第四話 【砂の勇者 砂崎泰誠】
事故死、転生、王国から勇者としての魔王討伐を言い渡された。
そんななんとも異世界モノのテンプレパターンを見事に看破したのが俺、砂崎泰晴。
趣味はサッカーと博多が生んだアイドル、削節カンナの推し活だ。
そしてここ、アシレマ大陸中東部に位置するフライドチキン共和王国の【異世界勇者召喚計画】とかいう大層な名前のついた計画の第103号だとさ。
どうも先輩が百人以上も居るらしい。
俺だけ異世界、かつ俺だけTUEEEEを国王との面会前に期待していたから正直残念に思ったけど、まぁ王国も魔王討伐しなきゃ国民に死人なりが出て国の運営が大変になんだから数呼べるなら呼ぶよな、仕方ない。
職種はさっきも言った勇者。
何だそれは?って?
まぁ戦士みたいなもんじゃね?
剣と盾でオールマイティに前中後衛をやりつつ、パーティー全体の指揮をやらなきゃならないらしい。
王国騎士団の訓練を一ヶ月受けると実地訓練と言って今度は城近辺のクソ広い草原や洞窟やらの雑魚モンスターを討伐に行くことになる。
もちろん騎士団の強ぇ人の同行付だけどさ。
ちなみに今その真っ最中。
もう小一時間ほどスライム系の雑魚モンスターをサクサク斬っている。
その俺の前方で見習い白魔導士のカナ、こいつが本番にめっちゃ弱いタイプでスライム相手にめちゃめちゃ苦戦してる。
お気づきの方も多いだろうけど魔導士のくせになんで勇者より前にでてんだよっていう。
「おいカナ!大丈夫なのカナー?」
彼女のフルネームは尾千羽カナで、この語尾の「カナー」を付けて言うのは俺たち12人の同期の間でのいわゆる身内ギャグの一つ。どうでもいいか。
「ちょ!あ、あ、ああ、アタリメですよ!!おつまみにしてや…ってひぃぃぃぃ!!!ゴブリンっ!!!!」
こいつは学科は悪くないのになー…
えっ?俺はどうなのかって?
もちろん俺は皆の期待通り、基本攻撃力は戦士並、魔力は赤魔術士並、防御力はゴーレム並にも匹敵と、王国始まって以来二人目の有望株として非常に期待されてる。学科についてはこの異世界に来てからは珍しく頑張ってる。
またいつものチート勇者かよーって?
まぁそう言うなよ、出来る奴はいるもんじゃん!
別にコンビニで立ち読みしてた時に突っ込んできたトラックにぶつかって死ぬ前も割と陽キャのサッカー部エースでチートだったし、おれ。なんて。
あ、ヤべ、読者の反感買いすぎた。
よし、ちょっと好感度上げんのにこれからカナのサポートにさくっと入りながらイケメンポーズを決めるか!
「必殺!五割五分輪斬り!!」
シュバッ!!
5匹のゴブリンを斬り伏せ、ゴールドがチャリーン!
いくらになったかは皆の予想通り。
「おい、大丈夫かよ?演習で習ったろ、移動中に魔力を溜めて隙見せんなって…」
「う、うん、ごめん…」
「ごめんじゃなくてこういうときゃありがと、だろ?((-д☆)キラーン)」
「そ、そうだよね…!!ありがと!!」
決まった…!!
まぁこの物静かなドジっ娘に俺のみならず他の一緒に訓練を受けてる男子なんかは軒並み恋の魔法をかけられてるんだけど…、っとあぶねぇ、教官が草原の端のほうでしっかり見張ってら。
「全員、8時の方角から別のゴブリンの群れが接近している、油断せず迎撃せよ!!」
教官様は相変わらず檄でも飛ばしてるつもりなのかね…
そんな大声で言われなくても気づいてるっての。
「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」
俺含めた全員の声があたりに響く。
そうして総勢12名の王国に召喚された王国騎士団見習い扱いの俺達は無事実地訓練を終え、皆で共同生活してる王城敷地内の端のほーにあるプレハブ小屋よりはいくらかマシな木造簡易住居に帰って夕飯を頂く。
今日の料理当番誰だっけ?
