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【カクヨムコン10特別賞】加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました  作者: 潮海璃月/神楽圭
第二章

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03.軽佻浮薄と沈黙寡言

 ルヴァリエ様とともに公爵家へ向かうと、先にニコラウスの馬車が着いているのが見えた。例によって、私達の馬車よりも門に近い場所で停まっていている。


 私とルヴァリエ様、さらに続いてヴァレンも馬車から降りると、御者の青年が深々とお辞儀をしてくれた。

 隣のニコラウスは、明るいブルーの衣装に身を包んでいる。こちらもまた春の日のお茶会らしい華やかな装いで、色だけ見ると女性もののようだが、ニコラウスの髪と目の色と、その軽薄な雰囲気によく似合っていた。


「おはようございます、ロザリア様」


 そのニコラウスは、あっけらかんとした声で挨拶をし、微笑む。


「今日もお美しいですね。以前と雰囲気が変わりましたが、エーデンタール国にいらしたときよりずっと似合っていらっしゃいます。見かける令嬢も、みなこぞってロザリア様の真似ばかりですよ」

「そういうあなたは今日も絶好調の口ですね、ニコラウス」


 ちょっと辟易するレベルのお世辞だった。もしかして会うたびにこの遣り取りをしなければならないのだろうか。有り得る。


「王城にいた頃と随分態度が違いますが、私がラウレンツ様の妃なので気遣っているのですか? あなたらしくありません」

「もちろん違います。ロザリア様を通じてラウレンツ様の警戒心をといていただこうなど思っておりませんよ」


 ニコラウスは優雅に膝をつき、私の手の甲に口づける。王城では私に膝をついたことなどなかったくせに。


「帝国が合っていたのでしょう。化粧や服装がガラッと変わりましたが、そちらのほうがよく似合っていらっしゃる。それだけです」


 帝国では、帝都からじわじわと“自然派メイク”が広がりつつある。お陰で、宮殿で歩く私を二度見する人はいなくなった。

 服装に関しては、ラウレンツ様の趣味がいいとしか言いようがない。頭を撫でてもらったときの心地よさを思い出してフフンといい気になってしまい――頬が綻ばないよう、咳払いをして誤魔化した。


「それならいいのですが。ラウレンツ様に便宜を図ることはできないと、よく心に留めておいてくださいね」

「もちろんです。しかして、そちらの方は?」

「…………ルヴァリエと申します」


 ルヴァリエ様は、虫でも見るような目をしていた。……いや、ルヴァリエ様にとっては虫より人間のほうが格下なので、むしろ人間を見る目と言うほうが正しい。私のほうが虫を見る目で見られている。

 それはさておき、ニコラウスとルヴァリエ様では性格が真逆過ぎるので仕方がない。ルヴァリエ様の煌びやかな側面は正装したその姿だけで、馬車の中でもずっとヴァレンに視線を向けていたくらいだ。

 そんなルヴァリエ様だけれど、外面のいいニコラウスは不審な目を向けることはない。なにより、いまは帝都への滞在を一時的に許されている身である。伯爵令息らしく、正式な礼をとった。


「失礼いたしました、私はニコラウス・モルグッドと申します。ラウレンツ殿下からお聞き及びかと存じますが、エーデンタール国より参り、現在は帝都に滞在しております」

「……聞いています。ロザリア様に不敬を働かないように見張れと言われました」


 ルヴァリエ様、お座り……。そう口にしてしまいそうになった。そういうことは本人に伝えてはいけません、ルヴァリエ様。

 しかし、そんなことで怯むニコラウスではない。なんなら「御冗談を」と笑い飛ばした。


「私がロザリア様に、そんな畏れ多い。むしろ騎士がいるくらいのお気持ちでいてくださって結構です」

「……そうですか」


 ツッコミどころ満載の発言なのに、ルヴァリエ様はシュンといつもの様子で引き下がった。

 でも、ニコラウス相手ならルヴァリエ様に見張っていただくこともなにもない。


「さあお二人とも、参りましょう。いつまでも馬車の前で立ち話するなんて、そんな失礼な真似をしてはいけません」

「もちろんです、ロザリア様」


 屋敷では、サンルームにお茶の席が用意されていた。まだ外は肌寒いのでありがたい。

 先に席に着いていたエリザベート様が立ち上がり、そのピンク色の頬を綻ばせた。


「まあ、まあ、ロザリア様! お久しぶりでございます」

「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます、エリザベート様」

「ずっとロザリア様とお話したかったのよ。でも、ラウレンツ殿下がいつもお忙しくて、ロザリア様をお呼びだてするわけにはいかないと躊躇ってしまって」


 明るく話したエリザベート様は「それで、そちらの殿方が?」とルヴァリエ様とニコラウスに向き直った。ルヴァリエ様がどんよりと視線をよそに流す横で、ニコラウスは相変わらず明るく「初めまして、ノイマン公爵夫人エリザベート様」と恭しく美しいお辞儀をしたのだった。

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