第四十二話 【天穹の祓魔師】
【魔人パクリカ・レプリカ】が国王を殺害した日より実に1週間後―
「さて、と。ちゃちゃっとクエスト片付けますか…」
【名前】 アルベルト・ガンドロフ
【職業】 大剣使い
【ギルドランク】 A+
【攻撃力】 849
【守備力】 753
【魔力】 901
【体力】 675
【スキル】 一撃必殺Level4・忍耐Level4・魔力上昇Level3・神速Level3
アルベルトは面倒くさそうに言った。
背にかけてある大剣は【死水竜エルドラゴ・デ・アグア】の脊髄から造られている。
【死水竜エルドラゴ・デ・アグア】は危険度もSS級、
3パーティー合同で、まる半年掛けてようやく討伐出来た。
討伐後にはアディロルフ連邦王国国王より直々に褒賞も授与された程だ。
討伐モンスターの部位は誰がどこを貰うかで時に揉めたりもするが、一番のの功労賞ということで最もレア度の高い脊髄と紅黒玉はアルベルトが貰った。
そこから作られた大剣はアルベルトの自慢の剣だった。
当時Bランクだったアルベルトはこの大剣を武器に瞬く間にAランクに昇格し、今や巷では知らない者のいない若手Aランク、それも異世界ギルド連盟との専属契約を史上最年少で果たした冒険者として名を馳せている。
「あれ、アルベルトどうしたの、柄にもなくベテラン冒険者風吹かせちゃってさ」
【名前】 エメラルド・フリルド
【職業】 弓術士
【ギルドランク】 B+
【攻撃力】 654
【守備力】 458
【魔力】 832
【体力】 632
【スキル】 鳥の目Level4・射撃Level4・素早さ上昇Level4・神速Level4
エメラルドはそんなアルベルトの将来性を見抜いて、彼がまだAランクの時代にパーティーに誘った人物である。
エメラルドグリーンのラインの入った金髪を後ろでまとめ、ハイエルフの長い耳にはいくつもピアスを着けている。
周りからはこの二人は出来ているのではないかとまことしやかに噂されている。
エメラルドは真っ向から否定するが、アルベルトは満更にも思っていない。
彼女にはずる賢いところがある。
アルベルトは最初他の冒険者達とパーティーを組んでいたが、彼女が色々と噂を流したりして自分達のパーティーに引き込んだ。
だが見た目がいいのと、えっちな感じでギルドの冒険者達も最早仕方無しと勝手にさせている。
彼女もそれを気付いていて、ギルド併設のバーで金を払った記憶がないと豪語する事もしばしばである。
「エメラルド、いいか?俺はこう見えて意外とやる男だからな?」
「意外とヤれる男の間違いじゃなくて?
あんた、この前ギルドのDランクの娘にクエスト手伝う代わりにオフパ…」
「はいはい、あんたらどっちでも良いからとっとと準備してよ!」
【名前】 スーザン・フーリガン
【職業】 女戦士
【ギルドランク】 A+
【攻撃力】 821
【守備力】 865
【魔力】 652
【体力】 963
【スキル】 狂戦士Level3・追撃Level3・体力上昇Level4
二人のいつもの痴話喧嘩にストップを来たのはスーザン。
黒い肌の包む靭やかな筋肉と、キリリっとした鋭い眼光にギルドのM男達はあらぬ妄想を抱いていたりするとかしないとか…
トレードマークのコーンロウと、それに編み込まれた動物の鎖の骨は彼女の得意とする闇属性と召喚魔法の能力を爆上げしている。
ひっそりと王女様みたいないわゆる守ってあげたくなるような女性らしい女性像に憧れのある彼女は、
肉弾戦、武闘派、そういった肩書きに最近悩まされていたりもする。
エメラルドとはわりかし長い付き合いで、しかし自分のタイプの男性がいても大体エメラルドの方を好きになるので困っている。
「「はーいはい」」
「ハイは1回こっきり!!!!」
このアルベルト、エメラルドのやり取りをスーザンが諌めるのは何時ものことだ。
そのやり取りを眺めているのがこのパーティー最年長、炭鉱族のデューロである。
【名前】 デューロ
【職業】 斧使い
【ギルドランク】 A+
【攻撃力】 785
【守備力】 774
【魔力】 562
【体力】 1254
【スキル】 鉄壁Level3・異常耐性Level4・体力上昇Level4・不屈Level3
ご覧の通り圧倒的な壁役である。
長らくB級であったが、アルベルトに誘われパーティーを組み、すぐにAクラス入りを果たした。
他の冒険者たちやエメラルドなんかは最初万年B級と彼を馬鹿にしていたが、アルベルトだけは彼の経験豊富な知識、鍛冶職としての武具に精通した部分、なにより男らしさに惹かれ尊敬している。
