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プロジェクト:異世界isekÆi  作者: 魔法烏新聞 幽玄会社
第二部 異世界勇者パーティーが全滅した件 後編
30/124

第二十六話 ガネリオの憂慮

https://44557.mitemin.net/i915058/

挿絵(By みてみん)

  




   【猛進の僧侶 ガネリオ】




どうも、ガネリオだ。

案ずるな、別にこれからいつか図書館で見つけたエクスカリバー旅行記なる文献の話を始めて君ら読者を退屈させたりはしない。

だが、周知の通り俺達は今深刻な状況にある。



『卒業試験打ち上げ』のあとに遭遇した【魔人パクリカ・レプリカ】との戦闘で俺とジェシーは一時生死の境を彷徨っていた。

ほぼ二週間ぶりに目を覚まし、伝えられた惨状。

泰晴、ミオナは命に別状はないとのことらしいが、それでも全治半年以上の入院を余儀なくされている。

ウーメル、カナは寄宿舎コンドーには帰れたが、やはり精神、肉体に大きなダメージを負い、最低でも三ヶ月の自宅療養が言い渡されている。

特にカナは精神的なトラウマが酷いらしく、部屋から出てこれない日が何日も続いているらしい。

何より心配なのは【魔人パクリカ・レプリカ】に連れて行かれた天王寺だが…



王国創建記念日(くしくもパクリカと遭遇した日)から一ヶ月以上が経った今でも泰晴、ウーメル以外の面々は中々次の行動へ移せないでいる。

かく言う俺も手術後の半月以上は意識が戻らず、一ヶ月間は面会謝絶。

ニヶ月目にしてようやく泰晴達と会うことができた。

泰晴とウーメルはさすが成績トップ2なだけあって早速『パクリカ攻略』に向けて動き出していた。この前二人で面会に来てくれた時に、由貴奪還の為に策があること、その為に自分達がまず何をすべきかを教えてくれた。



あの日のことを思い出すと、今でもゾッとする。

仮にあの遭遇が仕組まれたものだとしたら、あれはケントやワッキー風に言うのなら完全なる負けイベントだ。

そして当面の間レベリングして全体ステータスを底上げでもしない限り俺達に勝ち目はない。

しかしだからといって由貴が攫われてしまってこのままほっとくわけにもいかない。



で、泰晴達と話しあった結果、まずは完治を最優先にしその間に集めれる限りの情報を集めようという流れになった。

もちろんこれが一番合理的で、これ以外に方法はないように思える。

その間にも二人が主導で様々な状況下でなるべくパクリカとの戦闘を避けつつ由貴を奪還する作戦を考えると言っていた。

そもそも泰晴は()()()()()()と俺よりも手ひどくやられたと聞いたが…、まぁ良い。



ベッドの上で未だ満足に体を動かせないことに歯がゆさを覚えながら、それでもできる限りの事は俺もしようと今日も朝からトマス・エーテルの魔導論文《glimore》を読み漁っている訳だが、今日はもう一つ期待できる事がある。

それは王国の騎士であり、俺達の専任教官でもあった【キャメル副団長】がお見舞いに来てくれるという事。

王国に長く仕えている彼ならば何か有益な情報、或いはそれに繋がる何かを知っているかもしれないし、奪還作戦についても意見を頂けるだろう。そして王国の由貴捜索についての何らかの進捗があるやもしれん。

そう、フライドチキン王国なんてふざけた名前をしてはいるが、一応自分達が召喚した勇者一行の一人が攫われたとあっては捜索部隊を動かしてくれる。



ただし、これにも一悶着があった。



というのも、王国としては自分達が召喚した勇者達が早々に魔人に連れ去られたとあっては王国としての威厳に関わる為、俺達に必要以上にこの事を口外しない交換条件で捜索部隊を組織したのだ。その捜索部隊というのもあまりにも小規模で、建前上は少数精鋭との事だが、果たして…

