第十七話 日々
【関西弁の転移者 辰川翔也】
数多の人間の顔が鉋の削り節1枚を隔てて幹から飛び出している魔物…
あかん、ごっつキモい。
「しょーや!!倒せば経験値大量獲得だっ!!!」
ヤックがなんか叫んでるけど
木の高さは三メートル、根っこに枝がうねうね、大縄跳びみたいに狙ってくる。当たれば痛い。
【大爆発!!!!!!super duper explosive massive fusiooooooooon!!!!!!!!】
遠くの彼方から何か隕石みたいなものが降ってきて辺りを消し炭にする。
モクモクと爆煙が辺りを包み、爆発の衝撃でクレーターにうずくまる。
なに?ヤムチャしやがってのくだりでもやりたいん?
「大丈夫ですか!?」
「おーい、大丈夫かい!?」
天使っ娘とセガラはんが駆け寄る。
勿論心配してくれてんのはわかるけど、生存確認の声には存分に『やべ…やりすぎちった☆』みたいな、悪ノリの感情がふんだんにこもっている。
そもそも生存確認ってなんや
「ケホケホっ…、なにいまのー?!?ワクワク」
「すんげぇ爆発!!!セガラがやったのかよ!??ワクワク」
もちろんチビエルフたちは楽しそうにしている。
「ううん、ちょっと彼女の呪文に手違いが…」
「すいません!なんかすんごいキモいモンスターがいたのでつい反射的にそっちへ魔法を放ってしまい…」
まぁ、おかげで助かったし一応良しとするか。
ヂェムの回復魔法を授けられつつ、授業はお開き。
熱心なセガラと天使っ娘はまた遠くに離れて魔法の練習をしている。天使っ娘はさっきの一撃で力を使い果たしたのか地面にうつ伏せになりながらセガラの説明を聞いている。
「おーい、ドーナツ買ってきたぞーい!!」
と、街に買い出しに行かされていた炭鉱属が軽い千鳥足で戻ってきた。
手にはドーナツを入れたかごを片手に、もう片方の手には酒瓶を片手に。
「いやー…、街で今度やる新作映画のポスター貼ってあってのー…、『ベイべー☆ワルキューレ』ってやつだったんだけど、主演二人、マジでビジュ爆発してたぞい」
ヒゲモジャのドワーフが『マジ』とか『ビジュ爆発』とか使うな
「おや、翔也はご機嫌斜めじゃな…、どうした?修行中にうんこ漏らしたか?」
漏らさんわ
「わしも昔は魔力を溜めていきむとよくうんこ漏らしてたからな…、気持ちはわからんくもない。あるあるじゃな」
あるあるちゃうし、漏らしてへんし、ええからドーナツ渡して酒飲んで寝てろ。
「なんじゃ、本当にご機嫌ななめじゃのう…、じゃあもう、のものも!!」
金曜か。まだ週明けやぞ
俺等のやり取りを横目にチビエルフたちはドーナツで盛り上がっている。
「やりぃ!!!」
「私チョコ生クリームね!」
「じゃあ俺外側のパンー!」
「「ワケワケ」」
あ、何素材ごとに食べるん?
「おいしーねー」
「なー」
「…パクパク」
「…paku-paku」
「あー、風がー、ドーナツをつれさってしまったー」
「なんてことだ…、さっきまで俺たちの手のひらの上にあった小さな幸せが…、時の風にさらわれて無くなってしまった…」
食ったんやろ?
「風さんって無慈悲ね…」
「さすらい流れるのが宿命だからな…」
食ったんやろ?
「セガラの分も買ってきてるんだけど…」
「風はニドフクヨ」
「「パクパクふーっ!!!paku-pakuswiirrrr」」
風の擬音語足してるけど食ったんやろ?
「あれ、ジェムにヤック!何してるんだい?」
「セガッ…ラ…モグモグゴクンッ!」
「ゴクンッ!なんか風が俺達のドーナツ持ってっちゃったんだ…」
だから食ったんやろ?
修行の合間に休憩がてらセガラもヂェムの持ってきたバスケットからサンドイッチに紅茶を取り出す。
あの向こうでうつ伏せになってる天使っ娘はほっといていいん?なんか虫の息やけど…
「そーか…、まぁ風さんなら仕方ないねー…」
アンタええ人やな。
セガラはんは天使っ娘の分のサンドイッチと紅茶を持ってまた戻っていった。
それからまたヤックに魔法の知識について教わる。
「真面目な学校行く奴等は占星術とか、後、薬学とかもやるかなー…。魔法って結構曖昧なもんだからさ、自分にあった魔法の使い方覚えるのが近道だと俺は思うぜ!」
「魔法の根源も魔力とか、マナとか、チャクラとか色々呼び方あるけど、要はこう…、ぐっ!!ときてばんっ!!ってなるかどうかだな!」
「ドラゴンとか倒せるような強い魔法がやりたいなら天候操るのが早いぜ!てかドラゴンが強いのも基本台風の中とか深海とか、そういうところに棲んでその魔力チート使ってるおかげのことがほとんどだからさ!
