第十三話 先輩社員とのサシ飲み
【新たな転移者 辰川翔也】
☆これまで☆
ママエルフの眼福もそこそこにモモノタレ区に来た。
仕事ができそうな普通のおっさん編集長に取材記事を任され、知らぬ間に昇進?
とにかく居酒屋へ行きたがる鍛治部、セガラと計四人で居酒屋『烏貴族』へ
遅れてやってきたのは魔法烏新聞社で働く新聞記者
歳も歳だし、積もる話のあるおじさん達をテーブル席にそっとしておいて、俺はその新聞記者とカウンターでしっぽり飲み始めようと考えていたのだが…←イマココ
「俺は太・平・楽!!お前の3年先輩だ!敬語は別にいいぞ!」
うん、まだ入社は決めてへんよ。インターン扱いでお願い。
「全くあの編集長も気が利くな。
新人をこの飛ぶ鳥を落とす勢いの期待の大型ルーキーに任せ、早速経験を積ませようと言うんだからな!!!!!
ありがたく思えよっ??!!俺は今魔法烏新聞社で最も期待され、飛ぶ鳥を落とす勢いの―」
2回も自分で言わんでええ。
後インターンくらいや。体入、体入。
「早速この仕事のイロハについて俺が色々教えてやる!!耳をかじって聞け!!」
かっぽじってな。
恐らくはネズミ?ハムスター?の亜人の太平楽お兄さんは色々教え始めた。
「今俺が追っているのはキャラメル街を我が物にしようとしているクソ貴族だ!
彼奴等はやな奴だぞ。凄いやな奴等だ!どうやな奴等かと言うと、とにかくやな奴等だ!」
その語彙力で記者やるの無理ない?
「奴等、自分達で公道に勝手に関所を建てて私物化してるんだ!
通る観光客や一般の人達から通行料として多額の金をせびる!やな奴等だ!」
なんかメキシコとアメリカの国境にそんなヤンチャしてる奴等が居る動画を見たことあんな
「それで今そいつらに黒い噂が流れてる。あいつら今ある土地だけじゃ飽き足らず、このモモノタレ区も自分たちのものにしようとしてるんだ!」
モノポリーでもやってんのかな
「だがこのあたりの土地は空伯爵という別の貴族が所有している。奴等とてそう簡単に手は出せねぇ!」
伯爵ってくらいやから…あれ確か貴族の階級って上から公爵、侯爵、伯爵、子爵みたいな感じやった?
「だがセルジオ空伯爵ももうお年だ!だから奴等何かとパーティーで突っかかったりして、なんとか土地の利権書を手に入れようと必死なんだ!」
よくパーティーで見るわざとぶつかってワインこぼして、「あらごめんなさいオホホホ」みたいなやつ?
「そこで俺らはそういう奴等の性格悪い部分を記事にして血祭りにしてやりてぇんだよ!」
物騒やな
「君は絵描きなんだろう!?似顔絵なんかが付くと面白いかもしれない!奴等のブスブサイクぶりを強調してな!」
まぁ、確かに道端でそういうのは見かけるな。俺あくまで漫画家志望やからああいうの上手く描けるかわからんけど
「俺は太・平・楽!君の3年先輩だ!」
あの勝手に会話の中でリセットかけるのやめてもらっていい?
ロープレでもこっちが二回話しかけん限りそうはならん
「俺は東国にあるイガグリ国から来た忍だ!正体を隠しこの世界樹の街に潜入している!」
言ってるで、結構大きめの声で潜入してること言ってるで
「俺達忍び一族は皆名前の最後に『楽』の漢字がつく!〇〇楽みたいにな!
もし見かけたら俺の名前をいやぁ通じるそ!」
絶対通じんやつやこれ
「もちろん忍の事は秘密だ!優秀な間諜はその存在すら世に知られない!」
なに、コントやってるん?自分
「時に君はなんで漫画家ってやつを目指してるんだょ!!!???」
いきなり直球やな。何でって言われても、昔から漫画好きやったし、気がついた時には…
「俺は絵が下手だ!!!」
俺も昔はそんな上手くなかったで。
たまに昔描いた絵を見つけて悶絶する事あるし。
「だが!文章を書くのは好きだ!!だから面倒くさい編集長の元でも潜入捜査とはいえ頑張ってやっている!!!!」
編集長そこおんで
後でっかい声にさっきから他の客も気になっておんで
「君は『ヨワネノ不協和音書』というものを知っているか!」
いきなり異世界単語をぶっこむな。しらん。
「それは一部をラテ語で書かれたとても古い本だ!もう手に入れることはできない!原書のほとんどは天界が大切に保管している!!
