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【カクヨムコン10特別賞】加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました  作者: 潮海璃月/神楽圭
第二章

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12.機動性と邪魔者

 馬車の一団が、モンドハイン宮殿をナハト辺境伯領へと出発する。私の乗る馬車は例によってラウレンツ様とヴァレンが乗ってぎゅうぎゅうづめだけれど、肌寒いのでありがたい。というか、あわよくば膝にずっと乗っててほしい。


「ヴァレン、こっちにおいで」

「だからそんな薄着でいいのかと聞いたではないか」


 足元に座り込んでいたヴァレンが、抱きかかえるより先に隣に座ってくれた。その体温にほっこりと頬を緩めていると、向かい側のラウレンツ様が心配そうに眉尻を下げる。


上着ヴィジットは持ってこなかったのか?」

「だってオストリン・ノイはもう暖かいんでしょう? 行ったら邪魔になります」


 遠出をするときの荷物は最小限に。王都から帝都へ移動する際、道中ですれ違う御一行と自分とを比べて学習したことだ。荷物が多いと馬車は重くなるし、手入れも面倒くさいし、いいことがない。


 ついでに、馬車移動が長いぶん身軽に過ごしたいので、ドレスは少し安い薄手のものにした。刺繍なんて重たいものもなく、模様は生地を尊重するか簡単な染め物だけだ。


 ラウレンツ様はそれについても少し訝しげな顔をする。


「……お出かけ、と浮かれていたように見えたけれど。そんな静かなドレスでよかったのかい?」

「むしろお出かけだからです。機動性を重視しして仕事をし、最大限お楽しみ時間を確保します。それに、ドレスってちゃんとすればするほど重たいんです」


 もちろん、男性の普段着もそれなりに重そうではある。特にモンドハイン宮殿の宮廷服は装飾も凝っているし、上着なんて生地も硬そうで肩が凝りそうだ。くわえて、日頃のラウレンツ様は皇子らしく模範的な着こなしなので、着ているだけで疲労困憊でおかしくない。


 とはいえ、さすがにドレスのほうが重たくて窮屈だと思う。ヴァレンのもふもふの隣で腰回りを撫でた。


「特にコルセットですね。社交界用のドレスは大抵コルセット必須なので、そんな格好で何日も馬車に揺られるなんてごめんなのです」

「……そうか」

「ラウレンツ様も宮廷服ではないじゃありませんか」

「あんなものを着ていたら皇子だと言っているようなものだからね。近衛軍を動かす予算ももったいないし、お忍びということにさせてもらうよ」


 肩を竦めると、その薄い上着がシャリと軽い音を立てた。


 そう、オストリン・ノイ地方へ向かうラウレンツ様は商人モードなのだ。薄い上着の下もこれまた薄手のブラウスで、煌びやかな宮廷服とは裏腹に地味な色に包まれている。今となっては正体も知っているせいか、顔立ちの上品さがアンバランスに思えてくる。


「でも、よかったんですか? こんな最小限の護衛で……私もさして例は知りませんけれど、たとえばアラリック王子の行脚なんて一大イベントでしたよ?」


 その大仰さ、さながら王城からお引越しするかのごとく。例によって私は王城内から眺めていることも多かったけれど、そのときはなんたる無駄と唖然としたものだ。もちろん、エーデンタール国は帝国と違って治安の悪い区域も多いので仕方がないのだけれど、アラリック王子が剣を扱えないせいなのではないかとも思う。


 というのは措いといて、ともかく、私達には本当に最小限の護衛しかいないのだ。それこそ、一商隊を守る程度の人数しかいない。こんな一団に皇子がいるなんて、襲った盗賊側が腰を抜かすだろう。


「それに関しては権威を見せる場だったというのもあるかもね。でも今回は下手に皇子として存在感を示さないくらいがちょうどいい」

「帝国皇子自らが配慮していると示さなくていいのですか?」

「何事もバランスだからね、示す相手は選ぼう。それに、おそらくオストリン・ノイが待っているのは皇子ではなくて商人だ 」


 どういう意味だろう? 首を傾げてしまった。なにせオストリン・ノイ地方は不作で悩んでいるのだ、農産物を売る仲介をしてくれる商人は必要だとしても、その売る農産物がない状態。ラウレンツ様でなければ肥料を売りつけにいく悪徳商人に見えているところだ。


 ただ、それよりも気になることがある。見えないと分かりつつも、少し後ろを振り向いてしまった。


「話は変わりますけれど、なぜニコラウスまで同行しているのですか?」


 そう、この一団にはニコラウスの馬車まで含まれているのだ。ヴァレンは匂いで分かるのか、相槌を打つ代わりに隣で鼻をひくつかせる。


「なにか不安でも?」

「ないといえば嘘になりますが、いる理由がわかりませんでした。確かに、ニコラウスのモルグッド家はオストリン・ノイ地方に近いですけれども」


 というか、接しているけれど。頭の中で地図を思い描く。


「そうはいっても、モルグッド伯爵領の南端とようやく接する程度です。多少馴染はあるかもしれませんが、文化や気候が同じとは限らないのでは?」

「そうかもしれないね」

「であればなぜです?」

「彼には彼の仕事がある」

「……ニコラウスに仕事、ですか」


 むう、と下唇に力を入れてしまう。ラウレンツ様は目を瞬かせた。


「……彼に仕事を与えることに問題でも?」

「……いえ」


 私がもっと仕事をできれば、ニコラウスを連れて来ずにラウレンツ様と旅路を楽しむこともできたということか。むう、とさらに下唇に力を入れていると、「私を無視するな」と言いたげに、ヴァレンに鼻を擦りつけられた。

ちなみにラウレンツ様はコルセットの話をされて少し困っていました。

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