幻影魔法 かつての世界線
以下2話に渡って、ケプカプカがケントに見せた別の世界線での出来事です。
あまりにも長いです。
読まなくても大丈夫です。
ほぼ同じです。
【砂の勇者 砂崎泰晴】
どれほどの数の人間にこれから話すことをわかってもらえるだろうか?
道路脇、道端で恥知らずにも怯えている。
過ぎ去る足音が自分の為にやってくるのではないこと、それは悲しいことなのか、安堵したくなるようなことなのか、それすらもわからないでいた。
自分が誰かに手を差し伸べてもらえる程何かをしてみせたのか、
誰かに恐怖のどん底に貶められなくてはいけないほどの酷いことをしたのか、
何もわからない。
ある人はLはМと同じだという、ある人はМはNだという。
だから勝手にLはNだと思っている。
花を贈ることは愛で、愛は人を傷つける。
だから道端に咲くきれいな花の名前を、未だにどれも知らない。
→少しずつ花の名前を季節とともに覚えるのが
そういえば祖母は散歩をしていると、よく花や木の名前を呼んでは、「きれいに咲いたな」と褒めていた。
花を贈ることを墓前に手向けること、書いた文をくるめて渡すこと以外で知らなかったから、自分が愛について何も知らなかったことを気付かされた。
それで結局今もわからないで、ダラダラ日記にこうして文を書いている。
腕の上のしびれと、君のあんまり重くない頭の温もりと、なぜか二人で立ち向かう羽目になった社会から遠慮なしに押し付けられているような気のする無駄なストレス…
それはやはり高架線下の悲しげに張られた小さなテントの下で、その周りを車がお構いナシに、電車が遠慮深く、規則的無作為な順番で、けたたましく、権柄に私達を沈黙させようとしている。
もうなにかを堪えれるほど大人でも、我慢強くも、熱血な主人公でもない。
もうなにかを叫べるほど子供でも、素直でも、諦め悪いヒーローみたいなやつでもない。
君の隣にずっといて将来の事を考えられるほど器量の良い大人でも、紳士でも、まして正直者な少年でもない。
影の中、闇の中、植木の更に下の地中深くに眠っているほうがいい。
愛はそっちにあって、幸せな悲しみもそっちにあって、光も不幸も全部そっちにあって、勝手にそっちでそうしていてくれればいい、そんな風にさえ思えてきてしまう。
なんせ、車が通り過ぎるたびに、人々の声が聞こえだすたびに、もう覚えてもいない酷く愚かな自分が過去から現在までずっと犯し続けているツミが追っかけてくるような気分なのだから。
君を置いて僕は一人逃げてしまうだろう、さようならと書き残しもせずに、君の幸せは、きっとその逃げた先でも微妙に祈ってるだろう。
許せとも、ごめんとも書かないのは、そうすれば君が「御免被りてぇのはこっちの方だよ!」と豪胆に優しい嘘をつくことを知ってしまったからかもしれない。
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事故死、転生、王国から魔王討伐を言い渡される、なんとも異世界モノのテンプレパターンを見事に看破した俺、砂崎泰晴はこのフライドチキン共和王国の【異世界勇者召喚計画】とかいう大層な名前のついた計画の第103号として魔王討伐を命じられた。どうも先輩が百人以上も居るらしい、俺だけ異世界、かつ俺だけTUEEEEを国王との面会前に期待していた俺は正直残念に思ったが、まぁ王国も魔王討伐しなきゃ死人なりが出て国の運営が大変になんだから数呼べるなら呼ぶわな、仕方ない。
職種は勇者。何だそれは?って?、まぁ戦士みたいなもん。剣と盾でオールマイティに前中後衛をやりつつ、全体の指揮をやらなきゃならない。
召喚されてからの半年ほどは色んな訓練を王国騎士団から受ける。その間に他の召喚された"異世界人"とも顔見知っていく。後にパーティを組むことになる魔法使い、戦士、僧侶とはこの時に出会う。他にもビンセントやマーカスっていうすげぇ気の合う親友達ともこのとき辺りには既に顔見知りだった。
王国騎士団の訓練を半年間受けると実地訓練と言って今度は城近辺のクソ広い草原や洞窟やらの雑魚モンスターを討伐に行くことになる。もちろん騎士団の強ぇ人の同行付だけどさ。さっき言った後に仲間になる魔法使いは俺のすぐ後に呼ばれた、まぁいわゆる同期に当たる感じなんだけど、本番に弱いタイプでスライムやゴブリン退治にも一苦労って感じで今も早速目の前でゴブリンに襲われている。
えっ?俺はどうなのかって?
もちろん俺は皆の期待通り、基本攻撃力は戦士並、魔力は赤魔術士並、防御力はゴーレム並にも匹敵と、王国始まって以来二人目の有望株として非常に期待されてるわけだ。
だからこれからさっき言った魔法使いラナのサポートにさくっと入りながらイケメンポーズを決めるところ。
「必殺!五分五厘斬り!!」
シュバッ!!
5匹のゴブリンを斬り伏せ、ゴールドがチャリーン!いくらになったかは皆の予想通り…。
「おい、大丈夫かよ?演習で習ったろ、移動中に魔力を溜めて隙見せんなってよ!」
「う、うん、ごめん…」
「ごめんじゃなくてこういうときゃありがと、だろ?(キラーン)」
「そ、そうだよね…!!ありがと!!」
まぁこの物静かなドジっ娘に俺のみならず他の一緒に訓練を受けてる男子なんかは軒並み恋の魔法をかけられてる訳だが…、っとあぶねぇ、上官が草原の端のほうでしっかり見張ってら。
「おい、8時の方角からゴブリンの群れが接近している、油断せず迎撃せよ!!」
「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」
そうして総勢15名の王国に召喚された今期勇者軍見習いの俺達は無事実地訓練を終え、皆で共同生活してる王国の端のほーにあるプレハブ小屋よりはいくらかマシな木造簡易住居に帰って夕飯を頂く。今日の料理当番誰だっけ?
