表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【カクヨムコン10特別賞】加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました  作者: 潮海璃月/神楽圭
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/54

36.幼馴染と性格の不一致

 しかし、どうやらルヴァリエ様が動植物を好む方だというのは分かった。これは利用しない手はない。辛抱強い対話が求められるが、財務卿の空席は由々しき事態、この人を逃さぬ手はない。


「……ルヴァリエ様、辺境伯領と帝都では植物も違うのでしょうか?」

「違います。こういう木は帝都にしかないので」


 屈みこんだルヴァリエ様の隣に私も屈みこむ――と、ギョッとしたように体を反対側に動かされた。本当に人見知りの激しい人だが、めげない。


「確かに辺境伯領は動植物の種類ががらりと変わる境界線のようですね。私も生まれは辺境伯領側ですので、帝都の植物は少々珍しいです。といっても、私はあまり詳しくないのですが」

「……あの、ですね……花は、あまり変わらないのです……咲く時期が少しずれるくらいで。その代わり木の種類は全く違います、同じ種類のものもあるのですが、帝都には辺境伯領のように細く長い白い木は生えないのです。以前幹を動かして植えてみようと思ったのですがこれが全く育たず」


 遂に二文以上喋った。幸先は良いぞとにこにこしながら聞いていると、ルヴァリエ様は一瞬黙った。


「とはいえ辺境伯領と帝都ではさほど変わりはないのです」


 かと思えばまたすぐに口を開いた。今度は早口だった。


「気候が違うとはいえ帝都と地続きですし、数日かければ到着する程度です。しかし例えば東方の大陸まで足をのばすと様変わりします。おそらく葉の広がり方が違うせいです」

「上に伸びるものと横に広がるものがありますよね。ヴァレンは横に広がるもののほうが好きなのです、日陰になるので」

「横に広がるものはいいです。葉が落ちると季節を感じますから」

「秋はオレンジ色に染まりますよね!」

「黄色く染まるものもありますね。茶色くなって落ちたものを踏むといい音がして」

「ヴァレンもとっても好きなんですよ、たまに落ちた葉を絨毯の代わりにしているのです」

「可愛いでしょうね」

「とっても! 丸くなって眠っていると絨毯のうえにクッションが載っているようなものです。隣で本を読みながらついついふわふわの柔らかい毛に顔を――」

「ロザリア」


 ぐっと体がルヴァリエ様の反対側に傾けられた。屈んでいたせいでひっくり返りそうになり、半分以上ラウレンツ様に寄りかかる羽目になった。


「ドレスが汚れる」

「あ、ごめんなさい。私のものではありませんものね」


 皇子妃でなくなる頃には着古してしまっているかもしれないが、できるだけ丁寧に扱わねば。すっくと立ちあがろうと――する前に腰を抱かれ立たされた。女性に慣れていないと思ったら妙に手慣れた動きをする。不思議な人だ。


「……ルヴァリエ。財務卿になれば庭園の植物などいくらでも観察できるが」

「……いやそういうのは」

「ラウレンツ様、そういう冷たい言い方をしてはいけません。財務卿になって、余暇に庭園に降りて植物の世話をする生活も楽しいのではないでしょうかとか、そういう言い方をですね」

「早く財務卿になって植物に水でもやればいいのではないか」

「ラウレンツ様、だからそういう言い方をしてはいけませんって!」

「……ラウレンツ様のそういうところが私は苦手なんです」


 屈んだままボソボソ喋りながら、ルヴァリエ様はまた暗い顔に戻った。


「人当たりがいいし、臣下の信頼も厚いし……幼い頃から武芸にも優れ、私がようやく馬に乗る頃には馬で駆けまわって弓を引いて……」

「……あ、そうか。ナハト辺境伯に幼い頃からお世話になっていたということは、お二人同士も幼い頃からご存知なんですね」


 どうりで冷ややかな目も向けるわけだ。ラウレンツ様にもお友達がいたなんて、なんて微笑ましい。


「お友達がいるのはいいことです! そのくせラウレンツ様のことを苦手にしていらっしゃるなんて、皇子と財務卿が癒着する危険もなくて素晴らしいじゃありませんか!」

「いやだから私はそういうのは……」

「すごく向いていらっしゃると思いますよ!」


 ラウレンツ様の腕をほどいて屈みこむと、ぼさぼさの赤毛が初めて私に向いた。よく見ると奥にブラウンの瞳が見える。


「神経質は慎重さ、人見知りと取っ付きづらさは財布の紐の硬さの裏返しです! 自分には向いていないとぼやくくらいの謙虚さも慎重な判断に繋がってなおのこと良いでしょう!」


 なんなら、ラウレンツ様に「なにがそう適任なのか?」と訊ねたところ、辺境伯家でも侍女が辟易するほど几帳面で、ナハト辺境伯に指示されるたびにお腹が痛くなるほど責任感も強いらしい。


「ラウレンツ様だって、こう見えてルヴァリエ様以上に適任はいないと仰っていましたし」

「そこまでは言ってない」

「細かいことは気にしないでください。ね、ルヴァリエ様、もう少し前向きに考えてください」

「……私は動物か植物の世話をできればそれでいいんです」


 ぼやくルヴァリエ様は、しかし今度は「向いてない」とは言わなかった。


今年は拙作を読んでいただき、またブクマや評価等で応援をありがとうございました。来年もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