第五話 「ワッキーの休日」
【側溝の斥候 ワッキー】
「あれ、ウーメル達どこ行ったの?」
今日は一週間のうち唯一授業のない日、日曜日。
王国の転生者育成プログラムは平成初期よろしく土曜日は午前中にだけ授業がある。
昨晩俺とウーメルの部屋に集まってケント、泰晴を合わせた四人でトランプで徹夜して皆寝落ちたハズなのにそのウーメルが朝起きたら男子寮にいない。
とりあえず俺と同じベッドで寝てたケントを揺するとする。
てかなんでコイツ上下逆さま…
「おい、ケント、起きろ、昼だぞー」
「ふぇ?あ、ウーメル…zzz…たいせーもう先に…zzz」
「おい起きろ起きろ、けんとくーん、俺はワッキーだぞー!!」
「連れションズと…楽しんで...z.z..行ってら―zzz」
だめだこりゃ。夕方コース確定だな。
てかなんだと。
もしかしてウーメル達、女子4男子2でお手掛け!?。
んな馬鹿な…、クソリア充かよ。
王国に転生してきてかれこれ二ヶ月が経つ。
だが、だからといって俺が他の女子達と仲良くお出かけするなんて展開は一向に現れない。
いやむしろ現れられても困るんだが、だからといって何も無いのは少し悲しい。
まぁ、所詮非リアは異世界でも非リアか…
俺は遅めの朝食(決して昼食と呼ばないのが俺のポリシーだ)を取りながら、食堂で明日の講義に使う教科書をダラダラ眺めていた。
教科書と言ってもページの中の絵は動くし、文字は浮きでる。
薄いタブレットの束といったほうが良いくらいの物なので当然読むのは楽しい。
と、本を読んでると薄ピンクのスウェット、芸術的な寝癖のカナが頭を掻きながら食堂に入ってきた。これで女か…コイツ?
「あ、ワッキーじゃん、おはよー」
声はまだ寝ぼけている。
食堂キッチンの引き渡し口からカナが持ってきた銀のトレーにはヨーグルト、コーヒー、トースト、フルーツポンチが乗っかっている。
どれもリス用の皿なんじゃねえかってくらい小さい。
コーヒー以外は。
その唯一普通サイズのコーヒーカップにミルクと砂糖をマシマシで入れてかき混ぜるカナに俺はさりげなく連れションズ、もとい女子四人組が朝出かけてったかを聞いてみる。
「なぁ、連れションズって泰晴とウーメルとかと今日朝からどっか出かけてるって本当?」
乗り出した身体にボロい木製の椅子と机がミシッという。
「「へっ?」」
カナの間抜けな返事に合わせて返事をした人物がもう一人。
受け取り口の方、ガシャン!!と持ってたトレーを落としたのは天王寺とかいうガリ勉女。
こいつはもうすでに昼飯何だろうけど、色の渋い小鉢が乗ったトレーをほっぽりだしてなんかこっちに詰め寄ってくる。
「なに!?今の話ほんと!?」
「えっ、あぁ、多分…?俺も寝ぼけてるケントから聞いただけだから、それでカナに聞いたんだけど…」
「そういえば…シーナ達なんか朝から化粧してたわ…」となにやらブツブツ言いながら天王寺が考えごちる。
そこから「いやでもなー…うーん…いやでもやっぱり…」と額に人差し指を当てて悩んでそれからメガネをくいっとやってこっちを見て叫んだ。
「カナ!!ワッキー!!支度してきて!!!あとワッキーはケントも連れてきて!!」
「「はっ!?」」
―天王寺に急かされ慌てて男子寮に戻り支度をするワッキー
男子寮の自室に戻り、手早く身支度を済ませる。
血相を変えて頼まれてつい乗っちゃったけど、え、なに天王寺もしかしてこれからストーキン…ごほんっ!
もとい、泰晴達に合流しようとしてる?
