第三十八話 左利きの勇者
【魔人パクリカ・レプリカ】の転移魔法発動より少し前、地下施設にて
【砂の勇者 砂崎泰晴】
果たしてどれだけ勝機があるんだろうか…
敵はこの王国で二番目に強い騎士。
対してこっちは期待の新人(病み上がり)と、
ヲタ上がりの初心者狙撃手。
まぁ、やれるだけやってみるか…
勝算が全くないわけじゃないし。
むしろ副団長を倒してからのほうが問題だ。
「どうしたー!!!かくれんぼかー?!?泰晴!ケント!!!全然本気で来てくれていいぞー!!!」
キャメル副団長が俺達を煽る。
舐めきってるな、それはそれで好都合だけど。
こちとらあんたの事ずっと調べてたんだ―
キャメル副団長を怪しんだのは確かこの王国に転生して二ヶ月も経たないくらいの時だった。
珍しくガネリオが嬉しそうに「理解者」を見つけたと言ってキャメル副団長の話を夕食時にしていた。
俺達の世界について随分色々詳しく知っていて、こっちの異世界との違いを明確に分かりやすく教えてくれたのだとか。
その時感じた違和感はそれ程大げさなものじゃなかった。
別に知らない世界の事を知りたくなるのは当然。
俺達だってこの異世界に魔法があると知って、勉強嫌いのワッキーやジェシーもなんだかんだ授業に出席してるし。
けど、こっちの異世界の人が俺達の世界のことを知りたがるのはどこか少し違和感があった。
ありがちな中世のナーロッパみたいな世界観をしてはいるけど、
この異世界にはスマホ・タブレットの代わりになる魔導水晶とか、
ゲームセンター顔負けのアーケードゲーム、
発展した科学を元に、それをさらに魔法と融合させて、はっきり言って俺達の世界とは比べ物にならないくらい文明は進歩している。
魔法の理論が学べるということは、
杖を振るだけで炎や光が飛び出す理屈が理論的に体系化されているという事。
つまりこの異世界の人達が俺達の知ってる科学技術なり文明を知りたいというのは、
俺達の世界で言う江戸時代の化学や算術を知りたがるのと同じ。
もちろん歴史の発展や、思ってもみない発想の為に知りたいのならわかる。
けれどキャメル副団長のはそれとは少し違った。
試しに俺が質問をしに行った時も、
俺達は何が好きで、
何を食べているのか、
どういう生活リズムを送っているのかとか、
まるで何かすでに知りたい事があって聞いてきているようなフシがあった。
そしてキャメル副団長の事を調べながら、巷で流れる噂を耳にした。
『この異世界に迷い込んだ人間を拝むとご利益が貰えるらしい』
『異世界人の骨や髪を煮て食べると魔力が上がるらしい』
そんなのがいくつも聞こえてくる。
どれもただの噂程度の迷信。
でも共通しているのは『異世界人』にはナニカ特別な力があるらしいということ。
病室で魔法烏新聞社のリアナさんの話を聞いて全ての辻褄が合った。
理由は分からないけど、こいつは、キャメル副団長は俺達『異世界人』の事を研究している。
が、こっちは研究材料になる気はサラサラない。
手の内を隠してるつもりかもしれないけれど、それなりにあんたの対策は考えてあるぜ副団長さん。
【砂属性魔法:惨砂鉄剣】
「ケント!!!カバー頼む!!!!」
俺はキャメル副団長に斬りかかりながら、ヒットアンドアウェイを繰り返し、その間にケントにキャメル副団長を倒す作戦を伝える。
キャメル副団長は意外と大技を使いたがる。
その後はインターバルが少し、狙うはその瞬間。
これだけの設備で流石に剣を振り回すわけにもいかないらしい。
動きも狭い。
いや、敢えてそう見せているのか…
ケントと目が合う。
『準備はいいな?』
『おけまる』
『よし行くぞ!』
【フライドチキン共和王国騎士団 副団長キャメル】
全く、ついこの間剣を握り始めたひよっこが本気で俺に勝てると思ってるのか?