そしてそれがあれば…」
それがあれば?
「コーヒーのコースターくらいにはなると言われている!!!」
多分新喜劇やとこけるとこやな
「とにかく、仕事を頑張らんとだめなんだよ…
俺はまだいいほうさ、俺ら忍は基本的に一生一目も当たらない影を生きる事を義務付けられてる…
未だにその考えがあってると思って里を出ないやつも沢山いたよ…
でもそんなのは古いぜ??!!!
だーら俺は、他の同期の夢楽や独楽と一緒にあの里を抜け出したんだ!
形道切符を片手にこの大都会まで来てビッグになるためにな!!!!!はっ!!ドヤァ!」
太平楽さんは酔っ払いだして色々話しだした。
まんま絵に描いたような上京物語を。
「でも家賃は高ぇしよぉ…
コンビニでなんだかんだ毎日晩飯とロング缶二本買って、雑誌買って、タバコ買ってとかやってたら給料なんか残んねぇよ…
かといって週6で働いてりゃスーパー言ってーとかもできねぇし…
作り置きっつってもよぉー、冷蔵魔法代もバカになんねぇしな…」
まぁな…、俺も一人暮らし始めてからは結構毎月ギリギリでやってたからなー…
てかサラッと流そうと思ったけど冷蔵魔法代ってなに?それこの先普通に単語としてありにしてくん?
電気魔法代とか?なに?現実生活ギリギリ勢?
「だからといってこの前のキッカケ賞も大穴狙いで外しちまったしさー…、くそー…」
まぁ、賭事…、それも馬でしょうな
ペガサスかユニコーンくらいならありえんのかとは思う
それぐらの罰当たりなことはこの異世界の奴等はやりかねん、子供泣くでホンマに?
「まぁ編集長が拾ってくれてなんとか生き延びては居るんだけどよぉ…、そういや編集長もだいぶスられて最近刺せ刺せうるせぇよなー…」
あれはそういう事やったんか…
「でもな、俺は諦めねぇよ。
いつかビッグになってパツキンのエルフを嫁さんにもらうんだ…
それで部下を顎で使ってさ、毎日キャバクラでシャンパンあげるバブリーな生活送るんだ…」
異世界では絶対に聴きたくない単語でクソみたいな夢を語るな。
イマドキそんな事言ってるやつ芸人でもおらんぞ
「だからさ…、おれどんだけクソみてぇな逆境も乗り越えてみせるよ…、俺は諦めねぇ。」
ごめん、全っ然最後のいいセリフ入ってこーへん。
「お前もいろいろ大変だと思うけどさ、十年後に笑い話になるから頑張れよ…
あれ、しょーやくんはいくつだっけ?」
二十三…
「俺今年三十一だから、大体十個違いかー…
丁度そのくらいの年だったよ、俺が里を出たのはさ!」
十年後に笑い話なってへんやん。
色々先輩にご享受頂いて、ご飯も奢ってもらい居酒屋を出ると、夜風が涼しい。
なんならちょっと寒い、ほんまならここでコンビニにでも寄って帰り酒と行きたいけど、まぁ異世界にそんな便利で都合のいいものはない。
異世界に転生した自販機はいません。
この異世界もまた、どこぞの1年間世界中の信仰行事を祝う島国と同じで、春には春のキャンペーンと称してピンクに白の風船で飾られた看板に、ショーウィンドウか蓬莱の枝で街ごと飾られている。
誰かのギターと歌う声が通りを吹き抜けて行くのもまた、そっくりだ。
♫
あぁ、君の声に恋をしてしまったというのは
打算と見栄の間で
令和ではこれぐらいイカれてないとという逆張りそのものでしか無い
それでもなぜ、4分間の四百ヘルツあまりに
俺はこうも歌を返す
それはまた視聴回数4回の、なんとも虚しい喚きに過ぎない
もしその人気の無さがこの歌を止めるなら
人生はこんなにも淡白で、社会の思い通りだったというのに
俺はなぜにこうも歌を返す
君に会う日はこないだろう
通りすがりに恋に落ちてもらうにはあまりに俺は地味で、
通りすがりに声を掛けるにはあまりに俺は臆病だ
俺はそれでもなぜに今こうも勇気を感じて歌い返す