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プロジェクト:異世界isekÆi  作者: 魔法烏新聞 幽玄会社
第二部 異世界勇者パーティーが全滅した件 後編
53/124

幻影魔法 かつての世界線 2

幻影魔法の続きです

 




【魔人パクリカ・レプリカ】の自宅







 古びた築百年程の大きな木造住宅。一階にはキッチン、ビリヤードのあるリビング、bathroom、お手洗い。

階段をミシミシと音を立てて登ると部屋がいくつもあって、それぞれの部屋がそれぞれの部屋に住む子供たちの好きなふうに装飾されている。

元の家主は錆びた有刺鉄線と柵に囲われた大きな庭のどこか下の方で腐敗している。

錆びついた水道管がピチャ…ピチャ…と音を鳴らす薄暗いジメッとした地下室の一階では80インチの大きなアナログのテレビが環境音として流れ、今はそこにある四方3メートル半のベッドの上にパクリカと2階に住む子供たちの一人がいる。

「あぁ、そうだ…、はぁ、そう、良い子だ…」

その子供の澄んだ目と、あどけない唇、猫っ毛をパクリカが太い毛むくじゃらの指で撫で回しながら汚し終えると、地下に続く部屋の扉がノックされた。


「ay, Mr. replica. the guests are arriving.(パクリカさん、お客が到着しました)」


ノックをしたのは真っ白な鳩を肩に乗せた長身のモデルのような見た目の男。

丁度果てる瞬間でパクリカは返事をしない。

もうその行為自体になんの疑問も覚えなくなった子供は呆けた表情のパクリカから白い飴を渡され、トテテと小さな足音を立て、ドアをノックした黒スーツの脇を通り抜けて2階へ戻っていく。

パクリカは子供の下着を口元にあて一嗅ぎ、二嗅ぎしそれを大事そうに枕の下にしまうと、自分も扉の黒スーツの男を連れて地下3階へ向かった。




蟻の巣と呼ばれるこのパクリカの自宅には地下室のさらに下に体育館二つ分ほどの巨大なスペースがある。

そこには高さ7m程の巨大な蒼色の水晶があり、勇者や戦士の格好をした幾人もの人間たちがその大きな水晶の中に閉じ込められていた。その表情は巨悪の前に屈するしか無い自身の非力を呪った悲しさとやりきれなさと、絶望と恐怖に飲まれている。

助け出したかった誰かが、

付き合いたての恋人が、

恩義のある人の息子が、

花をくれた無垢な村の子供達が、

大切な娘さんが、

憧れていたあの人が、

届かない高嶺の花が、バラが、

それとも教室の隣に座るあの子が、

絶対に触れられない友だちが、

今日も隣で犯されている。

本当に、本当に勇者がたどり着くまでの間、彼ら皆パクリカが不幸にして、快楽に浸してあげて、当人はそれを見てムフムフケラケラにやにやにちゃぁと笑っている。

その水晶の周りには仰々しい器械がいくつも並んで、透明のパイプだったり、濾過装置だったり。

パクリカはその装置の隣りにあるテーブルの上、ガラスのラザーニャ何かを焼くトレーに袋に小分けにされてパンパンに詰まっていれられていた白い粉のBRICKを二つ、お客様と通された黒スーツの男に投げる。


「so that one is a pure wopium, decent as the scents of the sents.... do I make myself crystal clear as well...?.you will know...」

(そいつは上物のウォーピウムさ、最先端のお賽銭、たんまりで神様もハッピー、この際洗濯洗剤よりも真っ白に仕上がると教えといてやろう)

「oohhooohl-shit. i knew you gon be the real artist, man! and this is the masterpiece bro. for sho my boss is happy working with you,, for sho fo sho」

(さすが!わかってたぜー、パクリカさんはやるときゃやるってね!うん、こいつぁ確かに上物に違いねぇ、必ず顧客に()()()()()()()()()())()

「oh,,and also I want you to tell me who exactly invited for the party.」

(あぁ、それから誰が()()()()()()()()()()()詳しく聞いておくとしよう)

「that was lapdog, few Gen z sourcers and some unknown whiches」

(KUPDOGの連中と、Z世代の召喚勇者、あと得体のしれない魔女どもだったかな)

「unknown whiches...?」

(得体の知れない魔女?)

「i cant rader them.」

(よくわからないんですが、うまく感知の出来ない奴らでして…)

「aha!! that could be entertaining..isnt it?」

(…そうか、それはまた、楽しくなってきそうな話じゃないか)


「じゃあ俺はこれで。」

そう言って黒スーツがパクリカの自宅を出ると、本人もまたいつものチープな真っ赤なタイツに全身を包み、顔を真白に塗って身支度を整えいそいそと出かける準備をしていく。

先の“”真っ白の鳩を肩に乗せた男“”はパクリカの側近なのだろう、パクリカが()()()()の準備をしている間もリビングルームでひっきりなしに鳴る魔導水晶と呼ばれるこの世界の携帯端末で色々な応対をしている。そしてその多くは先程黒スーツが持ち帰った白い粉の塊、『魔片』にまつわるものと、パクリカが所持しているフライドチキン王国の土地にまつわるもの。

白い鳩の男がそれらの話に一区切りつけると、身支度を終えたパクリカが彼の方をじっと見ながら言った。


「いや、いつもご苦労だね。電話鳴りっぱなしじゃないか」

「いえ、これくらいは何でもありせん。」


先程から“”白い鳩を肩に乗せた男“”はまだ生意気そうな年頃の見た目で、髪なんかもついこの間茶髪に染め直したのにパクリカにはどこまでも従順に答える。


「そうかい?俺が持ってるフライドチキン王国ほぼ全土の土地の権利について君が対応してるんだ、中々大変なことだと思うんだけれど…」

「まぁ、それなりには…ですか。それより、急がないとパーティー遅れますよ?」

「あっ、そうか、そうだったそうだった。じゃあ種明かし《パーティー》をしに行くとしよう。」


パクリカが家の玄関の扉を開くとその先には影が伸びていて、まるで階段でも降りるかのようにパクリカと鳩の男はそこへ沈み消えていった。

 