「おーい、今日の夕飯はなんぞや?」と厨を覗くと中には二人、天王寺とユーメルが恐らくは鍋うどんみたいなもんを作ってる。コンソメの匂いが香ばしい。
「今日はムキムキ剥き栗とカチゲーチゲの煮込み鍋うどんだよ、デザートはツヤツヤ八つ橋ね!」言ったのは天王寺。天王寺は学級委員とか風紀委員やってそうなザ優等生のおさげの眼鏡っ娘。
「なんだよタイセイ、つまみ食いはなしだぜ?」ウーメルは赤茶の髪の背が高いガタイの良い奴。元は東ヨーロッパ出身らしい。
そう、俺達は国籍人種ばらばらで集められてる。最初は戸惑ったけれど、同じ人間とこうして交流できるのは大学で国際コミュ専攻だった俺にはすげぇ楽しい。
「腹減ってんだよー、なんか手伝うことない?味見役とかさ。」
「もう少し待って、もうできるから。」
「じゃあフォークとか出しといてくれよ、俺の分の箸もな」ユーメルは日本オタクらしく、この世界に来てからというもの俺や天王寺、ラナに日本の文化の事をやたら聞いてくる(主にアニメ、それもFateと物語という典型だ)。食事も箸を練習して使うが上手に使えてるとこは見たことがない。
「あいよー。」
そうして皆で食卓を囲む。優しい会話の喧騒の中、一人鍋うどんをズルっズルッ言わせながらこの生活も後2ヶ月もすればおしまい何だよなーなんて考えていた。ここを出たら俺達はそれぞれギルドに登録を済ませ一人前の王国付き冒険者として各自やっていかなくちゃならない。別にそれではいさよならってわけじゃないが、何だか高校の卒業式を目前にしたうら寂しい感じは皆にあった。だからこういう皆でする夕飯とかの一つ一つにも何だか切なさが漂う。
それもあってか、食事を終え自室に戻ってベッドでダラダラしているとウーメルが部屋の扉をノックした。
「入っていいかー?」
「おう。」ユーメルが俺の座る簡易ベッドの前の椅子に座る。
「夕飯の鍋うどんめっちゃ美味かったよ。」
「そりゃどうも。けど下ごしらえとか指示出してくれたの全部天王寺なんだ。あいつすげぇよな、異世界の食材の調理方法なんて、元いた世界に比べりゃデタラメもいいとこなのに、図書室とか王室の給仕に聞きに行ったりして調べたりさ」
「まぁ、真面目だからなあいつ。治癒魔法士はパーティの食事や衛生面にも気を使うべきなんですって講義中に上官に言ってのけたときは正直うわ、出たって思ったよ。」
「あぁ、ありゃ確かに肝を冷やしたな。なんせあの上官なんかあったらすぐ「連帯責任っ!!」、で、俺等は外周に反省文だ。ま、結果的に上官も納得した様子で褒めてたけどよ。」
「お陰で俺等の次の代からは調理科目も必修だとよ。めんどくせ」
「何だタイセイ、お前、料理嫌いなのか?」
「俺は食う専門。ウーメルは前から料理してたのか?」
「あぁ、一人暮らしだったからな。つってもジャガイモとソーセージの焼き方さえ知ってりゃビール飲むには困んねぇんだけどよ。」
「さすが。」俺は眺めてただけの本を閉じる。
「あぁーあ、この共同生活も後2ヶ月で終わりか…」ユーメルは伸びをしながら背筋をポキポキ鳴らし、名残惜しそうに呟く。
「せっかく異世界に来て半年も訓練して外の世界の冒険お預け食らったんだ。外出たら絶対暴れてやる…!」
「お前らしいな、怖くはないのか?」ウーメルが少し真剣な表情をする。
「怖いって魔物とかか?今まで遭遇したのは比較的雑魚ばっかだったからな…」
「いや、それもあるが、死ぬ事…、とかさ。」
少し会話が足を止めた。この世界で勇者一行として呼ばれてもう一度、死は身近なものであると気付かされた。先に王国に召喚された先輩方が既に何人か亡くなっていること、モンスター達が自分達を殺す気で襲いかかってきていること、そういうのが死の輪郭を少しずつ、まるで綺麗に塗り絵をするときのように自分の頭の中心に向かってやってくる。それにこの異世界では死んだら教会で目覚めて「おぉ、勇者よ、死んでしまうとは情けない。」なんて神父か牧師に言われてやり直すシステムはない。
俺達は皆暗黙の了解で互いの前世のことや、死んだときのこともまた聞いたり話したりしない。思い出したくないやつもいるだろうし、本人が自分から喋る分にはそりゃいくらでもって聞くって感じだけど。だから、まぁこの半年でそれなりに互いの事を知って、少し踏み込んだ会話をしようとウーメルがしてくれてるのは全然嫌じゃない。けれど俺は前世の事も、死んだときのことも正直あまり思い出したくはない。
「いや、別に…。」
また会話が二の足を踏む。
「そっか…、俺はさ前世で結構不運な死に方してさ、こうやって生まれ変われたからにはなるべく楽しく長生きしたいんだ。この異世界もザMMORPGって感じで、ゲーオタの俺としては天国みたいな所もあるしさ。」
「そうだなー、初めて剣とか握ったときとかは俺もちょっと興奮した」
「ヤバい性癖のやつじゃんそれ!笑」
「うるせぇよ笑そういうことじゃねぇ!」
俺達は二人共暗然としたそれまでの会話を無かったことにするかのよう、努めて声の調子を明るくする。
丁度廊下をいつもいい歳して走り回ってる馬鹿二人コンビが「ふざっけんな!私のデザートのアイス返せ!!」「追いついてみろデーブ!」とバタバタさせていった。
「あいつらはいつもアレだな…。」
「それがジェシーとワッキーの良いところじゃんか」
俺は同意しかねる。
「なぁ、俺等もちょっと散歩しないか?」と二人が走ってった方を気にしながらウーメルはそういった。
「あれを散歩と呼ぶのか…?」
消灯まではまだ時間もあった、寝る前に気乗りしない本を読むくらいしか予定がなかった俺はウーメルと二人連れ立ってまだ少し冷える春前の夜の中を蹌踉と歩く。月が高い。しばらく歩いてからウーメルは言った。
