第三十九話 託された勇者からの願い
【陰の狙撃手 ケント・オルカ】
キャメル副団長強ぇぇえー…
泰晴の魔法【砂分身】で急所も外れて、浅めに入ったにも関わらず剣の突きの衝撃で内臓がくっそ揺れてるのがわかる…
気持ち悪っ…
と、その前に…
俺は泰晴と目を合わせて先にやっておくべき事をやった。
【魔法弾】を二人で連射して、とにかくキャメル副団長の体を木っ端微塵にしておく。
「こんだけ研究所とかでてくるとさ、やっぱゾンビ化とかありがちだしな」
泰晴の言葉に俺も頷く。
ゾンビ化は無かったとしても、実は死んだふりで後からグサッ!パターンはありえる。
念には念を、冒険小説にありがちなドンデン返しとかリアルだとマジで要らない、うん。
それにしても、これから上の階に登らなきゃいけない。
すりガラスなのかなんなのか、ここから天井上の様子が見えた。
【謁見の間】がなぜかそこにはあった。
キャメル副団長とバトって、脳内アドレナリンが出まくってるせいか、【魔人パクリカ・レプリカ】が控えてるとかいう絶望的なこの状況にもうなんにも思わなくなっていた。
多分前世百回生きても、今日の俺のMVPっぷりは越せないと思う。
でも多分…
それ以上は自分でも考える事も出来なかった。
勝てなくても、進むしかない。
ガネリオやウーメル、他の皆ヲ見殺しにするなんて出来ないから。
そう、決めたから。
急いで上の階に上り、そこからさらにエレベーターを使おうとしたとき、隣で泰晴が崩れ落ちた。
「泰晴!?!?!?」
「やべー…、勝てない相手にビビってんのかも、はは…」
冗談交じりの声で言う泰晴。
肩口からも、多分前にやられた時の傷も開いたのか、血がどくどく流れ出してる。
急いで自分の服を破って止血する。 くそ、ここ製薬所のくせに応急箱もないんだがっ!?!?!!!
止まれ!止まれ!止まれ!止まれ!!!!!!!!!
「悪ぃn…ゴボッ!!!!」
「喋るな泰晴!!!」
血を吐き出した泰晴…、内臓もやられてるのかよ…、くっそ…、血が止まんない…!!
「あのさ、これ…」
泰晴は綺麗な石が二つ銅線で囲われた首飾りを引きちぎって、血塗れの手でそれを俺に渡した。
「なんだよこれ!てか何のつもりだよ!喋んなって言ってんだろ!!」
くっそ!
もっと回復魔法ちゃんと勉強しとけばよかった!
天王寺やカナに頼りきりでほったらかしてさ!
てか、アイツこそ今何やってんだよ!!
泰晴がこんな時に!
死んじゃうかもしれない時に!!
くそっ!
くそっ!!
涙が…
涙が止まらない…!
なんで!
なんでだよ!!
勇者なんじゃなかったのかよ!
俺より全然強くて、いっつも成績一番で、天王寺も、ウーメルも、皆スゲェって言ってたのに!
なんでだよ!!!
「あのさ…、こんな事頼むのどうかと思うんだけどさ…、皆のこと救ってきて…」
泰晴がいつになく頼りないことでめちゃめちゃ不謹慎なことを言い出す。
やめろ!やめろ!やめろ!俺そんな柄じゃねぇよ!
今日はちょっとうまく言ったけどさ!
俺ただのゲーオタのニートだからさ!!
皆俺にすごい優しくしてくれて、
陰キャとかいじってばっかだったけど、
ご飯とか友達と食べたのも俺これが初めてだったんだぞ!!?!?
頼む、頼むよ!
一人じゃ、一人じゃ無理だ!!!
おい、目ぇ開けろよ泰晴!!!!泰晴!!!
泰晴が傷口を押さえる俺の手を握る。
ありえないくらい冷たくて、自分の涙の生温かいのが情けなくなる。
なんでだよ…
なんでだよ!!!!
くそっ!!!!!
俺は泰晴に託された首飾りを握りしめ、エレベーターを登る。
どこまでやれるか、はっきり言ってわからない。
体感は無理。
でも、やれるところまで、もし未来が決まってるのだとしても、もう諦めない。
ゲーオタになって、学校も行かなくなって、家族とも喋んなくなって、そんな俺を認めてくれた皆の為にも。
信じてくれた泰誠の為にも。
だからいつぞやの諦めきった顔してた俺。
力を貸して。
俺は前を向く、歩き出す、ちょっとずつでも走ってみる。
だからお前も諦めないで。
未来で逢おうよ。