「おーい、今日の夕飯はなんぞや?」
と厨を覗くと中には二人、天王寺とウーメルが恐らくは鍋うどんみたいなもんを作ってる。
コンソメの匂いが香ばしい。
「今日はムキムキ剥き栗とカチゲーチゲの煮込み鍋うどんだよ、デザートはツヤツヤ八つ橋ね!」
そう言ったのは天王寺。
天王寺は学級委員とか風紀委員やってそうなザ優等生のおさげの眼鏡っ娘。
「なんだよタイセイ、つまみ食いはなしだぜ?」
ウーメルは赤茶の髪の背が高いガタイの良い奴。
元は東ヨーロッパ出身らしい。
そう、俺達は国籍人種ばらばらで集められている。
当たり前っちゃあ当たり前か。
なんで俺異世界人は日本人だけだと思い込んでたんだろ
もちろん最初はちょっと戸惑ったけれど、同じ人間とこうして交流できるのは大学で国際コミュ専攻の予定だった俺にはすげぇ楽しい。
「腹減ってんだよー、なんか手伝うことない?味見役とかさ。」
「もう少し待って、もうできるから。」
「じゃあフォークとか出しといてくれよ、俺の分の箸もな」
ウーメルは日本オタクらしく、この世界に来てからというもの俺や天王寺、カナに日本の文化の事をやたら聞いてくる(主にアニメ、それもFateと物語という典型だ)。
食事も箸を練習して使うが上手に使えてるとこは見たことがない。
「あいよー。」
そうして皆で食卓を囲む。
食事を終え自室に戻ってベッドでダラダラしているとウーメルが部屋の扉をノックした。
「入っていいかー?」
「おう。」ユーメルが俺の座る二段ベッドの前の椅子に座る。
「夕飯の鍋うどんめっちゃ美味かったよ。」
「そりゃどうも。けど下ごしらえとか指示出してくれたの全部天王寺なんだ。あいつすげぇよな、異世界の食材の調理方法なんて、元いた世界に比べりゃデタラメもいいとこなのに、図書室とか王室の給仕に聞きに行ったりして調べたりさ」
「まぁ、真面目だからなあいつ。治癒魔法士はパーティの食事や衛生面にも気を使うべきじゃないんでしょうかって講義中に上官に言ってのけたときは正直うわ、出たって思ったよ。」
「あぁ、ありゃ確かに肝を冷やしたな。なんせあの上官なんかあったらすぐ「連帯責任っ!!」、で、俺等は外周に反省文だし。ま、結果的に上官も納得した様子で褒めてたけどさ。」
「お陰で俺等の次の代からは調理科目も必修だとよ。めんどくせ」
「あれタイセイ、お前料理嫌いなの?」
「俺は食う専門。ウーメルは前から料理してたのか?」
「あぁ、一人暮らしだったからな。つってもジャガイモとソーセージの焼き方さえ知ってりゃビール飲むには困んねぇんだけどよ。」
「さすが。」俺はそこで眺めてただけの本を閉じた。
「共同生活もあっという間に2ヶ月だな…」ウーメルは伸びをしながら背筋をポキポキ鳴らす。
「まだ2ヶ月か…。せっかく異世界に来てんのに半年間は門限9時とかさ、マジナイ。訓練期間終わって外出たら絶対暴れてやる…!」
「お前らしいな、怖くはないのかよ?」ウーメルが少し真剣な表情をする。
「怖いって魔物とか?今まで遭遇したのは比較的雑魚ばっかだったからな…」
「いや、それもあるけどさ、死ぬ事…、とか。」
少し会話が足を止めた。
ウーメルの質問の意図が痛いほどよくわかる。
この世界で勇者として呼ばれてもう一度、死は身近なものであると気付かされた。
それは先に王国に召喚された先輩方が既に何人か亡くなっていること、
モンスターと対峙する時、奴等は自分達を殺す気で襲いかかってきていること、
そういうのが死の輪郭を少しずつ、まるで綺麗に塗り絵をするときのように自分の頭の中心に向かってやってくる。
