第二十二話 ギルドカード登録式
【堅物の白魔術師 天王寺由貴】
あぁ、憂鬱だ…。
今日は王立ギルドに冒険者登録の手続きと、卒業試験の合格のお祝いを夜に皆ですることになってる。
約半年の同王国の訓練を終え、見事卒業試験を達成した私ら。
この試験の合否には色々一悶着があって、会議まで開かれたみたいやけど、副団長キャメルさん、ゴリハラ教官を始めとする色んな先生方が
「緊急事態を想定し我々騎士団が介入したものの、
到着前にはすでに全訓練生が卒業試験達成条件である【悲哀の琥珀】と【フライドチキン黄玉】を入手し、
かつ非常に危険な状態にあった現在調査中の【亜種】【合成種】とも充分に渡り合えていた事から、
今回の卒業試験合格に値する力があると判断します。」
と後押ししてくれたらしい。
晴れて一人前の冒険者となる私達は今日皆で王立ギルドにその手続と登録をしに来ていた。
「おい見ろよカナのやつ、肩書き『残念な落ち葉の魔女』だとよ!あっはっは!残念っ!!」
「なっ!ワッキーこそなんてかいてあったんですか!?見せてくださいっ!?!?」
「ふっふっふ、俺はなソッコウの斥候!!ドヤ
どうやらギルド登録の石版も俺の迅速な素早い動きの斥候ぶりを高く評価したらしいな!」
「なっ!?そんなワッキーに限ってそんな評価ありえませんよっ!!!!って、これ…、速攻じゃなくて側溝じゃないですか…、はぁ、びっくりして損した…。」
「ギャハハハ、馬鹿だこいつ、漢字の意味もわかんねぇとか」(ギルドカードには親切にも読み仮名が振ってある)
「そういうジェシーこそなんてかいてあったんだよっ!?!?」
「私か?…ちょっと待て、今刻印が終わるから」
このあいも変わらずアホなワッキー、カナ、ジェシーが喜んでいるのは小型魔導水晶に表示されるようになる冒険者カードに付く二つ名。
ジェシーは冒険者カードに刻印するステータスを読み込むための顔の形をした石版の口から手とカードを抜き取っている。
〘大食い巨漢女戦士 ジェシー・ウィンストン〙
「大食い…巨漢…」
「「ぶわっはっはっはっはっ!!!!」」
「ぴっ、ぴったりじゃないですかジェシー!
良かったですねっ!?プックスクス
魔王を見事倒したあかつきにはこの通り名が後世まで伝えられますよっ!?!」
「そうだぞ、全く持ってこりゃ傑作だ!!!
良かったな、もうこれギルドカードじゃなくて食券って読んだほうがいいんじゃねえの!?!?」
「ちょっ、ワッキー!言い過ぎで…プックスクス!!!アハハハハッ!」
「ぶっ…、ぶっ殺す手前ら!!!!!」
さすがに巨漢は可哀想…、せめて巨大な女とかにしてあげるべきや…
「ド陰…」
ケントが一人で自分の二つ名に悲しんでるのはそっとしとこ…
既に登録を終えたバカ四人組(カナ、ジェシー、ワッキー、ケント)は向こうの方でキャイキャイやりはじめた。
なんであんなテンション高いんあいつら…。
アホ四人組は一通りはしゃぎ終えると、今度は他の人のギルドカードの内容が気になって仕方ないらしいくて、わざわざ私が石版の口に手と小型魔導水晶を入れるのを待ってこっちをワクワクしながら見てくる。
どうせコイツラの期待してる私の冒険者カードの二つ名なんて大体予想がつく。
どうせガリ勉とか真面目過ぎてつまんないとかそんなんやろ?
私は勉強しか取り柄がない感じの、いわゆるガリ勉とかって言われるタイプの人間だってちゃんと自覚してる。
客観性をちゃんと持った人間やから今さら気にせぇへんけどな。
ちなみに言っておくけど、一応中高の5年間はテニス部のエースで部長とかでもあったんよ。別に友達もいたし。
別に友達もいたんやけど、なぜか校則に則ってどう考えても一番正しく生きてるはずの私が!
なぜかチャラッチャラした風紀の一つも守れないアホどもの目の敵にされて!
なぜかそれはこの半年間の私以外の十二人の転生者との生活でも同じなのには腹立ちっぱなしやけど!
