第二話 【大食い女戦士 ジェシー・ウィンストン】
私の名前はジェシー・ウィンストン。
アメリカでごく普通に、ごく普通の量のご飯を食べて暮らしていた、これ以上無いくらいごく普通の体型の、ごく普通のアメリカンガールだ。
お父さんは典型的なヘロイン中毒で、お母さんはどこかでお父さんみたいな男に股を開いて金を稼いでると以前酔ったお父さんが言っていた。
9歳の頃に危うくお父さんの兄弟にレイプされそうになって、それ以来朝から晩までマーガリンを死ぬ程食べまくって来た。
叔父さん…、もといクソ野郎はそれでもたまに家に来て父に金をせびりがてら、まだ気持ちの悪い視線を私に向けて来る。
よっぽどモテないらしい。マザーフ〇〇カー。
そんな私を救ったのはニッポンという国の「ヤマンバギャル」という存在だった。
髪はすでにブロンドだし、後は派手な焦げ茶のメイクを塗るだけ。
イカツイ見た目に、大きな瞳、ネイルのストーンは魔除けにもぴったりな気がしたし、おまけにこの国では白人の私がそのメイクをするという事は結構グレーゾーンに当たる行為っぽくて、とうとう周りの人間はイカれきった私に関わるのをやめた。
私の勝ちだと、the GazettEと山PをMP3で聞きながらそう思った。
日本の文化にのめりだしたのはこの頃からだ。
お父さんはそんな私に意外と寛容だった。
そもそも薬以外にお父さんは基本何にも興味がない。
毎週末、白のホンダのシビックを運転して売人からヘロインを買って、後はリビングのソファでプリズン・ブレイクかCISを垂れ流しながら死んだみたいに寝てる。
私は洗い物と洗濯、ご飯の買い出しさえしておけば学校に行かなくても、成績が悪くても何も言われなかった。
学校の先生も保護者のいない三者面談でヤマンバメイクの私に苦笑いを向けながら困り果てていた。
でもそんな時間は私が中学を上る前に終わってしまった。
お父さんは弟の、さっき言ったクソ野郎に金を騙し取られて家賃を払えなくなって、まぁ、多分薬買いすぎたってのもあるんだろうけど、とにかく家を追い出されることになって…
それで二人で公園に停めた車で生活しながらいつまでもダラダラ過ごしてた。
それからは、私は車を留めてある公園から一番近い図書館に行ってファッション雑誌を読み漁ったり、
パソコンを使ってMDに音楽をダウンロードしては道端で小学生のガキンチョ共に売ってあげてお小遣いを稼いだり…
割と楽しく暮らしていた。
別に現実に期待なんてするもんかって
自分はいずれ母さんみたいな売女になるのか、
案外イケメンをゲットしていい奥さんになるのか、
料理の腕だけには自信があった。
そんなお父さんは誕生日とクリスマスの日だけはなぜか異常に優しかった。
プレゼントは流行りのタンブラーとかじゃないし、センスも微妙だったけど、一度として忘れたことは無いし、
まぁ、ウォールマートっていう大型スーパーの盗品かもしれなくて、値札とか付きっぱなしのダサ可愛い服だったりしたけど、
ご飯も食べたいものなんでも頼んでいいよってレストラン…、ファミレスだけど連れてってくれて、
あっ、一回「外でタバコ吸ってくるから5分したらそっと店から出ておいで」って言われたことあったな…
でも私が十四才になったクリスマス・イブの日、バッテリーがすぐに上がるから暖房も使えない車の後部座席で毛布にくるまってた私をお父さんは抱きしめてこういった。
「ちょっと出かけてくる。もしかしたら帰り遅くなるかもしれない、もし明日の朝までに俺が戻らなかったら助手席のアタッシュケースを開けてご覧。じゃ、いい子でな。メリークリスマス。」
眠気の吹き飛ぶくらい、嫌な予感がした。
結局朝まで眠れなかった。
それでも早寝しない悪い子に、悪いサンタクロースはプレゼントを残していった。
助手席のアタッシュケースには車の鍵と、欲しかったタンブラーと、ゴディバのホットチョコレートパウダー。
クリスマスカードにはメリークリスマス、字が震えている。