と、そうこう今の状況をまとめなおしているうちに俺の病院の個室の部屋がノックされた。




「入るぞー」

「あっ、はい!どうぞ!」

「中々元気そうじゃないか。全身管通って包帯ぐるぐる巻きを想像してたんだがな」




ハハッと笑いながら冗談を飛ばすキャメル副団長。この人なりに場の空気を和ませてくれようとしているのかもしれない。

口も態度も、授業では特に厳しい教官ではあるが悪い人では決してない。人相の悪い人だが、決して悪い人ではない。




「一時は本当にそんな感じでしたよ…笑」

「緊急手術、面会謝絶なんて聞いたときには肝を冷やしたぜ全く…、おっさっそくまたガリ勉やってんな?」




教官がベッドに備え付けてある机の上の論文を目ざとく見つけた。




「情報収集、潜伏等に使える良い魔法はないかと思いまして。」

「なるほどな、それでトマス・エーテルか。まぁ、彼は使役、変身魔法の権威でもあるからな。俺も何度か講義を拝聴したことがある。その理論は流石といったところだった。良かったら今度紹介状を出しておこう。」

「それは助かります。何分新米なもので、王国の学費無償を乱用する以外には取り立ててスキルが無いものですから。」

「はっはっは、相変わらずしたたかだなお前は。」




教官は俺が他の連中とは別で取っていた僧侶専用の講義を担当してくれていた、本人も元の役職はゴリゴリの僧侶だ。

俺のレポートも褒めてくれたことも何度もあるし、理解に及んでいない点があると容赦なく添削してくれる、本当に面倒見の良い教官だ。

生活指導も担当していらっしゃったのでワッキー達はこれでもかというくらい絞られていたが…。




「おっと、これは見舞いだ。」

フルーツが入った籠をドサリとそのレポートの隣に置くと、教官は手持ちナイフで器用に七色リンガの皮を剥き始めた。




「お前も無駄話は好きなタイプじゃないのを知ってるから早速だが、捜索に関する進捗からだ。」

話に無駄がないのも俺がこの教官に好感を抱いてるポイントの一つでもある。




「はい。」


「はっきり言って目立った成果はない。今マミにこれまでに確認されているアジトの場所から【魔人パクリカ・レプリカ】及びその部下の現在位置を割り出させているが、正直奴等はビジネス毎に人を集め、終われば報酬を支払ってそれきりにするタイプらしくこれもどのくらい時間がかかるかは分からない。」




マミさんというのは教官の直属の部下で、教官が最も信頼を置く潜入捜査等に特化して長けた人物であり、俺も一度お会いした時に足音が全くしなかったこと、最早存在感すら無かったことで逆に覚えている。

