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プロジェクト:異世界isekÆi  作者: 魔法烏新聞 幽玄会社
第二部 異世界勇者パーティーが全滅した件 後編
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第四十七話 ケプカプカの困却《こんきゃく》




   【陰の狙撃手スナイパー ケント・オルカ】



仰向けに目を覚ますと、そこは果ての見えない砂漠だった。

夜空には月が高く登って、あり得ないほど近くに感じた。

紺と紫のやけに明るい夜空が砂漠と同じ様に宇宙の端っこまでとばりを下ろしている。




「ここは…」




パクリカに殺されて、

それから大きな水晶の中に閉じ込められて、

暗い洞窟の様な場所をその中からぼんやりと見ていたような気もする。



咄嗟に体を動かそうとする。

けど体はなんか重いし、なんかチクチクジャリジャリし…

これ…、砂…?

筋肉痛と日焼けの何倍もの激痛とダルさを無理矢理振り切って体を起こすと、辺りの砂が自分を中心にくぼんでる。


蟻地獄!?


足をずって、その蟻地獄の中心部分からなんとか離れると、少し向こうに紺色に金の刺繍が乗った絨毯が浮いている。

絨毯は四方二十メートルはありそうな程馬鹿げて大きい。

その上にはマントを被った誰かが腰を屈めて何かやってる。すり鉢?




「おぉ、おぉ、お目覚めかいちんけな勇者様ぁああ、あれ?誰だオ前?」




声が頭上から降ってくる。

蒼白としたそいつの顔面は縦に五メートル位はありそうだった。

細い手足は天に電信柱のように伸びている。

蒲柳の体質という言葉がにわかに頭をよぎった。

彫りは深く、生クリームみたいなジャボが首元にフワフワして、碧の貴族服に身を包んでいる。



誰って…まずお前が誰だよっ!!!

喉がカラカラで声が出ない…。




「おいおい、【占術家ババア】!!!

確かここにはチンカス勇者が来る予定じゃなかったかァ!?!?

こいつはチンカスチンケちんちんチン毛勇者じゃねぇか!!!!!」




言い過ぎだろ。おい。

奇妙な、不気味な笑い声もやけに腹立つ!




「いやまぁ、なんでも良いんだがよ、うん、ホントに。まぁ、俺様はケプカプカとだけ名乗っておくか。魔界大公爵ケプカプカ様だ。好きな食べ物はジンジャークッキーとチェルシーだ。知ってるか?あの絶妙に甘いやつをよ?」




聞いてねぇし…

てか名乗るだけじゃねぇのかよ…とツッコみたいのは山々だけど、コイツ【魔人パクリカ・レプリカ】並みに強い…

ステータスの数値が欄外にまで伸びてる…

なんなら下手したらパクリカよりもヤバそう…。







「あれ、もう販売中止になったんじゃなかったっけ…」


「ぬぁっ!?ぬぁんだってぇぇ!?!?!?!?」







わざとらしいリアクション、両に伸びたダリみたいなヒゲの端が怒マークになっている。





「おいおういおい、そりゃ本当か?!?

おい!!!???

聞いたか【占術家ババァ】!?!!!??

俺様のお気に入りのお菓子がまーた販売中止だとよ!

かーーーっ!ったく、人間てのはつくづく嫌がらせの上手い連中だぜ、えぇ?おい、なあ?【占術家ババァ】聞いてるか!?」





さっきから恐らくは絨毯の真ん中にかがんでいるマントの奴に話しかけてる。

その隣にはあぐらをかいたラクダ…

なんなのコイツラ…





「うるさいのう、聞こえとるわ。沖縄がまーた反幕中心になっとんじゃろ?」


「そうそうそう、新政府軍のお偉いさんに手もみてもみ…ってちっぎゃあああーーーーーう!!!!!なーんも聞こえてねぇじゃねえか!ったく…」





ほんとになんなのコイツら…









「あ、おい上がれよ客人、茶ぐらい出してやらァ。この【占術家ババァ】は耳は遠くておまけにボケちまってるが茶だけは淹れるのうめぇんだよ。」


「んはぁ?君は冒険、巷はおちゃらけイェーイのウェーイ?」


「だーれもんなことた言ってねぇよ!さっさと茶ぁ淹れろバッバア!!!」









「あのー!!」と俺が声を上げようとするとケプカプカと名乗った奴は顔をゼロ距離に近づけてきた。








「おいおいおい、俺ぁ名乗ったよな?俺ぁあの魔界大公爵ケプカプカ様だと。

それは手前がチンケチンカスちんちんチン毛勇者だって事も、

今ここがどこだか、元の世界に帰るにはどうしたら良いか、

そもそもなぜ俺様が現実世界のお菓子の名前を知っているのかとそのちっちぇマカロンみてぇな脳みそで考えてることもお見通しだってことだ、わかるか?

