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プロジェクト:異世界isekÆi  作者: 魔法烏新聞 幽玄会社
第二部 異世界勇者パーティーが全滅した件 後編
34/124

第三十話 マリアンナの告発

https://44557.mitemin.net/i915328/

挿絵(By みてみん)




   【側溝の斥候 ワッキー】





ウーメルはギリギリのところでダガーナイフを避けていた。

だが、ダガーナイフに括り付けられた魔法の細い鎖を引っ張ってマリアンヌがさらに突っ込んでくる。




「おい、マリアンヌやり過ぎんなよ!使う魔法を知りたいって言っただろ!」


「本気でやんなきゃ本番でどんな魔法の使い方するかなんて分かんねぇだろうが‼」


「それもそうか…」




納得したビンセントって人もどこからか魔法で愛器【薬杖バトルガートル】を取り出し、片手で構える。

いや、ちょ、おま!

こいつら強すぎじゃね?

斥候な出番とか無くね?

端で見学してていい?

マリアンヌって子のショートに切りそろえられた明るい金髪が後ろに靡きながら風を置き去りにしていた。




ってあっぶねー!!!!


   !!!!技秘!!!

 !!!!!!り反老海!!!!!!

!!!            !!!!!。



俺狙いだったのかよ…



彼女が追撃を止める様子はない…



【火炎属性魔法:両刃両刀火炎斬】チリチリと両のダガーナイフに魔力が籠り、燃え上がる。

【物理攻撃:spedup・一番槍】ウーメルが速度上昇のバフをかけ、その速さを持って素早く一突きを入れる。



俺はもう一人の方の様子も伺いつつ、隙を探る。



【物理魔法:彫刻魔弾】ケントも素早く応戦している。あれはこの前買ったハンドガンかな?

【防御魔法:クッシュクッション・魔法弾】ビンセントもまた慌てることなく吸収、沈浸性の高い魔法防壁を張りつつ、魔法弾のカウンターを打ち込む。




「オラオラオラオラアァッ!!!!!!」


「「「おい!!そのラッシュのセリフはずりぃだろっ!!」」」




思わず三人揃ってツッコんでしまった。

こっちをギッと睨むマリアンナさんまじ怖いんだが。



後方、長得物を構えたビンセント、ウーメルの事などお構いなしにマリアンヌは両のダガーナイフで連撃を浴びせる。

その小さな体躯にはやや似合わぬサイズ感の2本のダガーナイフ、どちらもそれぞれ重量感がある。

小柄な子の中大型武器はやっぱロマンがある…

って、んなこと言ってる場合じゃねぇ…



【フィールド魔法:砂塵】俺は辺りを素早く駆け回りながらトラップを張り巡らせつつケントとウーメルに有利になるようフィールドの視界を奪う砂塵を発生させていく。



一撃一撃、教官達の剣の一振りより遥かに重く、急所めがけ正確に振り抜かれてきた。

とは後にウーメルが語った彼女の攻撃の感想だ。



それを可能にするのはY字バランス、開脚185℃と人間離れした柔軟性を持つ彼女の獣人族亜人としてのフィジーク。

最高連撃数、1秒間に実に12を越える。

とは俺が調子に乗って付け足したコメントだ。



俺たちは少し緊張とワクワクを覚えていた。



【支援魔法:スーパーデューパーハイテンション】ウーメルが得意とする攻撃、防御のバフ。

【物理攻撃魔法:槍雨やりさめ】魔法のオーラを纏い、音速を超える槍の連撃!



いける!入った!!



多分俺もケントもそう思ったが、ビンセントは最小限の魔出力で綺麗な半球の防壁を造り出してそれを綺麗に力を受け流していた。

連撃の最中、相手の防御の硬さに痺れを切らしたウーメルの力みすぎた一撃をビンセントは見逃さなかった。

その縦突きでウーメルの重心がやや前にブレたのを利用して、魔導士らしからぬ突進と共に【薬杖バトルガートル】をフルスイングしながら魔法を打ち込むビンセント。



【状態異常魔法:クッシュクラッシュ】痺れ、麻痺属性が100%発生するビンセントイチオシの一撃にウーメルは一瞬動けない。



ビンセントはとどめを刺そうと【魔法弾】を放つ。

ちょっとやりすぎたか?みたいなビンセントの逡巡が視界に映る…

間に合うかっ!?