「なぁ、俺とパーティを組まないか?」
この提案には別段驚きもしなかった。くどいようだが訓練も残す所後二月、早いやつらなんかはもうとっくにパーティ編成を決め終えて、実際の編隊なんかを考えてる奴等もいる。パーティメンバー探しなんて実際にギルドに行ってからでも良いんじゃないかなんてのんびり構えているのは俺くらいのもんだ。
「少し考えさせてくれ…」
俺がそれだけ言うと、ウーメルは立ち止まって俺の方をじっと見る。
「あのなぁ、一応俺は今期の成績順でお前に次ぐ2位の超優良物件なんだぜ?他の奴等はもうとっくにパーティ組んでる、勿論ギルドに行きゃ熟練のメンバーと組むこともお前ならできるんだろうが、口約束だけでもしといて損はないはずだ。」ごもっとも。
「俺はお前に対してそういうことはしたくない。」
ウーメルは押し黙ったように暫く何も言わなかった。そしてふと聞きにくそうなことを聞くかのように口を開く。
「もしかしてラナのこと気にしてんのか?」
俺は何も言えない。なんせ図星、彼女、先の魔法使いカナはあまりにもポンコツなため誰ともパーティを組めず、この様子では最初のスライム刈りに出かけた時に呆気なく捕食されるに違いない。けれど以前俺が何気なくパーティを組まないかと訪ねた時には足手まといになるからとやんわり断られてしまった。
「かーっ、お人好しだなお前は!!」
「前に一回誘ってみた時は断られてさ、でもまだパーティ組めてる様子もないし。」
「そりゃ、一応お前に気を遣ったんだろ。あいつ、ドベだし…。」
彼女は真面目に魔法の勉強なりなんなりしてるくせに、要領が悪く成績は俺等十五人の中でもドベ、いや下から2番目だったか…。とにかく!だからこそ余計にあの人見知りのおっちょこちょいは放っておけない。
「じゃあもし俺がカナを説得できたら3人でパーティを組むってのはどうだ?」
そうまでして俺とパーティを組みたがるウーメル…、もしかしてこいつ…、そっちか!?!?
俺はケツアナをヒュンとさせた。
ツヤツヤ八つ橋:コラーゲンたっぷりのライムスライム亜種であるライチスライムを材料に作られる。コラーゲンたっぷりで食べた後はお肌ツヤツヤに!!
ムキムキ剥き栗:秋に身をつけ、春前に殻を中の身がぱっくりシックスに割る栗。高タンパク低脂質のこのアイテムは食べると攻撃力アップ!
カチゲーチゲ:とにかく辛い難易度設定もこれを食べた後は燃えるように攻撃力がアップしクリア!
【第8期フライドチキン共和王国召喚勇者一行名簿】
*砂崎泰晴 砂の勇者、170cm,黒髪、短髪、浅黒肌
*ウーメル 真実の戦士、狂戦士、180cmないくらい、焦げ茶髪、兄さんキャラ、ソバカス
★逢坂由貴 怜悧だが堅物の白魔道士、160cmないくらい、学級委員系真面目っ子
★ガネリオ 猛進の僧侶、185cm、無口、のっぽ、眼鏡、引くほど潔癖症だがいいヤツ
✦シーナ 連れション奇襲隊長、155cm?
✦ホノラ 連れション切り込み隊長、155cm?
✦モーリー・アンナ 連れション追撃隊長、155だろ?
✦渡辺優杏 連れション駐屯部隊長、だから155cmぐらいだろ?
※石木佐 潤 凸るしかできない太刀使い、155cm,、凄い口下手だが凄い稀に凄い良いタイミングで凄い面白いことを言う。
★ミサミサ 宙に秒でとにかく浮く黒魔術師、150ちょい、めばちこで眼帯着けて喜んじゃうタイプ、おしゃべり
※ユーザック・マイケル 平凡なボウガン使い 170あるかないか、キャラがなさすぎてキャラ濃い奴らの中で逆に存在感を発揮するタイプ、基本いじるがちゃんといじられ役もこなすバランスタイプ
★ジェシー・ウィンストン 大食い女戦士、165cm、巨体、金髪、口悪い、がなんだかんだ最期にいいヤツ
※ワッキー 側溝の斥候、160cmないくらい、チビ、すばしっこくバカ、メガネを頭の上に乗せ探すバカ
※ケント・オルカ ド陰から脱却しない狙撃手 160cmぎりないくらい、ネクラ、イジられ要員、腕がありピンチの時に助けるがその後もう一回ピンチにぶち込まれる系の奴
*尾千羽カナ 落ち葉の治癒魔術師、150cm,ドジっ子眼鏡っ娘
並びは計十回における総合成績順、名前上部のマークは卒業前ギルドに提出された事前パーティメンバー申請に準ずる。
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【落ち葉の治癒魔術師 尾千羽カナ】
どうもーー!!こんにちはー!!!私は尾千羽カナといいます!元々は病院にいる日数が高校の登校日数より多いJKでしたが、うっかり死んでしまったらしくて、ここフライドチキン共和王国に召喚されましたー!!いぇーーい!!!
あ、もしかしてテンション高すぎましたか…?
ごめんなさい。
いやでもこれ仕方ないんですよ!!
だってあの異世界ですよ!異世界!!
凄いたまにお見舞いに来てくれる友達が貸してくれたラノベを読んで以来もうこういうのに凄い憧れてたんです私っ!!
だから気がついたら光る魔法陣の上にいて、王国の魔術師団の人に囲まれて、国王様と謁見?してるときもとにかくもう最高ー!!!!みたいな!
それで、なんか私より先に王国、あ、正確には共和王国なんですけど、に呼ばれた人が百人以上いて、そのうちの何人かがお亡くなりになってしまったらしくて、それ以来召喚された勇者一行の人は半年間訓練を受けることが義務付けられたらしいんです!
でもほら、私学校とかほとんど行ったことなかったので、訓練中の皆との共同生活とか凄い楽しくて、もう少女漫画に出てくる寮生活じゃん!!この世界!!みたいな!!!