舐めるのも大概にしろ。
確かに、砂崎泰晴は逸材だ。
王国始まって以来、前期の蓮大を凌ぐ高初期ステータスで、スキルも豊富で悪くはない。
だが、経験の差と言うやつを知らんのか、やれやれ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!!」
泰晴が気合いを入れて斬り掛かってはくるが、まだまだ構えも姿勢も荒削りで、洗練さが足りない。
惜しいな、この男をここで殺さねばならないのは。
だが、俺には俺でやるべきことがある。
【魔人パクリカ・レプリカ】の手下に成り下がってでも…、な。
さて、さっきから何やら二人で企んでるようだが、一体どんな小細工を仕掛けてくることやら。
【 黒犬 】は全匹やられたか…
少しはやるようだが…
【光属性魔法:天国への階段】愛刀『サンバースト』を視界両端まで振る。飛ぶ斬撃、光の剣閃、さてどうする?
【転移・砂属性魔法:砂上楼閣】俺の目の前に硬い砂の塔が一瞬立ちはだかり、剣撃を見事に止めてみせた。
同時に後ろから足音は消しているがケントが近づいてくるのがわかる。
まだまだ修行が足りんな…
少し、基本のキの字というものを教えてやるか。
【剣技第八型:刺突】俺は正面突きで後ろの銃を構えたケントの心臓を正確に貫く。
「よくやったが、まだまだ青いッ!!!!!!!!」
それでどうせ俺の剣技の隙を狙って先の砂の塔の後ろから泰晴が突っ込んでくるんだろう?
見え見えだ、古典的過ぎる。
挟み撃ちの場合、定石は弱い方を先にたたっ斬り、即座に腰の回転を使って反対側へ対応する。
俺は剣をケントから引き抜き、泰晴の方へ対袈裟を振るう。
本来使い所の少ない技だが、右利きの剣士にとって決まればこれは致命的。
剣も振れなくなるだろう。
少し手こずったが勝負アリ、正直もう少し期待していたが…
「この戦術も俺が教えたはずだァッ!!!!!!!!!!」
それにしても、さっきのはただの砂属性魔法じゃないな…
あらかじめ硬い岩盤、ダンジョンで魔力の影響を受け、異常に硬度の高い壁などにマーキングして、それを瞬時に発現させたのか。
高度な転移魔法、時空間魔法の応用に近い…
恐らくはアンタレス迷宮ですでに仕込んであったな、中々やるじゃないか。
だが持続時間は名前の通り一瞬だけのよ―
BANG BanG!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
刹那、キャットウォークから放たれた銃弾が俺のこめかみをかする。
どういうことだ!?
さっきケントの心臓は確かに貫いた筈だ…
まさか【砂分身】!?
本人はさっきのやり取りの間に上の階へ登っていたのか!?
確かに、ケントの適性は狙撃手だったな。
至近距離で詰めてくるかと思ったが…、どうやら間合いを取って上の階から狙ってきたな。
だが距離があり過ぎて避けるのは容易―
Gガシャ!!!!
今度は俺の後ろからショットガンのパンプアクションの音が聴こえる
どういうことだ!?!?!?
ケントはさっき上の階から狙撃を…
あれは…、ロボットアーム?
まさか遠隔操作で狙撃を…!!?
そして本人は相打ち覚悟で砂分身の中に隠れていたのか…!!!!!
くそっ、剣が泰晴の右肩に入…、かっ、くそっ、剣を振り切れな…
予め俺の【対袈裟】を予期し、砂で防御を固めていたのかッ!!!
BOoooom!!!!!!!!! !!【Benewli-GHT M4】!!
激しいショットガンの銃声が響く。
グ愚バアっハッっ…!!(吐血)
「舐めすぎだぜ、アンタ。俺は左利きだしな。」
【砂土岩属性魔法:時間転生石頭】
額に集中していく魔力…
くそっ…!!
ショットガンをモロに食らって反動で、受け身が…
まさか、
まさかこの俺がこんな若造共に―




