第二十八話 援軍ノ要請ヲ求ム
【陰の狙撃手 ケント・オルカ】
事態は最悪だった。
俺は、俺とワッキーはラッキーだったのかもしれない。
ゲームで序盤によくあるいわゆる負けイベントがこんなにも凄惨なものだなんて知らなかった。
泰晴達はよかった。
やっばりアイツは他と違う。
全治半年以上の大怪我を1ヶ月半が過ぎた頃には殆ど治しきったと言って、王立病院の屋上で筋トレを始める始末だったし、
ウーメルとワッキーの四人で天王寺を救出するために騎士団とは別に自分達で出来る事を話し合ったりもした。
あの日から三ヶ月、ガネリオやジェシーともついに面会できて、二人とも正直なところはわからないけれど元気そうにはしてたように思う。
打ち上げ会場を先に後にしたミオナ以外の女子たちは三人共行方不明で、今でも連絡がつかない。
ただ泰晴、ウーメル、副団長キャメルさん、ゴリハラ教官と話し合ってこの事は皆には伏せる事にしてある。
これ以上不安にさせないほうが良いだろうって話には俺も賛成だった。
特にカナは今でも部屋からでてこれなくて、食事も殆ど食べれてないらしい。
目にはすごいクマができていたとウーメルが言っていた。
俺とワッキーが見舞いに行った時は部屋に誰かが入ってくるのも嫌だったらしくて、「扉の前に立たないで!早くどっかへ言って!」と叫ばれてしまった。
お見舞いに買ったケーキをそっと扉の前に置いて立ち去ったけど、大丈夫かな…
とにかく今は情報を集めるしかできない。
【魔人パクリカ・レプリカ】
俺達が倒さなきゃいけない魔王の一人に仕える幹部の一人らしい…
泰晴達が七人がかりで戦って勝てなかった相手をどうやって倒せばいいのかなんてはっきり言ってわからない。
直接会ってなくても、アイツラの話を聞いただけでゾットする。
ギルドや王国の人に聞いて回った話でも、「とにかくやばい」以外の情報は殆ど手に入らなかった。
それだけ【魔人パクリカ・レプリカ】は慎重で狡猾とも言えるし、王国の誰も知る由のないくらい遥か雲の上の敵だとも言える。
それで情報集め以外他に何かできないかと考えてたら女性教官もしてくれていたマミさんという人に呼ばれた。
女の人の事は女の人が一番分かってる。何かカナを元気づけるのにいいアドバイスがもらえるかもしれないと思い、今その人との待ち合わせ場所に向かっている。
王城の馬溜まり、大きなメタセコイヤみたいな木の翳りがあるそこに
金と水色のメッシュの入った綺麗な白金の髪をポニーテールにして、
袈裟懸けタイプの防具とブーツを履いて、
ジョッキーみたいな姿のマミさんがいた。
マミさんはすごい若いのに騎士団の第三隊分隊長をやっている人だ。
すごい強いし、かわいいし、多分訓練後なのになんかいい匂いがする。
ウーメルの話じゃアンタレス迷宮でミノタウロスを一人で細切れにしたらしい。
「どうもです。」
「あっ、よく来てくれたね。」
「あのー、話って…」
俺はそもそも何で呼ばれたかもわかってなかった。
「うん。単刀直入に聞くね。由貴ちゃん捜索について何か進展はあった?」
「いえ…なにも。」
「そっか…。」
声が自然と沈んでしまう。
天王寺は無事だろうか…
「僕らも副団長に言われて諜報部隊のやつらと色々調べてるんだけど中々足取りが掴めなくてさ…」
言い忘れてたけどマミさんはこの見た目でボクっ娘だ。
とある性癖の人に紹介したら膝から崩れ落ちると思う。
「それでちょっと小耳に挟んだんだけ…」
「マミ第三隊分隊長殿!!!!」
マミさんが何かを言おうとしたその時血相を変えた兵士が慌ただしく駆け込んできた。
なにごと?