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

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ケント達の覚悟




「「「パクリカの部下が開くプライベートパーティーに潜入する!?!?」」」



まぁ、やっぱりそういう反応になるよね… 


 ワイこと、ケント・オルカ(狙撃手スナイパー)は先程魔導水晶と呼ばれるこの世界におけるいわゆる携帯端末スマホのメッセージ機能で泰晴とウーメルが明日の夜【 現実的リアリスティック反乱軍アナーキスト 】と呼ばれるなんだかよーわからん危なそーな一味とパクリカの部下が開くプライベートパーティーに潜入し、天王寺奪還の為の情報収集、あるいはそこに万が一本人がいれば奪い返してくる気でいる事を知り、メールの内容に従って石木佐氏(太刀使い)、ユーザック氏(中距離ボウガン使い)、パンツェル氏(斥候役)を呼んでその旨を伝えた。


メールの内容はこんな感じだった。(メッセージは読んだらすぐ消えちゃうから間違ってたらごめん)


:ケント、俺とウーメルは明日の夜、前に話してた【 現実的リアリスティック反乱軍アナーキスト 】とパクリカの部下のプライベートパーティーに潜入してくる。

かなりの危険が伴うらしいが俺から頼みがある。

【所定の場所】からこのプライベートパーティーが開かれる建物の入り口3箇所を【持たざる者達の急襲】(俺達四人のパーティーネーム、決して泰晴氏が俺らをdisってる訳じゃない)全員で見張っていてほしい。この時は必ず4人固まって移動してくれ。

それで万が一赤いタイツのピエロ、あるいはそれに準ずる怪しい動きがあれば連絡してすぐに逃げてくれ。

約束だ、絶対に闘うな。

当日〇〇時にいつものアレで連絡するから。



いつものアレというのは、最初の王国での合宿期間中にワイと泰晴氏で発見した無線連絡手段のような裏ワザの事。

この異世界では魔導水晶はバカみたいに魔力を使うし、無駄に高額なため、一般的な流通はしていない。

ギルドや各所にこの水晶があって、緊急時に公衆電話みたいな感じで使われる。

泰晴氏みたいに魔力がたんまりあれば問題無いが、ワイなんかがメッセージを『受信』ではなく『送信』でもしようもんなら次の日は全身筋肉痛で動けなくなるみたいな疲労感が襲う。

泰晴氏とて魔力が無限にあるわけではない、王国から召喚された当初、その事を知らずに王城内のこの魔導水晶を使って痛い目をみたワイと泰晴氏はなんとかこれに近い、ようはメッセージ機能を使えないかと試行錯誤し、そしてこれに近いデバイスを開発した!

その名も『無線ポケベル魔法!!』

知ってる、現代社会ではムヨウノナガモノだってことは十分知ってる。

けれど!

魔導機械デバイスをつけるだけで!

自分達の脳内で!

まるでテレパシーのように!

メッセージが送れる!

ってすごくない!!!???


っていうのを発明して以来ワイと泰晴氏はポケベル友達。(範囲はおよそ5kmで、通信内容もモールス信号の音がベルみたいなきれいな音というお粗末な物である事には目をつむって頂きたく!)

さて、そんな泰晴氏が魔力を消費してまでワイに連絡してきたということはこれは一大事。

で、【持たざる者の急襲】のメンバー呼んで、会議して、プライベートパーティー会場がよく見える時計塔の上に来た←イマココ


泰晴氏から無線信号が届く

『・・・−』

『−−・−』『・・・』『−−』『・・−』

『・・ − ・  ・』

『− − − −』

『・・−・・』

えー、この暗号は確か…、『マジ来た爆笑』

おい、緊張感

まぁ、そりゃあんだけ8期のメンバー手ひどくやられて、さらにマフィアだなんだで危なそーな連中になんて俺らは関わりたくないかもって思ってたのかもなー

そりゃね、もう死にたくは無いけどさ、仲間のピンチ位男見せなきゃって話ですよ!!

他の三人も泰晴氏なんて?と聞いてきたのでメッセージを伝えると苦笑している。

あ、またメッセ…

『ーー』『・・・・』『ーー・・−』


『恩に切る』か




さ、ワイら【持たざる者の急襲】、駆け出しパーティーの心の実力を見せつける時や!!!

やるで!!!!!!

一段と気合の入ったワイとメンバー。



と言ってもやる事は特にない。

ただ出入り口の監視のみ。

春先のようなやや涼し気な風にホットコーヒーでも持ってくりゃよかったとのんきなことを考える。

なんせ時計台は高さ100メーター位あって、中々風も強い。

え、そんな距離から出入り口見えんのかって?

そりゃ肉眼では見えないけれど、ライフルのスコープ通せば1キロ位は余裕で行けるし、魔力通せば2キロ先のりんごだって撃ち抜けるくらいにはワイは出来る男なんやで?もちろんその実力を支えるくらいには現実世界でFPSのネトゲ廃人だったわけだが…


そんなこんなでパーティー会場には特に怪しい奴は来なかった。

つっても皆ガッツリマフィアって感じのリムジンみたいな車で、高そうなスーツをいかつい顔に着込んできてたけれど、泰晴の言っていた赤タイツのピエロなんてのはちっとも現れない。石木佐氏他もちょっと飽きてきて指スマとかやりだしてやがる、おい、さすがにそこまで俺は緊張感緩めてないぞ!!


