第一話 「天使を殺してこい」
第一話 「天使を殺してこい」
〚場所:暗黒街にある魔片王の事務所〛
【ド陰キャの狙撃手 ケント・オルカ】
どうもー!
初めましての方も、またお前かよのそこのあなたも!
みんな大好き【ド陰キャの狙撃手】のケントさんですよー!!
はーい、ここは笑うところですからねー?
笑いましたかー?
令和は笑いも強要する時代ですよー?
とか言いながら俺は全然笑えない状況に立たされていた。
タイトル通り、異世界にて天界の女神とかではなくてゴッリゴリの魔の者に召喚を食らっているからである。死にたい。
呼び出されたそこはいわゆる事務所。
調度品は何から何まで、高そうなアンティークの漆が溜塗りされた超がつく高・級・品!!(多分)
ゴシック調のビルの確か十階くらいの高さにあるこの事務所の窓には夜の遅い時間とわかる景色が広がる。
せっかくの眺望は現在雨で台無し…
その景色を見ながら、
ぶっとい葉巻を葉巻カッターで切り、
ウィスキーを左手に持たせ、
その左手には意味深な金の指輪、
くっそいかつい太刀傷を乗せた強面の顔を窓に反射させているのは【魔片王】と呼ばれている裏社会の重鎮…
一方ワイは中高をネトゲ(主にFPS)に捧げた健全な男の子。
自慢の自作PCはハイスペもハイスペ!
起動立ち上げに3秒もかからず!
マルチタブ+ネトゲ配信をしていてもラグ付き0!!
もちろん流行り病で死んで全ては夢の中へと消えましたけどねっ!!!
「俺を裏切ったアイツは必ず殺すとして、まずはお前の実力を見させてもらう。
ここに載っている天使を殺してこい。」
そんなワイの自慢のPCの話などまるで興味なさそうな【魔片王カポネ・デル・ディアブロ】さんは机の上にポサッと一束の紙を投げた。
ふむふむ、【ティレクソン】守護大天使ミカエル直属の部下であり、第三次異世界聖戦で最も活躍した伝令天使の一人とされている。
さて、このマフィアのボスさんはワイの事をなんか勘違いしてるらしい。
自分で言うのもなんだけど、引きこもりのゲーオタに一体何を頼んでいらっしゃるのやら。
もちろん!ゲームの中なら?二千ヤード離れた敵の眉間に銃弾2発ぶち込めますが?なにか?
なにか!?!?
「居場所は恐らく〚森の都〛に居る【 マート組 】の若頭が知ってるはずだ。」
とにかく話をまとめるとこちらの魔片王さん!なんとワイと同じ元転生者!
女神に召喚されチートアイテム付きで魔王を殺すと、第二の人生として異世界の裏社会を牛耳りだしやがります!
しかし!なんやかんやで側近の裏切りに遭い死ぬ運命を辿る!
それを阻止するのに猫の手も借りたい魔片王さんはあろう事かワイを呼び出した…
そしてワイに部下の抹殺を命じている!
なんでや
「give you a month.
oh, and I heard you Japanese huh, Yakuza? slit belly for atonement...
so do your best, understand?
(期限は今月一杯だ。
日本のヤクザは筋を通すときには指を詰めるか、腹を切ると聞く。
楽しみにしているぞ。)
」
さて、夜逃げの準備をするとしよう。なんてごぶたいな。
俺の憧れてた転生ライフとは全然違った。
おかしーなー、
確かおっぱいのおっきな女神様がよちよちしてくれて、
それで特別な能力バンバンくれて、
俺強ぇえええええ無双するのがお約束のはずなのに…
「ちなみにお前のことはこれから二十四時間体制で部下が見張る。何かあればすぐに連絡しろ。」
あ、これあかんやつや。
この事務所の扉の通路にはムッキムキの黒スーツをビチッと決めた強面のお兄さん達がずらりと並んでいた。
つまり怖い。
部屋を出てくのも怖いし、
出た後も怖い。
帰ってきてもたぶん怖い。
ずっと怖い!!!!助けて!!!!
「それから、その装備だと話にならん。
下の階にある【仕立屋】に話は通してある。寄れ。」
装備で人間の能力が何とかなるなら「オークに真珠」なんて諺は生まれなかったはずだ。
まぁ、あんまりグズグズしてると本当に北海に沈みかねないのでいそいそ蒼惶と部屋を後にする。
通路の黒ムキムキむくつけきのお兄さん達の熱い視線を躱しながらエレベーターにそそくさと乗り込む。
ふかふかの絨毯。
高そー…
このL(ilith).V(enom).ってブランドよく見るけど異世界で流行ってるのかな…
まあいいか。
真鍮の矢印が階を降りる毎に動いていく。
指定された階に着くと扉が開いた瞬間に二人の白ワイシャツに黒ベストを着た【仕立屋】さんが物々しく頭を下げて「お待ちしておりました」と挨拶をしてくれる。
やめてほしい。いや、ちょっと楽しいは楽しいけれどさ。
「is there any speciFIC request, Mr.kent?
(衣装についてケント様より何かご希望はございますか?)」
「えっと、これから向かわされるところは暑いって聞いたんでなるべく温度調整が効くのと、【不可視】と【防御力】カンストでお願いします!!!」
初老の清潔感漂うおじいさんの紳士っぷりとこの建物に全然合ってないリクエストだけど、チキンスナイパーやる気満々だから、俺。
どうせ逃げられないならせめて隠れる!
