第十八話 【魔人パクリカ・レプリカ】
第十八話 【魔人パクリカ・レプリカ】
「Love Me more.” The rank F*** Asian....and dwell to end well than just enduring ...」
(砂の彼の精子の残り滓か…、まぁ、せいぜい楽しませてくれ♤)
エイダムが山の五合目に着いた頃、ケント達の放った一撃は山の頂上までレクソンの心臓を貫き届いていた。しかしそれを羽虫のごとく吹き飛ばした【魔人パクリカ・レプリカ】は山に封印された古代魔導兵器を丁度発掘し終え、それを掌の上で眺めているところだった。
その古代魔導兵器が作動する様子はない…
魔力を流し込んでみても、魔法陣で解析してみても何が何やらさっぱり…
「魔剣プログラム…、自らが使い手を選ぶというわけか…♤」
さっきまで【魔人パクリカ・レプリカ】の手のひらの上で浮いていたアダマンタイト鉱石の煉瓦はその手より五合目に居たエイダムの下へ隕石の如く飛来する。
「こ、これは!?」
大剣の形になり、身体の一部を鎧のように覆う、古代魔導兵器魔剣プログラム。
「エイダム!?なりません!それはっ!!」
やはり余裕の一切無い様子で天にあった声がエイダムを止めようとする。
しかしエイダムもまたこれが自分の村を救う唯一の手立てであることを本能で理解していた。
眼に映る魔力の流れ、消防魔導隊の懸命の消火活動にも関わらず村を襲う火が消えないのも、防人隊達がどれだけ倒してもゴブリン達が消えないのも、村人を襲って同じ魔物に変え数を増やさしているのも、全ては山の頂より広がる禍々しい血の赤と鬱血した紫色の魔力のせい…
(アイツだ…)
エイダムは山頂で自分を見下ろす【魔人パクリカ・レプリカ】を睨みつける。
チープな赤いタイツに全身を包み、同じ色の髪をポマードで睨めつけ、白く塗りたくった青髭が汚くはみ出た顔に、やはり同じ赤色の笑みが歪んで浮かんでいる。
「いなーいいなーい…」
【闇の手品:子供騙し】「ばぁ♤」という言葉とともに魔人は少年エイダムの真後ろに一瞬の間に移動する。僅かな咫尺に続けざまの魔人の攻撃が隙間なく入り込んでいく。
「エイダム!!逃げるのです!!」
先程よりもさらに逼迫した声が天よりエイダムに降る。
魔人の動きに反応できなかったエイダムの代わりにその声は【防御魔法:魔法聖壁】を二者の間に張り巡らせるが、やはりそれは空き巣が家の窓を割るように躊躇いもなく砕かれた。
「この声は忘却の女神…、韜晦の遁辞は終わったか?♧」
【闇の手品:五指の・月蝕指】先程まで晴れていた空が急に暗く成る程、増殖した大きな魔人の手が辺りを包み込む。エイダムに再び逃げるよう天から降った声がプツリと消えた。
『system activated-(システム起動)』
再びその食指にエイダムを絡め取ろうとする魔人。それを跳ね除けるかのように少年の体を包んでいた古代魔導兵器が作動し、女神によく似た声でエイダムに語りかける。
『file downloding....71%』
「これは…?」
【光属性魔法:program:〈femto == phantom〉】魔人の食指をすり抜け塵に変えていく謎の幻影達が大剣より浮き出る。
きっと何かを考えている暇はない、とにかくこいつを倒す!
「wow, impressive ...(へぇ…、もっと速くしてみるかい?♧)」
【闇の手品:五指の・弾指】魔人の白いドーランの付いた毛むくじゃらの指が石灰の魔細胞と増殖しエイダムを襲う。増殖した魔細胞は弾丸の如く、弾けるポップコーンの如く辺りに飛び散り、再び付着先の生物を飲み込もうと増殖を始めだしている。
(あれに触れたら魔力を吸い取られて終わり…、でも攻撃が早すぎて殆ど目で追えない…どうすれば…)
エイダムの刹那の逡巡よりも魔細胞は速く増殖し、辺りの有機物無機物を見境なく栄養源に変えている。
『down loading New files......新しいファイルをダウンロードしますか?』
「yeah...」(頼む。)
【光属性魔法:program:〈femto == phantom〉
if (repelled or incompatible)
then[< attom-b>]
古代魔導兵器の影響か、先程まで子供だったエイダムは少し背が伸び中学生位にも見える。
大剣より放たれた光が天を覆う魔人の大きな手を灼き焦がす!
低く構えた大剣に光が回線の様に伸びて集まっていく。青白く輝き出す魔剣プログラム、両手に思い切り力を籠めてエイダムは大剣を振るった。周りの時空がその速さと質量に歪みんでいく。その頭の右側片方にだけ、羊の角がとぐろを巻いて天使の輪っかのように黄金に輝いている。
「阿羅摩…、阿頼耶堕…♡」
【闇の手品:五指の・幸運指】因果律を操作してエイダムの数多の光の剣閃を躱していく魔人、追撃の手を緩めないエイダム。
両者の攻防が流れぬ時の中に静かに消え、埋もれていく。
「!?」
先に優勢に翳りが見え始めたのはエイダムの方だった。古代魔導兵器によって身体は適齢に成長し、魔力も飛躍的に上昇していたが、それ故に負担、反副作用も大きい。見ると魔剣プログラムには『バッテリー不足』の赤文字が表示されている…
「mhhhhhahahahahah, well, that was fun. but unfortunately, we don't have much time left..ma boy...」
(ふむ、どうやらお楽しみはお預けのようだ少年…)
魔人は天を見上げた。
辿り着くことのなかった高みを憎々しげに、脂肉に埋もれてしまった澄んだ眼で睨みつける。
先程までエイダムの一撃で晴れ上がった空と、虹の日輪に照らされていた曇天は、しかし再び辺りを真闇にする程の雷雲に包まれだし、辺りに法螺貝、教会の鐘の音、ラッパの凱旋曲が鳴り、天地籟々《てんちらいらい》の驚響めきが空を叩く。
「お迎えにあがりましたよ、魔人王様。」
天より羽根の舞い散ると共に、コネストーガの幌馬車が如く霊柩をペガサス七馬に引かせて降り立つは【奴隷商】、
電信柱が如き痩身、碍子の高さより岸壁真後ろに突き立つ黒髪、雪雲の蕭蕭に頂を揺らし干乾びたパサパサ、
黒闇暗の羽根が参差と立ち並ぶコート、モノクル、鷲鼻、【奴隷商】はポケットよりふわりと懐中時計を持ち上げ、その垂れた金鏈子より怪しげな光を放ちて、時の塑性を掌に翫ぶが如くニヤリと笑みを湛える。
「long time no see...... , you ready?」
(久闊の積もる話はまた後だ【奴隷商】、今は時間が無い♢)
「はいはい、さっさと乗ってくださいよもう。」
「oh...(SIgh)♡ before... I put my step on this eloquent carriage... I gotta make sure you are on the same bloody page right?」
(おっと、忘れるところだった。ヨワネの不協和音書の在処は割れたんだね?♡)
馬車の扉に足を掛けなから振り返りざま魔人は尋ねた。
「その話について中であの方がお待ちですよ。」
「待て!!!」
エイダムはすっかり充電していた魔力の切れている魔剣プログラムを構え【奴隷商】共々【魔人パクリカ・レプリカ】に斬りかかる。
しかし彼がその十数メートルの距離を縮めきる前に彼等は、雲海に浮かぶこの村よりさらに上へと馬車で登っていった。