SS・帝国皇子の命令と辺境伯弟の悲哀1/2

辺境伯弟ルヴァリエのSSです。書籍版を前提とするため、本日、第一章の一部に若干の修正を加えました。また書籍版のネタバレがある可能性がありますがご容赦ください。

 ああ、これはきっとまた面倒ごとに巻き込まれてしまうのだ。ドゥルンヴァルト城でラウレンツ様を出迎えながら、僕は胃がキリキリ痛んだ。なんたって、いるのがラウレンツ様とその行商だけじゃない。見慣れない女性がいるのだ。


 だからラウレンツ様の出迎えなんてしたくなかったんだ。この人に関わるといつも大変なことになる。兄上の命令さえなければ、屋敷で絵を描いて過ごしていたのに。ああほら、荷馬車からオオカミまで飛び降りてきた。エーデンタール国から連れて帰ってきた女性で、しかもオオカミを連れているということは、その素性は分かったようなものだった。


 しかも、ラウレンツ様が急にエリノワ語を喋り始める。女性もエリノワ語を喋る。エーデンタール国は帝国語なのに、なぜだろう。しかも内容だって屋敷の清掃のことで、他の従者に聞かれたって困ることじゃない。ああ、つまり、これは面倒ごとなのだ。お腹が痛い。帰りたい。


 そうして城内に入り、ロザリアと名乗ったその女性が二階へ向かった後、「さて、ルヴァリエ」と、ラウレンツ様の声音が変わった。この人は俺と話すときは声のトーンが少し下がる。怖いからやめてほしい。


「さきほど紹介したロザリアだが、彼女のフルネームはロザリア・ステラ・アルブレヒトという」

「ああ、はい。エーデンタール国の第一王子の婚約者ですね」

「なんだ、よく分かったな」


 ラウレンツ様は眉を吊り上げるが、はあ、と頷く。


「犬ならともかく、オオカミを連れている女性で、しかも名前がロザリアですから。エーデンタール国の王子の婚約者以外あり得ません」

「そうか、お前は動物が好きだったな」


 盲点だった、とでも言いたげな口調だった。もしかすると、ラウレンツ様は最初はあのオオカミを犬だと考えたのかもしれない。


「であれば話は早い。彼女は本日付でアラリック第一王子に婚約を破棄されたそうだ」


 へえ……。興味はないけれど、どうでもいいと言うには大事な情報だった。なにせエーデンタール国の王都に一番近いのは辺境伯領。下手に無視していて余計な手間を食うのは辺境伯領、そして僕ということになる。ああ本当に、なんで面倒なことをしてくれたんだ。


 大体、王族が婚約破棄するなんて余程のことがないとあり得ないじゃないか。王族の結婚なんて政治のためにあるんだし。特にエーデンタール国は神獣信仰が厚くて、神獣の守護を受けてることを優先考慮事項にするとか言ってさっきのロザリア……様を婚約者にしてたんじゃなかったっけ。それを破棄ってなんだろう。有り得ないと思うんだけどな。その有り得ないことをやってるってことは、面倒ごとなんじゃないか。ああでも、そういえば神獣がいるって発表は嘘なんじゃないかって話があったっけ。でも野生のオオカミにしては仕草が獣らしくないなあ、いやでも長い間飼っていると変わるものなのかな。


 いやいいんだ、そんなことは。問題はこの人使いの荒いラウレンツ様が、また僕に何か面倒ごとを押し付けようとしているってことだ。


「それで……あのロザリア様について、兄上に早馬でも出せばいいんですか?」

「いや、むしろナハト辺境伯には伝えるな。婚約破棄が事実であるかどうか、早馬を出して探ってこい」

「……もしかして、私がですか?」

「お前以外に誰がいる?」


 腕を組みながら微笑まれ、ああ――鳩尾が痛い。キリキリキリキリ、体の内側が痛む。ラウレンツ様のことだ、あのロザリア様の素性は他の者には伝えない。隣国の王子の元婚約者なんて、どんな事情があろうが何を言われるか分かったもんじゃないし。だから情報共有は必要最小限に留めたくて、しかも僕だったら一人で動き回れるから便利だとか、そう思ってるんだ。


 屋敷に帰りたい……。ポインセチアの花びらをスケッチして過ごしたい……。


「まあルヴァリエ、もちろんこれは俺の私的な頼み事だ。礼はする」

「五年くらい連絡を取らずにいてくれるとかですか」

「むしろ五年間毎日顔を合わせてやっていいと思っている。財務卿の席は相変わらず空いているぞ」

「冗談じゃないです、体よく宮殿に幽閉して、しかも労働力だけは貰おうだなんて。罰ですよそんなものは」

「荷馬車に苗を積んでいる。ゴールドクレストという木だそうだ」


 …………。ラウレンツ様の笑顔がさらに輝いた。本当にこの人のことは苦手だ。


「……時間はどれだけいただけるんですか」

「夕食まで」

「……拝承しました」


 冬に部屋で育てるゴールドクレストは可愛い、仕方がない。唇を噛み締め、少し上をむいた。


 ラウレンツ様達が城に入るのを見届ける前に、僕は馬を引き、外套を深く被って走り出した。ドゥルンバルト城からエーデンタール国へ至る道は、ラウレンツ様の要望で可能な限り最短距離の道を整備し、また宿駅も設置されている。この石畳を敷くためにどれだけ金がかかったか、ラウレンツ様は金の遣い方が豪快だと言われる所以だ。でもラウレンツ様は金の使い道を選んでるだけだし、使ってる石だって宮殿の端にある神殿をぶち壊しただけだし、それに僕は街道整備に金をつぎ込んだのは正しいと思う。馬の走りやすい道になるだけで、物品も情報も行き交う速度が段違いになる。僕でさえ馬に乗って出かけようと考える気になったくらいだ。もちろん、その分攻め入られやすくもなるから、辺境伯領の負担は増えたけど……。……ああ、兄上に城の管理をしろって言われたことを思い出してきた。駄目だ、このまま鬣に顔を埋めて寝たい。


 でもいいんだ、今日の夜はゴールドクレストを眺めて眠れるから。そう自分を奮い立たせて、細かく宿駅を継ぐ。といっても、僕自身が国境を越えるほど走る必要はない。辺境伯領からエーデンタール国にはきちんと御用達の間諜「ノクティ」を放っている。日夜動き回る彼らと接点を持てばよい。

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