第一話 【関西弁の勇者 辰川翔也】
目が覚めて、いつもみたいに一服しようと体を起こす。
するとそこは絶対見覚えのないどこか。
やばい…、俺昨日飲みすぎたんちゃうん?
いや、大学出てからはそんなんしてないはず…
はず…
「いや、ここどこっ!?!?」
体を起こして辺りを見回すと、そこは元教会のようにみえる。
天井の一部が抜け落ちて、かつては色とりどりに聖者を描いとったであろう砕け散ったステンドグラスの窓から、およそ朝の十一時前くらいの温かな太陽の光が差し込んでいる。
ここは…
俺は確か、、、
昨日部屋で明日締切の表紙イラストの仕上げやってて、、、、、
ってやばい!!
今何時っ!?!?
っと身体を動かそうとすると全身を電気が走ったような痛みが襲った。
「痛った!!!!!!」
「お、お目覚めお目覚め、おはよう客人!」
ぼやけた意識にその声の主は顔を覗き込むとともに俺の聴覚が働いていることを耳をサワサワしながら確認する。
「おはよう…ございます…」
いや待って誰?ほんでここどこ?もう絶対家ちゃうし…
やめて、絶対異世界とか嫌や、ネタこすられすぎてるって…
「お! いいね!喉の声帯システムも正常に可動っと。あ、まだしばらくは起き上がらないで!最終調整が残ってるから!!」
それはエルフ的な生き物とでも説明すればいいのだろうか、
少年のような顔立ち、
背丈は百三十くらいの小さな体、
今の状況に驚きで目を丸くしてる俺のその目くらい丸い眼鏡をかけて、
白衣をきているくせに背中とお尻からは羽と尻尾が生えている、、、それどうなってんの?
とくだらない疑問に頭を悩ませてるともう一人の(声から察するにおそらくは少女)が部屋の端の方で椅子からガタンッと飛び跳ねる音とともに声を上げた。
「あっ、起きたー!? いやー、良かったよー!、あ、私セガラ下から呼んでくるね!!」
その少女が階下へ向かうと、さっきまでの声の主は今度は俺が寝てるベッドの周りにある機械をカチャカチャといじり始める。
やばい、異世界とアニメに沼りすぎたわ、絶対おかしな夢見てる。
細部までこだわって夢見れてる自分は褒めてあげたいけど、もうショタエルフとロリエルフとかありきたりすぎる設定しか思いついてへん自分が恥ずかしすぎて死にたなる。
俺の煩悶つゆ知らず、ショタエルフは次に手を伸ばして翡翠の水晶をボールマウスみたいにしてなんかやってる。
なんか頭の上で機械のアームが動きまくってるねんけど、なにSci-Fi要素まで俺は夢に取り入れてるん?
てかめっちゃ怖いねんけど…
その翡翠の水晶の周りにも、俺の寝っ転がってるベッドの横にもなんか無理やりメカヲタがハードウェア組み立てました!みたいな配線丸出しのイカツイ機械がボコボコ並んどって、
まぁ、とにかく怖い。
一体、何がなんだか、分からんけど、おそらくは異世界転移的な何かであろう非現実的なこのシチュエーションに心の高鳴りがあったことはまぁ、否定しない。
別に夢の中で楽しむ分には何も悪ないやん。
自分の体の状況を今一度確認する。
腕にチューブが刺さっている。怖い。
手の甲に冷たいゴムのような感触を感じる。怖い。
目も脳も口も正常に動くし、四肢はピクピクと少しだけ動かして、問題ないことを確認した。が、怖い。
先程のエルフ的な少年は他に何か異常や気になる点はないかと真剣な目で尋ねてくる。なんか怖い。
俺は今のところは特にないと答える。…怖いけど。
あかん、俺実はマゾヒストで夢の中で欲求不満発散しようとしてる?
