第三十四話 地下施設にいたコウモリの正体
【 現実的反乱軍 】とウーメル達が襲撃作戦を決行する前日―
【猛進の僧侶 ガネリオ】
リアナという魔法烏新聞社の人の言ったことを鵜呑みにするのは難しかった。
彼女が言うには、
この王政内部には多数の裏切り者、つまり【魔人パクリカ・レプリカ】に加担する者が多数いる。
買収、寝返り、弱みを握られての保身の為や裏切り、様々な理由が王国と民衆を正しく導くはずの人々さえも闇へ落としてしまった。
そしてそれらの数が増えすぎた現状、同じく必ず内部にそれらを統括する人物がいるはず。
そして、それがキャメル副団長…
新聞記者のリアナさんが彼に近づいたのもそれが理由からだという。
にわかには信じられない…
あんなに全うにこの王国の事を考えている人に限ってまさか…
【白亜種】という謎の魔物の種が現れた時も、
天王寺達が攫われたときも、
いの一番に動いてくれたのはあの人だった。
だがそれらはリアナさんに言わせれば【魔人パクリカ・レプリカ】が考えている壮大な計画に支障が出るからにすぎないという…
そしてその計画もこの病室の窓から見える平和そうな王国には全く予想できないものだった。
「【魔人パクリカ・レプリカ】は王国家転覆を狙っています。これは確かな情報筋から聞いたので非常に信用性が高いかと…」
彼女が嘘を言っているとは思えない。
が、やはり信じられない。
どうしようかと考えあぐねていると、病室の扉がノックされた。
リアナさんと俺でキャメル副団長が聞いていたのかと身構える。
「その話、詳しく聞かせてくれよ。」
扉の向こうにいたのは泰晴だった。
「泰晴、もういいのか?」
「うん。てか体動かしてないとなまるからいい加減ジムくらい行かせてほしいんだけどさ」
やはりこの男は違うな。
と、感心してる場合じゃない。
どうしたものか、場所と日を改めて三人で話し合うべきか考えていたところ、丁度キャメル副団長から『急用が入った。リアナには先に帰ったと伝えておいてくれ』と連絡があった。
まるで何か歯車がものすごい勢いで仕掛けの為に動いているかのような感覚…
とにかくキャメル副団長からのメッセージをリアナさんに伝えると、彼女は脂汗をこめかみに垂らしながら俺と泰晴の顔を見ると深刻そうに言った。
「道中で詳しい説明をします。お二人共、ついてきていただけませんか?」
彼女の様子から、時は一刻を争う事を理解した俺と泰晴はとにかく彼女の言うことに従って王立病院を後にした。
まだ怪我は治りきっていない…
道中リアナさんは慣れた様子で病院の薬剤室から『大魔』と呼ばれるこの異世界の痛み止めを鮮やかに盗み、俺の傷口に塗布していく。
痛みが和らぐ。この際現実世界の倫理観等と御託は並べている場合じゃない。
「あくまで感覚を麻痺させる物で、傷を治すものではないことを覚えておいてください。」
リアナさんの言葉にしっかりと頷く。
病院の外で馬車を捕まえ、リアナさんが場所を指示する。
それは国境はずれにある一つの古い民家。
リアナさんによるとキャメル副団長もそこに向かったとの事らしいが…
馬車を国境先ギリギリまで走らせ、歩くことしばらく。
少し大げさすぎるほど広く庭をフェンスで囲った古民家が、荒野にぽつんと立っていた。
これが敵のアジト?
