第三十七話 パクリカの家族
【大食い女戦士 ジェシー・ウィンストン】
目を覚ました時、そこは病室のベッドの上だった。
自分の頭の方には心電図があって、腕と足にはチューブが、呼吸器をつけているということは多分よっぽどヤバかったんだろうな…
私が意識を取り戻したのでナースの人が慌てて医者を呼びに行って、
それから意識の確認とか、
なんか色々あって、
しばらくは絶対安静ということだけはきつく言われた。
それにしても、あのデブは一体何だったんだ…
後日になって王国騎士団と心理療法士の人達がものものしい感じでやってくるまで、私はそいつの名前すら聞いたこと無かった。
【魔人パクリカ・レプリカ】、くっそ、人の事散々痛めつけてくれやがって…
嫁にいけなくなったらどうするんだ!!!
私の美貌が台無気になるところだったじゃないか!!!
そう冗談を自分に言い聞かせつつも、実際自分がどれだけひどい状況にあるのかは、見舞いに来てくれた人たちの反応をみれば何となく分かった。
1日ほとんど寝ている気がする。
なんだかただでさえよくわからないこの異世界で、こんだけ寝ていると、まるで全部本気で夢だったような気がしてくる。
魔法の杖も、
仲間の皆も、
あの事件も…
でもそれはそれでいいかもしれない。
どうせならお父さんが殺されてしまったのも夢だったことになんないかな…
そしたらまた二人でダラダラのんびり暮らすのにな…
しばらくしてようやく呼吸器が取れて、病院のご飯が全然っ足りない事に文句が言えるくらいになった時。
以前にも来たというカウンセラーの女の人が一人部屋にやってきた。
私はしばらくの間基本は面会謝絶だと聞いていたので、ようやく快方に向かっているのかと少し嬉しく思った。
ちなみにその人の事は全くもって覚えていない。
正直誰だよ…っていう。
「今日は疲れてるところごめんね。
ちょっとお話したいことがあってね。
楽な姿勢で聞いてくれていいからね。」
おばあちゃん特有の態度になんか困惑しながらも、差し入れにもらったフルーツゼリーが美味いので取り敢えずそれを片手に話を聞いてやる。
「実はね、私の家族についてあなたに話しておきたかったの。」
人んちの話かー…、興味ねぇな。
ま、いいや。ジュルゼリリュ
「私のおばあちゃんがね、
私のお母さんを身籠った頃に、
引っ越したての家の窓から見える公園に怪しげな人を見つけたの。
その人は顔を真っ白にドーランで塗りたくって、赤いタイツを着ていて、夕方毎日現れるんですって。
おばあちゃんはなんだか怖くなってその人を【LAPDOG】って呼ばれる自警団の人達に通報したの。」
ん、まて、そいつって…
「その通報された人はそのことが気に食わなかったのね。
ある日、おばあちゃんの夫、つまり私のおじいちゃんを仕事帰りに殺害した。
ご丁寧におばあちゃんの家から盗んだ電話機のコードで首を絞めてね。
それからおばあちゃんを誘拐すると自宅の地下室に監禁して、レイプと薬を使った洗脳を繰り返した。
おばあちゃんが心を壊すまで…
何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も…
何度もね。」
あの変態野郎ならありえるな…
てかあんたも大変だったんだな。
それであんたはカウンセラーになったのか。
さっきはあんたのこと誰だこいつとか思って悪かった。
だからゼリーもう一個食わせろ。
「でも通報された人の怒りはそれで収まらなかった。
小さかったおばあちゃんの娘、つまり私のお母さんはその事件の後施設に預けられるんだけど、
やがてその施設を出て、
素敵な人と巡り合って、
その人と新築の家を建てて、
お腹に私を身ごもるの。
それである日、
お母さんが窓の外を見ると、
家の前の公園のベンチにやっぱり怪しげな赤いタイツ顔面白塗りの男が居るんですって。
それで【LAPDOG】の人に連絡しようかと考えたら、
魔導水晶に旦那さんから着信があって、
『今から家の前の公園に来て欲しい』ってメッセージが来てた。
家の前の公園にカーディガンを羽織って出ると、
そこには自分のちっちゃい頃にそっくりな女の子と、
三人の男がいたそうよ。
一人は自分の旦那、
一人は怪しげなピエロ…、
最後の一人とその少女はシーソーをしていて、なんだかとてもその光景は懐かしい感じがしたらしいわ。
その人達こそ自分の最初の夫とその間にできた娘だとは今でも覚えてないらしいんだけどね。」
ん?
待てよ、なんで最初の旦那と結婚して子供出来たこと忘れてるんだよ?
「おばあちゃんと同じ手法でね。
うちの家系って用心深いというか、ちょっと神経質なところがあるみたいなの。
おばあちゃんも、お母さんも不審者とか見るとすぐに通報したくなっちゃうらしいのよね。
だから、お母さん2回同じ事を記憶を消されて繰り返す羽目になったの…」
…
「まぁ、お母さんが結婚した二人はそのピエロがおばあちゃんをレイプして産ませた子供だからどっちにしろって感じなんだけどね。」
…はっ!?
じゃあ、なに、お前のお母さんは洗脳、記憶消去されて、
異父兄弟二人と結婚して子供まで産んでたのかよっ!?
しかもその父親は人殺しのレイプ犯!
最悪じゃん…!
「私のお母さんは結局その後【魔人パクリカ・レプリカ】様に誘拐されて、
私を産んだ後、今では地下室を四つん這いで歩き回るだけの廃人になっちゃった…」
話がエグすぎて、自分がもうどこまで理解してるのかも怪しかった。
ただそれ以上に、この女が今あのクソピエロに様付けした事が気になってしょうがない。
「お母さん今では私のことすっかりわからなくなっちゃったんだけど、仕方ないよね。
だってパクリカ様に逆らうからじゃん、って思わない?」
女はとびっきり嫌な笑顔をした。
まずい、イカれてやがる。
確実にサイコパスだ。
そう思ってさっきからナースコールを押してるのに全然誰もこない!!!
それに、あれ、なんか腕に力が…
「安心して。殺しはしないから。
ただパクリカ様にあなたを王城まで連れてくるように命令されてるの。
ちゃんとお友達も連れて行くから心配しなくていいのよ。
今私の相方が、えっとミオナちゃん?と、
寄宿舎で病んじゃってるもう一人の子の所にも行ってるから。」
はっ!?
くそ!!ふざけんな!!!
てめぇカナやミオナに手ぇ出したらただじゃおかねぇか……
……
……
……
なんで…
口が…
動かな…
意識の最後に見えたのは私の点滴の中で趣味の悪いトランプが1枚溶け出している所だった。