これが陰キャの鉄足です。
「all you desire.
well, come this way
かしこまりました、それではこちらに。」
採寸が終わると、控え室に通された。
ウェルカムドリンク的なのをちうちう吸いながら待つことしばし。
「howd you like it?
こんな感じでいかがでしょうか?」
深緑のアーミージャケットは昼でも景色に紛れ、魔力を通せば【光学迷彩】も発動する優れもの!
インナースーツは黒の吸収性、保温性抜群!
軽くて丈夫な茶色の革のブーツ!
留め具が真鍮の星の迷彩のマントは防刃、防弾性が高い!
それぞれにアイテムを仕込めるポケットやホルスター完備!!
そして地味目な見た目で日常でなめられないよう威厳のある軍帽!!
最早プロフェッショナルな人達は自らの製品の説明などしないのでワイが代わりにしたった。
「あのー…、この帽子ちょっと俺には似合わないような…
もっとこう初心者感のあるのってないですか…?」
「hmmm, modest....
では、こちらなんてどうでしょうか?」
さっきの初老のおじいさんとは別の精悍な顔立ちの青年が別の帽子を出してきてくれた。
「そうそうそう、黄色と黄緑の下地に黒と白のラインが入ってこれをかぶれば君も若葉マーク!
って違ーーーう!!!!!!!!!!!!」
とは言えないのでそのベレー帽を「あ、じゃあこれで」と言って貰った。
さて、武具も揃えたし、クエストに向かうとしますか。
じゃないと本当に指切りげんまんの一生できない人生が待ってる…
【仕立屋】さんにお礼を言ってビルを後にしようとしたとき、お爺さんにさらに別の階に寄るように言われた。
エレベーターの中にはさっきはいなかった【 案内役 】も居る。
燕尾服に蝶ネクタイ、
手にはランプを持って、
よく見ると服の上に蜂の影が飛んでいる。
エレベーターの階数を示す針が一階まで来て、逆さにひっくり返る。
地下をぐんぐん進むと、そこには粗粗しい貝殻を混ぜて作られるコーラルストーンの壁。
両側に並ぶ松明の灯りを頼りに暗い通路を進むと、開けた空間に出た。
黒魔術でも始めそうな六芒星の魔法陣の光が石畳の床に浮かんで、
紅と蒼の液体が流れ込み始める。
麻のマントのフードを被り、杖を持った女性。
怖っわ…
「ケント様にはこれから、監視役兼眷属となる魔獣と契約を結んでもらいます。」
ふむふむ。
悪くない。
一流の殺し屋は犬とか連れてるからな。
その犬も忠誠心が高く、俺も愛犬を傷つけるやつは許さない。
このありがちな往年のパターンが通のファン心さえもくすぐる!!
「利き手をこちらに。」
俺の腕に深紅の魔法陣が浮かび上がり、闇の炎が生き物を形どっていく!
ふぉぉおおおおおお!!!!!!!!
ワイの眷属!
さぁ!その正体を現わせ!
ドーベルマン!?
いや、異世界だからフェンリルかも…
はっ!
あれは…、まさかフェニックス!?!?
利き手を出せってそういうことか!
ワイの腕についにフェニックスがとまるのかっ!?!?
鳥のように空を舞い始める炎!!!
が…、
消えて…、
…、え?
「よろしくな、相棒」
「ペンギンじゃん」
「ケント様そちらは本日お越しいただいているお客様です。」
紛らわしいことすなよ!
と、その時頭の上に鋭い爪が食い込む感触があっ…イデデデ!!!
「痛い痛い痛い!!爪!爪が!普通手に止まるもんじゃないのっ!?」
「随分とやかましい小僧だな。」
頭の上の鳥はでかい態度でふわっとりと翔んで肩にとまる。でけっ…
シルバーの鉤爪、黒鳶色の羽毛、琥珀色のくちばし、翠の目に、頭の天辺が白雪が積もったように少し白い。
白頭鷲…、の魔獣…、始めて見たかも。
「よ、よろしくね」
「よろしくお願いします…だろ?ギロッ」
「ハイ…、よろしくお願いします…」
「元気が無いな、目を抉れば出るか…」
「よっ、よろしくお願いしますでありますっ!!!!!!!」
こ、怖ぇ…
え、俺こいつと契約結ぶの?
二十四時間体制?怖すぎるよ…
フンッと鼻を鳴らしたハクトウワシさん
「ぁのー、お名前は…」
「あ゛っ?」
「わ、ワイはケントといいます!ケント・オルカであります!
ハクトウワシさんの呼称をお伺いしたく!!」
「シルベスターだ、特別に士官はつけないことを許可してやる」
「はっ!ありがとうございますシルベスター!」
主従関係が決まった。
取り敢えず【シルベスター】を連れてビルのエントランスまで向かった。
出入り口の回転扉の前には【案内人】の人が立っている。
やっぱり皆お揃いのきちんと糊の効いた燕尾服を着こなしていて、なんかもう…、カッコいい
「それでは〚オイホ王国第一都市シナモンティー〛に送迎させていただきます。」
丁寧な仕草で【案内人】の人がそう言うと回転扉の床の魔法陣が透明感のある黒檀に光りだす。
扉を押してついた先は入ってきた時とは別の場所。
さて、どうなるのかなー…。不安。不安しか無い!!!!!!
そうして灰色の雲に覆われた街の高層ビルを後にした―