ただ…、成績の方はですね…、一応一生懸命勉強するんですけど中々振るわなくてですね…、元々勉強とか苦手だっていうのもあるんですけど…、もう一人ワッキーっていう私よりバカな、今もジェシーと朝ご飯のデザートの黒ごまの目がついたフルーツポンチを取り合ってるバカがいるんですけど、彼とドベ争いを繰り広げてまして、まぁ生活はそんな感じです。
王国の人たちは私達に寄宿舎みたいなところの部屋を相部屋で使わしてくれてるんですけど、そのデザート取り合ってるジェシーとは同じ部屋で彼女は…、その…、デ…凄いふくよかっ!なので、よく夜中ベッドがミシミシして眠れません!
ちなみに今日は実地訓練といって、城の外まで行って皆でゴブリンを討伐するらしいんですけど、私以前授業で闘技場というところでモンスターと戦ったときスライムにボコボコにされたので、正直不安ですっ!!あの時は最悪でしたね、教官は鬼みたいなド畜生なので、私がスライムにまとわりつかれて薄い本みたいな事になってるのに普通に止めないんです、酷くないですかっ!?やらしい目で見てるとかでもなくなんか普通に手元の書類に評価値とかつけてるんですよっ!ギブっつってんのに!!助けろやぁァァァ!!!みたいな!!思いますよね!?普通思いますよね!?!?
「いやー、そしたら評価つけらんなくなんね?」
「てか、普通スライムにやられなくない?」
ワッキーとジェシーはなんか言ってますが、この二人も私とドベ争いを繰り広げる程の生粋の馬鹿です。行徳の俎です。
「いやいやいやいや、俺お前よりは全っ然実技マシだから?この前のテストはたまたまね?あんまりお前がドベ取りまくってて可哀想だから俺が仕方なく変わってやっただけね?」
「なにいってんだよ馬鹿、私はどうやったら斥候が自分で仕掛けた地雷自分で踏み抜いて3日間意識不明になんのか知りたいね」
「そ、そ、そうですよ!!大体私は教官から常に努力している姿が見受けられるってこの前の中間成績表に書いてもらいましたからーぁぁ!?」
「それはあれだな、要は全体的に才能がないってのをオブラートに言ったやつだな」
「なっ!?ジェシーこそ成績表なんて書かれてたんですかっ!?」
「私は実技訓練での耐久力と攻撃力には目覚ましいものがある、よく精進するようにだったかな?(キラーン)」
「すっげえオブラートにデブって言われてんじゃん…」
「だれがデブだこらチビハゲ頭、あぁんこらぁー???」
「なんだやんのか妖怪オーク姫さんよぉ!?」
「やれやれ、この二人に付き合ってるとバカが移りそうなので私はさっさと実地訓練の用意をしに部屋に戻るとします。」
「「一番バカなのお前だからっ!!!」」
そうして皆で教官に引きつられて[フィールド:草原]にくると、繁殖期のゴブリンの群れが潜む林の近く辺りに隊列を乱さずに向かいました。
頭の中では何度も覚えた呪文を反芻して、フォーメーションの確認を繰り返してました。
暫く歩いてると、チームリーダーで隊列の一番前を歩いてる泰晴さんが片手を上げて目標の数や位置を正確に把握して後ろの皆に伝えます。教官は手元の書類になにか書き込んでいます、きっとこれも実施訓練の採点に関わるのだと思います。
「では、各自戦闘準備。これは演習の扱いだが俺は指揮等一切手出しせん。死なないよう全力でゴブリンの殲滅に当たれ!」
「「「「「「「「「「「はっ!!!」」」」」」」」」」」
ゴブリン達が通るであろう少し開けた場所を囲むように皆で木の茂みなんかに隠れます。ワッキーは透過魔法何かを使ってうまく隠れています。どこかでまた教官が点数を点けてる音が聞こえてきそう…、やばっ、私もちゃんとしなきゃ…!!
私は杖を握る手に一層力を込めて、ゴブリンの群れを待ちます。
群れの半分ほどがその開けた場所まで来たところで切り込み隊長のジェシーとウーメル君がそれぞれ先制攻撃を仕掛けました。爆風が弾けて、多分今の一撃で敵の先遣隊のほとんどが壊滅したように思います。ウチの出番ないんじゃねコレ?
とかなんとか思いつつも本丸が突撃してくる可能性を考えてさらにその奥を見る私、二人共大槌に長槍と武器が派手で、攻撃魔法の効果も派手なので敵の姿視認しづらいですけどっ!!!
なんて言ってると私だけまた成績ビリになりかねないのでまずは予め予測していたゴブリンの回避位置に杖を向け後援の準備をします。勿論支援魔法なんかはもうとっくにかけてますよ!!当たり前じゃないですかっ!!
「おいっ!!!カナ!!!手前これ攻撃力下げる魔法じゃねぇか!!!!!」
へっ!?えぇぇぇぇぇぇぇ!?あれ?!?おかしいな!?私ちゃんと詠唱できてたよね!?!?よね!?!?あああああああああああやばいやばい、絶対今ので教官が私の減点を入れた!!!最悪っ!!!
先の一撃の威力に不満げなジェシーがなんか言ってます。
おい、笑ってんじゃねぇよワッキー!!どこにいるか知んねぇけどお前の笑い声聞こえてっからな!!!お前もそれで減点されちまぇええええ!!!
とにかく私は魔法弾を先程構えてた位置にぶっ放します!!おおおおぉぉりゃぁぁぁぁぁあ!!、
と、放った魔法弾は先の先制攻撃で慌てて私の予測地点にやってきたゴブリンの「手前」で大爆発しました。あれ?
「痛っでえぇぇぇぁぇえええ!!!!!」
と、透過魔法が解けて現れたのはワッキー。
「手前なにすんだこの野郎!!!」
「何すんだはこっちのセリフですよ!!!なんでそんなところにいるんですか!!!邪魔ですよ!!どいてくださいよ!!!お陰でせっかく狙い定めた魔法弾無駄打ちじゃないですかっ!!!!ゴブリン逃げちゃいますよっ!!!!!」
「馬鹿野郎、俺もそいつ狙ってたんだよ!!!」
なんて私達がバカな事やってる間に泰晴さんとウーメルさんが次から次へとゴブリンを刈っていきます。あぁ、これで私だけまたレベルが上がらない…うぅ…。
「ちょっ!二人共油断しない!!!」
私に襲いかかろうとしていたゴブリンをイケメンに倒してくれたのは治癒魔術師にも関わらず基礎戦闘もできる天王寺由貴さん、めっちゃ真面目でちょっと引くこともあるけどやっぱ優しー、この前上官が授業の後課題提出のこと忘れて部屋出てこうとしてた時にわざわざ課題のこと指摘したの根に持って2回舌打ちしてすいませんっ!!!!!!
