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【カクヨムコン10特別賞】加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました  作者: 潮海璃月/神楽圭
第二章

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10.お出かけと公私混同

「そこで話は戻るけれど、そんな貴族を見た帝国貴族は『エーデンタール国』というものにいささか良くない印象を持っている」

「……私がアラリック王子の婚約者というのはかなり印象が悪いということですね。オストリン・ノイ地方へ行くのも、下手したらエーデンタール国の近場という意味で受け取られ、間諜と糾弾され火炙りにされてしまうかもしれません」

「そこまでは言わないけれど、誤解を招く行動は危険ということだ。というわけで、俺も同行しよう」


 思わぬ提案に、ぱちくりと瞬きしてしまった。ラウレンツ様と一緒にオストリン・ノイ地方まで行脚すると?


「なぜですか?」

「いまの君は不安定な地位にあるから、帝国皇子がそれを保証したほうがいい。それからこれはオストリン・ノイ地方に出向いていい理由だけれど、ノイマン公爵には恩を売って悪いことはない」


 それは大変ごもっともだ。ゆっくりと頷きながら、少し考える。ラウレンツ様も一緒に、オストリン・ノイ地方まで行くと……。


「……確かにノイマン公爵に恩は売れますが、コストとリターンは見合っていますか? ただでさえ宮殿は少し前まで機能不全だったわけですし、ラウレンツ様が不在にすると一気に危うくなるのでは」

「心配ないよ、ロザリアが手伝ってくれたお陰で分掌はうまくいってる。各務卿に委任している仕事がほとんどだし、情勢も安定してる。仮に緊急の案件が生じたとしても早馬を飛ばしてくれれば間に合う」

「だからといってラウレンツ様が出向くほどの必要が?」

「公爵領の面倒事は帝国の厄介事、皇子が見ていると知らせることには充分な効果がある」

「ですがあまり玉座を空けすぎるのは」

「君は俺が商人としてエーデンタール国に出入りしていたことを忘れたのかな?」


 そういえばそうでした。ぐっと押し黙ると、ラウレンツ様の手が頭からいなくなり、ついでに少し不可解そうな顔をされた。


「……なにか、俺が同行することに懸念でも?」

「……懸念というか」


 懸念ではある。しかし、口に出すと少し失礼な気がして一度閉口した。


「……同行してくださるわけですよね」

「そうだね、形はどうあれ共に向かおう」

「……失礼を承知で、というか公私混同して恥ずかしながら申し上げますが、ちょっと、はしゃいでしまった自分がいまして」


 こんな感じで、とおどけて両手を動かしてみた。子どもの遊戯のような動きで、我ながら馬鹿げていたし、ラウレンツ様は目を点にした。


「公務だというのは分かっているのですが、お出かけだ、と。オストリア・ノイ地方には行ったことがありませんし、というか私は基本的に王都から出たことがありませんでしたから、どこかへゆっくり出かけるだけでわくわくしてしまって……」


 その目に少し慈愛の色が浮かんだ。ラウレンツ様は優しい。


「ですからほら、マーケットに視察へ行ったことがあったじゃありませんか、あれも結構楽しみにしてましたし……」

「視察ではなかったけどね」


 しかし一瞬で冷えた。ラウレンツ様は優しくない。


「いえそうですね、あれはお忍びでしたので監査とでもいうのが正しいのかもしれませんが、ともかく、ちょっと楽しみになってしまったのです。帝都を離れての遠出ですし、ラウレンツ様もご一緒とのことですし」


 だがしかし、性根は優しいので私の懐き度を知るとその頬を緩めてくれる。


「楽しそうじゃありませんか? 海の近くということは港もあるでしょうし、大きな帆船って見るだけでわくわくしますし、風車もきれいだとか。四六時中仕事をするわけではないですし、あちこち視察するのも仕事の一環です。私達の顔を知る人も帝都よりずっと少ないでしょうし、二人だけでとは言えませんが、ある程度気楽に動き回れるでしょうし……と、色々想像してしまいまして」


 ただ、私もラウレンツ様を煽てたかったわけではない。真っ向から本心だ。赤裸々に口にした想像の内容が恥ずかしくて照れてしまった。


「でもお仕事ですから。ラウレンツ様が帝都を出る必要がないのにそれを連れていくのは私欲のようで、きちんと言い訳が立たないと気が引けてしまいまして。懸念じみたことというのは、そういうことです」


 本当は一緒に行きたい。ラウレンツ様とヴァレンと一緒にこの宮殿以外をゆっくりお散歩できたら、きっと楽しい。時間も気にせずに好きなだけ歩いて、疲れたら馬に乗せてもらって、帝都とは違うご飯に舌鼓を打つ。想像するだけでなんて素敵だろう。


 だから、ラウレンツ様の厚意に甘え、公務のふりをしてちゃっかり遊ぼうという魂胆があった。本当は仕事のことだけ考えなければいけないのに、私はいつの間にこんなに強欲というか、狡猾になってしまったのか。


「……と、いうわけで……ええ、なので、ラウレンツ様に行く理由があるなら、もちろん、私側は問題ございません」


 ラウレンツ様はだんまりだった。その表情は、ルヴァリエ様が財務に関する諸々の書類を美しく整えて持ってきたときと大体一致。その心は「助かるけれどよりによってルヴァリエが思った以上に仕事をできるとは複雑な気持ち」だ。


 つまり、なにか複雑なお気持ちらしい。さらに私とルヴァリエ様を対比すると、「なにか」の答えは見えてくる。


「……ラウレンツ様も、私と一緒に出掛けられるのは嬉しいですか?」

「……………………君の感性にはスイッチでもあるのか?」


 朱の差した頬が肯定だと教えてくれる。ふふっと笑みを零した。


「ね、楽しみですよね! でもお仕事ですもんね。お仕事はお仕事、息抜きは息抜きでめりはりをつけて行きましょう!」


 そうとなれば、根回しも含めて準備をしっかり整えねば。

新しい風邪も無事治りかけです。いつもありがとうございます。

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