第一話 【側溝の斥候 ワッキー】
え、なにこれヤバい。
俺が立ってたのは翡翠に光る魔法陣の上。
建物はゲームとかでよく見る赤の絨毯が大理石の床に敷かれた王城。
あっちこっちに金の装飾もあるし、地上5メートルくらいの高さに付けられた二メートルはありそうなカラフルなステンドグラスがなんか神々しい。
で、俺の目の前にはでっかい金の玉座と、そこに座るヒゲモジャの…、多分王様。
いくつかの段差をつけて高くなった前方で偉そうにしてヒゲをさすってる。
デブだ。
ということはこれは悪い王様系か?
もうラノベにゲームに異世界は相当やり込んでるから偏見がかかりすぎて困る。
「よく来たな異世界の者よ。」
おお!!
本当に言うんだ!それ!感動!
「国王…、勇者属性ではありませんでした。職業適性は斥候となっています。ヒソヒソ」
国王の隣に駆け寄った白の魔導ローブを着たジジイが耳打ちのつもりでそう言った。
なんだそのガチャ外れですみたいなノリのセリフは。
おじいちゃんは耳が遠いんだろうけど、丸聞こえや。
なんか、ちょっと傷付くで。
国王はピクリとも眉さえも動かさずにこちらをみて言った。
「わしはこのフライドチキン共和王国国王、サンダースだ!!名を名乗るが良い異世界の者よ!」
「え、あ、あぁ!新川崎雅人です。」
意外に国王が威厳があるのでびっくりしてどもった。
「この世界でお主はその名で生きるのだな?」
え?あ、なんかユーザーネーム的なこと?
「あ、いやじゃあワッキーでお願いします」
「ワッキーか、分かった。早速だが、お主には魔王討伐を頼みたい。」
え?いきなり?説明端折り過ぎじゃない?ちょっと
「えー、いや、あのーいきなり言われても」
「案ずるな。まずこの国の王国騎士団見習いの扱いで半年間訓練を受けてもらう。
当然その間の衣食住は全て我々が面倒を見る。
後、王立ギルドに契約をして冒険者となり魔王討伐に向かってもらう。よいな?」
いや、そういうことじゃない。
あれだ、話通じないやつだこれ。
まー、そりゃそうかー、王国の王様だもんなー、首相とは固定概念の訳が違う。
てかまって、俺確か流行り病で寝てたハズなのに、あれ?え?もしかしてあれで俺死んだ?
笑えなくね?
「よいな?」ドンッ!!!(王様の持つ杖が床を重く叩く音)
「あっ!はっ、はい!」
し、しまった、なんか勢いで…
「よし、それでは後ろの四人と共に詳しい話をそこの王国騎士団訓練教官ゴリハラから聞くがよい!!」
と、後ろを向くとそこには俺と同じように召喚されたであろう現実世界から来た人間が気まずそーに並んでいた。
ー一行は教官ゴリハラに案内され寮棟へと向かうー
「ここが君等の寝泊まりする場所だ。各自空いてる部屋を好きに選んでくれて構わない。」
うわぁお、相部屋かよ。
俺は細長い寮棟の二階、階段登ってすぐの部屋に入ってベッドの上を占領した。
実は俺には前にもこういうシチュエーションの経験があった。
中学生の頃、あまりに部屋に引きこもってゲーム三昧の俺に激怒したクソ親父が俺を夏のボーイスカウトのキャンプに放りだしたのだ。
ボーイスカウトのリーダーはそのクソ親父の友人で、俺に容赦無くキラキラオーラを向け、朝6時からラジオ体操とかばかみたいな事を松岡S造のノリで強要してきやがった。
その時の経験が生きたと言っても過言ではない。
やはり共同生活では他人の嫌な部分も見えてくる。
ストレスも溜まりやすい。
そんな時せめて睡眠位はしっかりと確保しておきたいものだ、よってベッドは上。
かつ、入口から最短距離に位置する手前の部屋に限る。
「3人共三十分後に一階の食堂に来るように。」
そう言って教官は階段をスタスタ降りていった。
で、残された俺とほか二人(ちなみにもう一人は女だったので隣の寮棟に案内されてた)は微妙な空気感の中自己紹介をせざるを得なかった。
俺は人見知りな方だけれど、この異世界転生というシチュエーションが気分を高揚させてるのか意外と話はスムーズに進んだ。
「俺は新川崎雅人、で、ワッキー」
「俺はウーメル、よろしくな」
「ぼ、僕はケントと言います。よろしくです。」
ケントは別の部屋、ウーメルは俺と同じ部屋の下のベッドを使うことになった。
ウーメルは髪が赤茶で背が高く、顔の彫りも深い。
なんとなく西洋の人かと思った。
日本語がめちゃめちゃうまい外国人の発音だったってのもある。
「え、てか俺等はいきなり拉致られたみたいな認識でおけ?」
俺は早速出来た仲間に同意を求めてみる。
「多分そうだと思うぜ。俺友達と崖から海にダイブしてた辺りから記憶ほぼなくて、気が付いたらここだしさ…」
ウーメルがちょっと淋しげな表情をしている。
そっか、変なこと聞いちゃってごめんな。
「俺はよくわかんない。確か流行り病で寝込んでたはずなんだけど…」
ケント、お前も俺と同じか。
いや、たしかに大分きつくて死の淵を彷徨い歩いてた感はあったけどまさか本当に死ぬとはって感じだよな。
次は気をつけよ。
いや、次とか無いんだろうけどさ、基本。
ー三人が少しの談笑の後一階の食堂に向かうー
俺達三人が食堂に向かうとそこには良い匂いが漂っていた。
長机には白のテーブルクロスがかけられ、その上にビュッフェと言わんばかりに様々な料理が並んでいる。