「おい、まずいぞ、他にスライムとコボルトが何体かいる!!」
低いイケボで哨戒を告げたのは僧職のネリオラさん!やっべぇー、まじ声かっけぇ、耳が幸せだわー。
とか言ってる場合じゃないっ!!!えっ!?コボルト!?聞いてないんですけど!?!?
「任せろ、もう捉えてる。」
「念波魔法で私達皆にその旨を伝えてくれたのはできる陰キャ、ケントくん!!」
「おい!!誰ができる陰キャだ!!!聞こえてんぞっ!!」
あっ、しまった、間違って口に出しながら私も念波魔法同時に返しちゃってた…、き、気にしないでー‼汗
さて、眼の前の戦闘に集中しないと…、っと意識を再び研ぎ澄ませた時ケント君が撃ったスライムの飛沫が私の顔に張り付ガボガボガボっっ!!、!!
「ガボガボガボっ!!(ちょ!またこれかよっ!!!!!助けっ!!死ぬっ!!!!マジ死ぬっ!!!!)」
「ったく、何やってんだよ…、風魔法ウィンドブレイカー!!!」
そのスライムをウチを傷つける事なく吹き飛ばして、さらに襲いかかってきていたゴブリン二人を瞬殺してくれたのは我らがリーダー泰晴さん!!やっべー、いつもより3割増でイケメンだわ、うん。
「おい、大丈夫かよ?演習で習ったろ、移動中に魔力を溜めて隙見せんなってよ!」
やばい、めっちゃ怒られてる…。マジ反省だわ…、すんません。
「う、うん、ごめん…」
「ごめんじゃなくてこういうときはありがとだろ?」
ヤバいイケメンが過ぎる、怒ってても冷静にイケメンとか神かよ。私なんてただのラーメンつけ麺です、はい。何いってんだ私、本当すいません、反省してます。
「そ、そうだよね…!!ありがと!!」
泰晴さんはそっぽを向いてさっさとどっかへ行ってしまった、やばいなこれは、あれだ、私カンペキに足手まといと思われてるわこれは。
仕方がない、私もそろそろ本気を出させてもらうとしましょう!!!
ーそっから一切良いところのなかったカナがすごすごと夕飯の席についた場面ー
意気消沈の私はそれでも天王寺さんとウーメル君の作るちょーうまそーな匂いに惹かれて腹を鳴らしまくって食卓の席についていました。
ジ「おい、カナ手前今日のありゃどういうことだ!うちの数ある取り柄の一つの攻撃力が台無しだったじゃねぇか!お陰で今日全く見せ場なかったんだぞ!!どうしてくれんだー!!!八つ橋よこせ」
カ「ひぃぃぃ、ごめんなさぁぁい…!!!私ちゃんと詠唱できたと思ったんですけど…八つ橋あげませんよ、返してください」
ワ「おまけに味方に魔法弾ぶっ放すとはなんのつもりじゃい貴様!!!じゃあ俺が八つ橋貰う」
カ「ワッキーがあまりにチビで知能指数がゴブリンと一緒だから間違えちゃったんですよ!!!だから八つ橋はあげないですよ」
ワ「だっ、誰がチビでちのーしすーゴブリン並みのホブゴブリンだてめぇ!!!ふざけんなよ!!!俺の八つ橋を取るなジェシー」
カ「何勝手にホブゴブリンに進化させてちょっと上位種になろうとしてるんですかっ!!?!!?ワッキーなんてスライム以下の雑魚ですよ!ジェシーその八つ橋半分こしましょう」
ジ「そのスライムに危うく殺されそうになってたのは手前じゃねぇかカナ!チゲ鍋のつみれと交換だ」
カ「あれはケントが私の方にスライムの飛沫を飛ばすからいけないんですよ!!!!取引成立ですね」
ワ「いや、おれの八つ橋で取引してんじゃねぇよお前ら」
ケ「わかったわかった、俺の八つ橋やるから手打ってことで、今日のあれはマジすまん」
カ「珍しく私よりド陰キャの滅多に会話に交わらないケント君が会話に参入してきました。山彦でしょうか?」
ケ「いや、心の声ダダ漏れだからねっ!?!?後別に陰キャじゃないからね俺!?!?」
ジ「大体ド陰キャは皆そう言うよな」
ワ「だな」
カ「ですね」
ケ「いや、酷くないかお前らっ!?ぶっちゃけ今日一番戦闘で活躍してたの俺じゃん!?後衛の狙撃で討伐数3位だぜ!?!?」
カ「それまで思い思いに喋っていた一同はド陰キャのイキリ発言とも取れる痛々しい自慢にシーンとなった。」
ケ「だから心の回想口に出してんじゃねぇよっ!?!??後なんで皆一斉にシーンてなってるの!?合わせたの!?フラッシュモブなの!?」
ワ「泰晴とユーメルに敵わない3位ってのがまた悲壮だな。」
ジ「だな。」
カ「ですね。」
ケ「うるせぇよてめぇら!!くそ!お前らなんて大嫌いだっ!!!」
泰「おい、泣くなよケント、俺の白菜やるからさ」
ウ「そうだぞケント、元気出せ、凄いじゃないか3位なんて、ほら白菜」
ケ「白菜ばっかいらんわっ!!てめぇらいつも1位2位独占しやがって…!」
泰晴な「1位なんて上のリーグのドベとしてスタートラインきっただけに過ぎないのさ、はい白菜」
ウ「お前もそのうち万年2位の辛さもわかるさ、ほらもっかい白菜」
ケ「だからっ!!白菜ばっかいらねぇよ!!せめて白滝とかにしろよ!!それにしても!はっ、臭いなセリフがよっ!ドヤ」
しーん…。
ケ「もういい、嫌いだお前らも白菜も。」
泰晴さんにも、ユーメルさんにもイジられ倒して幸せ者のケント君は白菜のおばけになりましたとさ。
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【怜悧な白魔術師 逢坂由貴】
あぁ、憂鬱だ…。
私こと天王寺由貴はフライドチキン共和王国に召喚された転生者で以下略。
約9か月の同王国の訓練を終えて晴れて一人前の冒険者となる私達は今日皆で王立ギルドにその手続と登録をしに来ていた。
「おい見ろよカナのやつ、肩書き『残念な落ち葉の魔女』だとよ!あっはっは!残念っ!!」
「なっ!ワッキーこそなんてかいてあったんですか!?見せてくださいっ!?!?」
「ふっふっふ、俺はなソッコウの斥候だ!!どうやら登録水晶も俺の迅速な素早い動きの斥候ぶりを高く評価したらしいな!」
