第二話 大草原のブルー
第二話 大草原のブルー
〚場所:大精霊指定都市コールスローの市外に広がる荒野〛
【陰の狙撃手 ケント・オルカ】
転送された場所から多分車だと半日位の距離を馬車を乗り継いで移動する。
御駄賃は少し貰っていたので、まぁ辿り着くぐらいは何とかなるだろう。
道中のモンスターを倒せばゴールドが落ちるかもしれないし!
「もうすぐ着くぞ、〚森の都〛だ。」
馬車を降りるとシルベスターが頭の上に遠慮なくとまりながら教えてくれた。
「来たことあるの?」
「何回かな。俺達魔鳥族の中には夏から秋にかけてお前が俺を呼び出しやがった〚暗黒街〛から〚森の都〛まで移動する者が多い。」
「へ、へぇー…(知らんかった)
てか今さらっとさっきまで居たとこ暗黒街って言った?」
「知らなかったのか?
かつては魔水弾に使われるミネラルと水銀が豊富に含まれるマシンガン湖から吹く風が強いので〚風の都〛と呼ばれる平和な街だった。」
「いやすでに不穏な感じが…」
「その資源に目をつけた【魔片王】がマフィアを引き連れやってきて犯罪率は急激に増加、
政界に手を伸ばし、自分のやりたい放題できるように独立区に制定したんだ。
それ以来あの街は〚暗黒街〛と呼ばれるようになった。」
さっさと出発して良かった…
俺多分あの街の夜道歩けん。
ビルのロビーでどうやって目標の天使を見つけようかと考えていたらシルベスターに「一人ではどうせ敵わない」からと仲間を見つけるよう言われここまできたんご。
元いた世界でだってそんなん見つけられないのに異世界でどうやって?
取り敢えず泣きついたらシルベスターの知り合いを頼ることになり、向かい始めた〚森の都〛
正式名称はフライドチキン共和王国精霊指定都市コールスロー…、前途多難。
「これが〚森の都〛かぁ…」
さすが精霊指定都市と謳うだけのことはある。
2、3キロ離れたところからでも亭々《ていてい》とそびえ立つ巨木群が見える。
きっと妖精族もいるかも知れない…
可愛くて、いたずらっぽくて…、「あら可愛い僕、ちょっとイケナイ事してかなーい?」「だ、だめですよエルフさんっ!!そんなっ!!」
なーんで展開g…
「おい、そこで休ませろ。」
「はい!すいません、直ちに!」
夢の広がる巨木群を前に、〚エルフバー〛と看板を掲げた荒野にポツンと佇むバーで一杯ご所望のシルベスター。
あれ魔鳥ってお酒飲むの?
バーの扉、西部押開式ドアを押しくぐる。
中にはカウンターで飲んでる客が一人と、テーブル席を占有している荒くれ者達。
カウボーイハットにガンベルト、
髭を伸ばし、
赤らんだ顔でこっちをニヤニヤ見ている。
「おいおい僕ぅ?
小鳥ちゃんと一曲歌いに来たのかぁ?」
「可愛い顔してんなぁ、上手にしゃぶれたらお小遣いやるぜぇ?」
ゲャッハッハッハと下卑た笑い声がバーに響く。
なんか言い返したいけど、目を合わせるのも怖いしとにかくカウンターにつく。
「ハイエルクの干し肉はあるか?
それとスピリットロータスのショット」
シルベスター全然気にする様子無し!!!!
カッコいい!!!!
「悪いが未成年お断りだ。」
…、い、一応成人はしてるんだけど…
「おいマスター、良いじゃねぇかぁ!!!
この小鳥ちゃんとガキにオレンジジューちゅでも出してやれよ?」
テーブル席に居た荒くれ者の一人がこっちに来て俺の肩に腕をがっしり回りながら言った。
息が酒臭い。
「お礼にしゃぶれよ」
荒くれ者は耳元で言った。
「て、てめぇのぶ、豚バラならなガクブル」
どどどどどあしよう!!!!!!
俺なんでそんなこと言ってんの!?!?