めっちゃ怖いねんけど…
それでも「特に異常はないよ(俺の頭以外)」とショタエルフが答えたとほぼ同時に階下から、先程のロリエルフともう一人の、大人の男の低く、優しさをおびた声が近づいてくる。
少し緊張しながら状況に身を任せてると、ロリエルフが連れてきたその男は、
大柄で細見、
口元はもじゃもじゃで目は琥珀色に輝き、
鼻が犬みたいに黒く少し湿っている、、、狼男……
なんやろ、こすられすぎたネタ続けざまでそっから急に捻ってきて逆につまんないみたいなこの状況…。
男はスンスンと俺の顔からつま先まで臭うと、顎をつまんで口をあーさせて、両側を確認。
目を覗き込んで、なにやらふむというと、先程のテーブルの隣の椅子にストンと腰掛けた。
「あ、あ、おほん、おはこんばんにちは、僕はセガラというものです。ご機嫌いかがですか?」
「………えっ、えー…………本日は非常にお日柄もよく、気分は晴れ晴れと…」
というと三人は揃って声を上げて笑い出した。
勝手に笑われるのはポリシーに反するな、笑わせてナンボやでこっちは。
なんかバカにされた用な、置いてけぼりのようなその笑い声にちょっとムッとして、状況の説明を催促する。
「いやいや、すまないすまない。えっと、名前を先に聞いてもいいかな?」
先程のふざけた調子とは違って今度は優しげに名前を尋ねられ、少し面食らいながら自己紹介をする。
「辰河翔也、悪いが居酒屋とはなんの関係もねぇ、アクセントは本屋と同じだ。」
と、高校の入学初日の新鮮な気分を思い出してると、三人はヒソヒソと「今のは聴いたことのないフレーズだな、居酒屋ってなんだっけ?」とか話している。
とりあえず少し置いてけぼり感に不満がある事を声に含ませながら、俺は自分の居場所を尋ねる。
「えっと、ここはオイホ王国のうんと外れにある村、の更に外れにある今はもう使われていない教会。
僕ら三人で貸し切って使ってるから、ボロいし、ハッキリ言ってなんにも無いけれど、歓迎するよ、異世界転移者の翔也君!!」
そこまでセガラという白衣を着た狼男は言い終えるとガハハハと大笑い、周りのちっさいの二人もアッハッハと笑っている。
何やこいつら!人の不安も知らんで!
「いやー、うん、客人を迎えるなんて本当に久々だ。あ、ちなみにこの鼻とか羽は作り物じゃないよ!触ってみる!?」
「「触ってみるー!?」」
三人とも妙に手慣れた感じで、何かテンション高い。
これは一体どういうことかと考えてると、セガラという男は先程の優しい声で続ける。
「君の察しの通り、ここはどうやら君の居た世界とは少し別の世界、異世界と言うやつらしいね。
僕はそっちに行ったこと無いからあんまりよくわからないけど!
今昼前だから、もう少ししたら昼飯を持ってくるよ、詳しい話はその時までお預けだ。
それまでは悪いがもう少し安静にしていてくれるかい?
それを食べて平気そうならこの教会の外を案内してあげよう!!
動植物なんか見たらきっと驚くよー!ねーーーー!?!?」
そう言って三人はウシシと顔を見合わせる、仲良ぇな、おい。
「もしかして俺以外にも他に誰か転移者とか居るんですか?そもそも俺どうやってここに、、、」
なんとなく慣れた応答に、せっかくならと感じた疑問を口にするが、俺がその疑問のアレコレを言い終わる前にまるでそれはこれから起こること、説明することがこれまでの概念を度外視した深刻なことのようにセガラは遮って答えた。
「僕らは今から大体二年ほど前に君みたいな転移者に一回あったことがあるよ。
君と同じように、日本という島国からやってきた一人の男に出会ったんだ。
僕たちは彼と一年ほど一緒に生活を共にしたから、君達の国の事はなんとなく知っている、日本語も彼に習ったんだ。
そして、君がどうやって現れたか、だけど、まぁそれはそれは神々しく現れたよー。
その男と同じようにね!
ねー?」
「そう!凄かった!いきなり光がぎゅーーーって、なって
で、バァン!!!!ぱーーーーー!!みたいな!!!!」
関西人かお前は。
説明雑すぎるやろ、今どき俺等ですらもうちょい丁寧に説明すんで?