それぞれの料理の横には名刺みたいな紙が立てられていて、そこには各料理の名前と具材が書かれていた。と思う。
なにせ文字が読めない。
さっき国王様とは割と普通に話せたけれど、そもそも話している言語は日本語っぽい何かで、日本語じゃない。
日本語を話してたのはさっきの転生者のケントとかで、国王達のはやたら上手い日本語に聞こえる空耳が割と説明としては近いんじゃないかと思う。
ま、そのうちわかるか。
テーブルには俺達三人の他にさっき謁見の間にいた女子一人と、十人くらいの男女が席についていた。
そいつらは皆なんかすでに打ち解けた様子で、俺等三人は新参者感をプンプンさせながら会釈混じりにそれぞれの顔を見る。
すでに食堂に来ていた女子一人は他の女子に囲まれてどこから来たの、髪サラサラーとか尋問を開始されている。
皿にご飯をよそって席について何口か舌鼓を打つとさっきの教官が入ってきた。
てかコカトリスの肉ってこんな美味いんか。
「食べながらでいい。静かに聞け。
まずは改めて自己紹介しておこう、お前達の生活指導、及び実地訓練等を担当する王国訓練教官のゴリハラだ。
そして今日召喚されたそこの四人を含めた計十二人が今八期のメンバー全員となる。
各自訓練期間中は仲良くするように。
四人は寮の規律等は他の者に聞いて置くように。
それからジェシーは本日の演習での反省文を夜9時までに王城の教官室にまで持ってくるように。いいな?」
呼ばれた大柄な金髪の女の子が「は、はーい…」と力なく返事をしている。
なんか、大変そうだな。
ま、そりゃそうか。
女神に呼ばれてチート能力付きで転生した訳じゃない。
いきなり戦闘とか魔法とか言われても何が何だかわからないだろう。
実際俺も今でも実感がわかない。
壮大なドッキリって言われたほうがまだ納得ができる。
ただ、言語や人種、王城にいた鎧を着込んだ二足歩行の明らかな獣人族なんかを目の当たりにするとどうしても本当に転生したのだと思わざるを得ない。
転生自体にはテンションが上がるので、ブラック企業もいいところのいきなり王国に呼ばれて魔王討伐を命じられるなんて流れにも特に文句はない。
飯も美味いし、なんか色んなケアもちゃんとしてくれるっぽいし…
しかし、さて、どうなることやら。
食事を済ませると女子達はぞろぞろ別棟に帰っていった。
男子は男子で食堂であれこれ自己紹介と合わせて話が始まった。
「俺泰晴、職業は勇者らしい!趣味はサッカー!よろしく!」
キラキラ陽キャ属性の浅黒い肌の奴が言った。
しかもなんかサラッと勇者とか言った?
あれ?
俺が違うかったやつ?
出端でいきなり俺マウント取られてる?
まぁ、悪い奴には見えないけど。
「俺はガネリオだ。僧侶を目指している。ここに来る前は量子力学をメインに研究職をしていた。年は少し上かもしれないが気兼ねする必要はない。
趣味は筋トレと株だ。」
なんか、すごい出来るエリート商社マンみたいなやつが居るんだけど。
背も高いし、多分180くらい?
ムキムキでツーブロにメガネというのがなんか怖い。
「俺はウーメル。日本のアニメが好きで、後は棒高跳びとオーボエをちょっとやってたくらいかな。よろしくな!
これで全部ってことは男子5の女子7か?」
みたいだな。
「変な事は考えないほうが良いぞ。さっきの教官、色々うるさいからな。」
エリート商社マンが意外と気さくな奴ムーブを取っている。
「うわー、まじかー。てかなに皆もう割と打ち解けた感じ?」
ウーメルはさっきから他の先に王国に来ていたメンバーに気後れすることなくガンガン発言している。
そのコミュ力ちょっと分けてほしい。
「いや俺達もまだここに来て一週間程だ。」
ガネリオとウーメルは気が合うのか、そこから色々と楽しそうに話を始めた。
俺と一緒に来ていたケントも泰晴って奴となんか話始めた。
置いてけぼり感…
まぁ、顔と名前が一致することはどうせ当分ないし、気楽にいこうかな☆
【第8期フライドチキン共和王国召喚勇者一行名簿】
【砂崎泰晴】〘砂の勇者、黒髪、短髪、浅黒肌〙
【ガネリオ】 〘猛進の僧侶 無口、のっぽ、眼鏡、引くほど潔癖症だがいいヤツ〙
【天王寺由貴】 〘堅物の白魔道士、学級委員系真面目っ子、土日は合わせて十時間予習復習〙
【ウーメル】 〘真実の戦士、焦げ茶髪、兄さんキャラ、ソバカス〙
【ジェシー・ウィンストン】 〘大食い女戦士、巨体、金髪、口悪い、何にでもマヨネーズはあうと信じている〙
【浜須賀 栞】 〘連れション駐屯部隊長〙
【ミア・オズ・オジマン】 〘連れション切り込み隊長〙
【シーナ・サファイア】 〘連れション奇襲隊長 ラジュ・デインとは姉妹〙
【ラジュ・サファイア】 〘連れション追撃隊長 サフォーラ・デインとは姉妹〙
【ワッキー】 〘側溝の斥候、チビ、すばしっこくバカ、メガネを頭の上に乗せ探すバカ〙
【ケント・オルカ】 〘陰に潜み続ける狙撃手、ネクラ、イジられ要員、腕がありピンチの時に助けるがその後もう一回ピンチを呼び込むタイプ〙
【尾千羽カナ】 〘落ち葉の治癒魔術師、ドジっ子と眼鏡っ娘属性を併せ持つ汎用性の高いキャラ〙
並びは第一回実技テストの成績順
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