生物が自分を殺す気で襲ってくるのを目の当たりにした時は正直怖かった。
なんか、蜂とかが飛んでくるのの何倍もヤバい感じに似てる。
なによりこの異世界では死んだら教会で目覚めて「おぉ、勇者よ、死んでしまうとは情けない。」なんて神父か牧師に言われてやり直すシステムがないのもその要因の一つかもしれない。
「いや、別に…。」
そう呟いた。
本音かどうかは自分でもわからなかった。
また会話が二の足を踏む。
「そっか…、俺はさ前世で結構不運な死に方してさ、こうやって生まれ変われたからにはなるべく楽しく長生きしたいんだ。この異世界もザMMORPGって感じで、ゲーオタの俺としては天国みたいな所もあるしさ。」
「そうだなー、初めて剣とか握ったときとかは俺もちょっと興奮した」
「ヤバい性癖のやつじゃんそれ!笑」
「うるせぇよ笑そういうことじゃねぇ!」
俺達は二人共暗然としたそれまでの空気感を無かったことにするかのよう、努めて声の調子を明るくする。
そこをいつもいい歳して廊下を走り回ってる馬鹿二人コンビが「ふざっけんな!私のデザートのアイス返せ!!」「追いついてみろデーブ!」とバタバタさせていった。
「あいつらはいつもアレだな…。」
「それがジェシーとワッキーの良いところじゃんか」
俺は同意しかねる。
「なぁ、俺等もちょっと散歩しないか?」と二人が走ってった方を気にしながらウーメルはそういった。
「あれを散歩と呼ぶのか…?」
消灯まではまだ時間もあった。
寝る前に気乗りしない本を読むくらいしか予定がなかった俺はウーメルと二人連れ立ってまだ少し冷える春寒の夜の中を蹌踉と歩く。
月が高い。
しばらく歩いてると寄宿舎の中庭の外れで女子四人がくっちゃべっていた。
この四人はいつもグループを形成してるいわゆる連れションズの四人で、仲は悪くないけれど、特段良くもない四人だ。
女子ってなんであんなに一緒にトイレ行きたがるんだろうな。
ウーメルはそんなことお構い無しに連れションズに話しかける。
「何話してるんだー?」
「あっ、ウーメルじゃん!!なんか来月の自由時間四人でどこ行こうかって話してたんだよねー」
この女の子はラジュ・サファイア。
どっかとどっかのハーフできれいめな感じの女の子。フィリピンだったっけ?
以前ガネリオが「港区女子筆頭候補だな。」って言ってたけど。
モデル志望で確か芸能事務所とかにも入ってた…はず
ヤベ、忘れた。
「ウーメル達も一緒行くー?」
このラジュ・サファイアとセットで覚えなくてはならないのがこいつ、シーナ・サファイア。
姉妹揃って美形で似てる。ただラジュは170ある俺より背が高いが、シーナは小さい。
「まつ毛とか眉毛とかちょーかわいいよね!!憧れるわーウチ」とは典型的な日本人顔のカナの談だ。
大体この二人がいつも授業と授業の合間にネイルとかの話してて、異世界で髪を染めるのとネイルをするのに割と本気でリサーチしてた猛者。
その本気のリサーチも相まってかマヘナという脱色剤を発見。
現在二人は思い思いの髪色を手に入れる為染料の開発に着手しているらしい。
更に言うとこのネイルも馬鹿には出来ない。
この付け爪のネイルに使われているのはあろう事か魔法石だからだ。
つまりアイテム品として属性付与、状態異常無効化、各ステータス上昇などの効果がつくってこと。
こんな発想のなかった王国の授業を受け持ってくれている女性の教官たちは今やこの二人のカリスマ性にやられてファンみたくなっちゃってる人もいる。