週末はお気に入りの葉巻を咥えながら武具の手入れをし、夜になると行きつけの酒場でスコッチを嗜むナイスガイである。
そんな見た目とは裏腹に内面は非常に繊細で、ギルド冒険者に馬鹿にされていたことも気にしていたし、
そんな中アルベルトが自分を好いてくれているのを嬉しく思いながらもどうしていいかわからなかったりしている。
彼等四人が人気急上昇中のパーティー、【天穹の祓魔師】である。
厨二病をこじらせまくっているアルベルトがつけた。
そんな彼等は今回、異世界ギルド連盟より直々にクエスト依頼を受けている。
それはフライドチキン共和王国への潜入、内情調査。
クエスト難易度は潜入クエストにしては異例の星九つ。
全十段階で異世界ギルド連盟が定めた難易度の上から二番目に当たる。
一ヶ月前、アディロルフ連邦王国領内でフライドチキン共和王国騎士団第一隊が壊滅したとサンダース国王から連絡を受けていたアディロルフ連邦王国。
しかしそんなやり取りがあったにも関わらず、以降それに関する連絡は一切無かった。
サンダース国王は一度公の場に顔を出し、
王国機関も機能しているものの、
その後のサンダース国王の態度や様子がおかしいとアディロルフ連邦王国は異世界ギルド連盟に相談。
同連盟はこれを天界に報告。
結果【魔人パクリカ・レプリカ】、及び【魔片王】を監視していた天界の諜報部隊の報告もあり、今回のようなクエスト発注に至った。
天界が下界である異世界大陸に公式に干渉するのは実に百年ぶりの事であった…
「とはいっても相手はギルド連盟が第一級危険人物指定しているあの【魔人パクリカ・レプリカ】、油断はできないか。」
アルベルトは馬にまたがりながら、気を引き締め直す様に言った。
四人が乗っているのは天界より下賜された4匹の天馬、
勝利の白馬
神火の赤兎馬
飢饉の黒馬
殯の霊柩馬
である。
アディロルフ連邦王国からフライドチキン共和王国まで普通に歩いては半年以上かかる。
道中のモンスターや、野蛮な山賊等々もさることながら、地形的要因が大きい。
が、これらの馬は時に空を蹴り、不眠不休で三日三晩を走り抜くことも出来る。
「でも【魔人パクリカ・レプリカ】ってあの【魔片王】の部下でしょ?そんな強い奴には思えないんだけど!」
同じく馬の鞍を調整し直しながらエメラルドが聞いた。
「別に部下って訳じゃないでしょ。後【魔片王】はそれなりに基礎戦闘力も高いって私は聞いたけど。」
すでに馬にまたがって頬杖をつきながら二人を待っているスーザン。
「【魔片王】は例の転生者の一人だとわしは聞いたぞ。」
デューロもすでに支度を終えている。
「てか転生者って天界に呼び出されて別世界からくるんでしょ?なーんで魔界側に寝返ってんの?」
よっこいしょと馬にまたがりながらエメラルドがアルベルトに尋ねる。
「さあな。転生時に貰えるチート能力でヲタ陰キャが不良に目覚めちゃったんじゃないの」
よっと。と言いながらアルベルトも馬にまたがり準備を終えた。
「うわ痛ったー…」
エメラルドは心底嫌そうな顔をする。
「それより私はこのネーミングを変えたほうがいいと思うけどね。
魔王を倒した勇者は倒した時の武器を1字挟んで呼ばれてっけどさ、ややこしくないか?」
珍しくスーザンが先に進むより異論を唱えた。
彼女が言っているのはこう言うことだ。
異世界、魔界に散らばる魔王を倒した勇者はその後二つ名を授与される。
命名のし方は倒した武器を魔と王の間に挟む。
つまり剣で魔王を倒した勇者は後に【魔剣王】、
槍で魔王を倒した勇者は後に【魔槍王】と呼ばれる事になる。
無駄話もそこそこに一行は再びフライドチキン共和王国へと向かった。
【天穹の祓魔師】達はフライドチキン共和王国城壁の門番にギルド通行証を見せ、用意された場所に乗り込み、フライドチキン共和王国第三地区から一等地区まで走り抜けていく。
どこの王国とも変わらない対応、王国の人々の様子。
異世界ギルド連盟が危惧していたようなクーデターがあったとはとてもじゃないが思えない。
アルベルト達が王城に着くと、騎士団の兵士達が彼等を【謁見の間】へ通す。
アルベルトは一度顔だけは見たことのあるサンダース国王にしばしの滞在を許可する旨を伝えられた。
滞在目的は表向きはこの王国領にあるアンタレス迷宮の視察ということになっている。
しかしそこで【天穹の祓魔師】パーティーメンバー全員に緊張感が走る。
あまりにも城内の人の数が少なすぎるのである。
綺麗にされてはいるが、真新しい血の匂いを鼻の良いドゥーロは嗅ぎ取っていた。
「十や二十じゃきかんぞ…」
「あぁ、それに王城内の警備の数も少なすぎる。」
