第十四話 検校と剣客
反抗期の少年
man counts and sign the number
好事家、好色家、
賢い生物の日記の意味を知るまでは彼の賢さに比例する
Cuz only in the future, the diary would be read
未来でしか賢い生物の日記は読まれないからだろうな
市石田新検校と覚ノナキ
ケント達が白鳩スーツの若頭と戦闘を始めた頃、
それより少し離れた所で、
火の赤々と燃え上がる村の中、
二人の男女が互いを睨み合っていた―
「幸福…」
村の民家の中を理由もなく彷徨い歩く人斬り。
家の壁や棚の上に置かれた家族写真を眺めるその目は切なげに、嫉妬、憧憬に焦がれている様にも見える。
人斬りは棚の上にある写真立てを持ち上げて、そして腕の力が抜けたのか、或いは興味を無くしたのか、写真立ては床に小気味よい嘖嘖とした音を立てて割れた。
「人間は皆一人ひとり特別で、替えが聞かない狂戦士バーサーカーズなの、だから私は君を食べるの」
「諸行無常、この世に不変なるものなし!昨日手足を引っこ抜いてぶち殺しかけた敵が今日のオトモモチ、明日の流れ星だゾ★キラーン」
ノナキの考えごちた脳みその空白に突如として二人の禿の声が入り込む。
人斬りが振り返ると、そこには桃に枇杷の着物を着た二人のおかっぱが立っていた。
「やっぱり殺してんじゃん!!!」
「あはは、バレたか☆」
人斬りの逡巡も束の間、二人の禿は互いの着物の帯に差した扇子に手を添えとてつもない妖力を放ちだす。
まるで地獄の牛頭馬頭大魔王が業腹に癇癪でも起こして、三千世界を煮沸させるかの様に地面から妖気がシューシューと漏れ…
首を狙っ!?
( …斬られ、いつの間に!?)
「あれ、達磨さんが転んだ。」
「目釘もまだ入れてないのに…」
禿二人に警戒を怠った人斬り、一瞬の隙を突かれ、その首が床にゴロゴロと転がる。
二人の禿が途端に年相応の笑い声をケタケタとあげ、それが逆にその空間の不気味さを際立てていた。
(ぬかったか…、だがお前の対策はしてある。お前の千手先詠みはこの戦闘中一度きりだ!!盲目ァ!!!)
【溶暗、溶明、命の灯し、火の用心…、棒に振るは香一炷まで】
しかし、流石は人斬りの異名を持つ男。これを妖術にて返す。手首に包帯の様に貼った呪符がはらりと舞い落ちながらジジッと燃え、暗い寒々とした屋内に灯された燭台の狐火が嗤う。
堕ちた首はまさに達磨のごとく、再び起き上がり、その下から人斬りが黄泉よりその頭を首に乗せ這い上がってくる。
「世は気まぐれ、弱気、まぐれを期待して渡る世は鬼ばかり…」
懐より一匙の薬嚢を取り出し、先の呪符の狐火にくべ燃やすと、立ち昇る白い煙をすぅと息と吸いて、人斬りは懽を隠せず、口を歪め笑いながら刀を抜く。刀身が赫緋と熔岩を灯し溶け出せば足元に溜まり広がりて…
「畜生の魔よ、何をそう吠える?」
憐憫の情を多分に含ませた声音を、しかし目の前の獣に冷たく、投げ掛ける女。しかしこの一言に人斬りの尊厳は酷く傷ついたと見えて驀直に胸中の驚音を稲妻のごとくに吐きだせり。曰く、
「ふざけるなよ!!!!!お前らはいつもそうだ…、俺たちを見下し…、
蓮大にしたってそうだ!
社会がアイツの夢さえ潰した時に俺は誓ったよ!所詮世の中食うか食われるかだと!
なら俺は力を求める!