ガっサガサの喉はそもそもあの水晶から手前のチンケな身体に似合わねぇ時空間魔法の影響で飛び出して、宇宙空間の狭間を数百年単位で彷徨っていたせいだ。

だから手前はまず茶が入るのを待つんだ、いいなぁ?」






俺は素直にわかったと頷いて意思表示をした。






「とは言ってもだ、茶が入るまではまだ時間がかかる。

そこで特別にこの俺様がお話し相手になってやらぁ、えぇ、おい。感謝しろよ?

なんたって俺様はあの泣く子もダマール魔界大公爵ケェプカプカ様ァだからなぁ!!!!ウヒエヒアハハハハ」

  



もういいよ、それは




「まぁ、聞けよチンケチンカスちんちんチン毛勇者。」




それ毎回言うの?




「俺ぁ、お前にほんのちょっぴり、師走しわす朝露あさつゆ程には期待してたんだぜ?」



無視された…



「なんせ俺はあのパクリカが大々だーーーーーっい嫌い!!!

お前とお前のくだらねぇヒヨヒっヨのお友達が少しでもあいつに嫌がらせをしてくれるのをそれはそれは期待していたのさ…」




仲間のことを言われるのはなんか腹立つけど、まぁいいや





「ところがだぁ、手前らがあんまりに弱ぇもんだからパクリカに見事に捕まっちまってよー…

皆ーんな仲良く『魔片』の材料になっちまったぁ…

情っさけねぇったらあーりゃしねぇ。」




言うなよ…

その事、悔いても悔いきれないんだ…

砂漠の地面より少し宙に浮いている絨毯。

ペルシャ絨毯の様な高級なカーペットの沈み込みがなぜか余計に悔しさを増長させた。










「茶が入ったぞ」







マントを被った老婆のしゃがれた声が辺りにシーンと響き渡った。

ティーカップにも絨毯と同じ様な綺麗な紋様が彫られている。

所々に翡翠と海面の光がキラリと反射した。

五メートルの顔よりもさらに長く、でかい腕で小さなティーカップを丁寧にそっとつまむケプカプカの所作はとても上品だけど、

量足りる…?

体の体積に少しも見合ってなくね…?



「馬っ鹿やろう!!

俺様はあの魔界大公爵ケェプカプカ様だぞっ!?

朝露の一滴ですら日が傾くまで味わう違いのわかる男さ、俺は。」



ケプカプカさんは小指を立てて、音も立てずティーカップを口に近づける。



「んん、まずまずだな、ババア。

こりゃブラッディローズマリーか?」


「ん?そじゃな」


「程よい苦味と、悲しいまでの酸味!

希死念慮の乗ったベッドの上はまさに断頭台が如く…、お友達の欷歔ききょが聞こえてきそうじゃねぇか?おい?」



俺は砂糖とミルクが欲しいな。



「ちっ、大人の味がわからねぇおこちゃまだな手前は、えぇ?

ま、いいや。

さ、茶飲んだらさっさと帰れよ勇者様。」



いや、お前が呼んだんだろ!








「はぁ~~〜〜?

俺様が?

お前みたいなチンケス勇者を?

わざわざ?

この場所に?

んな訳ねぇだろこのオタンチンパレオロガスがッ!!

ったく…」








なんだよそれ…

じゃあ俺はどうやってここに来たんだよ



「シランガナ」



イラッ!

じゃあどうやって帰んだよ?

ずっとここにいろってんの?

てか皆無事なの!?



「はー、ヤレヤレやれやれ、弱い上に注文上手と来たかこの勇者様は。はいはい」








ケプカプカさんは面倒臭そうにジャボから一本の彩管ふでを取り出して宙に何やら描いていく。

王国の授業で見た魔法陣の何倍も繊細で高度な術式だった。

その内容の表面さえわかりそうもない。




「そうそ、世の中にはな、教科書という言語じゃ読み解けないスバラシーイ物が腐るほどあるのさ。やんなるぜ、ホント。」







ムカつくやつだけれど、多分そこは同意。

まさか異世界が本当にあるなんて思っても見なかったし。

案外わかってるじゃん。







「おっと、俺様はお前みたいな物わかりの悪そうなチンカス大きらいだ。」



一言余計なやつだな。



「さて、なんでチンケチンカスちんちんチン毛勇者がこんなところに居るのか調べるとするか。

おい!【占術家バッバあ】!!!

ちょいと手を貸せ。」


「やれやれ、どっこいショウイチ」



古くね?