「なっ!?そんなワッキーに限ってそんな評価ありえませんよっ!!!!って、これ…、速攻じゃなくて側溝じゃないですか…、はぁ、びっくりして損した…。」
「ギャハハハ、馬鹿だこいつ、漢字の意味もわかんねぇとか」(ギフトカードには親切にも読み仮名が振ってある)
「そういうジェシーこそなんてかいてあったんだよっ!?!?」
「私か?…ちょっと待て、今刻印が終わるから」
ジェシーは石版の顔の口からカードを抜き取る。
「大食い…巨漢」
「「ぶわっはっはっはっはっ!!!!」」
「ぴっ、ぴったりじゃないですかジェシー!良かったですね、魔王を見事倒したあかつきにはこの通り名が後世まで伝えられますよ!!」
「そうだぞ、全く持ってこりゃ傑作だ!!!良かったな、もうこれギルドカードじゃなくて食券って読んだほうがいいんじゃねえの!?!?」
「ぶっ…、ぶっ殺す手前ら!!!!!」
「ド陰…」
既に登録を終えたバカ四人組(カナ、ジェシー、ワッキー、ケント)が向こうの方でキャイキャイやってる。
なんであんなテンション高いんあいつら…。
アホ四人組は一通りはしゃぎ終えると他の人のギルドカードの内容が気になって仕方ないらしいくて、わざわざ私が水晶に手をかざすのを待ってこっちをワクワクしながら見てくる。どうせコイツラの期待してる私のギルドカードの肩書きなんて大体予想がつく。どうせガリ勉とか真面目過ぎてつまんないとかそんなんやろ?
私は勉強しか取り柄がない感じの、いわゆるガリ勉とかって言われるタイプだってちゃんと自覚してる客観性をちゃんと持った人間やから今さら気にせぇへんけどな。ちなみに言っておくけど、一応中高の5年間はテニス部のエースで部長とかでもあったんよ。別に友達もいたし。
別に友達もいたんやけど、なぜか校則に則ってどう考えても一番正しく生きてるはずの私が、
なぜかチャラッチャラした風紀の一つも守れないアホどもの目の敵にされて、
なぜかそれはこの9ヶ月間の私以外の十五人の転生者との生活でも同じだった。
別に気にしてないけどね。友達もおったし。中学3年の時に告白した相手から、「ほら、由貴って真面目だからさ、なんか窮屈っていうか、俺なんかとは一緒にいても多分合わないよ」なんて言われたのも全っ然気にしてないから。今もギルドカードに『堅物の』とか余計な肩書き加えてくれた水晶にも全然怒ってないから。友達もおったし。
腹立たしいギルド登録を終えると今度はギルドの受付のお姉さんが詳しいギルドのシステムなんかについて説明をしてくれる。真面目に聞いてるやつなんてほとんどおらん。つーかケントとかいびきかいて寝てるし、ありえな。もちろん私は真面目に聞いてるし、重要事項はメモも取ってる。友達もおった。
それにしてもクエスト報告書って意外と細かく記入しなきゃいけないんやな、なんか驚き。以前ギルドを見学しにいったときには王立の、つまり私営のじゃないギルド"にも"関わらず、出入りしてたのは前の世界では渋谷とか原宿辺りにいそうなこれもくっそチャラい奴等ばっかやったのに。あんな見た目の奴らがこの報告書を真面目に書いてるとは思えへんねんけど。ま、私は当然書くけどね。
私と同じ様に部屋でギルドの受付嬢の話を聞いているのは私ともう一人、ウーメルという長身の男。こいつと、今話なんて全く聞かずに窓の外を見ている泰晴という男はなぜか実技のみならず学科もでき、私は成績順で三番手の煮え湯を何度も飲まされた。たまに学科でウーメルを抜いて2番になれたことはあったけれど、ついぞ泰晴の1位の座を奪えたことはなかった。しかも何が腹立つってこいつ大して真面目に授業も聞いてないくせに飄々とテストはできるところ。どうせ「いやー、テスト勉強俺全然してねぇわー」とか言いながら一ヶ月以上前から計画的にコツコツやってるタイプに違いないこいつは。そうそう、いたいた、そういう奴ウチの学校にも。マジで腹立つ。
けど、そんな奴より下の順位の自分が一番腹立つ。だから冒険者になったらクエストをこなして絶対見返してやると心に誓っている。見ていろ。
冒険者登録が終わると寮に私達は帰る。
共和王国は他にコンドーと言って事前に申し込みをしておけば格安で住める場所を訓練終了後の召喚者に提供してくれるらしい。
まぁ、引き換えに王立ギルドでの専属契約と斡旋クエストを定期的にこなさなければ行けないらしいけど。
既に先輩から聞いた話ではそれらの他にある小さな条件付も大したことはないらしいからそこに一先ず身の振り方がわかるまで移り住むのは最早伝統になりつつあるらしい。
だから8期は皆全員来月からここで生活する。ウーメルや、泰晴と私は成績が良かったので初年度の設備費とか家賃なんかは無料になるらしい。ラッキー。
寮とは違って、コンドーは今風の作りの建物で、寮が旧校舎ならこっちは新築の私立高校のちょっと金かけてあるプレハブって感じ。
キッチンも部屋もきれいやし、インテリアには観葉植物なんかも置かれて、LED電球の明かりが異世界に来ていきなりボロ校舎のあばら家みたいなところに突っ込まれた私の不安を少し取り除いてくれている。だって寮のトイレとか最早厠って呼んだ方がええんちゃうかって位に未だにボットン便所やったし…。
コンドーに未だに荷物を移し終えてない計画性の全くないカナの荷物運びを手伝いながら私は異世界に引っ越してきて、それも寮ぐらしでわずか半年あまりの間にどうやったらこんなに物が溜められるのかと理解不能な彼女の生態について考察していた。
「カナ、ちょっといいか」
「えぇっ!?今日中に荷物運び込まないとまたスアラン教官に反省文書かされるんだけど…」
「すぐ終わる。終わったら手伝ってやるから。」
「うん…、まぁ、ならいいけど」
中々現金なカナはそう言ってウーメルと寮の外の中庭へ向かった。
え、うちなんでこれ一人で他人の荷物運んでんの?