「おぉい、ピスコス!震えて漏らしそうになってんんじゃねぇかぁ!!!」
ゲャッハッハッハとまたテーブル席から笑い声が弾ける。
荒くれ者はそのままぐっと俺の方を掴んで力を込める。痛い。
目をギロリとひん剥いて、バーのトイレをちらりと見る。
有無を言わさずそのままそっちへ引っ張って行こうとする。え、やめ。シルベスター助け―
「おいクソ豚野郎、酒が不味くなる。とっととその包茎短小ちんぽしまって母ちゃんのケツ舐めに帰れ。」
バーカウンターの奥にいた人がよく通る声でそう言った。
その人は多分歳は還暦間近で、
日焼けした肌に、
白い長髪を、攻めた革ジャンの肩辺りに垂らして、
ワンポイントのワッペンが前に縫われた黒のカウボーイハットという出で立ちだ。
五本指全部にいかつい指輪をはめてる人間を俺は人生で初めて見た。
「おいおい言われちゃってんなピスコスぅ!!」
再びテーブル席は笑いを吐き出す。
「手前等もだよクソインポ野郎共。仲良くしこりあってクラーケンケツ穴に詰めあってろ。」
なんて罵倒のレパートリー…
「「「んだとてめぇゴルァ!!!!」」」
怒り出した荒くれ者達。
「誰だてめぇこら…しけたじじぃがやんのか?あぁ?」
俺の肩から手を離して腰に下げた銃に手をかけながら恫喝するピスコス。
「俺の名はブルー!と言えば誰か分かるな?」
怯む様子を見せずショットグラスをかっこみながら答えたおじいさん。
「誰だよ」
ピスコスのそっけない返しにおじいさんは少し傷ついたようだが、俺も同意だ。誰だよ。
「まぁ最近の若者は知らんかもな。初代騎士団団長エリックの右腕にして、【大草原のブルー】と呼ばれた男だと言えばわかるか…?」
おじいさんはふぅと息を吐いてカウンターの椅子からよろっと立ち上がると口元を拭った。
「いやだから誰だよ」
助けておいてもらってなんだが同意。
「…。俺結構有名なんだけどな…。まぁインポ野郎共には知られなくていいか。」
DJKOОと内田裕也を足して2で割ったようなそのおじさんは悲しそうな目をしている。と思う。サングラスでわからない。
「「「「なめてんじゃねぇぞゴルァ、知らねぇもんは知らねぇよクソジジイ!!!!!」」」」
四人が一斉に銃を抜いて撃鉄を下ろす。
「まぁいい、わかんねぇならその体に教えてやる。」
おじさんは手にしていた黒の撞木杖をフェンシングの様に構えた。
銃相手にそれで戦うの!?
はっ!
もしやあれは名探偵シャーロック・ホームズがよく使ったと言われる杖を用いた護身術バリツ!?
な、生でお目にかかれる日が来るとは!!!
「はぁ…」
とシルベスターのため息が漏れる。
俺は五体投地の格好で伏せる!
「おいここで銃の乱闘は…」
バーテンが何かを言おうとした。
「蜂の巣だ!!!!」
荒くれ者の一人がそう叫ぶ。
〜
〜
〜
【特殊魔法:G爺Rock-glock86】
2川ーーーーーI♪§@ g
:@川ーーーーーi
川ーーーーーソラ
:9川ーーーーーラシ
川ーーーーーミファ#ソ
それより速い動きで硬いプラッチックのパッケージを引き破るようにおじいさんが革ジャンの胸ポケットから出したハーモニカを一吹きした。
ジャキッ!と金属の噛み合う小気味良い音がして音色と共に金剛のハーモニカがおじさんの手中、銃に変形していく。
今度は銃筒になったハーモニカをさらに一吹きしてまたジャキンッ!とリロードの音がする。
撞木杖で一番前の机をひっくり返し盾にすると、斜め前へ前傾姿勢で飛びながらおじいさんは四人の人差し指を一瞬で撃ち抜いた。
おじいさんがそのままハーモニカを吹き鳴らすと彼等の足下から雑草やら蔦やらが伸びてきて彼等を絡め取り縛り上げる。
首を絞められ意識を失った四人はそのまま地面に倒れた。強すぎんか?
「おい!酒はまだか!?待ちくたびれすぎて銃が暴発しちまったらどうしてくれんだ!!?」
おじいさんは再び何事もなかったかのように席につく。
「ひ、ひぃぃいいいい!!!!」
俺くらいビビり散らかしてバーカウンターに隠れていたバーテンに酒を注がせている。
そのバーテンはバーの裏でこっそりショットガンを取り出そうとしていた…
「確かにその方が早いか。」
何やら会得のいったらしいシルベスターもバーテンをニヤリと見て、次の瞬間にはバーテンの指をカウンターの上で美味しそうに食べていた。動いた瞬間なんて俺も、多分バーテンも全く見えなかった。
バーテンは結局そのまま裏口に走って向かって帰ってこなかった。
だめだ、治外法権すぐる。