魔法弾の爆煙が去ると、ウーメルの目の前には俺の【防御・幻術魔法:幻影の盾】が発動していた。



あっぶねー…

危機一髪じゃん!

え、てか、俺かっこよくね?

卒業試験前から一人で何気に頑張って覚えた新技なんだが…

さりげなく一同をチラ見する…、あ、はい興味ないですよね、はいすいません。




「よし、そこまで!お前らの強さはよく分かった。」




土中に隠していた俺の【罠魔法:踏み抜いてはいけない過去の地雷】のお披露目の機会はこうして無くなった。

ビンセントが【薬杖バトルガートル】をさらに一振するとウーメルの状態異常も回復する。




「ワッキー、サンキューな。」

「貸しイチ!【飛竜肉ステーキ屋】の生シュッワしゅわ一杯で手を打つ!」




ウーメルは笑った。

俺は何気にこいつも人たらしだよなーと思う。




「攻撃相手に幻術を見せる防御魔法。

盾を構えたやつの勇気と覚悟な分だけ強固になる、確かBクラス魔法…

ワッキーつったな、悪くねぇ。

フィールド把握能力、仲間のヘルプに入れるくらい全体の状況も見てる。」


「あ、ども…。」




なんか真正面から褒められるとなんか恥ずい。




「あとウーメルも基本的には悪くねぇ、ギルドでいきゃあCランク位までは順当にいけるだろう。が、武器を扱いこなせてねぇ、恐らく固有能力がその武器と絡んでるからだろうが…。リスクが大きすぎてここぞというときじゃなきゃ使えないってところか。」




ビンセントという男はどこまで実力を隠しているのか…、手合わせした際の実力もさることながら、先の分析が全て図星であったことにウーメルは言葉を返せないほど驚いていた。




「まぁ俺も感覚でいえば長得物派、()()()奇襲()()()()()()()()()()稽古つけてやるよ。」


「是非にでも。」




“”今回の奇襲作戦後に命があれば“”

その言い回しに引っかかりを覚えざるを得ない。

もちろんそれは【魔人パクリカ・レプリカ】を前にした彼等の経験からは妥当な判断だとすぐに納得したとしても。




「おい、ウチにもなんかお褒めの言葉があるだろ?」


「突っ込みすぎだバカ、ちょっとは間合い取るとか覚えろよいい加減…。」


「ウチは褒めろって言ったんだよっ!!」




!!!ゴッ!!!!と、マントからのぞくガーターベルトをつけた脚でビンセントにモモカンを喰らわせるマリアンヌ。

趣味も悪くないと思ってたのは俺だけじゃなくケントもガン見していた。




「あれ、皆稽古は終わったの?」




またどこからともなく白魔導装束に身を包んだマーカスが飄々と現れる。




「今さっきな。三人共陽動としては申し分ない実力だ、明日は陽動班と第三作戦まで一緒に行動してもらう。」


()()()()()()()()()()()。」


「仕事が早くて助かる。」




慣れた二人のやり取りからは旧知の仲と言った様子が伺える。

なんかいいな、そのうちフィストバンプとかやりそう。




「さて、働かざるもの食うべからず、働いたならたらふく食うべ!!必ず!!ってことで、二人共夕飯食べてくでしょ?今日の献立ゲン担ぎの「カツ丼」なんだ!」




ウーメルと一緒に腹が鳴る。




「オーダー入りましたー!!」




ははっと笑ってマーカスはまた消えた。

恐らくはアジト内のキッチンへ向かったのだろう。

俺等はそのままシャワーを浴びる事になり、シャワー室に向かった。







 シャワーを浴びてテント内の大きな円卓につくと、すでに仕込みは終わっていて、君達のシャワー浴びるのを待っていましたと言わんばかりにマーカスが料理を順々に運んでくる。

キッチンから流れ込むその香ばしい匂いからマーカスの料理の腕が確かな事が分かる。




「はい!明日の為にもいっぱい食べて精を付けてね!おかわりもあるよ!」


【オークポークカツ丼】(活きの良いオークから取れたバラ、ミノに衣をつけ、コカトリスの濃厚で癖のある卵に漬け、ドライアドが集めた木樹油、オークの脂でしっかりと揚げたサクサクとろとろのカツを御飯の上に乗せて召し上がれ!!!えっ?ソース?まぁまぁ、まずは一度そのままご賞味あれ!!)