泣きながら、喜んだら良いのか、十四では車は運転できないと呆れればいいのか分からなかった。
車の鍵をしっかり閉めて、お湯を貰いに近くのガソリンスタンドへ走った。
ホットチョコレートにわくわくしながら、店員が眠たげにラジオを調整しているのをぼーっと見ていた。
「breaking news!! えー、昨夜午前0時頃オハイオ州シンシナティの高級住宅街で強盗事件がありました。犯人らは複数名いる模様で、現場に駆けつけた警官と強盗一味は激しい銃撃戦になり…」
年越しの街であがる花火を車の中で一人見つめながら、人生で初めて運転をした。
私はお父さんが、「これ俺も好きだな」といっていたラルクの「HEAVENS DRIVE」という曲を掛けながら高速を爆走する。
すでにフロントミラーはかたっぽがへし折れて、バンパーなんかどんだけ擦ったか分からない。
アクセルを踏みっぱにして、自分はいっそこのままF1ドライバー目指しでもしたほうがいいんじゃ無いかって考え出した頃、後ろのパトカーに気を取られて、前を見直した時には路側帯が目の前まで来ていた。
くっそ…、来世では絶対日本に生まれて女子高生やってやる…
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁいいああいうあいああああああああああああ」
気を取り戻した、夢から覚めた、いやどれとも違うな…
とにかく両手を顔の前で振り回しながら飛び起きた。
私をじっと見ながら玉座に座った白髪のおっさんがこっちを困惑してみている。
いや誰だよ…
くっそ、来世こそは日本にと死ぬ間際に言っておいたのに…
ジーザス、ちゃんと仕事しろよ!!!!
てかここどこ!?はっ!?城!?!?なんで!?!?
後に日本から転生してきたカナ、ケント、ワッキーに教わるまで私は異世界というジャンルを知らない。
確実にハリポタか指輪物語だと思っていた。
「わしの名はサンダース!!!!お主の名は!!!」
…、なんか日本語っぽい言語だけど多分日本語じゃないよな…
英語でもないし…、なんで私はわかるんだ?
悪いけどクリスマスにKFC食べる習慣ないんで、間に合ってます。てかもう新年だし。
そう言ってさっさとこの場を去ろうと立ち上がって周りを振り返ると、有無を言わさじと言った様子でガッツリ鎧を着込んだマッチョな衛兵たちが腹筋を見せびらかしながらこっちを見ている。
……。
成る程、体つきも悪くない。
これはあれだな、上手く行けば玉の輿が狙えるな…。
こうして私はこの日より【フライドチキン共和王国召喚勇者一行第8期】としてこの王国で玉の輿を狙う普通の女の子となったわけだ。
【砂崎泰晴】〘砂の勇者、黒髪、短髪、浅黒肌〙
【ガネリオ】 〘猛進の僧侶 無口、のっぽ、眼鏡、引くほど潔癖症だがいいヤツ〙
【天王寺由貴】 〘堅物の白魔道士、学級委員系真面目っ子、土日は合わせて十時間予習復習〙
【ウーメル】 〘真実の戦士、焦げ茶髪、兄さんキャラ、ソバカス〙
【ジェシー・ウィンストン】 〘大食い女戦士、巨体、金髪、口悪い、何にでもマヨネーズはあうと信じている〙
【浜須賀 栞】 〘召喚術師、いきものがかりとミセスグリーンアップルのファン、フェスも毎年一回は行きたいと思っている〙
【ミア・サウォラ・オジマン】 〘連れション切り込み隊長、最近アイプチが気になる〙
【シーナ・サファイア】 〘連れション奇襲隊長 ラジュ・デインとは姉妹〙
【ラジュ・サファイア】 〘連れション追撃隊長 サフォーラ・デインとは姉妹〙
【ワッキー】 〘側溝の斥候、チビ、すばしっこくバカ、メガネを頭の上に乗せ探すバカ〙
【ケント・オルカ】 〘陰に潜み続ける狙撃手、ネクラ、イジられ要員、腕がありピンチの時に助けるがその後もう一回ピンチを呼び込むタイプ〙
【尾千羽カナ】 〘落ち葉の治癒魔術師、ドジっ子と眼鏡っ娘属性を併せ持つ汎用性の高いキャラ〙
並びは第一回実技テストの成績順