そして、ふと時計台の上を見上げると赤い風船が引っかかっていた。

どこぞの子供がうっかり手を離しちゃったんだろう、どんくさいやつだ。

そういえば俺も昔買ってもらった凧、新年早々風に吹き飛ばされちゃったなー、なんて考えているともうパーティーの予定時間は半分をとっくに過ぎて、時刻は真夜中。

赤タイツのピエロが、本当にどこからともなく現れたのはその時だった。




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−ケント達がパーティー会場に向かう少し前、ガネリオの病室にて−



 「「「「パクリカの部下が開くプライベートパーティーに潜入しに行ったぁ!?!?!?」」」」



「ちょっ、シーナちゃん!ホノちゃん!!モーリーちゃん!!!ここ病院!!!」

私ことシーナ、ホノラ、モーリーがガネリオから告げられた事実に思わず上げた叫び声を諌めたのは優杏。

優杏はいつも大人しく、礼儀正しい。

泰晴達がなんか危なそうな事に巻き込まれてるって話聞いてもやっぱ大人しい。

普段ならこういう時は「優杏、良い子ぶりすぎやって」なんて誰かが突っ込むんやけど、今回は流石に誰もそんなツッコミは入れへんかった。

それにしても泰晴とウーメルは大丈夫なんかな?


 私達四人(なんか勝手に連れション部隊とか不名誉極まりないグループ名を付けられてるけど)が知らない間に他の皆は大変な事になっていたらしい。というかヤバすぎ。

ここに来る前も王国が用意してくれたコンドーの部屋から出てこーへんカナをお見舞いに行った。

皆で用意したフルーツを持ってって、アロマとかバスボムとか、気休めかもしれへんけど少しでも気が紛れる様なアイテムを街で買って持っていったんやけれど、カナは何かすごく怯えた様子で、結局一時間もしないうちに「また来るね」って言って部屋を後にするしかできへんかった…。 


最初にカナのお見舞い行った時は、確か【魔人パクリカ・レプリカ】に襲われて一週間しないくらいのときやった。

本当は皆もっと早く行くつもりやってんけれど、ウーメルが「今はそっとしてあげておいてほしい」って言うから、一週間空けて、でもそん時は部屋にも入れてくれんへんくて、「ごめん。今ちょっと話せない」って、やっぱり怯えとって。

ウーメル達から話を聞いたら、それもしゃーないって思えるくらいその【魔人パクリカ・レプリカ】はヤバい奴やった。

四人でめちゃめちゃ腹立つ奴や、私達わたしらで倒そうってなって、でも泰晴にもウーメルにも絶対関わるな、会ったら逃げろってめちゃめちゃ言われて、あんまり二人が本気マジな顔で言うから、とりあえず情報収集だけする事になった。


ウーメル君は訓練期間中も泰晴君と仲良かったから、割とずっと連絡しながら一人で色々探っとって、しかもその泰晴は全治半年とか言われてたのに2ヶ月もしないうちに病室でトレーニングとか始めとったらしい。病室が隣やったミサミサがアホや言うてボヤいてた。

そのミサミサはミサミサで普段は厨二病の権化みたいな感じやのに、なんか無理して明るく振る舞って、らしくない。

普段やったら「ふふ、我が邪眼が開眼すればあんな魔人瞬殺!!」とか言いそうやのに、そんなん言ってるミサミサが皆好きやのに…。

そうこうしてるうちにガネリオ君もジェシーちゃんも意識を取り戻して、面会も出来るようになって、今は特に後遺症も無さそうで怪我も快方に向かってるらしい。


今日はその二人のお見舞いに来とって、さっきジェシーちゃんとこへ行ってきたんやけど、ジェシーちゃんは次回はお見舞いにバームクーヘン持ってきてくれって、割と元気そうで安心した。病院の人に怒られるからバームクーヘンは持ってこられへんけど…。


で!ガネリオんところに来たら、今日これから泰晴達がなんか危なそうな事に巻き込まれるなんてしれっと言うからどういう事っ!?ってなってる。


「安心しろ。あいつらなら上手くやるだろう。俺もハイダート教官に紹介してもらった方の情報で知っただけだから、詳しいことは分からんが、何も二人だけで行くわけじゃないそうだ。【 現実的リアリスティック反乱軍アナーキスト 】という熟練の冒険者達のグループと―」


「そんなん言うてるんとちゃうねん!しかもなんやそのリアリティーショーかなんか知らんけど、そいつらもなんかめっちゃ危なそうな名前してるやん!!!ホンマに大丈夫なんやんな??!!??」


泰晴が無茶をするのは皆知ってるからこそ余計心配や。


「大丈夫も何もほぼ4ヶ月情報0だったんだ!これはビッグチャンスだろう!」


いつもは冷静なガリ勉のガネリオが珍しく少し大きな声を出してる。

皆分かってる、由貴が攫われてもう四ヶ月、【魔人パクリカ・レプリカ】についてもほとんど情報は無い。

心配だと言ってるだけじゃ助けられない。


「そんなビッグチャンスなら私達わたしらも行ったほうがええやんか!!」


「お前ら泰晴達がなんでお前達に黙って行ったのか本気でわかってないのか!?

それだけ危険が伴うからだろう!!仮に俺が全回復していても役に立つかどうか分からんのだぞ!!??お前が言ってどうする!?また犠牲者を―」


犠牲者という言葉にガネリオ自身が引っ掛かったのか、ガネリオはそこで口をつぐんだ。

泰晴達が私達わたしらを置いていった理由、自分達が動けない間でさえ必要最小限の情報収集しかさせなかった理由、

【魔人パクリカ・レプリカ】がどれだけ強いかを分かっているから、だから私達わたしらにはなるべくなら関わってほしくないからだ。

けれど私達わたしらだって由貴が心配や。


「わかったから、取り敢えず落ち着いて二人共!ほら七色リンガ剥いたから!」


そう言ってモーリーがうさぎの形に剥いた“七色横縞のりんご”をパクっと食べる。

これはどうやらマンゴー味らしい、切り分けたそれぞれで味が違うこのりんご、じゃあ果たしてりんごとは?と考えさせられなくもないけど、今はそんなことはどうでもいい。


「あれ、この果物かご、レモンなんか入ってる」


そう言って今度はホノラがレモンを取り出す。

ホノラがそれを気を利かしてガネリオのベッドに備え付けてあるテーブルの上のお冷のジョグに絞ろうとすると、レモンの中には一枚のトランプのカードが入っていた。

その場にいた全員がその趣味の悪いイタズラを仕掛けた奴が誰かをすぐに理解せざるを得なかった。








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救出作戦開始!!!!!