おぉ!!美味そう!!!

カレーの見た目は最高なので元のオークの顔は思い出さないようにする。

大事なことだ。

カレー食べてる時に便所の大の方を思い出せないくらい…って、やめとこ




「それで、【 現実的リアリスティック反乱軍アナーキスト 】の皆の具体的な作戦はあるのか?」




カレーをつつきながらウーメルが真面目な質問をする。

けど、なにせ異世界のヤーさん相手に襲撃するんだ、慎重に越したことはないな、うん。




「俺等は全員で八人、今偵察係で二人、残りの三人にはクエストに出てもらっている。」




やば、そんな一気に人の名前覚えらんねー…




「と、これは作戦の概要だ。」




ビンセントは魔導水晶スマホデバイスを取り出して俺達に作戦の概要が記された資料をくれた。

画面からホログラムで浮き出る【 マートファミリー 】の構成員の顔写真とプロフィール、魔片製造工場の大まかな見取り図が映し出される。

…。

…。

こんなん覚えられる訳が無い。

俺は適当にスワイプしたり、映し出されたホログラムに指を突っ込んで光(?)を遮ったりさせて遊んでいたが真面目なケントとウーメルが必死に読み込んでいるので恥ずかしくなってやめた。



それからケントはなんかテントの中のガラクタに興味があるみたいでビンセントにあれこれ聞いてる。

こんな俺でもゴミとわかるのの何が気になるんだろうか…




「ここにあるものってもらってっていいの?」


「ん、あー、まぁほとんどガラクタだからな。どうすんだそんなロボの右手だけ」


「いや…ちょっとさ―」




ほら、やっぱりガラクタ



【 現実的リアリスティック反乱軍アナーキスト 】のメンバーの誰かが修理したというリモコンで動く機械の腕をケントは興味津々にいじっている。

動作を確認してその兵器ロボの右手のパーツを頂戴することにしたらしいケント。

まぁロボは確かにちょっとロマンがあるけど、腕だけじゃな…



そうしていつの間にやら他の【 現実的リアリスティック反乱軍アナーキスト 】のメンバーも帰ってきて、俺達は新人歓迎会だと酒の席に無理やり同席させられることになった。

最初は楽しい感じで自己紹介なんかをしていたが、気がつけば酒も進み、【 現実的リアリスティック反乱軍アナーキスト 】のメンバーたちはこれまで溜まりに溜まっていた鬱憤を吐き散らかしだした。




「あぁ、王国が【魔人パクリカ・レプリカ】の奴らをもうちょっと真面目に取り締まってりゃ、

ウチら冒険者を飼い殺しにしようとしてなきゃ、

もっと早くここまでたどり着けたのになっ!!!!」




意味深なことを言うマリアンナさん。

小柄なのになんかどっかの女海賊船長みたいだ。

けどその声には怒気、苛立たしさ、やるせなさ、自身の無力感が詰まったようにも聞こえる。




「今更王国にそんなもの求めたってしょうがないだろ?」




誰かのその返しに皆何かを諦めたように頷いている。

がそれがマリアンナの怒りにさらに油を注ぐ結果となってしまった。




「だけどさ!

悪りぃのは全部アイツらじゃねぇかよ!

どいつもこいつも役に立たねぇ議会にふんぞり返るだけのゴミがよっ!!

王国騎士団だかなんだか知らねぇが、なめやがって…」


「おい、そのへんにしとけよ。」




マリアンナの激高をビンセントってやつが諌めた。




「けど!!!」




収まりきらなさそうなマリアンナの怒り。

俺はなんとなくマーカスの方をちらりと見やる。

平和主義っぽい彼ならこの場をどうにか収めてくれないかと思ったが、彼も同じ気持ちらしかった。




「俺、この世界に来てまだ1年にもならないから、できれば詳しく聞かせてほしい。」




状況を何となく察したウーメルがビンセントとマリアンヌ、そして残りのメンバーの方を見ながら言った。




「あぁ、いいぜ!教えてやるよ!」



マリアンナはここぞとばかりに口火を切った。

ウーメルの言葉を聞いてか、今回はビンセントも何も言わなかった。




「いいか、これまで王国に召喚された勇者の数はおよそ500人!