訝しげな思いと、もしやリアナさんに騙されているのかという疑念。
だが古民家の下にある巨大な製薬所を見た時、自分達が一体どれほどの相手を敵に回していたのかを理解した。
資本力、王政に根回しできるだけのコネクション、圧倒的な【魔人パクリカ・レプリカ】としての力…
果たして俺たちにどれだけの勝機があるというのだろうか…
俺は病室で覚えた【変身魔法】を使ってコウモリに化け、リアナさんと施設を探る。
そして当たり前のように【魔人パクリカ・レプリカ】と会話しているキャメル副団長…
信じたくはなかったが、会話の内容、目の前の光景、リアナさんの言ったことを信じるには十分すぎる。
それにしてもなんて馬鹿でかい地下施設だ…。
現実世界の技術じゃ中々こうもいかないだろう…
と、その理系心をくすぐる施設にしばし見惚れていると気になる物が自然と注意を惹く。
それは転生者達が幾人も閉じ込められた巨大な水晶塊が4、5。
恐らく歴代の転生者達のほとんどが【魔人パクリカ・レプリカ】に捕らえられているに違いない。
そして、その水晶塊の隣、鎖に繋がれた天王寺達がいた。
「リアナさん。攫われた仲間達四人があの水晶の近くに居るんですが、何とかできませんか。」
俺はさっきまでキャメル副団長と【魔人パクリカ・レプリカ】が会話していた部屋をこっそりと抜け出て集合場所で仲間を見つけたことを報告する。
「正直なところ、私は戦闘はからっきしです。この施設で四人もの人間を連れてキャメル副団長に見つからずに抜け出すのは難しいかと…」
現実的な判断だ。
無理に連れて帰ろうとすれば事態は余計に悪化するかもしれない…
どうするべきだろうか?
とにかく俺達は泰晴が到着するのを待つことにした。
それまでになるべく施設内の情報も集めながら。
脱出の際には天王寺達の手錠の鍵や、グロッキー状態を解く薬、脱出ルート等も必要になるし、リアナさんはリアナさんでこの全容を国民に知らせ、国王に直訴するための証拠がいる。
泰晴は途中で王城によって他の騎士団の応援を連れて今こっちに向かっていた。
リアナさんによれば王政だけでなく騎士団内部にも裏切り者が多数いるらしいが、第三部隊部隊長のマミという人とその部下だけは古い仲で信用が置けるという。
泰晴よりも地下施設に現れたのはウーメルとケントだった。
「一体なぜ彼等がここに?」という疑問は一旦は置いておく。
彼等に先ずは状況を説明し、泰晴の到着を待って救出をと慎重に翼を広げた瞬間だった。
ケントがおもっきり火炎放射器をキャメル副団長にぶっ放している。
あの男…
なんでこんな敵陣のど真ん中でそんな派手なことが出来るんだ…
だがぶっ放してしまったものは仕方がない。
とにかく天王寺達の方に走り出したウーメルの方へ飛んでいく。
「おい!ウーメル!」
「!?」
「俺だ!ガネリオだ!時間が無い!俺の言うことをしっかり聞いてくれ―」
一瞬戸惑っていたウーメルだったがさすがは泰晴に次ぐ2番手、喋るコウモリにも今さら長々とツッコミを入れたりはしない。
瞬時に状況を飲み込み、俺の伝える手錠の鍵の場所まで素早く移動してくれた。
そこまでに脱出ルートも確認する。
鍵とリアナさんが目星をつけていた気付け薬を手に入れ、天王寺達四人に手錠を外す。
気付け薬で返事位は出来るが、歩くのがやっとの彼女達を連れ唯一の地上へ続く階段の方へ一気に駆け出す。
泰晴が奇跡的に間に合い、キャメル副団長と交戦中のケントの助太刀にも入れた。
絶望的だったが、何とか脱出位は出来るかもしれない。
エレベーターに乗り込み、素早く操作する。
エレベーター横の機械の板に手のひらをかざすと一気に古民家まで上昇出来る。
そこまで行けばリアナさんと、恐らくは第三隊隊長のマミさんもいるはずだ。
エレベーター上部にある魔導水晶パネルの表示が地下二階、一階、そして零階と変わる。
零階…?
なんでそんな表記…、それに隣にあるこのスペードやダイヤのマーク、どっかで…
その時だった。
エレベーターがガコンッ!と地震に悪化のような揺れを起こし、地上階へと着く。
下で大爆発でも起きたのかと不安になったが、それよりも事態は最悪な状況にあるらしい。
エレベータの外に待ち受けていた景色は、俺達が最初に召喚された王城、【謁見の間】だった―