「顔が割れてる俺とマーカスは全体指揮と作戦後半、緊急時に突入。

マーカスの補助魔法でサポートはできるが、魔法結界が張ってある可能性も高い、各々気を引き締めていくように」


「「「「「「「「「「「「「「「「「了解!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」


【 現実的リアリスティック反乱軍アナーキスト 】の19名と泰晴、ウーメルを加えた全21名はパクリカの部下が開くプライベートパーティー潜入作戦を決行。


●時刻は8時、同時刻にパーティーは4つのターンテーブルに四方を囲ませたタコの亜人のDJで開始した。

●パーティー会場は王城からもそう遠くはない富裕層と一般市民層がそれぞれ暮らすエリアの中間、ひときわ大きい4階建ての豪邸、パーティー会場は地下一階、グラウンドフロア、二階で主に行われる。3階はVIP、4階はパーティーの裏方の準備控室、及び会場に設置されたモニター監視に使われている。

●まず最初に会場に潜入するのは主に会場警備と運営を担当している【マートファミリー】に顔の割れていない泰晴、ウーメルを含む10名。

すでに招待状は入手しており、その招待客の紹介であれば事前に招待されていない者でも入場出来る。

●指揮班のビンセント、マーカスは会場近くにA(nother)W(world)irbnb というサービスで借りたアパートの一室からそれぞれに指揮を出す。

連絡手段には魔導水晶と、魔力を蓄積量分自在に放出することもできる魔導器具バッテリーというアイテムをすでに作戦遂行に必要と思われる量を用意している。

ただしこれにも限りがあり、念の為『潜入班フクロウの亜人オウルル』と『指揮班イルカの亜人ドルフィーネ』が各々【魔導念波】と呼ばれる魔法で連絡を取り合う。


―パーティー会場―


「まずは一杯あおって緊張をほぐすサメ」

すでにそう言ってシャークス鮫島はカウンターで【コッチスコッチ】を頼んでいる。

「飲み過ぎんなよ、急襲部隊なんて酒も飲めずにあのアパートで待機してんだからホー」

これは先日のアジトにはいなかった別のフクロウの亜人オウルロ。


「泰晴、さっきからこめかみ押さえてっけど、ケント達からなんか連絡来たか?」

ウーメルが、心配そうに泰晴に訊ねる。

「いや、まだ怪しい動きは無いってさ。皆ヤバそうな奴に見えるとは言ってるけど…」

確かに、フロアにいるのは皆多種多様な見た目の亜人が多い。

自分たちと同じ潜入班のフクロウ、サメ、柴犬、カメ、を始めベンガルトラ、ゾウ、マントヒヒ、カブトムシにクワガタ、ちょっとした異世界動物園である。共通しているのはそのほとんどがかっちりとドレスなりスーツなりを着込んで、面構えが一般市民とはだいぶ違うということ。

いわゆるコネクション作りの為の門戸が広いパーティーというのは泰晴達がすんなりと会場に入ることができた理由の一つでもある、

仮に一対一でやりあえば泰晴ですら勝てるか分からないような相手がゴロゴロいる。


より一層緊張が高まる中、泰晴はパーティー客の中の一人周りとは違う和らげな雰囲気の女性と目があう。

赤いトサカと、目の下の小さな羽が特徴的で、珍しいアイボリーグレーのドレスを着ている。しかし泰晴は「今は作戦に集中集中!!」と気を引き締め直した。

と、先に単独で地下一階に潜入していたオウルロから魔片取引が開始したと知らせが入る。

どうやら地下一階に隠し通路があって、その奥の隠し部屋で取引が行われているらしい。

怪しまれないよう二手に分かれ、泰晴、ウーメル、ド・ゴール、シャークス鮫島、オウルル、タルトイズは地下一階にて待機、

別動隊4名がその取引現場に向かった。


 その間、カウンターで並び様子を伺う泰晴とシャークス鮫島。

オレンジジュースとコッチスコッチを片手にそれっぽく世間話をしていると二人の肩にガッと手を回して、一匹の獅子の顔をした亜人が声をかけてくる。

「よおー、鮫島。久々だなぁおい。お前らがここにいるって事は、辺りをうろちょろしてる怪しげな奴等は【 現実的リアリスティック反乱軍アナーキスト 】の連中だなぁ?」

呼気には酒の匂いが混じっている。泰晴はどう対応したものかとシャークス鮫島の方をちらりと見る。

「んで、コッチのは見かけねぇ面、人間クセェな…、なんだ下でやってる奴隷取引オークションにでも参加しに来たってのか?」

泰晴は脳みそをフル回転させ状況を把握し直す。恐らく事前に入手したマップには乗っていなかった地下二階が存在し、そこでは奴隷取引オークションが行われているらしい。由貴がいる可能性も高い。まずはこの場をどうにかしないと…