ある程度のクエストをこなせば自然と他国に向かうやつも出てくる!

けれどそのうち現在も王国に定期的に帰ってこれているやつは半分もいねぇ、半分だぞ!?半分!!

王国は彼らのほとんどをクエスト中の事故死で片付けてる、C級以上の身の振り方位わきまえてる冒険者が半分もクエスト中にうっかり事故死だぁ?んなわけねえだろうがっ!!

確実に王国は【魔人パクリカ・レプリカ】、あるいは魔界側と組んでウチら召喚された冒険者を消してる!


今回の魔片に関してだってそうだ!!

ウチが知ってるだけでも五十人強がこれ絡みで失踪、あるいは行方知れずになってる。

けど王国がその件で公式に発表している人数はたったの3人!うち一人は他国の奴だ!

魔片の成分解析も出来ねぇような無能な国お抱えの宮廷医療団連中にあげる賄賂で異世界からはるばる呼ばれた右も左もわからねぇかつてのウチ達みたいなののクエスト補助金が減額されて何回目だってんだよっ!?ふざけんなよっ!くそ!!」


「待ってくれよ、王国は俺達で8期目って、なんなら俺は104号って王国身分証にも書いてあるぜっ!?500人って…、そんな数…」




ウーメルはマリアンヌの言葉がにわかには信じられなそうだった。

俺も、ケントも。

てかマリアンナの言ったことの半分も理解できなかった。

こんな時に天王寺がいてくれたらとふと思ってしまった。




「そうだな、そうだな。

王国が今回の『勇者召喚計画』から数えてお前らは8期の100何番めかの勇者に当たるんだろうよっ!!!!

前回も、前々回の『勇者召喚計画』も含めて数えてたら数が増えすぎて呼ばれた側は召喚された瞬間から王国そのものを怪しんじまうもんな?!?!?

なんで呼ばれた勇者一行の数に対して、国内、王城内に残ってる勇者はこんなに少ないんですかって!!!!!

なんで召喚された彼らのほとんどが行方不明、事故死として王国ギルドに登録されてるんですかって!!!!!

呼ばれたてのナーンも知らないカッコウノヒナにそんな残酷な現実突きつけるわけにはいかないもんな!?!?

魔王なんて一度も死んでない、或いは死んでも楽しく生き返っちゃうふんぞり返ってるなんてなっ!!!!!!

毎回新しい実験で君が一番目だよって言っときゃあ、そうすりゃなーんにも疑問持たずに王国の言うことホイホイ聞いて、ましてやなんでどこの誰とも知らない奴のためにウチらが番号つけて管理されなきゃいけないんだろう?なんてすら思わねぇでいられるもんなぁ!?!?」




未だに話についていけない俺に隣に座ってるマーカスさんが小声で説明を入れてくれた。



このフライドチキン共和王国は十年程前から、俺たちの世界から転生者を召喚していたらしい。

その数五百強。

でも今残ってるのは五十もいない。

皆【魔人パクリカ・レプリカ】絡みで殺された。

けど王国はそれに関して対処しようとはしない。

俺達転生者にもその事を隠している。



せつめいぐう助かる。

えっ、てか王国闇深すぎじゃね?

この前の地下牢の拷問の件といい…

いやナーロッパって、中世ってそんなもんか?




「この異世界には毎年何千って数の転移、転生者等が現れる。

ここでもう一度やり直そう、ここでならもう一度やり直せるって。

それぞれ色んな夢や希望をいだいて。

そうしてあるものは素晴らしい仲間に巡り会えて冒険を、

あるものは前世の過ちを悔いてスローライフを、

そして僕らはたまたま不運な結末を迎えてしまった…、それだけだよ…。」



それだけ…。

最期にもう一度小さくマーカスさんは呟いた、自分に言い聞かせるように。




「もう寝よう、明日の朝すぐ出ないと。」そう言ってビンセントはもうチロチロとしか燃えない食卓の上のキャンドルの火を寂しそうにゆっくりと消した。その時なぜ彼の黒い魔導装束のマントの腕の部分の裾なんかが煤けたり焦げついたりしているのかを知った。








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