以前カナがどういうネイルが可愛いかというラジュの講義を熱心に拝聴していた。
「どしようかな、どーする泰晴?」
いや、俺に聞かれても…
「もうある程度行くところ決まってたりすんの?」
俺はこの連れションズ四人の中で比較的大人しめで話がしやすいミオナ・サラ・オジマンにさりげなく小声で尋ねた。
せっかくの休日、荷物持ちは嫌だ。
「あっ、えっとね商業地区の大通りにある露天商見て回るっていってたよ。安い魔宝石が無いか掘り出し物探そーって。」
成る程。
まぁ、あの辺には色々お店があって俺もナイフとかいつかじっくり見て回りたかったから出かけるのは悪くない案かも。
こっちに来てすぐに必要な生活必需品を買うのに教官と街へ出かけた際には時間がなくて見れなかったからな。
打算的に考え込んでいるとミオナがこっちをじっと覗き込むように見てくる。
ミオナは目が大きくていつも潤んでいるので見つめられるとなんだか気恥ずかしい。
「なに?」と、照れ隠しの反動で少しぶっきらぼうな返しをしてしまった。
彼女は「ううん、別に。」とまた物静かなオーラを纏ってウーメル達の会話の方に戻った。
彼女は先のラジュとシーナの脱色剤の実験者第一号となった為現在髪が明るい茶色だ。
それが小さな耳にかかって、きれいな鼻筋がその横を通っている。
それ程に彼女は小顔だ。
そして彼女が言う『魔宝石』。
この世界には『魔法石』と『魔宝石』というアイテムがあるらしく、後者は前者と値段が十倍くらい違ったりする。
当然見た目の美しさだけじゃなく効果が違うというのが主な理由。
あとちなみに、自由時間とは門限9時のクソお堅い王国様が月イチで俺等に設けてくれている1日外泊許可制度のこと。
そしてなんか知らない間に今週末6人で出かけることが決まってた。
後にした宿舎の真ん中にデカデカと植えられた大きな桜が少し散っていた。
ツヤツヤ八つ橋:コラーゲンたっぷりのライムスライム亜種であるライチスライムを材料に作られる。コラーゲンたっぷりで食べた後はお肌ツヤツヤに!!
ムキムキ剥き栗:秋に身をつけ、春前に殻を中の身がぱっくりシックスに割る栗。高タンパク低脂質のこのアイテムは食べると攻撃力アップ!
カチゲーチゲ:とにかく辛い難易度設定もこれを食べた後は燃えるように攻撃力がアップしクリア!
【第八期 フライドチキン共和王国召喚勇者名簿】
【砂崎泰晴】〘砂の勇者、黒髪、短髪、浅黒肌、シーブリーズ臭い〙
【天王寺由貴】 〘堅物の白魔道士、学級委員系真面目っ子、土日は合わせて十時間予習復習〙
【ガネリオ】 〘猛進の僧侶 無口、のっぽ、眼鏡、引くほど潔癖症だがいいヤツ〙
【シーナ・サファイア】 〘連れション奇襲隊長 姉妹でネイルをし合うのが週末最後の日のお決まり〙
【ミア・オズ・オジマン】 〘連れション切り込み隊長 〙
【ウーメル】 〘真実の戦士、焦げ茶髪、兄さんキャラ、ソバカス〙
【ジェシー・ウィンストン】 〘大食い女戦士、巨体、金髪、口悪い、何にでもマヨネーズはあうと信じている〙
【ラジュ・サファイア】 〘連れション追撃隊長〙
【浜須賀 栞】 〘連れション駐屯部隊長〙
【ワッキー】 〘側溝の斥候、チビでバカ、すばしっこくバカ、メガネを頭の上に乗せ探すバカ〙
【ケント・オルカ】 〘ド陰から脱却しない狙撃手、ネクラ、イジられ要員、腕がありピンチの時に助けるがその後もう一回ピンチを呼び込むタイプ〙
【尾千羽カナ】 〘落ち葉の治癒魔術師、ドジっ子と眼鏡っ娘属性を併せ持つ汎用性の高いキャラ〙
並びは第三回学科テストの成績順