「久しぶりサメ、ライオネル。手前てめぇが俺の兄貴を食い殺して以来かサメ…?」

「そうだそうだ、確かにあの時以来だ。お前の兄貴うまかったぜえ?」

シャークス鮫島がこれまでの飄々とした雰囲気から一転、周りに気づかれないように隠してはいるが怒りに震えているのが泰晴にはひしひしと感じられた。

「ちょっと遊ぼうぜ?なに、今回の主催者は気前が良くてな、庭は自由に使っていいと事前に言われてる。」

そういうと獅子の亜人ライオネルの後ろにはさらに四人の亜人やらマフィアやらが現れ、有無を言わせぬ形でシャークス鮫島達を一階のパティオに連れ出そうとする。

「なぁに、俺等の仲サメ?水入らずでいくサメ。」

シャークス鮫島がそういうと、その4人の幹部のさらに後ろにド・ゴール、オウルル、タルトイズが同じくらい殺気を凄ませて立っている。

「お前は水入らずだと死んじまうだろうが、はっはっ笑

ま、いっか、付いて来いよ」

獅子の魔人ライオネルに連れられて一行が階段を上り一階のパティオに向かっていく。シャークス鮫島はオウルルに素早く目線で合図する、これは作戦決行の合図。

オウルルからさらにオウルロ、指揮班のドルフィーネに連絡がいく。

「後は頼んだぞ」

そう泰晴に行ってシャークス鮫島達は一階へ続く階段を上っていった。



【 現実的リアリスティック反乱軍アナーキスト 】達は各々復讐対象が違う。シャークス鮫島はライオネルを殺す目的で今回この作戦に参加していて、仮に戦闘が始まれば向こうの警戒心も強まるかもしれないので、そのタイミングだけは見計らうようにとだけビンセントからはきつく言われていた。

オウルロはすでに取引現場に先行した4名がマフィアの手下を捕縛し終え、尋問を開始していると連絡を受けていたので鮫島には「気オウつけルろよ」とだけ伝えた。


そして現在時刻は10時を回り、一階パティオではシャークス鮫島達が戦闘を始め、

地下一階隠し部屋では【 現実的リアリスティック反乱軍アナーキスト 】のメンバーによる尋問が行われている。

獅子の魔人ライオネルから逃れ地下一階のフロアに残った泰晴、ウーメルは最悪の事態に備え、陽動の準備も怠らないようにしつつ、自分達の目的である由貴についての情報を得るために再び動き出した。

と、その時先程泰晴が目のあった赤いトサカのある女性が彼に声をかけた。


「砂の勇者泰晴さんですね、ガネリオさんの使いでリアナと言います。

時間はありません、由貴さん救出の為にもウーメルさんと一緒に私についてきてもらえますか?」


今この場で彼女が信用できる人物かどうかを考えている暇はない、そうとっさに判断した泰晴はウーメルに目線で合図をすると彼女の後を追って地下一階パーティー会場の非常階段から地下二階へ向かう。

階段途中と、地下二階入口の護衛はすでにのびて、地面に突っ伏している。

恐らく彼女が色仕掛けで睡眠薬入りの酒でも飲ませたんだろうと泰晴は思った。

扉を開くと舞台演劇に使われるような劇場の様な場所が広がる。

泰晴達が出たのは後方の2階席に当たる位置、照明も当たりづらく、周りが気づいている気配もない。

そこではすでにオークションがあらかた終わり、最後のメインの奴隷が鉄格子に入れられたままオークション会場前方のステージでスポットライトを浴びているところだからだろう。

50✕50✕50m程の部屋には豪奢なカーペットが敷かれ、高そうな調度品の椅子が用意され、その上にマスカレードを思わせる口元の見えるマスクとナンバープレートをつけた趣味の悪い金持ちやら貴族やらが座っている。

会場の前方、由貴の姿が見えた。

はやる気持ちをぐっと抑えて泰晴とウーメルは先程のリアナと呼ばれた女性の亜人とともに二階席から次取るべき行動と、ここからの脱出経路の確認をしていた。


「こちら!!

世にもおぞましい進化オーガ!!その腕っぷしはトラックをワンパンで吹き飛ばし、一戸建ての家を持ち上げるほどの腕力!背筋力!!

さらに興味深いはその固有能力!!なんと―」


「今舞台脇でオークションの司会をしているのが【パクリカ四天王】のナンバー2、フォイドラです。

元は貴方と同じ王国に召喚された勇者だったのですが、パクリカの手下となり、当時からは考えられないほど力をつけて今は四天王ナンバー2としてパクリカの手下を仕切っています。」

泰晴とウーメルは彼を確認しながら自分達よりも熟練した魔力を感じた。そしてその魔力の異様なまでの禍々しさも。

「オークション参加者の席の最前列右手、由貴さんと、その両脇に居るのが四天王のNo.3とNo.1です。」

魔力量で言えば司会をしているナンバー2の方が強そうだが、力を抑えていること、その全身を流れる淀みないオーラからNo.1の男は頭1個分実力が飛び抜けている。


「オークションが終わるまであと少し、終了後に参加者が帰る際が一番紛れ込みやすいかとは思いますが、何か案はありますか?」

リアナの考えを受けてウーメルは泰晴の方を見る。

「俺が全員相手する、ウーメル由貴を連れて外にいるケント達と合流して逃げろ。」

「ちょ、まてよ泰晴!!いくら何でもそりゃ無茶が過ぎる!!」

「って言ったって流石にあいつらの目を誤魔化して由貴を連れ出すのは無理だ。俺かお前なら俺の方がまだ生き延びる確率も高い、お前の能力多対一に向いてないしな。」


泰晴の発言はあまりにも無謀に聞こえるが、現状他に打つ手立てはない。【 現実的リアリスティック反乱軍アナーキスト 】のメンバーも他のマフィア達の相手で手一杯だろう。そこまで現実的に考えるとウーメルは覚悟を決めた。

「死ぬなよ。」

「時間稼ぎするだけして尻尾巻いて逃げるから安心しろって」

泰晴がにやっと笑う。その笑顔の儚げなこと、あまりにも縁起が悪いと感じたウーメルだがあえては何も言わなかった。


「お二方の腐囲気ふんいきを邪魔して申し訳ないのですが、仮に私をこの場で信用していただけるのであれば私が由貴さんを逃がすお手伝いをしましょう。」


泰晴とウーメルは顔を見合わせる。確かにその方が確率は上がるが…


「じゃああんたはウーメルと一緒に行動してくれ。正直胸元にそんな趣味の悪いタトゥー入れてるあんたを完全に信用したわけじゃない。が、ここまで助けてもらったのも、あんたが居てくれたほうがこれから生存率が上がるのも確かだ。いいなウーメル?」


