第四十三話 魔片王墓
Sランク冒険者パーティー【天穹の祓魔師】がフライドチキン共和王国に入国する少し前―
「いや、悪いね【心理療法士】。付き合っちゃってもらって♧」
「構わないですよ。元々研究成果をこの目で見てみたいというのはありましたから。」
【魔人パクリカ・レプリカ】と、
ミオナやジェシー、泰晴の担当カウンセラーが所属する診療所の院長である【心理療法士】と呼ばれる人物。
「あなたがこの異世界を留守にしていた最中、天界が転生者とかいう無知蒙昧の下衆に、あまつさえ本来禁じられた異常ステータスに能力を与えて呼び込み始めた時はどうなるかと思いましたが…
まぁ、結果としてより多くの『魔片』を精製する培養体に出来て本当に良かったですよ。
随分研究には時間と犠牲を伴いましたが…」
「その研究の甲斐あってこれだからね♧」
二人が居たのはフライドチキン共和王国の裏に存在する魔界の入口、茫漠とした砂漠。
そして、そこには高さ二百メートルはありそうなピラミッドが聳え立っていた。
『魔片』でてきたピラミッドの全ての石は、紺碧の空の元、真白に輝いている。
「それにしてもキログラム末端価格百万タイニーはくだらない『魔片』をよくもこれだけ集めれましたよね。」
「数多の転生者達を犠牲にね♤」
タイニーはこの異世界の一般的な通貨の一つであり、百万タイニーあれば半年以上は悠々自適な生活が送れるだろう。
そして今、【魔人パクリカ・レプリカ】と【心理療法士】の他にもう一人、
ピラミッドの内部に築かれた神殿の中央で血を吐きながら苦しそうに悶えているのは、これまで異世界の裏社会を牛耳ってきたはずの【魔片王】。
二人を憎々しく見上げながら【魔片王】が言った。
「裏切ったな…、パクリカ…、てめぇ…
ここは、魔界の入口…か…、コボハァッ(吐血)」
「裏切ったとは心外だな♢
むしろ裏切ったのは君が先だろう、魔片王カポネ・デル・ディアブロ。
いや、転生者の【平山健介】と呼んだ方がいいかい?
【魔片王】の名に相応しいこの墓を用意するのに一体いくら賭けたと思ってるんだ…
君の為に死んでいった幾人もの魔族、亜人族、そして後輩の転生者達に感謝するといい♡」
「あれ?彼転生者だったんですか?」
パクリカの発言に意外な表情をしてみせる【心理療法士】。
トンボメガネの高そうな金縁がギラと光っていた。
「知らなかったのかい?
彼は元々例の天界が飼い殺しにしている例のチーター君だよ。
当時北方中部にあったナギチム独立魔王国に居た魔王を殺してね、彼が持つ女神に貰った【星屑の欠片】とかいうアイテムから1文字取って【魔片王】の二つ名が付いたんだよ。
魔王を殺した後は天界も、東海岸も買収買収のハーレム三昧だからね。
魔人の俺も恐れ入るよ、全く。」
「中々楽しみがいのある人間ですね、じゃあ。」
「くそっ…!!
この俺にこんな事してただで済むと思うなよ…、ラプカ家が黙っちゃいねぇ!!
天界もだ!!
聖戦でもおっぱじめるつもりか?あぁ!?!?手前…ゴホッ(吐血)」
「そうだよ♢」
「はっ?」
パクリカのいたって真面目で、底のない深い目の闇に魔片王は恐怖した。
不運な事故、転生、
天界の女神に与えられたチートアイテム、
それを使って俺強エエェェの日々、
自分を羨ましがる仲間との冒険、
ついに倒した魔王、
そしてまた過ぎゆく日々。
やがて自分に近づいてきた誘惑、甘言
築いたハーレム、手を出した薬物、
人生2度目ならと挑戦した裏社会のマフィアのボスの座
手にした自分の組織、天界の使いを逆に誘惑し返す時の得も言えぬ優越感、
その全てが走馬灯のように脳裏をよぎる。
転生から三十年、チートアイテムが無くても自分は強い。
誰もが自分を恐れていた。
現実世界では絶対に入らなかった尊敬と畏怖の眼差し、上位数%の高みがもうすぐそこまで見えていた。
そしてその高みから自分は今見下されている。
その距離はこの先何があっても埋まらないだろう…
(最後にこんな風に悔しいと思ったのはいつだったろうか…
いつからだ…
いつからこんなに悪くなった…?
形勢逆転のチャンスさえもう見当たらない…)
粉々に砕けた【星屑の欠片】というアイテムを握り締めながら魔片王は悔し涙を零していた。
地に伏し、体のどこも寸分たりとも動かせない自分の涙を拭う【魔人パクリカ・レプリカ】の慈悲に満ちた手。
道端でミクシーをやるしかないかつての自分を心底憐れがるように…
「俺からすれば天界のおもちゃにされて満足している君達は可哀想で仕方がない。
欺瞞に満ちた君達の世界そのものが…ね。」
パクリカの目が何処か遠くを見ている。
自分なんてハナから相手にしてなかったかのような、そんな目だ。
「さて、まぁこれだけの魔片を消費するのに一体何千年かかるかはわからないが…
安心して楽しんでくれたまえ。
俺は自分の城に来客があったのでこれで失礼するよ。
じゃあな、魔片王♢」
寄り道、休憩、挫折
曲がりくねった人生の道が真っ直ぐに見える程遠い何処かで―