別に気にしてないけどね。友達もおったし。
中学3年の時に告白した相手から、「ほら、由貴って真面目だからさ、なんか窮屈っていうか、俺なんかとは一緒にいても多分合わないよ」なんて言われたのも全っ然気にしてへんから。
今も冒険者カードに『堅物の』とか余計な肩書き加えてくれた石版にも全然怒ってないから。友達もおったし。
腹立たしいギルド登録を終えると今度はギルドの受付のお姉さんが詳しいギルドのシステムなんかについて説明をしてくれた。
真面目に聞いてるやつなんてほとんどおらん。
つーかケントとかいびきかいて寝てるし、ありえな。
もちろん私は真面目に聞いてるし、重要事項はメモも取ってる。友達もおった。
それにしてもクエスト報告書って意外と細かく記入しなきゃいけないんやな、なんか驚き。
以前ギルドを見学しにいったときには王立の、つまり私営のじゃないギルド"にも"関わらず、出入りしてたのは前の世界では渋谷とか原宿辺りにいそうなこれもくっそチャラい奴等ばっかやったのに。
あんな見た目の奴らがこの報告書を真面目に書いてるとは思えへんねんけど。ま、私は当然書くけどな。
私と同じ様に部屋でギルドの受付嬢の話を聞いているのは私ともう一人、ウーメル。
思い返せばこいつと、今話なんて全く聞かずに窓の外を見ている泰晴という男はなぜか実技のみならず学科もできる。
私は成績順で三番手の煮え湯を何度も飲まされた。
たまに学科でウーメルを抜いて2番になれたことはあったけれど、ついぞ泰晴の1位の座を奪えたことはなかった。
しかも泰晴の方は何が腹立つって、こいつ大して真面目に授業も聞いてないくせに飄々とテストはできるところ。
どうせ「いやー、テスト勉強俺全然してねぇわー」とか言いながら一ヶ月以上前から計画的にコツコツやってるタイプに違いないこいつは。
そうそう、いたいた、そういう奴、私の学校にも。マジで腹立つ。
挙句二つ名もそれぞれ【砂の勇者】とか【真実の戦士】とか、なんでやねん!!
ボケろや!!!
けど、そんな奴より下の順位の自分が一番腹立つ。
だから冒険者になったらクエストをこなして絶対見返してやると心に誓っている。見てろ!!!!!!!
冒険者登録が終わると寮に私達は帰った。
今住んでる王国城内のこの寮という名の掘っ立て小屋はマジでボロい。
壁とかうすすぎや。
隣の部屋のジェシーの寝返りのミシミシ音がこっちの部屋まで聞こえてくる。
訓練期間を経てギルド登録した後は、事前に申し込みをしておけば格安で住めるコンドーみたいな場所を王国は提供してくれるらしいねんけど、そっちは大丈夫なんやろかと心配になる…。
ちなみに既にギルド登録済ませて王国所属の冒険者になった先輩から聞いた話では王立ギルド斡旋クエストを定期的にこなさなければいけないらしい。
けどそれらの他にある小さな条件付も大したことはないらしいから、訓練終了後はそこに一先ず身の振り方がわかるまで移り住むのは最早伝統になりつつあるらしい。
だからわたしら8期は皆全員来月からここで生活する。
ウーメルや、泰晴と私は成績が良かったので初年度の設備費とか家賃なんかは無料になるらしい。ラッキー。
一回見に行った時は寮とは違ってコンドーは今風の作りの建物で、寮が旧校舎ならこっちは新築の私立高校のちょっと金かけてあるプレハブって感じやった。
キッチンも部屋もきれいやし、
インテリアには観葉植物なんかも置かれて、
LED電球みたいな魔法陣から出てる灯りが異世界に来ていきなりボロ校舎のあばら家みたいなところに突っ込まれた私の不安を少し取り除いてくれそうやな。
だって寮のトイレとか最早厠って呼んだ方がええんちゃうかって位に未だにボットン便所やったし…。
部屋で一息ついた後、コンドーに未だに荷物を移し終えてない計画性の全くないカナの荷物運びを手伝いながら私は異世界に引っ越してきて、それも寮ぐらしでわずか半年あまりの間にどうやったらこんなに物が溜められるのかと理解不能な彼女の生態について考察していた。
すると部屋を誰かがノックした。
またあのアホ四人組のだれかちゃうん?
「カナ、ちょっといいか」
ノックの主はウーメルだった…
え?なんで?
「えぇっ!?今日中に荷物運び込まないとまたゴリハラ教官に反省文書かされるんだけど…」
「すぐ終わる。終わったら手伝ってやるから。」
「うん…、まぁ、ならいいけど」
中々現金なカナはそう言ってウーメルと寮の外の中庭へ向かった。
え、うちなんでこれ一人で他人の荷物運んでんの?
いや、別に珍しく真面目な顔でカナのこと呼びに来たウーメルとカナが何話すのかは全然気にはなってないけど、なんかおかしない?
「召喚前には感じたことのない胸のもやもやを抱えながら、
ちょっぴりの罪悪感をその横に置いて天王寺由貴は二人の会話を盗み聞きに中庭へ二人を追った……って、あ゛っ、いでっ!!!
ちょ、ギブギブ!
由貴さん!ギブ!
冗談!冗談!俺そんな少女の可憐な儚い恋心にズカズカ踏み込んだりしな、あ゛っ、いだっ、ちょ―」
「なんでお前がここにおんねん!ワッキー!!」
「いや、カナに荷運び手伝ってって言われたから来たんだが…イダダタダ」
「お前もかケント!」
私はワッキーの影に隠れていたニヤニヤ顔をやめないケントの足を踏み抜く。
「いだいっ!?!?