王城の客間に案内され、早速エメラルド、スーザンの二人は城内を調べ始めることしばし。
【謁見の間】の真下にあったのはいくつも並ぶ巨大な水晶と、その中に閉じ込められている数多の冒険者達…
それを見たスーザンが表情を曇らせる。
「これは…」
「連盟の言っていた異変の正体で間違いなさそうだね。」
「けど、一体誰が?サンダース国王の仕業か?」
「国王も操られているのかも…、人間にしては動き不自然だったし…」
エメラルドにはハイエルフという長寿ゆえの洞察が備わっている。
「こっちは恐らく新しく転生したって言ってた子達じゃない?」
エメラルドはいくつも並ぶ巨大水晶の最前列を指さす。
それは泰誠達十二人が昏睡、ほとんど植物状態でカプセルに入れられている姿だった。
体のあちこちから肉をえぐって飛び出している魔片結晶が痛々しい。
「不味いな、急性魔片中毒を起こしている…」
スーザンはケントと同じスキル【ステータス表示】を開いて確認した。
「多分彼等に大量の魔片を注入したのよ。」
「なんでったってそんな事…、拷問か?」
「ううん。多分彼等を培養にしてより多くの『魔片』を抽出するつもりじゃないかな…。
身体から結晶化した内部組織と魔素の結合体が飛び出してきてるし…」
エメラルドの声音は可哀想という悲哀に満ち満ちている。
『おいお前ら、連盟の言っていた最近登録された冒険者達がいたぞ。』
スーザンは急いで【思考無線】を使って他の二人に知らせた。
すぐにアルベルト、デューロも駆けつける。
「…まさか塩漬けにされてるとはな…
待ってろ、今この結晶ぶっ壊してやる!」
デューロは取り出した斧を思いっきりスイングして結晶に斬りかかる。
だが、結晶はかすり傷一つつかない。
「!?
なんじゃ、これは…
ただの結晶じゃないぞ。」
「落ち着けデューロ。アルベルト、どうにかならないか?」
魔片結晶のあまりの硬さに驚くデューロと、こういう時に機転の利くアルベルトに知恵を求めるスーザン。
「デューロが切れないとなると僕のでも難しいだろうね。
魔法で結晶化されているから、別の結晶化を解く魔法がないか調べてみよう。」
辺りを調べると、デスクの上には王立魔法大学研究所も真っ青の難解な魔法式が記された書物。
アディロルフの魔法大学院を卒業しているエメラルドでさえその内容は一目見ただけで人智を遥かに超えたものだと感じた。
「とにかくやってみてくれないか?コイツらまだ中毒化起こして日が浅いんだろ?」
同情か、優しさか。
冒険者になりたてと事前に情報を聞かされていたアルベルトが泰誠達の方を指差してエメラルドに言った。
「やれないことはないかもしれないけど…、本当に分からないの。そもそも言語も、体系もこの書物に載ってるのは私達のとは別物。かろうじて図解から推測が限界だし…」
「頼むよ、まだコイツラは間に合うかもしれないんだ!!」
アルベルトの悲痛な叫び。
およそ百を超える水晶の中に閉じ込められた冒険者、転生者達。
そのほとんどはもう手遅れであることをこの場にいた四人全員が何となく察していた。
アルベルトの懇願を受け、エメラルドは深緑石のついた杖で魔法陣を浮かび上がらせた。
「汝の幽世に縛られた魂よ、逢魔の讒言を跳ね除け、我の眩耀なる光の導きに従え。汝は…」
【回復解呪・特殊魔法:リペル・ザ・デビル】エメラルドは一番前のカプセルで昏睡状態の泰誠を魔法陣で包むと呪縛を解こうと試みる。
その隣ではスーザンがカプセルを開こうと機械のタッチパネルをいじっている。
プシューと物々しい音がして、透明のカプセルが開き、冷凍保存の様に安置されていた泰晴が崩れ落ちるように倒れ込む。
「おっと…」
慌てて泰誠を抱えるアルベルト。
エメラルドはちょっと腐っぽいなと思いながらも回復解呪魔法を続ける。
ある程度したところで泰誠が「うっ…」とうめき声を漏らした。
慌ててアルベルトが所持していたエリクサーを口に流し込む。
「とんでもない生命力じゃな…」
デューロもたまげたように驚く。
「結構…、はぁはぁ、魔力使うねこれ……」
「あと十一人だ、急げよ。入口は魔法で開かないようにしてるがいつ見張りが来てもおかしくない。」
「容赦なー…」
疲労困憊のエメラルドにスーザンが叱咤を入れた。
続けてエメラルドが尾千羽カナに回復解呪の魔法をかけ始めた時だった。
地下施設の上の方から暗黒の垂れ幕がオーロラの様に降り始めた。
やがてその幕が上がっていく。
【天穹の祓魔師】全員が武器を構えた。
【魔人パクリカ・レプリカ】が嬉しそうに宙より四人を見下ろしている。
「おや、アンコールとは… 感極まるね♧」