当初由貴捜索部隊は適当に集められた寄せ集めの王国騎士団で行われるところだったのを、教官自ら国王に進言して自分の部下を参加させ、指揮を執ってくれたらしい。




「一応ここ最近パクリカと一緒に居ることが多いとされている4人の手下を目標ターゲットにいくつかのアジトを周ったが、全てもぬけの殻だったそうだ。」


「そうですか…。いえ、ご尽力ありがとうございます。」


「礼には及ばない。王国騎士団としては当然の事だ。俺も面倒見てた奴の身の安全が分かるまではお前達と気持ちは同じだ。」


「はい。」


「それで、このままではラチが明かないと助っ人を頼んだ。」


「助っ人…、ですか?」


「あぁ、実は今日お前に会わせようと思ってここに連れてきている。入ってもらってもいいか?安心しろ、俺とも付き合いが長く、信頼の置けるやつだ。」


「え、えぇ、猫の手でも借りたいところですから、どなたであれご助力いただけるのであれば是非にでものところですが…」


「まぁ、本当に猫の手みたいなもんだが…、おい、入っていいぞ」




そう教官が扉の方に呼びかけると、入ってきたのは琥珀色のブラウスシャツで、モッフモフの猫耳がアクセントになっている女性。小さな羽も生えている。




「お発目にかかりますガネリオさん。リアナと申します。」


「はじめまして、ガネリオです。」


「ガネリオ、魔法烏まほうがらす新聞会社は知っているな?」


「えぇ、スマホ…、もとい魔法水晶デバイスよりも情報の鮮度も質もいいので毎朝購読させていただいてますが…」




むしろ光の字が紙面から浮き出て、海馬に直接情報をリンクさせながら送る仕組みを解明したさで買っているところもあるが…




「当社の商品をご贔屓にしていただいているようで、どうもありがとうございます。」




女性はやけに上品だ。種族は鳥系には違いないのだろうが、普段朝夕に「まほーまほー」鳴いてる配達用の魔法烏とは似ても似つかない。むしろ食う側じゃないのか…




「こいつらは世界各地に支社もある、いわば情報のスペシャリストだ。

諜報部員としてはこれ以上ないほどうってつけの人材の彼女に今回情報戦に参加して貰うことになってな。」


「なるほど。それは心強い。」


「私どもとしましても【魔人パクリカ・レプリカ】及び【魔片王】については長年追っている取材対象ですので、この機会はまたとないチャンスなのです。我々が飼育している魔法烏まほがらすであれば常にあらゆる場所へ発見のリスクを最小限に抑えながら諜報活動が可能だと自負しています。」




確かに彼女の言うことには一理ある。




「彼女達にはもうすでに動いてもらってる。というよりアジトのいくつかを発見したのは彼女達の功績だ。で、今回彼女を呼んだのは、まぁギブアンドテイク、お前への取材をしたいと彼女の方から申し出があったからだ。彼女のスキル‘’鳥の《バード》視点Level3《アイ》‘’、長年の経験、ツテから何か新たな情報が分かるかもしれない。辛いかもしれないが取材、受けちゃくれないか?」



「LAPDOGに話せることは全て話してしまっているのですが…」なんて野暮な事は言うはずもない。俺は快く取材を引き受けた。

「じゃあ、早速で悪いが。」そう言った後「俺はタバコを吸ってくる」と言ってキャメル副団長は部屋を出ていった。






「―なるほど。」


「何かわかりそうですか?」


「そうですね。これまでの事件から『魔人パクリカ』は突発的に犯行に及ぶこと、しかしその際は状況を把握し上手く活用することでさも以前から練られていた計画のようにみせるという分析があります。

もちろん大きな仕事の際は用意周到に下準備をしていた事が多いですが、今回はどちらか…。

また彼は常に子飼いの部下を何人か連れて犯行に及ぶことも大きな特徴です。

最近では4人の冒険者と一緒に居ることが多いと目撃情報が入っていて…、ガネリオさんが奴に遭遇した際には一人で居たんですよね?」


「そうですね。周りには特に仲間の気配は無かったように思います。」


「となると部下に別の仕事をさせていた可能性も高い。同時間帯に不審な者が王国内に居なかったか確認してみます。」




なるほど、仕事が早く、人脈(いや烏脈か?)もあり、なによりこれまでの事件の事についても詳細に知っている彼女であれば何か手がかりを見つけてくれるかもしれない。ベッドの上で捜索に参加できないのは歯痒いが、なんとも心強い味方を得たものだ。




「よろしくお願いします。天王寺の、仲間の安否が気になります。」


「勿論です。真実を追求し暴き出すのは我々報道に携わる者として当然のことですから。その為に命を賭けているのです。」




最後の俺の一言に彼女は一瞬たじろいでいたが、すぐにそれを隠し毅然と答えた。その不意に出てしまったジェスチャーが何を意味するところなのかは言わずともしれた。あれからもう四ヶ月以上も経ってしまっている…。




「それと、これは極秘事項でお願いしたいのですが―」









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