「あっ、ああ」


“生存率”という言葉に少し嫌な引っ掛かりを覚えたウーメルだったが泰晴の意見には同意せざるを得なかった。


(それにしても泰晴が女性の見た目にコメントするなんて珍しい。確かに彼女の胸元にはコウモリのタトゥーが翼を広げて入っているが…



「よし、じゃあ由貴を連れて帰ってさっさと【飛竜肉ステーキ】にいこう!!」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【平和の伝道者 綛谷俊成】



 泰晴達がオークションの行われている地下二階の劇場のアリーナ席にいる事に【パクリカ四天王】のNo.1である竣成は気づいていた。

というよりもすでにパクリカからこのパーティーにはネズミが紛れ込むと知らされていたのだった。そして、その中に真の勇者の素質を持つもの、【光の加護】というスキルを持つものがいた際は手を出すなというのが命令でもあった。

竣成はオークションに気を取られて泰晴達に気づいていないフリをしながら、それでも泰晴が自分に匹敵しうる魔力とそのスキルを持っている事に歯ぎしりしたい思いで一杯だった。


(なんで…、なんであんな奴が…!!!)


竣成がこの異世界に召喚されてはや五年が経過していた。

初めて王国に召喚された時、竣成は自分は特別なんだとようやく実感できた。

つまらない学校の毎日、平凡な両親、平凡な家庭、少年漫画に思いを馳せる子供にとってこれほど屈辱的な設定はない。

だが何よりも悔しかったのは“自分が一番平凡”だということ。

小学校からやっていた野球も中学高校の六年間ベンチ。

それなりの努力、それなりのやる気、それなりの嫉妬。

学校の成績も可もなく不可もなく、中の中。

そしてなんの因果か、交通事故に巻き込まれた彼はここフライドチキン王国にやって来る。

同じ時期に召喚された十五人と【勇者一行】として王国から訓練を受け、装備一式を貰い受け、冒険者としてギルドに登録し夢の異世界生活をスタートさせると、滑り出しは順調そのものに思えた。

何より竣成が気に入ったのは自分の職業が【勇者】である事。

この異世界ではある程度の適性を持って職業候補がいくつかギルドカードやギルド登録用の魔導水晶に表示される。

自分以外に【勇者】という職業が表示されたものは居なかった。

(同期で俺だけ…!!!)

そんな特別感に拍車をかけたのは彼のステータスだった。

泰晴が来るまで総合ステータス値歴代二番目の座は彼のものだったのだ。

竣成は人が変わったかのように、これまでの前世の平凡で周りに流されるだけの人間から、自分が周りを先導する立場なんだ、俺はそういう人間だったんだ、選ばれし者だったんだと息巻いてどんどん実力を付けていく。

周りも彼を尊敬し、慕い、王国側も彼に多くの期待を寄せ、事実召喚されてからの二年程、彼は飛ぶ鳥を落とす勢いでレベルアップし、王立ギルド設立以来最速となるBランク入りを果たした。


しかしある日、当時の国王と王国騎士団団長、王立魔法科学研究所の何人かの会話を竣成は盗み聞きしてしまう。



国王「今期の勇者は中々優秀だそうじゃないか、前任の勇者依頼の高ステータスで、同期からの信頼も厚いと聞いているぞ?」

団長「え、えぇまあ。Bランク入も果たしましたし、このまま順当に行ってくれると期待してます。」

研究員A「まぁ、【光の加護】が付いてなかったのは残念でしたけどねー。」

研究員B「おい、あんま大きな声で言うなよ…」

研究員A「いやー、だってそうじゃないっすか!

先輩方飲みに行くといーっつも“”初代勇者は高ステータスのスキル持ちで、魔導具開発部としてもやりがいのある仕事だった“”って言ってるんすよ、最近のは張り合いねぇわーとか言って。」

国王「まぁ、あやつはとびきり優秀じゃったからな。もうあれ程の逸材は召喚されんじゃろう…」

研究員A「あーあ、今期の勇者もスキル発動させてくんねーかなー」

研究員B「だからやめろってお前!」

団長「あれは生来の素質によるものだから努力どうのこうのでどうにかなるものでもない」

研究員A「えっ、じゃあ今期絶望的じゃないっすか!?そりゃ“勇者”の子はそれなりですけど、他壊滅って聞きまし―」

!!!!バシンッ!!!!  (BがAをしばく)

研究員B「ほんとすいません、こいつ新米なもんで、後でちゃんと言い聞かせときますんで、あっ!じゃあ俺等この後実験の手伝いとかあるんでこれで失礼しまーす!!」

(研究員二人が立ち去る)


国王「今どきの若いの見とると心配になるわ…」

団長「御尤もです」

国王「まぁ、そういう意味でも来期、再来期位までは【勇者一行】には特に過剰な期待はしておらん。じっくりやってくれ。」

団長「はっ!」



竣成からすれば寝耳に水な話である。




―当時の竣成の心境―


 俺はこれまで曲がりなりにも王国の為にクエストをこなし、モンスターを倒し続けてきた。

しかし自分には才能が無いと、特別では無いと、選ばれし者ではないとはっきりと言われた。

自分以外の【勇者一行】のメンバーが実力的に自分に釣り合っていないことも分かってはいたが、それでも自分だけは特別で、自分が頑張ればかつての現実世界とは違った結果になると信じていたのに、どうやら王国は口先だけでそこまで自分に期待してなかったみたいだ。


そんな矢先、あの方、パクリカ様に出会った。


 ある日いつもみたくギルドでクエストを発注して、王国の辺境で発見された【ヒュドラ亜種】の討伐に向かい、無事にクエストを達成した。

メンバーのオウルロというフクロウの亜人と同期のラジュという弓術士アーチャーが怪我をしたが、それは当人のミスでヒュドラの攻撃を避けきれなかったから俺のせいじゃない。

なのに彼らはクエスト中滞在していた近くの村の借家のベッドの上からヒュドラの死体の処分方法にも細かくあれこれ言ってきて、やれヒュドラの肉は腐るとウイルスになって疫病の原因になるからだのなんだの。マジで面倒くさい。