この魔法治国家をぶっ壊し、誰にも邪魔されない最強の力をなァ嗚呼!!!!!!!」
【鬼火:澆薄の社会に人を焼き払え!!我が革命と星火燎原!!】
叶うはずのない未来を愛ある罰だと呼んだ
嵐に種を蒔き、今尚刀を拾い上げる母達の手がひび割れていくのをそれでも美しいと
おしゃぶりにくわえた指でタバコに火をつけ
今血で染め直そうとしている
その手は未だ保育機の中の母の胸元を掴んでいた頃と全く同じ柔らかさのままに
母達の呼ぶ声が遠くでこだましている気もする
後ろ髪がひかれる
反抗期、希死念慮の沙汰と知って尚、俺はそのライターの火の外縁、瞋恚の反乱因子の曳きを以ってお前を斬―
「戯言はもう結構。」
【去ぬ凍え、敲氷求火の薄氷踏むにつれ、響の落としたる不用心】
人斬りの足元より這い出た狼の如くに変容したる熔岩はしかし、女の周りの凍霞なる鬼迫に気圧され、みるみるうちに土瀝青の如く大口を開けたまま固まった。
「しゃらくせえ!!!!!!!」
アスファルトみたいに固まったマグマの狼は今度は闇の炎に包まれて、毛皮に舞う霜をたちまちのうちに蒸気に変えてみせた。
再び沸々と溶け始めた慚愧の念により凶暴性を増しながら女、禿二人に牙を剥く!
「お前達、しばし下がっていろ。」
二人の禿を後ろに、女は刀を抜きつつ、もうもうと立ち込める蒸気より姿を現す。
長き黒髪は懈げに降り、長刀の白刃の綺羅と光が金剛石の輝きと眩い。
辺りの温度はさらに急激に落ち込み、マグマの狼はついに黒煙を一穂残して消えた。
「こんな狭いところで…」
人斬り、女の九尺もある長刀を見て地の利を得たと途端に斬りかかる。家の中、早々に刀は振り下ろせまいと。突きであらばその範囲の自ずと知れ、如何にかと。
「そんな大きな刀振り回しちゃな…か」
しかし女の方もまた飛び掛かって来る人斬りに一陣の動揺も見せず、刃を上弦になぞらえて地平の線よりユラリと構える。
刹那、家は賽子の如くに切り分けられ、辺りに無数の旋風が飛び交う。
「!?(コイツっ!?他人の思考まで読めるのか…!?)」
夏場の野菜籠にたかるごまめの蝿よりも多い辻斬り風を躱しながら、人斬りは胸中に動揺の翳りを許した。地に低く臥し、獣の牙の様に刀を構え直す。手を緩める暇など有る筈もなく、禿二人に警戒を払いつつ、再び暁闇を見せる妖術を用いようと―
「天は常に我とともにあり、手代風情がその咫尺を望むは僣上の沙汰。」
気がつけば女、人斬りの零距離に立ちて刃を突き立てたり。
空に浮かぶ島に立ち尚、頭上に輝く天道様を指して女は微笑を携えさらなる斬撃を連ねてゆく。その神速を受けて、人斬り
「…笑止千万!!!!!!!!!!!!!! (アブねぇ…、もっかい『霜の句』が始まるかと思った…だが油断はできねぇ…)
そんなに死にたきゃ、その首たたっ斬ってやらァ!!!!(こうなりゃ俺の『連火』で…)」
【妖術:連火・冀はく三車火宅の教えをば】
「「さぁ、前に出ろ
吾が鎖を断ち切って差し上げよう
一切合切
DVクソ男、キモいストーカー
社会福祉制度の恩恵も
仲直りのできなかった家族の縁も
自由の為に纏めて吾が絶ち切って差し上げよう」」
突如、禿二人がお歌を持て囃し、誦じている。その呪詛の言霊は幽玄幽鬼に彷徨い、盲目の刀へと流れていく。
盲目、髪の四方乱次に踊れる。頼り無げに鋭利な、優しく持ちたる刀は危うげに揺らぐ。
「大慶至極、狂気千万―」
バチッ!!!!と扇子の音が鳴り止み―