いや、別に珍しく真面目な顔でカナのこと呼びに来たウーメルとカナが何話すのかは全然気にはなってないけど、なんかおかしくない?
「召喚前には感じたことのない胸のもやもやを抱えながら、ちょっぴりの罪悪感をその横に置いて天王寺由貴は二人の会話を盗み聞きに中庭へ二人を追った…、って、あ゛っ、いでっ!!!俺ちょ、やめて由貴さん、冗談ですって、そんな少女の可憐な儚い恋心にズカズカ踏み込んだりしな、あ゛っ、いだっ、ちょ―」
「なんでお前がここにおんねん!ケント!!」
「違っ、たまたま通りかかって…!!?ちょ、まって由貴さん!?腕が曲がってはいけない方向に…、あ゛、やめてっ!未来の伝説のスナイパーの利き腕がッ!!!」
私は仕方ないのでケントの腕を逆さ十字にして背中に固定しながら連行しつつ二人の後を追った。
いや別に違うからねっ?
全然二人の会話とか気になってないからね?
ただちょっと二人の共通の友人として何話しすんのか気になって一応確認しに行くだけやからね?
「悪りぃな、実はさ俺とチーム組まないかと思ってよ…、カナまだパーティ組んでなかったろ?」
「………。」
「………。」見つめ合う二人。流れる沈黙。
「へっ!?いやいやいやいやいやいや、ナイナイナイない!!ないよ!無理だって!!絶対!!!!ないでしょ普通!?!?」
「んな拒絶されると確かに凹むわ。」
「いやっ、ちがっ、そうじゃなくてっ!!!!ウチ普通に成績ドベだし、絶対足引っ張るからウーメル君の!!」
「ん、まぁそう言うだろうと思ってたんだけどさ…」
「……。(否定はしてくれても良かったんだけどな、いや別に事実なんだけどさ…。)」
「……。(今のは否定すべきだったか…?)」
「いやほら俺泰晴と組もうって話しててさ、俺等二人共治癒魔法あんま上手くねぇから、ガチでカナみたいに治癒魔法使えるやつがパーティにいてくれるとすげぇ助かるんだわ。別に他に嫌な理由があるとかなら全然断ってくれても良いんだけど、もし俺等の足手まといになるのを気にしてるとかだけだったら、それはマジで違う。もしそうだったら考え直してほしいんだ。」
「えぇ…、っと、ねぇ?」
なんでコイツ疑問形なん?普通に成績ツートップの二人とグループハナから組めるとか、断るならその位置ウチと変われよ!!
「おおっと…、これは三角関係的なあれかっ…?!?!って、イデっ!!いでっえって!!」
ケントをオーク用の関節技練習の実験台に無意識のうちにしていたら少し力を入れすぎたらしく、そのケントの叫び声で私達が盗み聞きしてるのはあっさり二人にバレてしまった…。
「あん゛れっ!?なん゛にしてるだケントっ!?」
なんで山形弁?
「それに由貴さんまで…!!」
「「あはははは…」」
「やばい…、ケントとカナに近寄りすぎたせいで私もバカキャラの立ち回りになりかけてる…」
「おい天王寺、お前今心の声がっつりセリフにしてっからな?はっきり聞こえてっからな?」
「そうですよ!!ひどいですよっ由貴さんっ!!その心の声を実際言っちゃうの私のネタなのにっ!!!!」
「お前ら何やってんだよ…ったく、さっきの話聞いてたのか?」
「まぁ…、一応。ね、もしパーティに治癒魔法士が必要だっていうんならウチがカナの代わりに入ろうか?」
自分で言ってからしまったと気づいたがもう遅い…。
「お前はガネリオ達ともう組んでんだろ?今さらヘッドハンティングは気が引けるってもんだ…、それに泰晴の意見も聞かないと」
「そ、そやんなぁ…」
「姉さん、作戦失敗っすね(小声)、大丈夫っすよ(小声)、ウーメルに限ってカナ狙いは無いはず…ゴホハッ…!!」
対ゴブリン用殺人みぞおちを決めケントを黙らせる。だがこいつの言うことは一理ある。他の変な女がパーティに入るくらいならさっさとカナにパーティのその空席を埋めてもらったほうがよっぽど安心できる。
「ってことらしいしカナ!やっぱパーティ組ぃや!もしレベル気にしてるならウチ特訓付き合うからさ!」
「ってあの天王寺さんからも推薦が来たがどうするカナ?」
「え、えぇ…」
あぁ、もう!なんでコイツはこんなにいつも優柔不断なん!!?