段々とそんな一々細かい事までクエスト報告書に書くのも面倒になって来て、結局その辺りを端折って報告書を提出してさっさと【飛竜肉のステーキ】で一杯やろうと一人王国中心街の自宅に戻った後、ギルドへよってから居酒屋へ向かった。

と、その道中、見慣れない翼の生えたゴブリンが一匹街の上空を旋回しているのが見えた。

けれど、そのクエストの【ヒュドラ亜種】がまぁまぁ強敵だったのと、連日の王国の件で精神的に参っていてすごく疲れていた。

結局俺は見て見ぬふりをした。


そのゴブリンが実は【ヒュドラ亜種】の死体の肉片を持ち帰って王国に疫病をもたらす事になるなんて予想もしていなかった。


散々人の事ボロカスに言ってた王立魔導研究所の奴らはそれでも疫病の原因がヒュドラの死体から発生するウイルスが原因だと突き止め、俺が達成したクエストの【ヒュドラ亜種】が原因であると発表。

そのクエスト責任者であった俺は当然王立議会にまで召喚される事にまでなる。

状況証拠は揃っていて、証人として呼ばれたオウルロとラジュが死体処理について「自分達は怪我でベッドから動けなかったので適切な処理の方法を伝えパーティーリーダーにその処分は任せていた」と証言した為、俺は王立ギルドからの除名、被害者への賠償金支払い、を命じられた。

王立ギルドからの除名はすなわち俺が王国と専属契約で使っているコンドーも使えなくなるということ、もうギルドにも登録できないからクエストも受けられない、俺は一夜にして職も、住むところも奪われた。


後日俺よりは全然マシな処分、当面のギルドでの活動停止を命じられていたオウルロとラジュか俺を訪ねに来たが、今さらなんのようだ?って感じだった。

もうパーティーは解散していたし、今さら「俺たちもなんとかするからまた1からやりなおそう」とか、「あたしらももっとちゃんと頼んでおくべきだった、任せっきりにして悪かった」とか言われても、もうどうしようもないだろ?

それともあの日以来酒に浸って、街の片隅で赤まみれで寝てる俺を見るのは流石に良心が痛むのか?

別にお前らなんかハナから頼ってもいねぇよ。



かろうじて闇ギルドと呼ばれる正規のルートを通らない格安クエストをこなして日銭位は稼いでいたが、それも酒代に全て消えていく。

そのうち同じ穴のムジナと『魔片』と呼ばれる快楽物質を売りつけてくる奴らに出会った。


これが転機となった。


この『魔片』は、通常の人間が使うとただ幸福感を得られるだけのモノだが、なぜか俺が使うと一定期間尋常じゃないくらいにステータスが上がる。


問題点は2つ。


1つ目はこれを使って強力なモンスターをソロで殺す事はできるが、その際の経験値の入りが悪いということ。

経験値の入りが悪く、レベルが上がらなければ基本ステータスも上がらない。

つまり、中毒症状になるとわかっていても、強力なモンスターを一人で狩り続けて前の様な選ばれた人間、輝かしい生活に戻るには、この『魔片』を使い続けなければならない。

2つ目は時々使用時に幻覚、幻聴が起こること。

色々種類のある幻覚幻聴の中でも一番きついのがどこまでも真っ直ぐな声の懇願だ。

その声はいつもどこか暗い地下室の様なところで声を響かせる。

「誰かにこの事を知らせるんだ、でなければ世界の平和が危ない」

とかどこまでも厨二病こじらせたような事をいいやがる。

この期に及んでまでどうして俺が他人を頼らなくちゃいけない?

これさえあれば俺は無敵だ。そう思っていた。


それなりに金が稼げても俺は王立ギルドから抹消され、各ギルドのブラックリストにも載っていたから、自分で買ったモンスターは闇市で売り捌くしか無い。

その金のほとんどは『魔片』に消える。

これを繰り返して半年が経った頃、いつも『魔片』を売っている男が約束の時間になっても指定の場所に現れない。

苛立ちながらタバコを何本か吸い終えると、不意に辺りの建物の影が濃くなる。

まるで闇の中に浮かんでいるような光景が広がった。

新たな幻覚かと落ち着こうとしたその時、目の前には2m強のふざけたピエロの格好をした奴がいた。

戦う気も、抗う気も起きなかった。

自分がどれほどこの『魔片』を使ってステータスをチートしようと、こいつには勝てない。

それほどに実力の差は明らか、こいつに勝つというのは真夜の海に飛び込んで全ての海水を蒸発させるようなものだ。

俺にはハナから無理だ、試そうとすら思わない、常識的に考えればそれくらいわかる。

だがそれと同時にこいつが『魔片』斡旋の親玉なこともすぐにわかった。

だからなのか、あえて反抗的に話し掛けた。

もしかしたらもっと純度の高い『魔片』をこいつからくすねられるかも知れない。


「俺になんのようだ?」

「いいね、その態度。諦めきれない…って感じかな♡

そう身構えるなよ、ウチの商品のお得意様にご挨拶をと思ってきただけだからさ。」


それからこの【パクリカ・レプリカ】という魔人の手下となった。

いつかこいつを倒して、或いは王国の連中に復讐するのもいいかもしれない。そんな考えが次第によぎる事が増えた。

だが、何にしても俺はまだ実力不足、コイツのもとでどこまでも強くならなくちゃいけない。





やがて部下ができて、いつしか本人も【パクリカ四天王】なんて呼ばれる頃には、彼は以前の優越感を取り戻し、すっかり復讐のことも、パクリカを倒そうなんてことも忘れて、『魔片』の礎となっていた。

しかし、今、このオークション会場二階観覧席で自分が持ち得なかった【光の加護】のスキル、王国が喉から手が出るほどに欲していたスキルを持ったやつがいる、その事実が竣成の嫉妬、怒りに火をつけ、沸々と彼に悔しいと思わせている。

(なんで、俺は選ばれてないってのに、あいつが…)

それまでの竣成と違い、彼は深呼吸し自分の隣に座る今は魔法による影響でほぼ意識のない天王寺という女が泰晴達の仲間であることをもう一度確認した。


(カードはこちらにある、切り方さえ間違えなければ、敵の本陣にノコノコ現れるような勇者ばかに俺が負けるはずがない、落ち着け。)


手にしていた錠剤形の『魔片』をガリッと噛み、飲み込んで泰晴達の奇襲を待つ。

やがて劇場内の電源が落ちた。暗転








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【2人の勇者の激突】



リアナという女性はどこまで信用できるんだ?