違っ、たまたま通りかかって…!!?ちょ、まって由貴さん!?腕が曲がってはいけない方向に…、あ゛、やめてっ!未来の伝説のスナイパーの利き腕がッ!!!」
私は仕方ないので人の心をナレーションしだしたワッキーの腕を逆さ十字にして背中に固定しながら連行しつつ二人の後を追った。
いや別に違うでっ?
全然二人の会話とか気になってへんからね?
ただちょっと二人の共通の友人として何話しすんのか気になって一応確認しに行くだけやからね?
「悪りぃな、実はさ俺とチーム組まないかと思ってさ…、カナまだパーティ組んでなかったろ?」
「………。」
「………。」
見つめ合う二人。流れる沈黙。
「へっ!?いやいやいやいやいやいや、ナイナイナイない!!ないよ!無理だって!!絶対!!!!ないでしょ普通!?!?」
「んな拒絶されると確かに凹むわ。」
「いやっ、ちがっ、そうじゃなくてっ!!!!ウチ普通に成績ドベだし、絶対足引っ張るからウーメル君の!!」
「ん、まぁそう言うだろうと思ってたんだけどさ…」
「……。(否定はしてくれても良かったんだけどな、いや別に事実なんだけどさ…。)」
「……。(今のは否定すべきだったか…?)」
「不味いっすよ天王寺さん、これ天王寺さんも「ちょっと待ったぁぁ」ってでてったほうが良くないっすか…!!!痛でてでててで!!!手!天王寺さん手!逆に!!」
余計なこと言うワッキーの腕をさらに締め上げる。
黙れ、話が聞こえへんやろ
「いやほら俺泰晴と組もうって話しててさ、
俺等二人共治癒魔法あんま上手くねぇから、ガチでカナみたいに治癒魔法使えるやつがパーティにいてくれるとすげぇ助かるんだけど。
別に他に嫌な理由があるとかなら全然断ってくれても良いんだけど、
もし俺等の足手まといになるのを気にしてるとかだけだったら、それはマジで違うってのは伝えときたいかなーなんて。
もしそうだったら考え直してほしいんだ。」
「えぇ…、っと、ねぇ?」
なんでコイツ疑問形なん?普通に成績ツートップの二人とグループハナから組めるとか、断るならその位置私と変われよ!!
「おやっ…!?、これは三角関係的なあれかっ…?!?!って、イデっ!!いでっえって!!」
ケントをオーク用の関節技練習の実験台に無意識のうちにしていたら少し力を入れすぎた…。
ケントの叫び声で私達が盗み聞きしてるのはあっさり二人にバレてしまった…。
「あん゛れっ!?なん゛にしてるだケントっ!?」
カナ?なんで山形弁?
「それに由貴ちゃんまで…!!」
「「あはははは…」」
「やばい…、お前等に近寄りすぎたせいで私もバカキャラの立ち回りになりかけてる…」
「おい天王寺、お前今心の声がっつりセリフにしてっからな?はっきり聞こえてっからな?」
「そうですよ!!ひどいですよっ由貴ちゃんっ!!その心の声を実際言っちゃうの私のネタなのにっ!!!!」
「ツッコミどころそこか?お前ら何やってんだよ…ったく…。
さっきの話聞いてたのか?」
「まぁ…、一応。なぁ、もしパーティに治癒魔法士が必要だってゆうんなら私がカナの代わりに入ろうか?」
自分で言ってからしまったと気づいた…、けどもう遅い…。
「お前はガネリオ達ともう組んでんだろ?今さらヘッドハンティングは気が引けるってもんだ…、それに泰晴の意見も聞かないと」
「そ、そやんなぁ…」
「姉さん、作戦失敗っすね(小声)、大丈夫っすよ(小声)、ウーメルに限ってカナ狙いは無いはず…ゴホハッ…!!」
対ゴブリン用殺人みぞおちを決めワッキーを黙らせる。
だがこいつの言うことは一理ある。他の変な女がパーティに入るくらいならさっさとカナにパーティのその空席を埋めてもらったほうがよっぽど安心できる。
「ってことらしいしカナ!やっぱパーティ組ぃや!もしレベル気にしてるなら私特訓付き合うからさ!」
「ってあの天王寺さんからも推薦が来たがどうするカナ?」
「え、えぇ…」
あぁ、もう!なんでコイツはこんなにいつも優柔不断なん!!?
「じゃあこういうのはどうだ、俺達と仮にパーティを組んで一度クエストを受けてみよう。それでだめだったらそれまで、だか一回はトライしてみる、どうだ?」
ウーメルは基本誰にでも強要とか高圧的な態度を絶対にしない。
先輩冒険者の話では隔離されたいわば無人島状態の異世界でつけあがる男とか無駄にマウントを取りたがる女子もいるらしいけど、幸いにも私等の代ではそういうのはいない。
それは私みたいな性格の人間が他人と共同生活をする上で本当に幸運な事だったと思う。連れション軍団は相変わらずいるけど。
「じゃ、じゃあ、一回だけ?」
なんやその合コンでなし崩し的に持ち帰られる女みたいなセリフは、カナじゃなきゃ今すぐザキをぶっ放してるところや。