「じゃあこういうのはどうだ、俺達と仮にパーティを組んで一度クエストを受けてみよう。それでだめだったらそれまで、だか一回はトライしてみる、どうだ?」
ウーメルは基本誰にでもこういう強要とか高圧的な態度を絶対にしない。先輩冒険者の話では隔離されたいわば無人島状態の異世界でつけあがる男とか無駄にマウントを取りたがる女子もいるらしいけど、幸いにも私等の代ではそういうのはいない。連れション軍団は相変わらずいるけど。
「じゃ、じゃあ、一回だけ?」
なんだその合コンでなし崩し的に持ち帰られる女みたいなセリフは、カナじゃなきゃ今すぐザキをぶっ放してるところだわ。
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【盲信の僧侶 ガネリオ】
俺はガネリオ。
早速だが一つ小噺をさせてもらいたい。これは一定の人間には共感される話だと思っている。
今朝の事だ。俺は朝起きて顔を洗って、歯磨きを済ませ、コーヒー用にお湯を沸かす。コポトポと豆を挽いて既にセットしてあるビーカーにお湯を注ぐ。朝はバナナとトーストかクッキー、これは新聞を読むのにどうしても糖分を摂っておいたほうが効率が良いからに過ぎず、決して自身の食の趣向を加えた献立ではない。
そして俺はコンドーの自室のベランダデッキで新聞を広げる。生前は都内32階建てのマンションに住んでいた俺のその28階の部屋のベランダが俺の定位置となっていたが。っとこれは自慢が過ぎたな失敬失敬。
このフライドチキン共和王国とかいうふざけた名前の異世界の王国には城のいくつかと大聖堂以外に目立って大きな建物はない。なーろっぱ等とケントやワッキーがはしゃいでいたが、確かに異国情緒、それも西ヨーロッパ中世期の全体的な外観は否めないその王国に呼ばれた俺達には昭和の旧校舎もいいところな寮が貸し与えられそこで生活している。まぁ、太宰や三島由紀夫なんかの大先生の時代の生活ぶりをより深く知るためには悪い経験だとは思っていないが…。ちなみに調べたところによると他の国ではもう少し機械的技術を取り入れた建物や生活水準が確立されているらしい。そのうち行ってみたいものだが、別に現状スマホもテレビも(それは時空間と電気の魔法で動いているらしいが)あるので今は考えないことにしている。
寮は三階建てで、一階の端にある食堂にはテラスがある。が俺はそこはあえて利用せず自室のある三階の共同作業部屋、家庭科室のようなところを主に使って朝の時間を過ごす。今こうしているみたいにな。
新聞は魔法烏と呼ばれる種族が配達している。一度明け方、薄明の中を黒と青の麻布のショルダーバッグを提げ、同じ真っ黒な翼のそれが空を飛び回りながら何匹も新聞を配達しているさまを見た時は少し感動を禁じ得なかったことを認めよう。ちなみに彼らは「まほー、まほー」と夕方に鳴くらしい。全く人をバカにしている。何せ俺は唯物論者で、現実主義者だからな。
さて本題に入ろう。俺は綺麗好きで、基本トイレットペーパーはきちんと三角に折れていなければ落ち着かない派の人間だが、この派閥の人間には共通の悩みがある。それは、
大の時トイレットペーパーを一度千切って使用したあと、次のトイレットペーパー切りづらくね?って話だ。
え、なんで?と思ったそこの君は是非とも俺の部屋には立ち入らないでほしい、どうせ風呂場のシャンプーとリンスのボトルの底がヌメヌメしていることだろう。
一応そんな汚部屋で暮らしている衛生観念のえの字もない君にも理由を説明しておくと、一度排泄物を拭き取った手でトイレットペーパーを押さえている上の蓋さわれなくね?と言うことだ。なんならその後ドアノブや蛇口の取っ手に触るのも躊躇われる。
そこで俺は画期的な解決策を考えついたのだ。
それはたった今その大を捻り出している最中に既に拭く用の紙を切って折りたたんで太ももの上にでも置いておくという技。
どうだ?素晴らしいだろう?
そう泰晴に一度話をしたら「糞みてぇな話だな。」と一言で片付けられてしまった。
さて話にウンではなくオチがついたところで、次にこの泰晴という男の話をしよう。この男は中々怜悧利発的で、成績は常に一番、見た目や話す素振りから恐らくまだ高校生位だと断定できるが俺はこいつに一度も学科も実技においても成績で勝ったことがない。
俺は自慢ではないが中高大と割と真面目に勉強したほうで、おまけにラクロスに関しては大学卒業後社会人になっても続けていたから体力にも自信がある。おっと、この異世界での授業に関して一体どういうものなのか説明をしておかなければ彼の凄さが伝わりにくいかもしれないな。
まずこの世界で中心となるのは魔力の顕現と、それに伴う技術的側面の向上だ。
例えば火炎属性を持つ『インフェルノ』というライブステージの火柱を自由に振り回すことのできる中距離型魔法を使おうとする。この際、その炎は流動体なのだから当然速度、密度、応力、流体に対する加速度、圧力、粘性率なんかを考えねばならないだろう。そこを綿密にすることは無駄な魔力の消費を減らすことに繋がり、それに準じてより効率的な戦いもできるようになる。無駄な魔力支出はそこまで魔力総量の多くない俺にとっては致命的になりかねないからだ。王国に仕えるいわゆる宮廷魔術師もこの辺をより感覚的、宇宙的に観測、研究しているのだが、当然こんな計算式を一々「火属性魔法『インフェルノ』!!」とか言いながら魔法陣に書き込むほど皆、俺含め野暮ではない。
が、しかし解らなければ使えないし例え使えてもいざという時に誤作動が発動して味方をバーベキューにしてみましたなんて話になっては困る訳だ。
よって俺は今日も異世界ニュートン流体のクラスを取っている訳だが、どうも泰晴や他の面々は少し話が違うらしい。(俺が希望している職種は僧侶で、これは当然の事ながら中後衛に当たる。戦闘時にも比較的時間をかけた魔法が使えることが多いため授業もそのカリキュラムに沿って構成されている。)
奴らはノリでその細かい部分まで微調整を効かせて魔法を扱うことができる。
俺は生前、いや今もゴリゴリの理系で理論派の為、頭で論理的に理解できなければ魔法が上手く発動しなかったりするらしい。一度ハナビエ・ストッキングス方程式について熱く食堂で語ったところ一同には「はぁ?」みたいな顔をされた。唯一カナだけは楽しそうに話を聞いていたが「あれだよね、ニュートンって地球はそれでも廻ってるの人だよね、ウチも知ってる!」と最後にご教授頂いた始末だ。それはガリレオだ。
さて、やはり話にりんごのようにオチがついたところでそろそろ授業に向かうとしよう。これを読んでる読者の諸君も高校物理がまさか戦闘用ロボットの右手に取り付けられた機関双銃の射出軌道にまで応用されていたり、神・光属性魔法がこの世界で量子揺らぎの理論確立に用いられようとしているなどといった話は聞きたくないだろうからな。
魔法弾:この異世界における最も基本的な攻撃手段で、一般的に3Dプリンターガン位の威力が出る。属性付与可。
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