彼女の真意がどこにあるのか全く分からない、何故俺達に協力的なんだ?

けど俺は泰晴屋ガネリオ達みたいに頭がものすごいキレるってわけじゃない…、泰晴の判断を信じて俺がすべきことをしよう!



 胸中渦巻く疑念を抑え込み、ウーメルはリアナという謎の協力者が劇場のブレーカーを落とすのを待っていた。

【パクリカ四天王】二人と由貴が席から立ち上がったのは運良くオーディション参加者があらかた劇場を出た頃だった。

万が一参加者が彼らの味方につけば事態はさらに厄介だ、助かった。そう思ったのは泰晴もまた同じであった。


―劇場暗転―


砂縛さばく】泰晴は事前に自身の身体に薄く纏わせておいた砂を由貴達の席の近くに移動させ、さらにそれを由貴の体に纏わせ一気に自分達のいる2階席まで引っ張る。本来は敵をミイラのように包み捕縛する技なので、多少手荒ではあるが、今は緊急事態と泰晴は手加減せず。

砂塵さじん防壁ぼうへき】先の技で由貴が劇場前方から後方2階席の半分辺りまで来た所で泰晴は【パクリカ四天王】の周りに巨大な砂嵐を放つ。


が、【パクリカ四天王】のNo.1、竣成は泰晴の攻撃のタイミングがわかっていたかのように、泰晴の砂塵防壁が嵐になりきる前、旋風の時点で上方に高く飛び、二丁拳銃を構える。


【炎魔弾】竣成は二丁拳銃の照準をウーメルとリアナの足、急所に定めた。目的は二人から機動力を奪うことにのみ絞られている。

暗闇の中、不意打ちを受けたはずの竣成のあまりにも正確な動き、泰晴も負けじと上空へ跳躍し追撃を図るが、銃弾は全身を薄く砂に包まれた由貴よりも先にウーメルとリアナ目掛けて飛んでいく。

が、銃弾は何故かその弾道を90℃曲げて劇場の天井に埋もれるだけとなった。


「ちっ、マーカスか…」


憎々しげにそう吐き捨てる竣成。

泰晴にもウーメルにも何が起きたのかは分かっていなかったが、今はその事について考える暇はない。

由貴を受け取りリアナの先導で脱出経路を一目散に駆け始めるウーメル。

地下二階から地下一階までの一本道およそ30メートル、警備の誰もいなかった一本道の奥に突如先のオークションで司会をしていた【パクリカ四天王】ナンバー2の男が現れる。

黒スーツにノリの効いた白ワイシャツ、長身、やらし気なメガネに、ツーブロックから垂らされた前髪がかかる。

ウーメルはそのザ・嫌な2番手キャラの見た目にちょっとイラッとした。


「リアナさん、あの性格悪そうな奴に俺が突っ込んで一瞬の隙を作ります!由貴をお願いできますか!?」


焦るウーメル。

由貴の周りにあった砂は今泰晴の下へ少しずつ剥がれて飛んでいき、今は腕と腹回りに少し残っているだけだ。

今ほぼ無意識状態で、ウーメルに手を引っ張られてかろうじて走れている由貴は戦闘に参加させられない!

しかしリアナはウーメルではなく他の誰かにヒソヒソと話しかけている…。


「どうしますか?四天王ナンバー2ですが…。……。そうですか…、ではご武運をお祈りします。

ウーメルさん、そのまま天王寺さんの手を離さないでください!!」


ウーメルが一体何のことかと驚いていると彼女の胸元のコウモリのタトゥーがそこから飛び出してきて、【パクリカ四天王】ナンバー2に突っ込んでいく。リアナもまた援護と言わんばかりに、魔法でカラスの影を飛ばす。


「そんな弱々しい攻撃でこのわたくしを倒せるとでもお思いかぁっ!!??」


ナンバー2の男がその攻撃を弾き返そうとシャッフルステップを踏みながら魔法の衝撃波を放とうとする。

がその瞬間一直線に飛んでいくコウモリがガネリオに変身を解く。

魔導ローブに身を包み、細身だがガッチリとした体で魔法のステッキを握った僧侶ガネリオ、一瞬の怯みを見せるナンバー2、放たれた魔法の一撃【ファイアボルテックリング】、爆煙が通路に立ち籠める。


「ちっ、油断しました。まさか矮小なコウモリに化ける人間など居るはずがないと…、わたくしの失態です。まずは貴方を最速で片付け、彼等をじっくりと追い詰めるとしましょう。」


憎々しげにタラタラ話すナンバー2。


「そんな時間は無いはずだが?」


余裕のガネリオ。

しかし彼の額にはすでに脂汗が流れていた。




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―ナンバー2とガネリオを後にし地下一階から地上へ急ぎ向かうウーメル、由貴、リアナ―


「まさかガネリオがあんなところに隠れてるとはなっ!むっつりな野郎だ!

あんたも人が悪いな、先に言ってくれたら良かったのに!」


「緊急事態でしたし、実際事情を説明してる暇はありませんでしたから。」


「まぁ、たしかにな!

だがガネリオの奴は大丈夫なのか?まだ絶対安静中のはずじゃ…」


「はい、今は『大魔』と呼ばれる薬で()()()()()()()()()()()()()()して、なんとか立っているだけです

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