「要約するとだね…」
うん頼むわ狼男、ちゃんとした説明頂戴
「光がぎゅーーーいーーーんってなって!!
そんでしゃぁぁぁあん!!!!!!みたいな!!!」
しばくでロリエルフ?
今大人がせっかくちゃんと説明しようとしてるんやからそこのショタエルフともども黙っといてくれるか?
「ヂェム、静かになさい!
お前達の説明は分かりづらいんだから…、これだから妖精族は、ね?」
まぁ、同意せざるをえんな
「で、どうやって君達が現れたかなんだけど、その光がギュアーーーーーーーン!!!!!
ジュイーーーーーーん!!!!!!!ってなって、でぷァァァァァァァァァァ」
ほんましばくで?
「嘘嘘、ごめんごめん。
恐らくは天界由来の光素が宇宙ワームホールを境にハムハムストリングセオリーの条件を満たしながら一点に凝縮され、言わばそこに並爻世界に置ける一種の異空間をヒトゲノムを各惑星環境下の時間軸の変遷に―」
待て待て待て、いきなし早口オタクなんなや、わからんなるやろがい
「ま、とにかく今君が寝ているあたりに君が光って浮いてたよっていう。」
今度は随分と端折るなぁ、おい
「で、まる二日起きないものだから大事を取って栄養剤をチューブから流し込んでるよ。
そこの水晶で脈拍や脳波なんかも確認してるけど、全て前に現れた男と大方同じで、正常だと思う。」
あ、それはどうもすんません、偉いおおきに。
「今は少し落ち着くといい、気、マナ、チャクラ、君はなんて呼ぶのかな?が乱れてる。不安なときは深呼吸してリラックスが一番だ。
そうだハーブティーでも飲むかい?
君達の元いた世界とは少し味が違うはずだよ!」
「あっ、じゃあせっかくなんで」
セガラ、もとい白衣の狼男はロリエルフにお茶を淹れるように指示する。
ロリエルフの淹れたお茶か…、現実だといくらなるんやろ…、怖っ!!
ロリエルフは「わかった!」と返事をすると、俺の方に向き直る。
「自己紹介遅れました、私はヂェムです。ジェムじゃないです、ヂェムです。
だから割らないでね。八歳くらいです!夜露死苦お願いしますっ!!!!」
コイツラに日本語教えた前の転移者の性格が伺える。
「よ、ヨロシク」
とぎこちない挨拶を交わした後ロリエルフはまた忙しなくパタパタと階下に降りていった。
「あ、俺はね!俺はね!ヤック!!よろしくな、えーっと、しょーや!!
あー、えとなんだっけ、確か―」
無理に思い出さんでええよ、どうせ前の転移者のふざけた悪知恵やから、それ
「あっ!そうだ!
カヤックー!!ヤンクックーー!!ヤックっくーん!!!!!」
前の転移者のギャグセン壊滅的やん
「あれー、おかしいなー、日本人には大ウケのギャグのはずなんだけど…」
そのクソギャグを教えた転移者を今すぐ連れてきなさい、俺がしばいたる。
「面白い、面白いで!ただ、ほら!なんかさっきから笑ったりすると体の筋肉が痛なんねん!」
「な、なーんだ、それならよかったー!!」
ショタエルフを泣かせるなんてことがあれば現世に帰った時に全国のショタコンのお姉さんに何言われるかわかったもんじゃないからな…
てかなんにしても耳が、、、いや耳が、、、、、、ふわっふわに尖ってますやん!!!!!!!
先程は混乱して注視できなかったもうエルフそのものの顔立ち!!
から飛び出てるあのエルフ耳!!
を包む金の産毛!!
なにこれ、さっき触っていいって言ってたやんな?言ってたやんな?
後でこの筋肉痛みたいなんなくなったら狼男も含めて絶対モフりまくろ。
ショタエルフをなだめ、生温かい目で彼をみてる俺の顔はさぞきしょかったろう。
ヤックくーんが最後ちょっとビクついて怯えた目をしとった。