「えーっと、ふむふむ。成る程ナルホドなる歩道をてくてく。

つまりアレだな、お前は穴埋め要員っぽいな、うん。」



やめろ。コンパか。



「お友達から大事な大事な首飾りを託されたと、泣かせるじゃねぇか…グスンッ!!」


「あたしゃな~んにも間違っとらんかったな。よしよし。」


「おい!【占術家ババァ】!

この前息巻いて【羅針盤】打ち込んできたって言うから楽しみにしてたのに、こんなチンケチンカス…」



もういいって!!

普通にケントって呼んでくれよ!!!

狙撃手スナイパーとかさ!!!!



「…スリッパーがやって来たじゃねぇか!!!!」



誰がスリッパじゃボケ



「まぁ、そのお友達のおかげで他の皆はめでたくハッピーエンドってわけか…、はいはい。」



まって、それどうゆうこと?詳しく。



「あぁ?

お前に首飾りを渡したやつはパクリカのデブにとって厄介な相手だったんだよ、うん。

パクリカも他の世界線に影響が出るのを覚悟の上であいつを元の世界で生かさざるをえなかったって話だな。 

で、お前はその煽りを食って、今こうしてここに居ると。」



元の世界?

とにかく無事だったんだ!

ほ、他の皆は!?!?



「シランガナ」



は、腹立つー…

頼むよ!調べてくれよ!!

皆、大事な仲間なんだ!!



仲間ぬぁかま!!!!くぅー!!!!泣かせるやないかい、ええよええよ、おっちゃんが見たる見たる…」



コイツのツボってどこにあるんだ?



「まぁ、完全に救われたって話でもなさそうだな…、ま、そりゃそうかあのデブが生きてんだしよ。

いくつかの世界線では召喚もされねぇっぽいが…、うん。よし、じゃソユコトデ!」



待て待て待て、いきなりわからん単語をぶっこんでくるなよ。

なに、世界線ってことは平行世界があるの?



「あー、気にするな気にするな。

未だ魔坑智能の開発すら出来てねぇ人類に「宇宙と脳が無次元で繋がった」なんて説明俺様はしたかねぇ。

どのみちお前は元の世界で死ぬ確定だ。気にスンナ!

せいぜい次はパクリカに速攻殺されねぇよう尻尾巻いてネズミみたいに逃げるこったな。」



いや、さらっとエグいことを言うんじゃねぇよ

あと、魔坑智能…、無次元…、また異世界の用語…?



「いやー、俺様も人間に説明したことはねぇからなぁ…

無いものをあるものと同時に無限に数えて…、いやちげぇな

魔界の炭坑を片っ端からツルハシでトンテンカン店、新世界でちゃーしばいて…、いやちげぇな

いや、わからん、うん、わからねぇ」



諦めんなよ



「まぁ、まぁそう怒るなよ。

仕方ねぇから取り敢えず今は俺様と一緒に並爻へいこう世界の狭間でお茶することを特別に許可してやらァ!

じゃないとお前今度はあの先輩ウンカス勇者にもこき使われることになるぜ…、不憫だなぁ、おい…シクシク」



まて、誰だよ

先輩って事はなんか言ってたパクリカってやつの部下のこと?

それともまたなんかヤバイ奴?

できればごめん被りたいんだけど…



「まぁなー…

お前らが倒そうとしてた魔王連中ってのは手前ぇらが毎日あくせくレベル上げしてようやく20Lv.とかやってる内に、世界ギルド連盟が定めたレベル上限100Lv.の遥か上、1000万、下手すりゃ一億十億の域で世界を動かしてるからなぁー…」



はっ!?

やばくね!?

チートも良いところじゃん!

なんか俺にもないの!?

お前なんか強そうだし、くれよチート能力!



「ナンデ?」



むかっ!!!

だってそうでもなきゃ倒せないだろアイツ!!!!



「おいおいおい、しっかりしてくれよスリッパーよ…、頼むぜ。

ラノベの読み過ぎじゃねぇのか?

俺達は少なくとも数千年生きてきた魔族なんだぜ?

人間だったやつもいる、

お前らみてぇに元は勇者、冒険者のやつもいる。

天界のツルツルテンどもがチート能力を与えたところで、

手前ぇらの手の内なんざぜ~んぶバレてるっつーの。ブゥアッハッハッハ」



それって…

どうゆう…



「まぁ、いいや、見せたほうが早ぇえ。」



ケプカプカがまた絵筆を振り回しながら、音吐朗々《おんとろうろう》と詠唱を始める。

さっきまでと打って変わって、雄弁な語り口調、オペラみたい…

なんで普段あんな喋り方なんだろ…




夢幻泡影むげんほうよう追憶ついおくに汝の魂を呼び戻さん…

改悛かいしゆんに敷く忘却の纏綿てんめんさえ星とみとむその慈悲を…」

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