「どうしたんだい、そんなに慌てて…」
「キャメル副団長及び国王様から緊急招集との事です!」
「緊急招集…?」
このタイミングで、この異様な雰囲気。
マミさんだけじゃなく俺ですら何か嫌な予感を感じていた。
「ちょっとごめんね!」と言ってその兵士を連れてキャメル副団長の下へマミさんが向かったのをしっかり確認してから俺もその後に続いた。
こんな時に【思考無線】のスキルは便利だな。
国王がいる大きな広間の外で聞き耳とスキルを発動しながら何事かと探る。
「まさか…、第一隊が壊滅とはな…」
これは国王様の声だな…
てか第一隊が壊滅って…、確か騎士団団長が指揮する一番強い部隊なんじゃなかったっけ…
「魔法電報には「至急救援部隊求」としかありませんでしたから、まだ壊滅と決まったわけでは…」
頼りない声のコイツは宰相かなんかかな、国王様の取り巻きだろうな
「バカモノ!!!第一隊がその様なメッセージを送ってくる時点で事態は最悪を想定しておかなくてはならんのだ!!」
国王様は大変ご立腹の様子だ。
「それで!その後の対応はどうなっとる!?」
「はっ!すでに第一隊が遠征調査に向かっていたアディロルフ王国領アプマットには第四、第五部隊で編成した救援部隊を派遣しております。明後日の明け方までには到着予定かと。」
(魔法電報が届いてからすでに半日…
アディロルフ王国までの道中は中々に険しい。
必ず通らなければならない海路は現在クラーケンや海賊達が蔓延している。
だからこそ我が国最強の部隊であるジャガー団長率いる第一隊が使者として向かったが、しかしあのジャガーさんがやられるなど…)
キャメル副団長の声が暗澹としていく。
普段あんなに元気な人なのに…、よほどそのジャガー団長って人と中でもよかったのかな?
「襲撃者に関する情報の報告はあるのか?」
「いえ。今のところ襲撃者、及び壊滅原因についての連絡はありません。
現状は指名手配中のS級ギルド冒険者を中心に絞り込みを行っています。」
「わかった。作戦立案、救出、及び国内クーデーターの可能性の対処はお前に任せるキャメル。
それと外交問題以降の軍事も頭に入れておけ。」
「かしこまりました。」
外交問題…、いよいよ話のスケールがでかくなってきた…
それ以降はじいちゃんばあちゃんたちのその外交問題、つまり他国内で起きた事件についてどうするかを話し合ったりしていた。
キャメル副団長とマミ第三隊分隊長の心の声は仲間の安否を気にしているのに対して、
国のおえらいさんが自国利益だとか、出世のチャンスみたいな単語を脳内でちらつかせているのが少し心苦しかった。
それ以降は特に情報は得られそうになかったので、誰かにバレる前に俺は陰を走ってその場を後にした。
寄宿舎について一休みしようとすると魔導水晶にウーメルからメッセージが届いていた。
『言ってた奴ら見つけたっぽい。第三地区の端で待つ。』
奴らというのは俺達Bチームがラビュリントス遺跡で出会った謎の二人組の事だ。
ガネリオも認めるくらいはっきり言ってめちゃくちゃ強かったし、
なんだかキャメル副団長とも顔見知りだったっぽいし、
もし天王寺達を助けるなら強い助っ人がいると思ったから皆にその事を提案した。
ウーメルとワッキーもそれ以外頼れそうな相手もいないから案に乗ってくれた。
「最初二人はそんな怪しげな奴ら信用できるのか」って戸惑ってたけれど、とにかくキャメル副団長に彼等について何か知っているか聞きに行ったところ…
「なるほどな。案外それは妙案かもしれん。
奴らは第三地区の外、スラム街を主に活動拠点にしている、まぁ革命軍とでもいえばいいのか…
スラムの連中をまとめ上げ、実際国としては助かっている部分もあるから我々としても特別彼等は敵視してはいない。
君が会った二人はおそらく【薬杖の黒魔道士 ヴィンセント】と【多幸薬の被験者 マーカス】の二人だろう。
どちらもギルド登録冒険者Bランクで実力は申し分ないはずだ。
独自のコネがアンダーグラウンドにもある、むしろなぜ俺が思いつかなかったのか不思議なほど彼等は五人の捜索に適任者だな。
彼等が遺跡で何してなのかも気になる、存分に俺の名前を使ってくれて構わない。」
とお墨付きを貰ったのでここ二週間彼等の動向を探っていた。
スラムを拠点に活動する革命因子、こんな状況じゃなきゃ一番ワクワクする展開なんだけど…
それにしても、キャメル副団長には驚かされた。
ここ二週間、その【 現実的反乱軍 】と名乗っている彼等を探すのにキャメル副団長の名前を使いまくったけれど、どこでもこの名前を出せば顔パスみたいな感じだったから。
とにかく善は急がば回れでも急げの勢いで俺は支度をして集合場所に向かう。
第三地区の商業地区の終わり、店がだんだんと無くなってきて、ホームレスが増えだして、さらに外には真っさらな土地が広がっている。
この先を行けば廃棄場、廃棄工場、さらにその奥の群生林に彼等は居るらしい…
すでにウーメル、ワッキーは準備万端で俺のことを待っていた。
さて、どうなることやら…、あんまりおっかない人達じゃないといいんだけど…