ま、なんでも良いか
せっかくだし帰りに本屋でも寄って帰ろう。
っと、危ね危ね、ケントも呼んでこいって言われてたな。
「おい、ケント!起きろ!天王寺さんから指名だぞ」
「zzz…ムニャ…、へ?」
「なんかしらんけど天王寺さんがこれから商業地区の露店街に行くからお前も来いってさ、ほら起きろ起きろ、どのみちもう昼だぞ」
「…へ?なんの事?」
「俺も知らんわ!とにかく早く支度しろ、天王寺さんが怒るだろうがっ!」
「いや、支度しろとか言われても俺まだ何も食ってな…」
「って言うと思ってほら」
俺はさっき食堂でジェムビーンズカップケーキをケントに放り投げた。
「それ食ったら行くぞ!」
ワックスを整えながら携帯魔導水晶の充電を確かめ集合場所の寮の入り口にケントを引き連れ向かう。
コの字に建築された寮、向い合せの男女寮のそれぞれと、その中間にあるミーティングルームやら食堂やらはそれを囲むようにぐるりと柵が設けられている。
柵には魔法の彫刻が施されていて、乗り越えると教官室に連絡が行く。
俺とケント、泰晴の三人で一度寮を抜け出そうとして大目玉を食らったのは今となっては良い思い出だ。
2週間前の話だけど。
その柵の入口にはすでに天王寺とカナが支度を済ませて待っていた。
「二人共おっそーい!!日が暮れるでしょうが!!」
「へいへい、すんませんすんません」
「俺いきなり叩き起こされて何が何やらさっぱりなんですけど…」
「うっさい、早く行くわよ!」
憐れ、状況把握能力0のケント…
女子二人はほんの少し、いやかなり気合入っておしゃれしているようにも見える。
尾千羽カナ:白の刺繍の入ったワンピース。桜色のポーチに、足首まである黒のレザーが可愛いサンダル
天王寺由貴:白の襟付きシャツを黒のリボンとチョーカーでとめ、黒のパンツ、バンズっぽい人工皮革のレザーシューズ
ちなみに二人共普段はメガネを掛けてることが殆どだが、天王寺は今日はコンタクトらしい。
寮棟から5分程歩くと王城の城壁門、ここからさらに歩いて十分の位置には馬車の停留所がある。
そういえば地理をまだ詳しく説明してなかった…。
フライドチキン共和王国はまず王城があって、その周りに円形の城門。
さらにそこから一等区(貴族、上流階級が住む場所)
二等区(中流階級が住む場所)
三等区(一般の人々が生活するところ)
があって、さらにそこをぐるりと高さ10メートル無いくらいの門が囲み、その先はスラム街。
スラム街の先にはさらに草原、荒野、未攻略迷宮、大森林なんかがある。
フライドチキン共和王国そのものは骨付き肉の形をしてて、今説明したのは骨付き肉の肉の部分に当たる。
持ち手の部分にはもう一つ第2都市があって、そこはコールスロー精霊指定都市と呼ばれている。
ここは近くに超巨大森林があって、そこに住む精霊達が管理してるとこの前授業で習った。
ちなみに俺等はまだダンジョンはいったことないけど、確か再来月くらいに皆で授業で行くらしい。
さて、そんな地理の説明はさておき「スロブ・リザード」と呼ばれる若葉色のコモドドラゴンが引く馬車に乗って俺達は三等区の端にある商業地区、露店街を目指す。
地形の都合上ここには新鮮なアイテムが多く売られている。し、安い。
絵が動く魔導書もここで手に入る。
俺達は隔週お給金という形でいくらかのお金を貰ってるので、俺とケントは大概この本に全額突っ込むことが多い。
ガタガタガタ、とろとろトロ…
平和なフライドチキン共和王国を自転車のゆっくり運転ぐらいの速度で走り抜けていく。
春も終盤の凱風が髪をなびかせて
ヨーロッパの町並み、瓶詰めのスライムが売られている…
しまった、目があっ…
悲しそうにこちらを見つめている…
いや、仲間にはしてあげたいけどっ…!!
でもちょっと割が合わな…、あれなんで馬車止まっ…
チャリーン
俺よりも先にケントがスライムの瓶ジュースを買った。
−一行は街へ到着
「さっ、ケント、ちゃっちゃとスキル使ってウーメル達見つけ出して!」
天王寺さんはお出かけ奉行かもしれないな、ケントがあたふたしている。
天王寺が今言ったスキルというのは王国が俺達を召喚した時に勝手に付いてくるもんらしい、職業適性に強く結びついているものが多い。
ケントの場合は職業適性が狙撃手、スキルは【鳥の眼】、第三視点が手に入る。
Levelは最大5までなので、レベル1のケントくんでは周囲数十メートルを上空から見通すのが限界だ。
ちなみに俺は【潜伏】で気配を消す事ができる。
決して普段からケントのように影が薄いわけではない。
スキルによるものだ。
「えー…っと、あー、居ない、この辺りには多分…、あー、待って、いや居ない。建物内とか入ってたら微妙…」
なんでもレベル1は使い物にならない。
ちなみにケントはこの前教官にこのスキルを使いながら戦闘に集中できるようにしろと怒られていた。ザマァ
片目で使いこなせと言われていたが、いくら職業が狙撃手とはいえ、それはスポーツの試合を片目でやるようなもんだろう、無理が過ぎる。
「しょーがない、しらみつぶし行くか。皆もウーメル達見つけたらワタシに連絡してっ!!迷子になんなよ!よし、いこっ、カナ!」
身長差も相まって姉妹のように先を歩き始めた天王寺とカナ。
続く俺とケント。
てかこの人混みの中見つけられんのか…?
街に立ち並ぶ露天商が元気に声を上げ接客してる…、そこを歩く人達もまた賑やかさの一部となって
「日焼け止めスライムイチキュッパは安すぎ、買い溜め一択っしょ!」
「こちら、はぐれヘヴィメタルの鋳型流し込みの実演中でーす!!」
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「えーっ!!スライムの頭皮マッサージ専用ジェルなんてあるんですかー!?」
「コイツ、安くておすすめですよ。」
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さっきからスライムの汎用性の高さ!