昔マグマに飛び込むって魔力の通過儀礼もあったらしいぜ!」
何の参考にもならん
さて、授業が一段落付くとセガラはんは引っ越しの挨拶回りに出かけるというので俺もついていくことに。
しかも今回挨拶する人は貴族らしい。
空伯爵ジェイムズ・セルジオとロッド・セルジオさんという方。
乗り合いの馬車で揺られることしばし、淼淼と広がる草原の海原には今どこかの洗濯物の帆を押す風が吹いている。
天使っ娘は馬車のゆっくりとした揺れが心地良いのか昼寝の誘惑に負け、小さな寝息を立てて、普段大人しげな彼女の眉毛がへの字にリラックスしてるのが見えると、今度はなんとなくセガラはんの方を見る。
セガラはんは締め切りが近いのか、ミノタウロスの皮とやらで綴じられた魔導書に顔を埋めて、小さな鳩メガネをキラリと光らせていた。
温かい冬の日と、春寒の日、を行ったり来たりしながらここに来て1週間が過ぎていた。
「着きましたよ。」
馬車を降り、見渡せば絶景かな。
百メートルくらいの小山の中腹に見える屋敷、そこから芝生で覆われた小山を両断するかのように道が伸びてきていた。
青芝生に覆われた敷地を囲む白の木賊は超自然的に並んで、その上に紫の擬宝珠を支えている。
向こう30キロに渡って続くその青緑に、迷い込んだ白雲の如くとペガサスがおる。
普通に居るやん。ペガサス。
「duck, you sucker!!!(このアヒル野郎っ!だからあれほど整備をしておけと!!!)」
「うるせぇな!手前こそ車いい加減買い換えろよ!!!!」
「しまっ…、ブレーキも…!!」
「「おいおいおいおい!!!!!!!!」」
平和でものさみしげな田舎の、さらにその奥の人の踏み入れれない世界にけたたましく白の煙をもこもこ上げて1台の車がこちらへ向かって走ってくる。
一本の下り道をすごい勢いで走り、途中で地を離れ空を飛ぶ。なんやろ、ブレーキ壊れたってギャグで俺等をもてなしてくれてるんか?
がっしゃーーーんと盛大な音を立て、ガラスを弾け飛ばし、土埃の中から颯爽とオープンカーか現れる。
ボンネットの長いクラシックなやつや。お空の上は随分景気がエエやないか。ブレーキ壊れてたみたいやけど。
「ケホケホ…、死ぬかと…、お前ふざっけん…!!」
「やぁ!生きてたか!相変わらず毛むくじゃらな面してやがる!!はっはっは!!」
「お久しぶりです。ジェイムズ空伯爵、ロッド卿もお揃いで。こちらは今回共に旅をしている転生者の翔也君と、キャメル街で出会った魔法使いです。」
「天才魔法使いです!以後お見知り置きを。」
自分で言うんや。
「そうか…、まぁ、なんだ上がるといい…、なぁ?」
「お、おお…!」
おじさん達ジェネレーションギャップで戸惑ってるやん
「まぁ、来てそうそう悪いが車はご覧の有様だ、悪いが屋敷まで少し散歩でも…」
「あっ、心配することなかれ!」
壊れた車を、喋り方が丁寧なセガラが魔法であっという間に直す。
今日はいつもの白衣の代わりによそ行きの紺色のフロックコートを羽織っている。行く時にヂェムに着せられていた。
その下のベルトには土方の職人のように色んなポーチが下げられ、中のオレンジと黒色の魔道具がセガラの詠唱に合わせボンネットのプスプス煙をあげてる部分をカチャカチャ直していく。
「えっと、オイルと、バッテリー…、あっ、これWangel engineか…、じゃあクラーケン液の冷却部がもしかしたら…」
もともと車系はさっぱり、多分タイヤ交換も出来ひんから何を言ってるかほんまに分からん。
ただ、いい年下男三人が車のゴツゴツしたエンジンとかに夢中になって、「ここか?」「おー!こいつがズレて…」とか顔も手も真っ黒にして協力しあってるのはなんかええなとは思う。
大体三十分位で車は見事に治った。
ほんで、二人乗りのこの車で俺等五人はどうやって屋敷向かうん?




